原子力委員会

昭和31年度原子力開発利用基本計画の決定

 わが国原子力の開発および利用の状況は先進国に比し著しい立遅れを見ており、これをできる限り速かに取りもどすためにも計画的、効率的な推進を図らなければならないことはもちろんであるが、日本原子力研究所法第24条および原子燃料公社法第20条には、それぞれの業務は「原子力委員会の議決を経て内閣総理大臣が定める基本計画に基いて行わなければならない」と規定され、原子力の平和的利用が基本的、総合的な計画にもとづいて進められるべきことが定められている。これがため、さきに「原子力開発利用基本計画策定要領」が原子力委員会において決定されたことは既に本誌第1号に掲げられているとおりであるが、同要領に定められている年度計画として「昭和31年度原子力開発利用基本計画」が決定された。

 策定要領に定められているとおり、基本計画は、長期計画と年度計画とに分けられ、年度計画は、毎年長期計画にもとづいて具体的実施計画を定めるものであるが、本年度については、すでに日本原子力研究所が6月15日から発足を見た状況で、まだ長期計画は定められていないが、研究所の業務の基となるべき年度計画を至急に策定することが要請されていたため、特に昭和31年度計画を先に定めることとしたものである。

 決定にいたるまでには、4月20日の原子力委員会において第1次案の検討に入って以来、同20日午後および5月7日の参与会に図ったほか官民各方面の意見に対し慎重に検討を加え、5月31日の原子力委員会において委員会案をまとめ、6月1日の参与会の賛成を得て、総理大臣の決定にいたったものである。

昭和31年度原子力開発利用基本計画

本計画はこれに引き続き策定される長期開発利用基本計画の線に沿って修正されることがあるものとする。

 1 目  的

 昭和31年度における原子力の開発および利用について、基本的、総合的な方針、目標を設定することにより、原子力の平和的利用を計画的かつ効率的に推進することを目的とする。

 2 方  針

(1)本年度は、わが国の原子力の研究開発がこれまでの準備段階から実行段階に入る年として、行政機構、研究開発機関を整備するほか.内容の充実をはかることに重点をおくものとする。

(2)先進国に比し十数年の立ち遅れを見ているわが国の現状に鑑み、これを速かに克服するため外国技術の導入を図る一方広く基礎研究に力を注ぎ、国内における関連産業の育成と技術の全般的向上を促すものとする。

(3)原子力投術に関する情報の交換、技術導入等については海外諸国との協力を緊密にするものとし、これがため先進国に原子力技術駐在官を派遣する。

(4)国内の技術者を結集し、資金を効率的に運用するため、原子炉に関する研究は日本原子力研究所を中心として行い、このため研究所の整備を急ぐものとする。

(5)原子燃料の探査および生産については地質調査所および原子燃料公社を中心とするが、民間におけるこれらの研究、探査に対しても研究補助金、探鉱奨励金の交付等により奨励するものとする。

(6)アイソトープの利用を促進するためにアイソトープセンターの設立を急ぎ、また放射線障害の防止と放射線の医学的利用研究を図るための国立放射線医学総合研究所の設立に関しては、本年度中にこれが構想を確立するものとする。

(7)放射線障害防止法、原子炉および原子燃料管理法等の研究開発を推進するために緊要な法令は、本年度中に整備を図るものとする。

(8)濃縮ウランの受入態勢整備のため、日米原子力協定にともなう細目協定の締結を行うものとする。

(9)動力用原子炉については、本年度は、基本的調査およびこれが具体化のための研究を行うものとする。

(10)核融合に関しては基礎調査の推進を図り、情報の収集に努める。

 3 計画の内容

(1) 原子炉の建設計画

 (イ) ウォーター・ボイラー型原子炉(熱出力50kW中性子線束密度1012)1基を米国より購入し、昭和31年度末に据付完了を目標として日本原子力研究所に設置する。本炉設置の目的は、次のとおりである。

a 技術者の養成訓練
b 国産炉建設のために必要な基礎研究、特に天然ウランおよび重水を米国より購入して行う指数歯数炉の整備実験および燃料加工技術の修得ならびに物性実験
c 放射性同位元素の実験的生産

 (ロ)CP−5型原子炉(中性子線束密度1014ていど)1基を米国より購入し、日本原子力研究所に設置することとするが、製作期間が長期間にわたる点を考慮し、昭和31年度上半期中に発注し得るよう、メーカーの選定、契約の締結等を急ぐものとする(発注後入荷まで少なくとも約2ヵ年を要する見込)

 本炉設置の目的は、次のとおりである。

a 原子炉用材料試験
b 放射性同位元素の試験的生産
c 各種基礎研究および技術者の養成訓練

 (ハ) 昭和34年中完成を目標として、天然ウラン重水型原子炉(中性子線東塔度1012〜1013)1基を日本原子力研究所に設置することとし炉の設計ならびにこれに必要な燃料、機械装置、炉材料等の生産技術を確立するための基礎研究および工業化研究を昨年度に引き続き実施し、極力国産材料をもって充足し得るよう努力する。この炉設置の目的は次のとおりである。

a 原子炉設計技術の確立
b 放射性同位元素の生産
c 燃料の化学的処理およびプルトニウムの試験的生産
d 動力試験炉その他の原子炉のための燃料、機械装置、炉材料等の生産技術の確立

