第2章 我が国における核燃料サイクルの確立に向けて

2.放射性廃棄物処理処分に関する施策の推進

(1)我が国における放射性廃棄物処理処分の基本的考え方

①低レベル放射性廃棄物
 低レベル放射性廃棄物のうち,気体状のもの,液体状のものの一部については,フィルターを通じたり,蒸発処理を講じたりして,放射能が法令で定められた基準を満たしていることを確認した後に環境に放出するとともに,常時,地方公共団体及び事業者が原子力施設周辺において環境放射能モニタリングを実施し,環境中への異常な放射能放出がなされていないことを確認している。
 また,その他の液体状のもの,固体状のものについては,発生量の低減を図るとともに,発生した廃棄物について焼却等による減容,セメント固化等の処理を行った後,原子力発電所等の敷地内で安全に保管している。低レベル放射性廃棄物の処分は,陸地処分及び海洋処分を基本方針としている。陸地処分については,比較的浅い地中に処分することとしている。海洋処分については,国際的な基準に則り深海底に処分することにしているが,関係国の懸念を無視して行わないとの考えの下,慎重に対処することとしている。
 陸地処分については,既に諸外国において20年以上もの実績があり,確立された技術である。我が国においても,セメント固化体,コンクリートピット等の人工バリア及びその周辺の天然バリアの性能の確認を行う試験等を実施している。現在計画中の埋設施設の基本的な構造については,安定した岩盤に設置したコンクリートピット内にセメント等で固化した廃棄物(ドラム缶)を収納し,周囲を粘土(ベントナイト)等で覆うことにより,放射能の環境への漏洩を防止することとしている。

 また,低レベル放射性廃棄物に含まれる放射性核種の主要な成分にコバルト-60があるが,これは,約5年で半分に減衰することから,50年で約1/1000になる。このように,低レベル放射性廃棄物は年数の経過とともに放射能レベルが減衰するため,放射能レベルに応じた厳格,かつ適切な処分・管理を行うことにより安全性を十分確保することとしている。

②高レベル放射性廃棄物
 高レベル放射性廃棄物の特徴は,発生時には放射能が極めて高いが,ほとんどの放射性核種は数百年の間に急速に減衰すること,放射能は低くても寿命の長い放射性物質を含んでいること,発生量が極めて少ないことであり,これらの特徴を踏まえて処理・処分することが重要である。このような観点から,高レベル放射性廃棄物の処理処分については,高レベル放射性廃液を高温でガラスと共に溶融しステンレス製の容器(キャニスター)内に固化し,安定な形態にして放射性物質を確実に封じ込め,30~50年間程度冷却のための貯蔵を行い,その後,地下数百メートルより深い地層中(深地層)に処分(地層処分)することを基本方針としている。
 ガラスは,放射性物質の封じ込めに適しており,長期間に亘って安定な物質であることがこれまでの研究で明らかになっており,原子力利用先進国では固化技術の主流となっている。また,深地層は,極めて長期間に亘り安定的に存在するものであり,これまでの各種調査研究から地層中において長期間にわたり,ガラス固化体と地下水の接触が抑制できること,放射性核種の移動が抑制されることが明らかになってきている。さらに深地層中の地質条件に対応して必要な人工バリアを設計し,天然バリア(地層)と組み合わせた多重バリアシステムを採用することにより,放射性物質の地下水への溶け出し及び移動を抑制するとともに,人間が廃棄物から影響を直接受けることのないようにすることがより確実となる。また,廃棄物の発生量が極めて少ない*ことから,廃棄物を定置するための深地層の空間を確保することも比較的容易と考えられる。
 ガラス固化技術の実用化の目途は得られており,また,地層処分技術については,現在までの研究開発成果により,基本的な部分は次第に明らかになりつつあり,技術的可能性の見通しが得られつつある。今後は,地層処分技術の一層の信頼性向上に向けてこれらの研究開発等を着実に進めていくとともに,最終処分に至るまでのより具体的な進め方について検討していくことが必要である。


注)*  昭和61年度の日本人一人当たりの電力消費量をベースとして,電力消費量の半分を原子力で賄ったと仮定すると,一人が一生の間(80年間)に消費する電力に伴い発生する高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の量は,ほぼゴルフボール2個分と試算されている。

(2)我が国における放射性廃棄物処理処分の現状と将来展望

①低レベル放射性廃棄物
 我が国における低レベル放射性廃棄物は,現在,原子力発電所,研究施設等の各敷地内に保管されている。
 原子力発電所から発生する低レベル放射性廃棄物については,青森県六ヶ所村において,日本原燃産業(株)により低レベル放射性廃棄物埋設施設の建設が計画されており,現在国の安全審査が行われている。
 本施設は,低レベル放射性廃棄物を封入したドラム缶を鉄筋コンクリートピットに整然と並べ,隙間にセメント系充填材を注入し,鉄筋コンクリート製の覆いを被せ,さらに,ピットの周囲をベントナイト混合土で覆う計画となっている。ピットは,安定な岩盤に設置するので地震に対して強い構造である。また,透水性の小さいベントナイト混合土及び岩盤により,水の浸透を抑えるとともに,仮にピット内に水が浸透しても多孔質のコンクリート層によりドラム缶に達する前に排水できる構造となっている。このように,放射性廃棄物が埋設地から漏出して環境に影響を及ぼすことがないよう十分な安全対策が施されることとなっている。

