原子力委員会参与会

第 5 回

日 時 昭和31年6月22日(金)年後2時〜5時

場 所 総理大臣官邸 ホール

出席者

 菊池、嵯峨根、児玉、三島、中泉、脇村、大屋、倉田(代理大西)松根、岡野、瀬藤、田中各参与
 正力委員長、石川、藤岡、有沢 各委員
 佐々木原子力局長、法貴次長、島村、荒木、藤波、堀、鈴木 各課長ほか担当官
 安川原子力研究所理事長、駒形同副理事長

議 題

 1.原子力開発利用長期基本計画について
 2.その他

配布資料

 1.天然ウラン・グラファイト炉による発電コスト推定上の問題点
 2.ヒントン卿との会談要旨
 3.米原子力調査団フォックス団長との会談記録
 4.アイソトープ・センターの計画の概要
 5.原子力委員会第4回参与会記録

議事概要

 開会の挨拶(石川委員)

 議事経過

 経過報告

 佐々木局長から、日本原子力研究所の設立経過について、安川理事長以下の役員決定以来の報告があり、ついで議題と資料の説明に移って長期計画の論議に入る前に、三つの資料を準備している、と述べて

 (1)ヒントン卿との会談要旨を事務局側で朗読し、局長から内容の説明が行われ、
 (2)米原子力調査団フォックス団長との会談記録を同じく朗読し説明があった。
 (3)ついで、天然ウラン・グラファイト炉による発電コスト推定上の問題点(原子力メモ第5号)を紹介、法貴次長から内容の概略説明があった。

 敷えん説明

 正力委員長からだいたい申し上げたとおりの状況であるが、また前回にもお話ししたとおりヒントン卿は大センセイションを与えたわけでわたくし自身驚いたような次第である。いやしくもイギリスの責任ある地位にある人の言であるから軽視できない。出発の前日にも同卿は、大臣としてのわたくしの意見をききに来られたから、もっと詳しく調べたいと答えたところ、経済ベースに合うという理由を屡々説明され、それを聞いてわたくしも安心し、決行すべきものだと感を強くした。調査団を派遣してよく調査いたしたい。西独にも反響を及ぼしているようである。責任をもって行いたいと思っているとの意見が述べられた。

 倉田参与代理大西氏:調査団の派遣も結構であるが、従来の経験からしてみると、アメリカと比べイギリスは殊にやりにくいのではあるまいか、との危惧を述べ、これに対し、佐々木局長から英国との交渉の経緯について、電報を朗読の上報告した。

 大屋参与:率直にお話しすれば調査は賛成であるが、10万キロ1基だけでは済まず、紐付になるようなことはないであろうか。相当大きなリスクであって、150億円を原子力のために捨てるくらいの覚悟が必要になってくる、と同じく慎重論を唱え、

 正力委員長から、ゆっくり相談する旨応答があった。

 再び大屋参与:ヒントン卿からの手紙によれば、10月の開所式の後自分がコーチしたいとあり、正力委員長がエンジニアを派遣したいといっていると返事しておいたと報告、ついで

 松枝参与と大西氏との間で、炉の調査の困難性について問答あった。

 菊池参与:調査の結果をまって技術導入を行われるのか、それとも否応なしに行われるのかと質問し、

 正力委員長:調査を行って後、また皆様の意見をきいたうえのことにしたいと答え、研究とは別であって、将来国産炉に持ってゆくという日本の原子力開発のポイントを誤らないようにとの方針が確認された。

 また、岡野参与と菊池参与との間に、そろばんに合う、合わないよりも大事な問題であるとの意見が交換され、正力委員長により再確認された。

 石川委員も、研究の重要性は長期計画に織り込むようにしており、人の養成も大切であると発言した。

 瀬藤参与から原子力メモ第5号について質問あり、産業会議の動力委員会でも、経済グループがいろいろ研究して総合報告を出しているしこの種のものは発表の時期をよく考えられたいと述べ、正力委員長も了承した。

 大屋参与からも、火力発電の進歩は頂点に達しているようであるが、原子力関係は推察にすぎないし、高くなるとは思えない、との発電コスト推定についての意見が述べられ、

 岡野参与は、10万キロの原子力発電が今すぐ水、火力と競争できるとも思えないが、ヒントン卿も最下級のレスプロケーティソグ・エンジンにたとえているように、動力に利用しながら研究も進められようと述べ、