(2) 燃料の研究

a 核燃料物質の関発については、本年度はわが国におけるウラン、トリウム鉱床の賦存状況の調査確認のため、基礎調査および企業化調査を行うこととする。基礎調査としては主として中国山地、北上山地についてはエアボーン、岐阜県、岡山県、鳥取県等の各地方についてはカーボン等による調査を実施し、福島、鳥取、岡山等十数県下について地質鉱床調査、地化学探査、試錐等による調査を実施する。(以上地質調査所)企業化調査としては鳥取県の一部等について坑道掘さくによる探鉱を実施する。(以上原子燃料公社)民間企業で企業化調査を行うものに対しては場合によって探鉱奨励金を交付してその育成を図るものとする。
b 核燃料物質の開発については、製錬技術の確立のため、昨年度より実施中の研究を続行せしめるとともに原子燃料公社に製錬中間試験施設の建設に着手せしめる。

(3) 関連技術、関連産業の育成計画

 炉の設計、機械装置および炉材等の生産技術の確立のため以下細目別に掲げるとおり昨年度に引き続き本年度も政府よりの委託費、補助金により育成を図るものとする。この場合原則として昨年度より引き続き実施する研究については本年度も昨年度の研究者に実施せしめることとし、また研究の重複はさけるよう配慮する。

 (イ) 炉の設計

 昭和34年中完成を目標とする天然ウラン重水型原子炉の設計は昨年度までは学術振興会において調査研究を実施したが、本年度は日本原子力研究所に引き継ぎ、研究を続行することとする。

 (ロ) 機械装置

 昨年度においては基礎的な測定器の試作研究を実施し、一応の見通しを得たので、本年度は原子炉制御系およびその他の附属機器の試作研究および放射線危害防止用機器に重点をおく。

 (ハ) 炉材料

 炉材料としては重水、黒鉛、遮蔽用材料等のごとく天然ウラン重水型原子炉に必要な材料と不銹鋼、ジルコニウム等のごとく将来の動力試験炉に特に必要な材料とが考えられるが、これらの炉材料については、前者は昨年度に引き続き研究を続行するものとし、後者については基礎的研究を本年度より開始するものとする。

a 重水については低濃縮部分は交換反応法、高濃縮部分は回収電解法による研究を続行することとし、他の方法については調査研究の段階とする。昭和32年度中に工業的規模による生産に必要な技術を完成することを目標として本年度は中間試験施設を建設し始めるものとする。
b 黒鉛については昭和32年度中に工業的規模による生産に必要な技術を完成することを目標として本年度は中間試験施設を建設する。
c 遮蔽用セメントについては、昨年度の研究にもとづき最も有望と見込まれる種類のセメントの研究を続行するものとする。
d 金属材料としての不銹鋼、ジルコニウム、アルミニウム、金属ウランの加工等の研究については基礎的研究を実施するものとする。

 (ニ) 廃棄物処理および分離利用

 わが国の特殊事情に鑑み廃棄物の処理ついては特に重点を指向して研究するものとする。

(4) アイソトープの利用の促進

 (イ) アイソトープ・センター設立の準備

 わが国における放射性同位元素の利用の速やかな促進を図るため放射性同位元素の生産および利用に関する研究ならびに放射性同位元素の輸入、頒布等の事業を行うアイソトープ・センターを速かに設けることとし、所要の施設、研究等につき計画を樹立する。

 (ロ) アイソトープ研究の推進

 民間におけるアイソトープ研究に期待し得ない分野については国立の各試験研究機関の研究を推進することとし、本年度においては下記テーマの研究を行わしめるものとする。

a 農水産物の殺菌貯蔵
b 農作物の品種改良
c 作物の施肥
d 高分子化合物
e 発酵菌の突然変異
f 対放射線構造物
g 漂砂積雪
h その他

 (ハ) アイソトープ利用の普及

a アイソトープ利用の研究成果を交換し研究を促進するため研究会議を開催する
b アイソトープ利用の研究成果を普及しその利用を促進するために、取扱技術者の養成訓練のため講習会を開くほか、一般の啓蒙をかねて展覧会、講演会の開催また指導書の作成頒布等を行う。

(5) 放射線障害防止

 (イ) 放射線障害防止に関しては、本年度はまず法令の整備を行う一方、人体に対する最大許容量、放射線障害の予防、診断および治療の研究を行うとともに国際会議への参加、講習会の開催等の事業を行い放射線による障害の防止に万全を期する。

 (ロ) 放射線障害防止および放射線医学利用を目的として昭和32年度に国立放射線医学総会研究所を設立することとし本年度中に設立準備小委員会を設け、基本的構想ならびに業務計画を制定するものとする。

(6) 技術者の養成訓練

 技術者の養成訓練については、原子炉の建設計画の推移に鑑み、本年度は原子炉の設計、建設、運転操作、および炉を中心とする一連の研究関係は極力海外の研究所等への留学に依存することとするが、設計建設技術についてはウォーター・ボイラー型原子炉の建設にともない国内においても日本原子力研究所を中心として養成訓練を実施することとする。燃料および炉材料としての重水、黒鉛、金属材料等の技術者の養成については、海外における現状に鑑み、極力国内技術の培養によって行うものとする。アイソトープの利用については、国内における利用研究の状況に鑑み、国内において技術者の養成を図るとともに海外留学についてもこれを行うものとする。

 国内における養成の方法は講習会の開催、外国よりの権威者の招聘等を考慮する。放射線障害防止の研究紅らいては、廃棄物処理の研究と相俟ってわが国においては相当重要な研究であるので海外に留学生を派遣して技術者の養成を図るものとする。

 以上の諸目的のため海外に留学せしめる政府機係機関の人員は30名を予定し、民間における希望者についても事情の許す限りこれをあっ旋するものとする。