4その他

(7)「地層処分における環境と倫理の基準(The Environmental and Ethical Basis of Geological Disposal)」についての集約意見の概要について

~経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)放射性廃棄物管理委員会~

①長寿命放射性廃棄物の地層処分に関する環境及び世代間・同世代内の公平に関する基準
 放射性廃棄物の長期管理方策が,社会的に受け入れられるものであるがどうかについては,世代間及び同世代内の公平の確保という原則が考慮されなければならない。この観点からみると,将来世代に対する現世代の責任は,貯蔵よりも最終処分によって適切に果たされる。なぜなら,貯蔵はオプションを将来にわたって残すものではあるが,その一方で将来世代に対し長期にわたる管理の責任を残すものである。そして,将来社会において社会構造が安定であるとは限らず,貯蔵が軽視される可能性があるためである。
 他方,地層処分は生物圏から高レベル放射性廃棄物を隔離するためには,現在最も好ましい方策であると言える。なぜなら,現在と同じリスク基準を将来においても適用し,また将来の世代への負担を制限することにより,世代間の公平の問題を解決することが可能であるからである。また,技術の進展にあわせて数十年にわたって段階的に地層処分の手順を実行することにより,全ての段階で公衆を含む利害関係者との協議が可能となり,世代内の公平の問題を解決することも可能となる。更に,たとえ地層処分をした後であっても,高レベル放射性廃棄物の回収は不可能ではない。
②廃棄物の管理に対する環境的,世代間・同世代内の公平という背景
 現代社会の発展と繁栄の基となる産業プロセスでは,廃棄物の発生は不可避である。このうち,有害化学成分や放射性廃棄物の場合には,人間と環境の防護が必要な期間が人間の一生に比べてはるかに長いため,将来世代が可能な限り地球の資源(リソース)を享受し,その利益を受けることを可能とするための選択肢を残すように,現世代が活動することが世代間・同世代内の公平という観点から望まれる。
 この長期的な有害廃棄物の管理における関心として,世代間・同世代内の公平の達成が挙げられる。
 世代間の公平に関しては,現代の世代が将来世代に受け継ぐリソースへの阻害要因とリスクの負担とを最小にする技術と方策を選択することが重要である。その目標は,潜在的な将来への影響が安全性の観点からも容認できるように,廃棄物を管理することであり,このためには,将来世代に資金的負担を期待するのではなく,現代世代の内に技術開発と処分場立地を達成することが重要である。
 同世代内の公平の達成については,リソースの配分と意志決定過程に公衆が参加することについて適切な対応を取ることが重要であり,地層処分場のような施設の建設と操業によって影響を受ける地域社会に対する公平と公正の考察が重要である。
 以上のような考察に基づき,廃棄物の管理戦略について世代間・同世代内の公平という観点から選択を行うための原則として,以下のものを挙げることができる。
(ア)廃棄物管理の責任は,新しい計画に着手する際に考慮されるべきであること。
(イ)廃棄物発生責任者は,将来世代に過度の負担を課さないようその管理に責任を持ち,リソースを用意するべきであること。
(ウ)人間の健康と環境に対して容認できる防護基準を保証し,少くとも今日許容されている安全水準を将来世代に与えるべきであること。
(エ)廃棄物管理方策は能動的な制度的管理に依存しない受動的安全な状況を引き継ぐことを目指すべきであり,将来の安定した社会構造や技術の進展の仮定に基づくべきではないこと。
③放射性廃棄物に対する地層処分戦略
 長寿命の放射性廃棄物を深く安定な地層に処分することによる技術的長所については,国際的に専門家の意見は一致している。それは,このような方法での最終処分は,人間による介入や制度的管理を必要とはせず,本質的に受動的であり永続性があるからである。
 長期にわたる生態圏からの隔離を目指す放射性廃棄物の処分はいろいろな代替案が考えられていたが,実現されていない。すなわち,極地方の氷の中や宇宙への処分は,実行が困難で制御が難しいこと,深海底への処分は国際的な合意を得ることが難しいことから見送られている。しかしながら,地層処分以外の選択肢に関する研究も適時評価される必要がある。
 地層処分という選択肢では,人間活動に影響を与えないように隔離するという観点と,その効果が十分長い期間持続させることが出来るという観点を満たすことが可能であり,さらには必要に応じて処分した廃棄物を再度管理し処理することが可能である。また,費用の負担の観点からは,原子力発電原価に占める割合は十分小さく,発生者支払いの原則で費用を充当することが可能である。また,地層処分の概念は,原理的には処分場閉鎖後は介入は不要であるが,極端な場合には,再取り出しも可能である。さらに,地層処分の頑丈で受動的に安全なシステム*が将来の社会の活動によって損なわれる可能性も非常に小さい。
 意志決定過程には,世代間・同世代内の公平という社会的考察が適切に考慮されることを保証することが必要であり,技術分野の代表,国の規制当局,地方や地域の意志決定者,様々な公衆の関係団体の代表が参加することが必要である。


*地中の深く埋設処分されることがら,地表の人間活動が影響を受けることはほとんど考えられないという意味


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