第II部 各論
第1章 原子力発電

3.原子力発電所の立地関連状況

(1)原子力発電所の立地を取り巻く状況
 近年の原子力発電所の立地の進展状況を見ると,全体的に,電源開発基本計画への組入れは,電力施設計画の予定に比べて遅れぎみであり,また,電源開発基本計画に組み込まれた後も着工が予定に比べて遅れぎみである。
 なお,1973年以来,軽水型原子炉の設置許可処分に関し,3件の行政訴訟が係属中であり,10件の設置許可処分に対して合計20件の異議申立てが行われている。(1993年6月現在)
 これまで,伊方発電所(1号炉)設置許可処分に関して松山地方裁判所,高松高等裁判所及び最高裁判所において,福島第二原子力発電所設置許可処分に関して福島地方裁判所,仙台高等裁判所及び最高裁判所において,並びに東海第二発電所設置許可処分に関して水戸地方裁判所において判決が言い渡されており,いずれも原告らの請求を棄却している。
 なお,1985年9月,動力炉・核燃料開発事業団の高速増殖原型炉「もんじゅ」に関し,原子炉設置許可処分の無効確認請求訴訟(行政訴訟)及び原子炉建設・運転の差止め請求訴訟(民事訴訟)が福井地方裁判所に併せて提起された。行政訴訟については,名古屋高等裁判所金沢支部において,控訴人(原告ら)の一部に原告適格を認める旨の判決が言い渡された。これに対し,原告側及び国側が最高裁判所に上告したところ,1992年9月,最高裁判所第三小法廷において,原告全員に原告適格を認める旨の判決が言い渡された。一方,民事訴訟については,現在,福井地方裁判所において証拠調べが行われている。

(2)原子力発電所等の立地促進
 原子力発電所等の立地地点の確保は,原子力発電を推進する上で重要な課題である。原子力発電のエネルギー供給上の重要性にかんがみ,原子力発電所の立地には最大限の努力を傾注する必要があり,地域の実情を踏まえつつ,電気事業者及び関係行政機関において積極的な取組が行われている。
 イ)広報活動等の実施
 原子力の開発利用を円滑に進めて行くためには,国民の理解と協力を得ることが重要である。しかしながら,1986年4月のチェルノブイル原子力発電所事故等を契機として,主婦層,若年層を始めとした国民の一般層が原子力に対して不安を感じるようになっている。このため,従来からのマスメディアを活用した広報,パンフレットの配布等の活動に加え,国民と直接対話を行い,疑問に答えることが重要との観点から,各地で開催される勉強会への講師派遣を始めとする草の根的な広報や,簡易放射線測定器「はかるくん」の貸出しを始めとした分かりやすさを目的とした体験型広報など,適時的確で懇切丁寧な広報活動を全国的に実施している。また,原子力施設の個別地点については,その地域に応じた広報活動に加え,地方公共団体の行う広報活動等への助成を行っている。
 さらに,電源開発調査官等の機動的活動により,原子力発電所の立地に係る地元調整を推進するとともに,原子力発電所の設置県については原子力連絡調整官による地元と国との連絡調整を図っている。
 ロ)電源三法の活用
 発電用施設周辺地域整備法等のいわゆる電源三法を活用し,引き続き,原子力発電施設等の周辺住民の福祉の向上に必要な公共施設の整備を進めるとともに,施設周辺の環境放射能の監視,温排水の影響調査,防災対策,原子力発電施設等の安全性実証試験等を促進し,原子力発電施設等の立地の円滑化を図っている。
 特に,1993年度には,新たに,次のような施策を実施した。
① 放射線に対する理解の増進等を図るため,放射線利用試験研究推進交付金を創設した。
② 「放射線監視交付金」について,食品等に関する放射能調査研究事業を追加した。
③ 「大型再処理施設等放射能影響調査交付金」について,交付限度額の引上げを行った。
④ 温排水,蒸気という発電所に多く存在しながら,必ずしも地域のために利用されていなかった資源を活用した地域振興事業を支援するための「地域共生型原子力発電施設立地緊急促進交付金」を創設した。
⑤ 「原子力発電施設等周辺地域交付金」について,原子力施設周辺地域の住民のメリット拡大のため,原子力発電施設の周辺地域に交付される給付金の大幅増額を行った。
⑥ 「重要電源等立地促進対策補助金」について,要対策重要電源に準ずると認められる特に重要な関連研究施設の立地地点を追加した。

(3)公開ヒアリング
 通商産業省は,電源開発基本計画案が電源開発調整審議会に付議される前に,原子力発電所の設置等に係る諸問題に関し,広く地元住民から意見を聞くとともに,原子炉設置者が説明を行うなど,地元住民の理解と協力を得るため,第一次公開ヒアリングを開催することとしている。
1993年11月25日には,宮城県女川町において,東北電力(株)女川原子力発電所3号原子炉の増設に当たり,第一次公開ヒアリングの開催が予定されている。
 また,原子力安全委員会は,実用発電用原子炉その他の主要な原子力施設の設置案件に関し,行政庁の行った安全審査についての調査審議を行うに当たり,当該原子力施設の固有の安全性について地元住民の意見等を聴取し,これを参酌することを目的として第二次公開ヒアリング等を開催することとしている。
 1990年度には,原子力発電所に関するものとして,1990年6月3日に新潟市において東京電力(株)柏崎刈羽原子力発電所6,7号原子炉の増設の安全審査に係る第二次公開ヒアリングが開催された。


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