 菊池参与から研究偏重という意味ではないと弁明。

 松根参与:考え方は全く同じであって、基礎的な研究も行ってもらいたいが、あるていどのお手本も持って来たい。と発言し、

 再び菊池参与:採算だけが問題ではないと思うと釈明。

 嵯峨根参与:最初から10万キロを入れる点には疑問があり、試験炉の方がむしろよいようにも思うとの意見を述べ。

 正力委員長も調査団を英国ですぐ受入れてくれるかどうかの問題とも絡んでくると述べ、

 菊池参与も、燃やしたウランの処理が国内でできるようになってからでよいとして漸進論に賛成。

 岡野参与:最初正力委員長が10万キロがよいといわれるので賛成したのであるが、1万キロでよくはあるまいかと同じく小型論。

 児玉参与:燃料の処理は重大な問題である。英国型はプルトニウムがポイントになっているが日本でもできるかどうかが重要であると述べ

 正力委員長:交渉の時によくきくことを約すとの発言があり、

 岡野参与:この際ともかく英国型を買うという肚を決めることが必要であると発言し、

 菊池、瀬藤両参与:情勢にもよるが、データによってイエスかノーか返事すればよい、と述べ、大屋参与も同様慎重論を唱えた。

 藤岡委員、今のコールダー・ホール型がプルトニウムを目的としていることを補足説明し、

 結論として、次回までに再検討をすることとなった。

 佐々木局長から次の議事に移りたいと、アイソトープ・センターの計画の概要の内容について説明し、この次までにご検討願って意見書を出していただきたいと依頼した。

 次回は7月31日(金)午後2時に開催することに決定して散会した。


第 6 回

日 時 昭和31年7月13日(金)午後2時〜5時

場 所 総理大臣官邸 小客間

出席者

 伏見、菊池、嵯峨根、児玉、三島、脇村、大屋、倉田(代理大西)松根、久留島、岡野、瀬藤、田中 各参与
 正力委員長、石川、藤岡 各委員
 佐々木局長、法貴次長、島村、荒木、藤波、堀、鈴木 各課長ほか担当官
 駒形原子力研究所副理事長

議 題

 1.原子力開発利用長期基本計画について
 2.アイソトープ利用促進の総合対策について
 3.その他

配布資料

 1.原子力開発利用長期基本計画策定上の問題点に対する考え方
 2.アイソトープ利用促進の総合対策(案)
 3.原子力特別委員会審議資料(日本学術会議)
 4.国内の核原料資源探査計画(案)(日本学術会議)
 5.原子力委員会第5回参与会記録

議事概要

 佐々木局長:定刻開会を告げ、重要議題は長期計画とアイソトープ利用の総合対策であるが審議に入る前に英国派遣調査団についての経過報告を申し上げたいと述べてイギリス側との折衝状況を説明した上、石川団長以下団員の氏名を紹介。

 正力大臣:敷えんして、わが国が今回英国と折衝を始めたことは意外な反響を呼んでいて、アメリカとしてはヒントン卿の言に対して批評がましいことはいいたくないが、自分の方では5年後でなければ経済ベースに乗るかどうか分らない、といっている。われわれとしては、よほど慎重に考えねばならず、炉を英国から買うか否かは別として調査団だけは派遣したい、先頃のフォックス氏から帰国後手紙が来ている。と同書翰を事務局朗読(英国側のいうことは原則的には正しいが、いろいろ疑点もある旨述べたもの)。現在アメリカからG.E.ほか5社が炉の見積を出している。シスラー氏もヒントン卿に反対はしていない模様であるが、いずれにしてもセンセイショナルであり、それがまた結局日本のためになったと思う。

 次にアイソトープ利用促進の総合対策に移り同対策(案)の資料を事務局朗読。

 佐々木局長:最近アイソトープの輸入は激増し、昨年の2、3千万円から本年2億を突破する状態であって2、3年後には10億くらいに達するのではあるまいか。医療用以外に農、鉱、工業が増えてきている。その利用の促進について、木村、瀬藤両参与も参画されて専門部会を設け、案を作ってみたわけであると内容説明。出力1万キロでは足りないとの説も出てきている。と今後の普及対策について述べ、

 大屋参与:産業会議としては趣旨賛成である。できるだけ予算をとっていただきたい。ただ、独占的にならないように大学なり民間なりを援助しながら至急センターを設けられたい。また放射性同位元素協会の業績も尊重されたいと希望意見があった。

