国立放射線医学総合研究所の設置について

 昭和30年1月11日付をもって日本学術会議から政府あて次の勧告が提出された。

 「わが国が、広島、長崎において原子爆弾を投下された結果、人命その他に莫大な被害を受け、また最近においてはビキニ環礁で原子爆弾の実験が行われ、多くの問題を提起するにいたり、シベリアにおいても同種の実験が行われた模様である。

 また、放射線が医学上に応用せられる場合、集団検診の場合および将来わが国において原子力の平和的利用が実現する場合にも、放射線による障害を防止するための研究を行わなければならない。このように人体に対する放射線の影響は、われわれの日常生活にきわめて密接な関係をもっており、放射線医学についての関心は極めて深いものがあるにもかかわらず、わが国では現在までその基礎的な研究に対する対策は、必ずしも十分ではなかった。

 よってこのような現下の状況にかんがみ、また将来の要求に応ずるため、放射線基礎医学研究所を早急に設置するよう、ここに本会議第18回総会の議により申し入れます。」

 なお別紙として「国立放射線基礎医学研究所設置趣意書」、「国立放射線基礎医学研究所機構案」及び「国立放射線基礎医学研究所設置案施案(予算案)」等が提出された。

 前記勧告は昭和30年1月開催の第72回科学技術行政協議会において審議され、学術会議側委員から、本研究所は文部省所管が適当である旨の発言があった。種々審議の結果、本研究所の性格が、文部、厚生、通産、農林等の各省と関連もあり、専門部会を設置して審議を進めることとした。

 同専門部会は2月3日を第1回として数回開催され、別に小委員会をも数回開催して6月8日に至り次の結論に達し、科学技術行政協議会長に報告し、内閣総理大臣に提出した。

 「日本学術会議よりの申し入れは適当と認められるので、国立放射線基礎医学研究所を早急に設置すること。なお同研究所の所管は文部省とし、その機構については別紙(略)のとおりに改めること

 なお放射線障害の研究については、厚生行政面に関係する部面があるので、たとえば別紙(略)のごとき研究所の設置を厚生省において考慮すること。」

 これを要するに放射線医学に関する研究を基礎面と応用面とに分離し、前者を放射線基礎医学研究所(文部省所管)、後者を放射線衛生研究所(厚生省所管)としてこの2研究所の設置を要望したものである。

 科学技術行政協議会の前記の決定に基づき文部、厚生両省はそれぞれ昭和31年度予算として放射線研究所設置に要する経費を要求した。

 この要求を原子力委員会で審査した際、同委員会としてはこの両研究所を1本として放射線医学総合研究所を設置することが適当な旨決定した。

 この原子力委員会の決定は科学技術庁設置法の審議にも反映し、昭和31年2月3日閣議決定の科学技術庁設置要綱の内にも、同庁の任務及び権限の第7項として「放射線総合医学に関する研究を実施する。」と定められ、また同庁組織の第6項として、「なお、放射線医学総合研究所が設置される場合においては、これを科孝技術庁の付属研究磯関とするものとする。」と定められており、その後成立した科学技術庁設置法第8条において原子力局所掌事務の第6項として、「放射線医学の総合的研究に関すること。」と規定されるに至った。

 なお上述の経過を経た放射線医学総合研究所の設置について2月27日開催の原子力委員会は、次のとおり同研究所設立の基本方針を日本学術会議に諮問することを決定した。

放射線医学総合研究所に関する日本学術会談への諮問について

 本委員会は放射線医学総合研究所の設立について検討中であります。この研究所は放射線医学に関する基礎並びに応用の両方面の研究を行うもので、科学技術庁所管になることと予想されます。

 この研究所は元来日本学術会議の勧告にもとづいて着想されたものでありますが、その後の情勢の変化もありますので、その設立の基本的な方針について同会議に諮問方御願申し上げます。

原力委員会委員長 正力松太郎

 内閣官房長官 根本竜太郎殿