第1章 国民とともにある原子力
1.国民の声を原子力政策に反映させることを求める気運の高まり

(1)「もんじゅ」2次系ナトリウム漏えい事故の発生

1995年12月8日に発生した高速増殖原型炉「もんじゅ」の2次系ナトリウムの漏えい事故を契機として,国民の間に原子力に対する不安感などが高まりました。
 この事故は,原子炉を直接通らない2次系ナトリウムの漏えいであり,放射性物質による周辺環境及び従事者への影響はなく,災害防止上の観点からは,原子炉施設の安全は確保されました。
 しかしながら,実際にナトリウム漏えいが発生したこと,「もんじゅ」の設置者である動力炉・核燃料開発事業団の事故対応,情報公開において不適切な対応があったことなどから,地元をはじめとして国民に不安感などをもたらしました。このことは,極めて残念なことでした。
 この事故については,現在,原子力安全委員会及び科学技術庁で徹底した原因究明や安全性の総点検が進められています。

1995年12月8日に高速増殖原型炉「もんじゅ」の2次系ナトリウムの漏えい事故(以下,「『もんじゅ』事故」という。)が発生した。この事故を契機として,国民の間に原子力政策に関する不安感などが高まった。以下,科学技術庁が1996年5月にとりまとめた「動力炉・核燃料開発事業団高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えい事故の報告について」などに基づき,事故の状況や原因,国の対応を簡単に解説する。

 「もんじゅ」は,原子炉で発生する熱を冷却材であるナトリウムに伝え(1次冷却系),その熱を中間熱交換器を介して別の系統を流れるナトリウム(2次冷却系)に伝え,さらに,その熱を蒸気発生器で水に伝え,発生する蒸気でタービンを回し発電するという仕組みになっている。
 もんじゅは,1994年4月に初臨界を達成し,1995年8月には初めての送電に成功した。その後,性能試験を続けていたが,1995年12月8日,ナトリウムが原子炉補助建屋内に漏えいし,火災が発生した。漏えいは3時間以上にわたり,総量で約0.7トンのナトリウムが漏えいした。

 この事故は,その後の原因究明の結果,2次冷却系配管に取り付けられた温度計の一つが破損したことによるものであり,温度計さやの設計にミスがあったことが明らかになった。すなわち,配管中を流れるナトリウムの流体力により,温度計が振動し,そのさや細管部に振動による高サイクル疲労を生じ,亀裂が発生,進展し,破損した。このさや細管の設計については,実際に設計を行った製造者のほか,動力炉・核燃料開発事業団にも設計図面を承認する過程で問題点を指摘,改善できなかった点で問題があったと指摘されている。

 この事故は,原子炉を直接通らない2次系ナトリウムの漏えいであったことから,放射性物質による周辺環境及び従事者への影響はなく,また,炉心の冷却機能は損なわれず,原子炉は安定に維持されたことなどから,災害防止上の観点からは,原子炉施設の安全は確保されたと言える。しかしながら,発生の可能性が極めて低いと考えられていたナトリウムの漏えいが実際に発生したことから,地元をはじめ,国民に大きな関心をもたらした。
 さらに,「もんじゅ」の設置者である動力炉・核燃料開発事業団の事故対応及びその後の対応に関し,同事業団が事故後に現場を撮影したビデオが短く編集され,それがオリジナルとして提供された。これらの対応は,動力炉・核燃料開発事業団もんじゅ建設所幹部による「事故の現場の映像が刺激的であり,説明なしの公開は不安をあおる」といった判断に基づくものであるとされているが,国民の間に事故隠しとの批判を招き,動力炉・核燃料開発事業団,ひいては,原子力開発利用全体に対する信頼感を大きく失わせる極めて残念な結果となった。
 これは,原子力に対する信頼感や安心感を維持,向上させていくためには,安全に係わる情報を積極的かつ迅速に公開していくことが重要であることについての認識が関係者に不足していたためと言わざるを得ない。原子力開発利用に携わる者は,あまねく,情報公開の重要性について,改めて深く肝に銘ずべきである。
 事故の原因究明のため,安全規制当局である科学技術庁原子力安全局では,1995年12月11日に「もんじゅナトリウム漏えい事故調査・検討タスクフォース」を設置し,事故原因究明,再発防止策などについて調査を行っている。また,これとは別に,行政庁とは独立した機関である原子力安全委員会は,同年12月21日に「高速増殖原型炉もんじゅナトリウム漏えいワーキンググループ」を設置し,独自の立場からの調査を進めている。
 また,1996年3月に原子力安全委員会は,研究開発段階の原子力施設に係る事故時の情報公開等情報流通のあり方及び安全確保のあり方の検討の実施を決定し,現在調査審議が進められている。
 事故の原因調査に関し,科学技術庁は,1996年2月と5月に中間的な報告書を発表し,原子力安全委員会は1996年9月に中間的な報告書を発表した。
 現在も原子力安全委員会と科学技術庁は,「もんじゅ」事故について調査を継続中であり,その結果については,今後とも報告書としてとりまとめ発表していくこととしている。また,科学技術庁は,情報公開の推進の観点から,5月の報告書作成までにタスクフォースで検討に用いられた技術資料を1996年10月に公開した。
 また,事故の再発防止,今後の安全確保に関して科学技術庁は,1996年7月,敦賀市にもんじゅ・ふげん安全管理事務所を設置した。
 さらに,「もんじゅ」の設備類,保安規定・マニュアル類などについて安全性を再確認するための安全性総点検を実施することとし,「もんじゅ安全性総点検チーム」を10月に科学技術庁原子力安全局に設置した。同チームでは,安全性総点検の基本的な方針,動燃の行う点検内容・結果の妥当性及び事故の教訓や点検結果を踏まえた具体的な改善策についての妥当性などについて検討を行うこととしている。
 このように,「もんじゅ」事故の反省と教訓を踏まえ,事故を起こした2次冷却系のみならず施設全体について安全確保に万全を期すよう関係者は努力している。


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