第2章 我が国における核燃料サイクルの確立に向けて

3,国内外のコンセンサス形成の推進

(1)必要性・安全性に関する国民の理解と協力の促進
 青森県六ヶ所村における核燃料サイクル施設の建設に対し,ウラン濃縮工場に対する国の事業許可の無効確認・取消を求める行政訴訟が提起されるなどの動きが見られる。また,動力炉・核燃料開発事業団の北海道幌延町における貯蔵工学センター計画についても懸念,不安等の意向を示す動きも出ており,一理解と協力を得るよう一層努力が求められる状況となっている。さらに,全国的にも核燃料サイクル施設に対する関心が高まり,その必要性・安全性に対する疑問を示す動きも見られる。
 これらは,再処理施設の安全性,放射能・放射線の人体への影響,放射性廃棄物処分の長期的な環境への影響,高レベル放射性廃棄物の最終処分地が決定していないこと等に起因する不安に基づくものと考えられ,また,英国再処理工場周辺における白血病多発などの海外からの情報がさらに不安を拡大しているものと考えられる。再処理施設を始めとする核燃料サイクル施設は,原子力発電所と異なり核反応によりエネルギーを発生する工程を有するものではない。また,英仏等における長年の運転実績及び我が国における東海再処理工場等における運転経験,研究開発実績に鑑みて,技術の確立は図られており,施設の安全な建設・運転は十分可能であると考えられる。放射性廃棄物については,低レベル放射性廃棄物の処分は現在陸地に処分するための準備が進められているが,人工バリアと天然バリアを適切に組み合せ,放射能が十分減衰するまでの間,放射能レベルに応じた適切な管理を行うことで安全の確保は十分図られる。また,高レベル放射性廃棄物の処分についても,ガラス固化し,30〜50年間程度冷却のために貯蔵した後,最終的に深地層に処分する方針であるが,我が国の研究機関を始め海外の多くの研究機関での研究成果を十分に活かした,人工バリアと天然バリアの多重バリアシステムにより長期にわたる安全な処分が十分可能であるとの見通しが得られつつある。
 自主的な核燃料サイクルの確立は,我が国のエネルギーの安定供給を図る上で不可欠のものであり,地元住民はもちろん,国民の理解を得ることが重要である。このためには,まずは施設の適切な建設・運転や放射性廃棄物の適切な処理処分等を通じた安全の確保が大前提であることは言うまでもなく,更に,国民の理解を得るためにも,厳格な安全規制の維持充実及び事業者の万全の安全管理の実施が期待される。また,環境への放射能の放出及び従業員の受ける被ばく線量についても,法令上の限度を下回ることはもちろん,国際放射線防護委員会(ICRP)のALARA*の精神に則り,合理的に達成できる限りその低減に努め,安全の確保を図っていくことが必要である。
 他方,国,事業者は,マスメディアを通じた広報等に加え,青森県六ヶ所村の核燃料サイクル施設計画に関し,直接対話を行いながら,施設の必要性,安全性に対する住民の疑問や不安を率直に伺い,これに懇切丁寧に答えていくことを目指して,国の担当官と専門家がキャラバンチームをつくり,各地で説明会・座談会を実施している。さらに,東海村の再処理工場等国内外の先進施設への地元住民による見学会やこれら地域の農業関係者等との懇談会の開催により,施設の安全性,地域との共存について実地に実感してもらう機会を設けている。
 また,貯蔵工学センター計画については,地元の疑問や不安に答えるために,自然環境等に関する調査を行い,その結果を説明するなどの努力を続けてきている。今後ともこうした地道な活動を積み重ね,理解の増進へ努力することが必要である。


