原子力委員会

原子力開発利用長期基本計画の内定にいたるまでの経緯

 わが国原子力行政の基本政策となるべき原子力開発利用長期基本計画については、9月6日の定例委員会で内定されたが、起草から内定までの経緯を振り返ってみることとする。

 わが国における原子力開発が平和目的にのみ限られていることはいうまでもないことであるが、この平和的利用の面においても、なおわが国の原子力の開発状況は列国に比較して著しく立ち遅れている現状にあり、一方将来のエネルギー需給の面では世界の工業国中において最も困難な問題を内蔵していると考えられる。このような状況の下にあってはできる限りすみやかに原子力開発を推進しなければならないのであるが、わが国の財政規模等から考えて発進諸国が原子力開発に投下したごとき資金量を原子力開発のため調達することはほとんど不可能な実情であり、資金の効率的使用を図るため原子力開発を計画的に推進する必要性がつとに叫ばれていた。

 以上の趣旨により、原子力利用準備調査会においては、わが国の原子力開発の基本方針について審議した結果、昭和30年11月原子力研究開発計画を決定した。

 その後昨年末にいたり原子力基本法が制定され、また本年1月から原子力委員会が発足するとともに、総理府に原子力局が設置されて原子力開発の行政機構が確立整備された。特に原子力委員会は原子力基本法により「原子力の研究、開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行」するために設置されたもので、わが国原子力利用に関する政策その他を企画し、審議し、及び決定する機関である。

 ついで、第24通常国会に提出されて成立をみた日本原子力研究所法第24条及び原子燃料公社法第20条の規定に、それぞれの業務は「原子力委員会の議決を経て内閣総理大臣が定める基本計画にもとづいて行わなければならない」ことになっており、これにより日本原子力研究所及び原子燃料公社の発足に当り、原子力委員会及び総理大臣は、基本計画の策定を法律的に要請されることになった。

 原子力委員会はこのような状況にかんがみ、さきに原子力利用準備調査会が定めた原子力研究開発計画を一応白紙にもどし、新たにわが国の原子力開発利用基本計画を策定することに決定したが、この基本計画は原子力研究開発計画に比べるとその範囲が広汎にわたるのみならず種々の複雑な問題も内蔵しているので、まず第一着手として3月22日原子力委員会は原子力開発利用基本計画策定要領を定め、いかなる方法で基本計画の策定を行うかを決定した。

 この策定要領は、策定の目的、大要、方法の3部に分れており、目的としては、原子力の開発及び利用に関し、基本的総合的な計画を策定し、これに基き原子力の平和利用を計画的かつ効果的に推進することをうたい、大要としては、基本計画として長期計画と年度計画の二本建をとることとし、基礎研究の部門のみならず応用研究の分野までも併せ考慮して策定すること、しかも長期計画は、現在の段階ではその具体的計画の策定が困難であるので将来の問題点の摘出、対策、見通し及び目標といったていどの事項を中心として策定すること、年度計画は現実に即した実施計画とすること等を定めてある。

 なお基本計画に記載されるべき内容としては、原子力開発の基本方針、原子炉の設計、建設、利用等に関する事項、原子炉材料の充足、核原料物質及び原子燃料の開発管理に関する事項、アイソトープの利用、放射線障害防止に関する事項、研究者及び技術者の国の内外における養成訓練計画ということになっており、策定に当っては、わが国における電力、石炭、石油、薪炭、天然ガス等のエネルギー需給の見通し、関連産業の技術水準及び生産能力、国際情勢の見通し、諸外国における開発利用の状況等を考慮することとなっており、方法としては、原子力委員会参与のうち適当な者若干名のほか専門委員をもって構成される小委員会を設け、この計画立案に資するほか、必要に応じて関係官庁、日本学術会議、日本原子力研究所、日本原子力産業会議等の関係先と連絡をとることになっている。

 策定要領に定められているとおり、基本計画は長期計画と年度計画とに分けられ、年度計画は長期計画にもとづいて具体的実施計画を定めるものであるが、本年度については、日本原子力研究所が6月15日から発足するため研究所の業務の基礎になる年度計画を先に定めたが、特にその冒頭に本計画は長期基本計画の線に沿って修正されることがあると明言し、必要があれば修正することにしてある。

 昭和31年度基本計画が決定された後、長期基本計画を策定するにあたり、現在の段階では具体的な計画の策定が非常に困難であるばかりでなく、その策定にはわが国の原子力の基本方針をはじめとして、原子炉設置計画、燃料の開発方針等各方面において論議の分れているいくたの至難な問題が介在するので、計画策定以前に参与会はもちろん日本学術会議等関係各方面の意見をきき慎重に検討を加えることとして、前記策定要領にもとづき問題点を摘点し、これに対し考慮されている考え方の主要なものを列記し「原子力開発利用長期基本計画策定上の問題点」として提示し検討を求めた。

 これに対する回答は関係各方面から文書あるいは口頭によりよせられたが、これらを検討の上7月20日試案を作成し、局議において再度にわたる討論を行い、原子力局第1次案とし8月2日の委員会で検討を開始した。検討の結果タイムテーブル等につき問題があったので、計画の内容の再検討を数回にわたって行い、さらに8月24日の参与会の検討を経て、表現方法、字句等の修正を行った上9月6日の定例委員会で内定をみた。

 この原子力開発利用長期基本計画内定案は石川委員を団長とする訪英原子力発電調査団、大屋参与を団長とする原子力産業使節団、有田代議士を団長とする訪米原子力政策調査議員団等の帰朝後、理論物理学国際会議等に出席した藤岡委員、湯川委員を交えて、海外における原子力の研究、開発、利用状況調査結果にもとづきふたたび検討を加えた上、正式決定を見る予定である。