放射線遺伝学に関する講演討論会

 原子兵器実験に伴なうフォールアウトと原子力産業の廃棄物によって、放射性物質による環境の汚染が軽視し難い問題となってきているが、6月12日アメリカ科学アカデミーは「放射線の生物学的影響」を公表し、そのなかで遺伝に対する悪影響を考慮して自然に受ける放射線以外の放射線の最大許容量を30才までの間に50レントゲン、30〜40才までに更に50レントゲン、合せて100レントゲンにとどめるべきであるとし、時を同じくして英国医学会も放射線の影響に関する報告を政府に提出した。原子力局では、7月には「放射線遺伝学の話を聞く会」を開き、立教大学村地教授からマラーの計算を中心として集団遺伝学の話を、次いで国立遺伝研究所の松村博士から植物について主として放射線遺伝学のプラスの面の応用すなわち品種改良について話を聞き、活発な質疑や討論が行われた。当日の参会者は、石川、藤岡両原子力委員会委員をはじめ、医学側からは都築、中原、樋口、宮川、山下の諸博士、遺伝学側からは、村地、森脇、木原、松村、菅原の諸博士ならびに電気試験所および原子力局の職員であった。

 村地博士講演要旨

@ 放射線によって誘発される遺伝的影響には染色体異常とポイントミューテーションがある。
A 放射線のどんな少線量によっても遺伝的影響は誘発される。
B 染色体異常では回復が関与するから時間的因子に関係があるが、ポイントミューテーションにはない。
C 自然におこったボイントミューテーションの大きな蓄積は一世代中に生ずる新しい突然変異の全数aと滞留値bの積で示され、突然変異遺伝子をうけついで生殖期前に死ぬかあるいは生殖不能になる。平均の機会cはbの逆数である。
D abは平衝に達していて、毎代に消えてゆく突然変異遺伝子は1代にできた突然変異遺伝子と同数である。
E aの相定はドロソフィラについては8.6%ドロソフィラとネズミと人との比率は1:1.5:2 で、人では16%が最低値として使用
される。
F bの値は控え目に40という数字がとられている。
G abはドロソフィラで342%、人では684%すなわち人で最低6.5である。
H 一定量の放射線によって誘発されるポイントミューテーションは、人では両親が曝射を受けたとして4×103/rと計算される。
I 人の場合37r受けただけで1代に加わる密度は2倍にされる。
J 広島や長崎の原爆で生き残った人々に生まれた子供達が正常に見えるからといって遺伝的障害がおこっていないと考えてはいけない。
K 37rが突然変異を2倍にするならばこの線量を何代もうけている集団は現代の2倍の遺伝性病害を持つことになるだろう。