 佐々木局長:これは一応の目標であって、方向を誤らないようにしたい。

 瀬藤参与:放射性同位元素協会役員の立場から、研究所でサーヴィス部門を独立させる必要があると同じく危惧を述べ、

 藤岡委員:名称が最初からつきまとうようであるが、特殊法人としての原子力研究所は広義であって、原子力公社とでも称すべき性格のものである、と説明し、

 石川委員も、方向が漸次はっきりしてきていると敷えん。

 三島参与:アイソトープ学校は東京と東海村と両方に置かれるのか。

 石川委員:然り。

 伏見参与:高分子エネルギーの研究はアイソトープ・セソタ一にはふさわしくないように思われるが・・・・・・。

 藤岡委員:原子核からのエネルギーという点で必ずしも不適当ではなく、法律の解釈にもよることである。

 再び伏見参与:イギリスではもっぱらファンデグラフでやっている。

 藤岡委員:必要ならば別にしてもよいが、既存のものを使うという考え方からきている。

 大屋参与:高分子関係の人は別にやることを希望している。また政府の金の出し方についてもいろいろ意見があるようである。

 岡野、大屋両参与:開放という意味が狭く独占的な感じを受ける。

 藤岡委員:いろいろ含んでいるつもりであるが文言を考えておきましよう。

 瀬藤参与:伏見参与が指摘されるとおり、理論的矛盾はないでもないが、急がねばならないので、一応現態勢で進もうということになっていると専門部会の説明。

 大屋参与:原子力センターが親となって、子孫ができることが望ましいと建設的意見を述べて一同の賛成を得た。

 石川委員と大屋参与の間で、人員養成について、名古屋方面では殊にアイソトープ技術者の養成を期待しているし、最初20人くらい募集し各自に装置を分担させるようにしていきたいと意見の交換があった。

 佐々木局長:次の議事の長期計画へ進みたいが、前からお願いして局の「考え方」のほかに本日は学術会議の資料がきている。

 伏見参与:一つは、地質試験所の佐藤鉱床部長のものであり、一つは、目下議論の段階にあるものである、と資料を紹介。

 佐々木局長:内容は後で読んでいただくこととして次へ移りたい。とて「長期基本計画策定上の問題点に対する考え方」(第1次)のはじめの部分を事務局朗読。

 藤岡委員:船舶用原子力エンジンについて、山県教授の尽力で20人ばかり集って協議しているのであるが、現在、火力発電用と同量の燃料を船に使っている状態である。船舶には画期的分野がひらける。例えば、20から25ノットと速力が早くなると経済性が大きく違ってくる。従って立ち遅れたら影響が大きい。今までのところデータが少なくいろいろ調査研究中であるが、この方面の先進国ノルウェー、スウェーデン等に外務省を通じて調査を依頼している。

 石川委員:遠くへ行くサルベージに最適ともいわれる。

 岡野参与:ウラン濃縮度にもよるだろうが、いずれにしても船舶用に進むにはよい機運である。

 藤岡委員:2万トンの船の場合、300トンがエンジンで3,000トンが燃料油だという訳である。運輸省をはじめ、皆熱心ではあるが、何分炉のデータが不充分である。

 大屋参与:岡野参与もいわれるとおり自分も船舶用へと進むことは望ましいと賛成。

 嵯峨根参与:「長期」という意味は如何?

 佐々木局長:大体10年と考える。

 大屋参与:フォックス調査団の人達もいっていたが、炉や燃料の関係から長期計画は難しい2、3年やってみたらよいという見方もあるが・・・・・・。

 佐々木局長:少なくとも5年くらいの計画を立てないと予算が組めない。

 岡野参与:31年度計画の中にも「34年」という語あり、この際明瞭にしておきたい。

 正力委員長:いわゆる「長期計画」と「短期計画」とあり、短期の方は、原子力利用準備調査会時代からのものであって、CP−5型から国産炉へ持っていくという点が未決定である。

 最近、国産より輸入という声もあり、また予算の問題もある。ウォーター・ボイラー型は玩具にすぎない、と外国ではいっているようであるし、基本計画の策定は急ぎはするけれども、この際十分論議したい。

 岡野参与:それは、研究所等の実施機関としては重大な問題である。

 正力委員長:この次までに決めたい。

 田中参与:1つの籠の中にあまり多くを盛りすぎるような感じを受ける。殊にマン・パワーは重要である。

 佐々木局長:人事養成については文部省と打合せ中である。

 田中参与:技術庁と文部省とうちあわせられたい。

 正力委員長:然り。

 事務局側、大臣の炉についての発言を補足説明、CP−5とウォーター・ボイラーは閣議決定になっている、と述べたが、

 正力委員長:そのとおりであるが、悪い点は直せると思う。次の参与会議までに決定したい。

 菊池参与:原子力研究所はいかなる形で意見を出されるや、

 正力委員長、佐々木局長:いろいろな形で出してもらっている、と答え、

 重ねて菊池参与:研究所の意見を尊重されたい、と強調。

 また、正力委員長:次回までに皆様の意見と研究所の意見を聴いてきめたい、と繰り返す。

 佐々木局長:アイソトープ専用炉を持ちたいという意見が多くなってきているが・・・・・・。

 大屋参与:アイソトープ専用炉は買うのであろうか、CP−5のほかにアイソトープにも使えるものはないか?