 埋設施設では,埋設後においても,廃棄物の放射能レベルに応じた厳重かつ適切な管理を,300年間程度継続することとしている。
 第1段階(10~15年間)では,固化体,ピット等の人工バリアの健全性を維持し,人工バリアによって放射性物質の閉じ込めを行う。
 第2段階(約30年間)では,人工バリアの劣化も考慮して,人工バリアと天然バリアを組み合わせて安全性を維持する。第3段階(約270年間)では,天然バリアにより放射性物質の環境への影響を防ぎ,放射線防護の観点から管理の必要がなくなるまで管理することとしている。一つの段階から次の段階への移行は,モニタリング等の結果を踏まえ,規制当局が十分に安全性を確認してから行うこととしている。

②高レベル放射性廃棄物
 ガラス固化技術については,フランス,ベルギー(旧西独と共同)等において実用規模のプラントが稼動しており,ガラス固化体は安全に貯蔵されているとともに,我が国においても,ガラス固化体の強度,封じ込め安定性の確認等の研究開発を推進するとともに,1992年に試験運転の開始を目指して固化プラントを建設中である。
 また,冷却のための貯蔵については,青森県六ヶ所村及び北海道幌延町において施設の建設計画があり,前者については,現在,科学技術庁による安全審査が行われている段階であるが,六ヶ所村の再処理工場内の敷地に設けたコンクリートピット中にガラス固化体を貯蔵し,常時放射線モニタリングを実施しつつ,空冷することとしており,その安全性は十分確保しうるものと考えている。
 さらに,地層処分については,現在,動力炉・核燃料開発事業団を中核的推進機関として,我が国における地層処分技術の確立を目指し,まず,安全な地層処分が実現できることを科学的,技術的に明らかにすることに重点を置いた研究開発を実施している。また,現在,我が国は,スウェーデンのストリパプロジェクトやオーストラリアのアリゲータリバープロジェクトなどに参加し,深地層中の水や核種の移行などの調査研究を国際協力により実施しているが,我が国内においても,主体的にこれらの調査研究を進めることが重要である。動力炉・核燃料開発事業団の北海道幌延町における貯蔵工学センター計画は,このような観点から,高レベル放射性廃棄物等の貯蔵と併せて,地層処分のための研究開発等を行う総合研究センターを目指したものであり,円滑な実施に配慮しつつ,その着実な推進を図っていくこととしている。
 高レベル放射性廃棄物の地層処分は,これまでの「有効な地層の選定」の段階を終え,現在,動力炉・核燃料開発事業団を中心として,地層処分技術の確立を目指した研究開発,地質環境等の適性を評価する調査を実施している。これらの研究開発や調査は,今後,10数年以上かかると考えられており,その成果をも踏まえ,処分の実施主体による「処分予定地の選定」,「処分予定地における処分技術の実証」,「処分施設の建設・操業・閉鎖」という手順で進めることとしている。
 また,高レベル放射性廃棄物には,放射能が強いが半減期の短いもの,放射能はそれほど強くないが半減期の極めて長いもの(長寿命核種),触媒として利用できる白金族元素等の有用元素が含まれている。このため,高レベル放射性廃棄物から長寿命核種,有用元素を分離し,長寿命核種の短寿命核種又は非放射性核種への変換処理,有用元素の有効利用を行うことが将来可能となれば,高レベル放射性廃棄物の処分の効率化,有用元素の資源化を図ることも考えられる。従って,長期的観点に立って,高レベル放射性廃棄物の分離処理(群分離),長寿命核種の変換処理(消滅処理)に関する研究開発を行うことも重要であり,現在J官民の連携の下に研究が進められているところである。

(3)海外における放射性廃棄物処理処分の動向
 低レベル放射性廃棄物の埋設処分については,米国のバーンウェル等3施設,英国のドリッグ,フランスのラ・マンシュ等において,十分な埋設処分の実績があり,さらに,フランス等において増設計画がある。
 高レベル放射性廃棄物のガラス固化については,フランス,ベルギー(旧西独と共同)において合計数千本の固化体製造の実績がある。フランスでは,新たにラ・アーグ再処理工場に併設した大型のガラス固化プラントの運転を開始した。また,英国でも,セラフィールドにおいてガラス固化プラントの運転を開始している。米国では,現在新規ガラス固化プラントを建設中である。
 高レベル放射性廃棄物の処分については,フランス,米国,スイス等において人工バリア,天然バリアに関する研究など処分技術に関するこれまでの実績を踏まえて処分候補地のサイト特性調査の段階にある。しかしながら,フランスでは候補地選定を1年間凍結し,その間に処分の進め方について検討することとしており,米国でも,使用済燃料のユッカマウンテンへの埋設処分計画について,地元の理解が得られず進捗していないなど,各国において高レベル放射性廃棄物の処分を巡る立地対策やパブリック・アクセプタンス対策が大きな課題になっている状況にある。


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