原子力発電調査団の英国派遣計画

 英国原子力公社のヒントン卿が先般来日し、英国における天然ウラン、グラファイト方式炉による原子力発電計画について詳細な説明を行ったが、ヒントン卿の話だけでは同方式によるコールダー・ホール型発電炉の詳細は必らずしも明らかでなく、したがって、もしわが国に輸入した場合に果して採算に合うものかどうか、また輸入のためにはいかなる段階を踏むべきものか、すなわち条約等が必要か、必要とすればどんな内容のものとするか等はっきりしないので、これらの点を可及的詳細に調査するため、原子力委員会は6月21日開催の第31回定例委員会において、石川原子力委員会委員を団長とする原子力発電調査団を英国へ派遣する件につき便宜供与方、外務省を通じ英国政府へ申し入れることを決定、同月22日要旨下記のごとき申入を行った。

原子力発電調査団に関する英国政府への申入

 先般来日の貴国原子力公社ヒントン卿は貴国における原子力開発事情を詳しくわが国官民関係者に説明され、これ等関係者の原子力平和利用、特に原子力発電に対する関心は一段と深められた次第である。日本においては電力資源の状況にかんがみ原子力による発電が緊要な必要事であると考えられ、この際貴国の原子力発電をわが国に適用し得れば幸と考えている。これがためには日本政府としてはさらに貴国の原子力発電の技術面、経済面等を実地に詳細に研究する必要があるように思われる。

 上記目的のため、日本政府は可及的早い機会に数名の専門技術者を適当な期間、貴国に派遣したい意向である。ヒントン卿滞日中原子力担当の正力大臣よりも同卿に対し依頼してあるが、派遣実現の場合は貴国政府および原子力公社において、これ等日本人技術者の目的達成のため特別の便宜供与方御斡旋願いたい。


 これに対し、英国政府から6月25日外務省を通じ折返し次の要旨を回答してきた。


英国の回答要旨

 便宜供与は一行の氏名、滞在期間等具体的詳細決定次第考慮する。なお研究方法についても御回答ありたい。

 したがって、原子力委員会はふたたび英国政府へ具体的な計画を申し入れることに決定し、同月29日外務省を通じ下記要旨の第2次申入を行った。


原子力発電調査団に関する英国政府への第2次申入

 日本政府は早速英国政府の回答に接したことを感謝し、下記に従い英国の原子力発電に関する調査団を派遣することと致したい。

 なお、日本の主要メーカー等数社より代表者を本件日本政府の調査団に随行斡旋方申し出ているが、英側の見解を御回答願いたい。


1.研究方法

 (1)研究ならびに意見交換
 (2)経済面よりの検討
 (3)関係施設の視察
 (4)実地訓練

2.研究項目

 (1)原子力発電所の建設ならびに運営に関する技術的、超済的検討
 (2)主要材料および燃料に関する検討
 (3)英国の原子力発電設備輸出に伴う諸問題の検討

3.調査団団員名

団長   石川 一郎   原子力委員会委員
  法貴 四郎   原子力局次長
  藤波 恒雄   原子力局管理課長
  嵯峨根達吉   原子力研究所理事
  弘田 実弥   原子力研究所
  原 礼之助   原子力研究所
  一本松珠き   関西電力
  辻本  進   東京電力
  大山 義年   東京工業大学教授

 4. 7月中旬着英、約2ヵ月滞在の予定

 このように1次申入以来、速かに調査団派遣は実現されるかに見られたが、秋に予定されるコールダー・ホール発電所開所式の関係もあり7月28日に至り英国原子力公社から、在英日本大使館あて、要旨次の通り正式回答があった。

 1.主要メーカーの参加には異存ないが、調査団員は全部で10名以下であること。

 2. 日程概要

10月29日  
  原子力公社で予備打合せ
  30〜31日
  コールダー・ホール見学
11月1〜2日
  その他関係実験所等見学
5〜6日
  ハーウエル見学
7〜9日
  原子炉製作会社見学
12日以降
  公社と打合せ(1週間)

 3.上記日程概要に対する日本側の意見を承知したい。


 以上のような経緯であるが、上記正式回答を大体了解の上、10月下旬、調査団を編成して出発の運びになるものと考えられる。