ジュール・ゲロン氏の来日について フランス原子力庁企画局長兼物理化学部長ジュール・ゲロン氏の来日については前号に記載したが、氏は滞日中の日程を終え、10月22日離日した。前号の原稿締切日の10月10日以後の日程をしるすと次のとおりである。
なお、10月22日に行われた原子力局との懇談中、当方からの質問とこれに対するゲロン氏の答の概略をかかげる。 1.フランスでは原子炉の管理および建設の監督等は実際にだれがやるのか。 原子力庁の人間が実際に原子炉の建設の現場のinspectionをやる。なお発電用原子炉の場合でも原子炉はフランス原子力庁の所有であって電力会社は、炉の使用料を原子力庁に支払うことになる。 2.物質変性等に使用される放射線源は、粒子加速装置とたとえばfission product等のアイソトープとどちらが多く使用されるか。 それは場合によってことなる。研究的に量の少ない放射線源を必要とする場合には粒子加速装置が用いられるであろうし、工業的に大量の放射線照射を必要とするときには、たとえばfission productの応用というようなことが有望であろう。 3.フランスでは買上げをするウラン鉱石の最低品位はどのくらいか。 それは場合によってことなり、最低限度というようなものは公式にはない。採算可能な品位は、鉱石の輸送距離等場合によってことなる。 附 昭和電工川崎工場におけるゲロン氏との討論(抜粋) 10月9日午後ゲロン氏は昭和電工川崎工場を視察したが、その後同所において昭和電工側職員および東大菊池教授、原子力局職員を加えて討論を行った。席上交換された質疑応答のうち若干をえらんで紹介する。 黒鉛関係 (昭電)フランスでは原料には何を使用しているか。 (ゲロン)コークスはアメリカのものを使用している。 (昭電)原料は硼素の少ない灰分の少ない原料を用いた方がよいと思うが、どうか。 (ゲロン)その考え方には反対である。原料にそういうものを選べば経済的に高くつくし、管理が適切でなければconta-minationしてよいものができない。ふつうの原料で製造方法を改善した方がよい。 (昭電)改善とはBoron ashをできるだけとる方法を加えるということか。 (ゲロン)そのとおりである。しかし原料はいずれにしても相当のashを含んでいる。 (昭電)経済的に除去する方法があるか。 (ゲロン)すでにその方法は発表している。 (昭電)その方法は金のかかる方法ではないのか。腐蝕等の問題はないか。 (ゲロン)腐蝕といわれるが、貴社ではどんなガスを使用しているか。 (昭電)弗素ガスを考えている。精製は最後の黒鉛化の時にやっていると外国文献では読んでいるが、黒鉛化以前原料について精製されているか。 (ゲロン)原料ではやっていない。精製のことはジュネーブの報告に発表している。 (昭電)不明確な点がある。 (ゲロン)こまかい点についてはペシニー会社の技術の点もあるのでいえない。 (昭電)当社では黒鉛化の後に精製を行っている。 加工についておききしたい。 (ゲロン)フランスの原子炉G−1は二つのelementからできている。両方の高さの差は1mm以下である。1本のグラファイトの1辺の長さが20cmだから40層つめば8mになる。長さの方向もだいたい同様である。 (昭電)面の仕上精度はどのくらいでよいか。 (ゲロン)精度は40層で(80面)1mm以下、1面について1/100mm以下、最大1/10mmが限度である。加工機は両面同時切削を行っている。 (昭電)仕上精度についてはここにあるグラブァイトの見本でよいか。 (ゲロン)面はよく光っているし、よいと思うが、測定せずにははっきりしたことはいえない。クルーゾーのSchneidor会社と昭電とは関係があるだろう。ここでマルクールの炉の加工をやっているので照会したらよい。 (昭電)加工室にエアコンディショニングはやっているか。 (ゲロン)ベンチレーターの設備はあるが、温度調節はしない。黒鉛の膨脹は少ないので1/100mmの精度では10℃くらいでは影響はない。 (昭電)切削機、測定器は鉄であるので、この影響はどうか。 (ゲロン)Calculationすればよい。 (昭電)原子炉材の形状は複雑で種々あるようだが、これについてはどう考えるか。 (ゲロン)原子力関係者は優秀な人材ばかりだから形はうまくきめるだろう。しかし重水炉のように重水のタンクのまわりなどにはカーブをもった形状の異なったものを用いるが、曲率半径が一定であるのでさほど面倒ではない。 (昭電)加工工場と原子炉組立の位置とは近い方がよいのではないか。 (ゲロン)フランスでは700kmくらいのところを運搬している。マルクールは3基の炉をつくるので、4,000〜5,000トンの黒鉛をつかうため、この場合は加工工場を近くにつくった。 (昭電)フランスの炉材の形状はどうか。 (ゲロン)前にのべたように20cm角のもので大きい方が得のようである。 重水関係 (昭電)重水の将来の見通しについてどう考えるか。 (ゲロン)重水のコストが安くなれば、原子核特性では他のあらゆる減速材に比して優秀な性能をもっているので、相当この方面にのびるような気がする。 (昭電)フランスにおける重水の製造方式と研究現況についておききしたい。 (ゲロン)これについては第3回のゼミナールでくわしく説明したとおりである。 (昭電)液化蒸溜法についてはどう考えるか。 (ゲロン)いろいろの難点はあるが、非常に興味をもっている。電解交換法についてはフランスには電解工場がないので考えていないが、二重温度交換法について研究をしている。 (昭電)重水中の不純物(炉の運転上支障をきたすもの)についてはどうか。 (ゲロン)あるていどはがまんしてつかう。 (昭電)その場合は炉の設計をかえるのか。 (ゲロン)その時は重水のcirculation pipeを注意してやるわけである。 (昭電)重水の分析については当社で見られた方法でよいか。 (ゲロン)赤外線吸収で重水分析をやる方が非常に早く割合に正確であるから赤外線を使いたいと自分は考えている。 (昭電)重水の分析のstandard sampleはどうしているか。 (ゲロン)普通の水の重水含量はほぼ一定であるからこれをつかう。しかしたまに普通の水よりD%の少ないものがあるので気をつけねばならない。フランスについて普通の水より重水の少ない水があるのでこれについて理論的に検討をしている。 二重温度交換法の試験の場合、自分のところでは鉄のパイプをつかい、accidentを起したことがある。今は特殊鋼材を使っているので数ヵ月たってもまだ大丈夫である。高温高圧のためextension,expressionをうけるのでむずかしい問題がある。くわしいことはゼミナールで発表した。昭電でやっているH2O−H2の交換反応の触媒は何をつかっているか。 (昭電)白金触媒を使っている。 (ゲロン)wetの状態ではどうか。 (昭電)wetにならないように苦心している。 (ゲロン)昭電の研究装置のフローシートの説明をしてほしい。 昭電側から交換反応装置、電解組合せ方式、蒸溜装置について説明があった。 (ゲロン)交換反応触媒でwetでつかえる触媒は発見されたか。 (昭電)まだであるが、Ni−Cr2O3触媒は多少wetでも耐えそうで、現在研究中である。 |