昭和30年度原子力平和利用研究の紹介

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により民間に委託した研究のうち、今回はその第4回として東京芝浦電気株式会社の実施した「小型電位計真空管の試作研究」(委託金額1,364千円)と日本特殊鋼管株式会社の実施した「原子炉用ステンレスチールの研究」(委託金額997千円)との2件を紹介する。

小型電位計真空管の試作研究

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により、「小型電位計真空管の試作研究」が東京芝浦電気株式会社に委託され、本年3月に終了したので、その概要を紹介する。

   研究の目的

 電位計真空管あるいは微小電流測定用真空管といわれる特殊な真空管は、古くからGE会社が開発した“54”で代表されてきた。しかしながら、“54”は球としても、使用回路としても理論上欠けた所がないと思われるにもかかわらず、一般実用的に使いにくい点が多いようで、格子電流に対する要求の高度でないものは、普通の真空管から適当な管種の球を選出して格子電流の小さくなるような動作条件を求め、また特に長時間エージングしたりして、使いたい目的に合せた球をより出していた状況であった。しかしこのような方法で得られた球は、同じ管種であっても各ロットや個々の球に非常なばらつきや相違があって、一度得られても二度目には得られないということも多く、このような点が大変不便であった。

 微小電流といっても種々の桁の値が考えられる。10-13〜-15Aていどは、”54”のほか、上記のように苦労してより出したものが用いられてきたが、10-8〜-9Aていどのものは多数生産されている6C6から比較的容易により出して、製品にも用いられてきたが、これも時によりより出すことはさほど容易ではない。10-10〜-13Aすなわち”54”ほどの特性でなくても、これに近い特性を有し、比較的使いやすい球というものが長年要求されていたが、実際に製品化され一般化したものはなかった。

 東京芝浦電気においては、このような目的に使用できる球の要求が大きい事を考え、また近時の要求であるところの、陰極加熱電力の少ない小型ポータブルセット用の考慮も入れて、数年前から格子電流の基本的問題について研究を進め、これらの結果を具体的に設計した第1次試作品として♯7501を完成した。これは、ミニアチュア型の3極管で繊条電流も50mA(後に25mAに変更した)であり、まだ形も繊条電流もやや大きいが、格子電流としては良好なものが得られた。また別の研究で10mAの繊条も実用目的に達し、低陰極加熱電力、小型の真空管の試作研究を行うこともできる状況になった。

 一方、原子力の研究において、放射線検出器の出力、たとえば電離槽型放射線測定器の電離槽内に生ずる微小な電流(10-12〜10-13A)を増幅できる球の試作研究が昭和30年度原子力平和利用研究計画に含まれて、東京芝浦電気に決定し、これを満足する球として、アメリカにおいてこの用途に多数使用されている“5886”相当管を目標に試作研究することになった。

   研究の概要

 本研究で実施する真空管は非常に小型な、単端子型のサブ・ミニアチュア型であるので、格子電流の主要な一原因である絶縁については特に意を用いる必要があると考えた。しかし大型の“54”で実施されている構造上からの十分な設計、対策(格子を他の電極から最もはなれた頂部に出し、内部は石英の2重絶縁ビード等を用いている)は今度の場合に採用することは困難であって、材質の良好なものを設計に採用することを重視する以外に方法がない。

 絶縁材料はこれを大別して管内と管外に分けられる。管内絶縁材料としては電極スペーサーが問題で、ガラスビード、スペーサー、マイカステアタイト等考えられたが組立の精度等からマイカを採用し、各種類について絶縁度と製作中の低下防止、処理の難易等について研究された。そして特別な工夫はなくても、材質と適当な処理取扱いによって必要な絶縁度を有するものが得られた。

 外国器についても同様な検討を行った結果、絶縁度の高いガラスすなわちわずか数mmの間隔でよく1015Ωを有するものが得られた。ガラスは一般に湿度によって絶縁が低下するので耐湿処理についても研究して絶縁の向上を行うことができた。

 10mA繊条は材料としては一応実用できる状況にはあったが、直径が1/100mmより細い線であるので、普通には一寸目で認め難いていどであって強度も非常に弱い。したがってたるまないよう、断線しないように組み立てるのに相当な熟練を要した。

 電極部品が小さいので寸法精度の影響も大きく、増幅率の小さい球であるから特性のばらつきも非常に大きく、設計寸法とのチェックも困難が多かった。

 このような条件に打ち勝って累次試作を繰り返し、順次改良された結果、特性比較一覧表に記載したように、繊条電流、陽極電流、相互コンダクタンス、増幅率を初め格子電流も3極管接続、5極管接続のそれぞれの動作例において、比較のため購入した米国製5886と比較して見劣りのない良好な球も得られ、初期の目標は達成された。

 実用試験として電離槽型放射線測定器に使用して安定に動作し、寿命試験でも低下率がほとんどなく良好なことがわかった。


小型電位計真空管 ♯7502 外観

小型電位計真空管 試作品特性一覧

原子炉用ステンレススチールの研究

まえがき

 原子炉用金属材料の中で、ウラン等の燃料金属を除けば現在比較的急を要する研究対象はステンレススチールとアルミニウムであろう。特にステンレススチールに関しては未解決の問題が数多く残されており、急速な解明が望まれている。

