日本の原子力研究

原子力委員会委員 藤岡 由夫

 日本原子力研究所は、発足以来漸次体制も整い、建設も始まろうとしている。2年前からの助成金による関連産業の研究もすこしずつ芽ばえていくし、また各方面のアイソトープに関する研究も急速に進んでいる。一方各地大学においてはそれぞれ大きな原子力研究計画を立案している。こうして日本の原子力研究はかなりの急速度で進もうとしている。

 今後の日本の原子力研究は日本原子力研究所に中心を置こうとしている。その点は諸外国のやり方に似ているように見える。しかしよく考えてみると周囲の情勢はよほどちがっている。

 例をアメリカでみると、アメリカに原子力研究が始まったのは戦争中であり、すべては極秘のうちで行われた。いくつかの研究所や会社だけが研究をやり、大学等の有能な研究者は全部そちらに集められた。つまり指定された研究所等のほかには、原子力研究は行われなかったのであろう。この状態は戦後だんだんと変って来てはいるが、しかし現在でもこの傾向は強いようである。各地大学に原子炉をおくこともだんだんと行われてきてはいるが、アメリカ全体の原子力研究から見ると甚だ少ない。

 イギリス、カナダ、フランス等の先進国でも、原子力の研究は秘密の雰囲気の中で、特定の研究所で始められた。そして大学等の一般学界の研究はずっとおくれている。

 わが国の研究が日本原子力研究所を中心にして進もうとしていることは、形の上ではこれら諸外国と似ているように見える。しかしその背景はたいへんちがっている。わが国の原子力研究の出発は著しくおくれた。その間に諸外国の進歩の状況はわが国にもつたわり、一般の知識のレベルはかなりまんべんなく上っている。特定の部分だけの研究のレベルが高いわけではない。ことにわが国では原子力に関する秘密がないから、名分上からいえばどこでどのような研究が行われるのも自由である。

 こういう情勢の中で発足したわが国の原子力研究の中心機関は、かなり苦しい立場にある。一般社会から注目されるにしては限られた予算、あまりにも少ない定員の中で、中心機関の実をあげていくのは、容易ではあるまい。何よりも心がけなければならないのは独善的な気運を作らないことである。一般学界の研究とよく連絡を保ち、その忠言を容れて、研究をまとめていく謙虚さが大切である。

 同時に大学その他の一般社会の研究者には、このような情勢でもなおかつ日本原子力研究所を中心としなければならない原子力の特殊性をよく認識してほしい。原子力の研究は巨額の費用を要し、国民の将来の福祉に大きな関係のあることは言をまたない。その研究はよく成果を集中し、実用化の面と密接な関係をもたなければならない。そのためにはどうしても日本原子力研究所のような機関が必要なのである。どうかここを日本のすべての者の共通の中心研究所として、力を合せてもり育てていただきたい。