 藤岡委員:CP−5で全部は作れないので、むしろグラファイト炉を作りたい、とわたくし自身は考える。

 正力委員長:金がかかっても、必要なものは備えるために予算をとりたいと思う。

 藤岡委員:この種の問題は、このような形でだけディスカスするのは危険であって、研究所あたりでももっと研究していこただきたい。

 嵯峨参与:然り。当分、アイソトープは輸入した方がよいのかも分らないが、そうとばかりも限らない。

 佐々木局長:炉の問題は、昨秋の結論が最もよい。

 大屋参与:しかし、もっと大型にしておけばよかったと必ず後で顧みるのではないか。

 正力委員長:ともかく、次の参与会までに直します。

 佐々木局長:核融合の問題も、ジャーナリズムで扱われるようになってきたが、むしろ今後の問題であろう。

 田中参与:各研究所の実情は十分分らないのであるが、やはり大学の研究機関の助成、援助を一貫して続けることが必要である。文部省との関係はどうなっているか。

 佐々木局長:なかなか複難であるが、調整を図っている。

 藤岡委員:だんだん好転してきている。ただ核融合の問題となると限界が難しい。

 田中参与:わたくしが申し上げたいのは、研究と調査および企画とを別にしたいということである。

 佐々木局長:立教大学と関西電力の炉の問題はどうすべきか。

 久留島参与:自分の費用で行うのであるならばよいのではないか。

 佐々木局長:運転を国で行ってくれといっている。

 藤岡委員:当初、炉の型を決める時、必要な場合は研究所の炉を使うという大体の方針を立てたが、関西だけは特別に考慮したのであった。後、文部省が5大学に原子力関係研究計画を照会したところ、ぼう大な計画が出て、将来炉をどうするかが問題になってきているわけである。当分の間は、関東と関西をそれぞれ中心とする方針でいきたいと思う。5、10年後に動力炉ができるようになれば、研究炉、たとえばウォーター・ボイラー型を使うことは大学に任せてもよい時がくるのではあるまいか。また、会社関係は、当分、なるべく研究所の炉を使うことにいたしたいと事情説明。

 佐々木局長:日本の場合、分散と集中の得失はどうか?

 嵯峨根参与:自国の技術のみに依存する方針では困難であるまいか。ある程度の分散もやむを得まい。

 三島参与:研究者の少ない業界としては研究所兼務という形をとることも考えられるが・・・。

 脇村参与:東京大学の実情を申し上げれば総長の個人的意見としては、日本ではやはり、原子力研究所を中心としていくべきで、大学はもっぱら基礎研究をやるという考えである。

 大屋参与:関西に炉を置くことは必要であろう。また、立教大学のも、くれるものは断らなくてもよいであろう。

 菊池参与:東大でわれわれが考えていたのは5千キロの小さな炉であって、総長はまだ理解不十分のようである。

 藤岡委員:しかしながら、小さいといっても7、8千万円の金がかかる、と久留島参与等と経済問答あり。

 嵯峨根参与:時期の問題であると発言。

 児玉参与:京大としては実験炉を考えているのであって、炉のデヴェロップメントは10年くらいは原子力研究所1ヵ所でよい。関西に炉を置くというのは、いわば研究用であろう。

 佐々木局長:次に研究の進め方はどうか?

 瀬藤参与:前回積み上げでなくて、平行してゆくことに決定したのではあるまいか。

 大屋参与:現にシスラー氏もいうように、発電の場合、外国のいいものを途中にはさむもやむを得まい。

 瀬藤参与:応用偏重に陥らずに基礎も重視されたい。

 佐々木局長:ウォーター・ボイラー型で5年間やれるであろうか。

 嵯峨参与:発注の肚の問題である。

 大屋参与:7、8年空白にはできない。

 岡野参与:業界としては、化学にしても電力にしても将来国家に迷惑かけないようにせねばならない、委員会としても統一していくという方針を打ち出していただきたい。

 ケース・バイ・ケースという論議あり。

 田中参与:研究を切り離すとブランクになるといわれるが、そうならない方法もあると思われる。

 佐々木局長:エネルギー需給見通しの問題は前回にも相談申し上げたが、いつ「ペイ」するかだけではやはり物足りないので、一応の目安はつけたいと思っている。

 次の炉の問題は次回にゆずり、7月27日(金)に次の参与会を開催することを決定。

 正力委員長から原子燃料公社の役員氏名を紹介して午後5時閉会した。