 昭和30年度原子力平和利用研究委託費により「ウォーターボイラー型原子炉の容器、配管などに使用する場合における国産のステンレススチールの耐蝕性に関する研究」を日本特殊鋼管株式会社に委託した。この研究は本年6月末をもって終了したので、ここにその研究結果の概要を紹介し、この方面に関係される方々の御参考とするとともに、国産原子炉の製造に寄与することを期待している。

研究目的

 原子炉の中でSolution Typeと呼ばれるウラン塩類の水溶液を燃料とする均質型原子炉は、その核心の燃料容器、冷却用管あるいは再結合器等には構成材料としてステンレス鋼が使用されている。原子炉では、それを構成する材料は、従来の機械構造材料におけると同様な機械的性質のほかに、耐蝕性のきわめて良いことが必要で、わずかの腐蝕生成物も誘発放射能などの困難を惹起するので、侵蝕度にして0.2ミル/年以下でなければならないといわれる。したがってこのウラン塩すなわち硝酸または硫酸ウランの酸性水溶液中でのステンレス鋼の耐蝕性が重要な問題となってくる。本研究は国産の水溶液均質型原子炉を設置する場合に、その容器、配管等を国産材料で製造する際のステンレス鋼選択の基礎資料を得ることを目的とする。

研究実績概要

1.試験材料

 試験材料として選んだ18−8ステンレス鋼の種類と組成を第1表に示す。

 縦40、横20、厚さ1.5〜2mmの試片を1M×2M×1.5〜2mmの板から切り出し、各試片に対して第2表の前処理を行い、秤量後腐蝕試験に供した。

第1表 試験材料の種類と組成


第2表 試験片の前処理

2.腐蝕液

 水溶液均質型原子炉に用いられる液体燃料としてのウラン塩類として硝酸ウランおよび硫酸ウランを選び、その水溶液を腐蝕液とした。溶液濃度は硝酸ウラン0.1、1、2M、硫酸ウランは3Mとし、また各濃度の溶液にそれぞれ遊離酸を加えたものを調製した。

3.試験方法

 試片は内径25mm、厚さ2.5mm、長さ250〜300mmのガラス管中に入れた30ccの腐蝕液中に1個ずつ浸漬し、常温および50℃はゴム栓により密封し、80℃は熔封して濃度変化を防ぎ、下記条件で腐蝕試験を行い、所要日数後取り出し洗浄後秤量してその減量から腐蝕量を測定した。議験条件を一括すれば次のごとくで、各条件の組合せ合計288条件の試験を行った。

(1)鋼種304、316、321
(2)前処理 N.S.P.WN.WP
(3)腐蝕液

(4)温度 常温、50℃、80℃
(5)時間 0.5〜15日

 放射線の照射は700キュリーのCo60からのガンマ線を常温で照射した。非照射実験と同様にガラス管中に熔封して、外部をコンクリートで遮蔽した6"φ×2Mの鉄管の底に貯蔵してあるCo60の上に装入して照射を行った。

4.試験結果


 それぞれの腐蝕時間−腐蝕量曲線を形で分類すれば上図の3種類に大別される。

 これらに属するのは、(1)の型には硝酸ウランの常温、50℃および80℃の0.1と1M、硫酸ウランの常温、(2)の型には硝酸ウランの80℃の2M、硫酸ウランの50℃、(3)の型には硫酸ウランの80℃である。(1)および(2)の場合には浸漬初期の急激な腐蝕度を除外して検定し、(3)の場合には全体の腐蝕量をとって検定した。それぞれの場合の腐蝕曲線から平均の腐蝕度を求めると第3表のようになる。

第3表 平均腐蝕度

 また照射を行ったものは、その全放射線量は102〜108レントゲンに変化しているが、その腐蝕度を非照射の場合と比較すると同じかあるいは減少しているといえる。これは照射によって水が酸化性になるためにステンレス鋼の場合のように酸化性溶液中で受動態化するものには保護的に作用するからである。

 以上の結果を要約すれば

(1)腐蝕の傾向は三つの型に分類され、一般に硝酸ウランの方が受動化作用が大であるといえる。
(2)硝酸ウランに対しては316は304および321より、また硫酸ウランに対しては304は316および321より耐蝕性が悪い。
(3)ガンマ線照射によって生ずるH2O2によるUO4の沈澱を防ぐために遊離酸を添加したものは、添加しないものよりも腐蝕性が強く、また濃度の大なるほどしかも温度の高くなるほど腐蝕量は大きい。
(4)原子炉に対して許容される腐蝕量を0.2ミル/年とすれば、これ以上の腐蝕量を示すものは遊離酸を添加した硫酸ウラン80℃の場合だけである。
(5)常温におけるガンマ線の照射は、ステンレス鋼の腐蝕に対し保護的に作用するようである。

むすび

 国産の304、316および321ステンレス鋼はウォーターボイラー型の原子炉材料に対して、いずれもだいたいにおいて許容される腐蝕量以下の十分な耐蝕性を示している。また腐蝕曲線からわかるように炉中でウラン塩水溶液に触れる部分は、使用前にその溶液中に1〜3週間浸漬洗浄してから使用すれば、さらに完全なものとなるであろう。