注)*  As Low As Reasonabl yAchievableの頭文字を取つたもので,合理的に達成可能な限りくの意味。

 一方,青森県の核燃料サイクル施設建設計画に関して,一部都市部住民の反対運動が,施設周辺の農業者等に対して,施設運転により農産物等の販売に影響が出るのではないかとの不安を引き起こしていることから,このような観点を踏まえ,全国的にも,講師派遣,説明会等の手段を通じて,核燃料サイクル施設の必要性,安全性,また,放射性廃棄物処理処分の基本的考え方やその安全性について国民の一層の理解を得るよう努力していくべきである。その際,地元住民をはじめとした国民の理解を得ていくためには,国及び事業者に対する信頼感を確保することが極めて重要であり,今後とも,安全の確保に万全を期すことはもちろん,必要な情報を適時に正確に提供するなど信頼感を確保すべく最大限の努力を行うことが必要である。
 また,放射性廃棄物処理処分,特に,高レベル放射性廃棄物の処分については,人類共通の課題としてその解決に取り組むことが望まれているとともに,先にも述べたとおり,主要な先進国において,パブリック・アクセプタンス対策が重要となっている。従って,先進国間や国際機関を通じた国際協力を一層充実し,技術開発,情報交換等を積極的に進め,その成果をもって,世界的なレベルでの理解を得ていくことが重要である。

(2)再処理-リサイクル路線に対する核不拡散の観点からの国際的なコンセンサス形成に向けて
 エネルギー資源に乏しい我が国にとり,使用済燃料を再処理し,回収されるプルトニウム等を利用していくことが不可欠である。プルトニウムは高速増殖炉において利用することが基本であるが,その実用化までの間においても,プルトニウム利用に係る広範な技術体系の確立等を図っていくため,プルトニウム・リサイクルを着実に実現していくことが重要である。この「再処理 リサイクル路線」は,我が国が原子力平和利用に着手して以来の一貫した基本政策である。このことについては,国内はもちろんのこと,国際的にも理解を促進することが重要である。
 プルトニウムの核不拡散上の観点から,一部の米国議会関係者等においては,我が国における再処理-リサイクル路線に対して懸念を示す向きもある。しかしながら,我が国は,昭和30年代はじめに原子力開発利用に着手して以来,原子力基本法にも明確に規定されている通り,一貫して平和目的に徹して原子力の開発利用を進めており,その旨を内外に示してきたところである。また,我が国は,核不拡散条約(NPT)を締結し,全施設はIAEAの保障措置の対象とされ,核物質が軍事転用されないよう厳格に監視されており,その実績はIAEAにおいても評価されている。さらに,我が国の再処理施設においては,核拡散抵抗性を高める観点から,プルトニウムは単体の形で製品化されるのではなく,ウランとプルトニウムの混合酸化物として製品化され,貯蔵等されることとなっている等の努力を払っているところである。これらの点をも踏まえ,我が国の原子力政策上の再処理-リサイクル路線の必要性,我が国の核不拡散上の立場,平和利用への姿勢等,について,機会あるごとに米国等の関係者に説明し,国際的な理解を促進するよう努力することが重要である。その際には,プルトニウムの需給見通しなどについて十分説明を行い,理解が得られるよう努力することが必要である。
 国際的にも,1990年7月のヒューストン・サミットの国境を越えた問題に関する声明において,NPTが効果的かつ国際的な核不拡散体制の重要な要素であることが確認され,また,IAEA保障措置の可能な限りの普遍的な適用が支持されている。我が国は,前回及び今回のNPT再検討会議において,主要3委員会の1つの議長を務め会議において主要な役割を果たしてきたところである。本年8月から9月にかけて開催された今回の再検討会議においては,核軍縮の分野で核実験全面禁止を巡って意見が分かれ,全体として最終宣言の採択に到らなかったものの,我が国等の努力もあって,NPTが核不拡散に関する基本的枠組みであり,IAEA保障措置がその保証の中心的役割を果たしていることが改めて確認されるとともに,プルトニウムの平和利用の拡大に対応した再処理,プルトニウムの貯蔵及び利用に対するIAEA保障措置の効果を引き続き確保すべくIAEA等で行われている活動に満足の意が示されるなど,核不拡散及び原子力平和利用の分野においては多くの点でコンセンサスが得られた。また,我が国は,IAEA保障措置の効率的,効果的適用のため特別拠出を行うなどの努力を払ってきたところである。今後とも,NPT-IAEA保障措置体制の充実・強化に一層積極的に貢献するとともに,我が国で保障措置・核物質防護のために開発されたトランシーバー ・システムの化学兵器の検証技術への応用などに見られるように,我が国の優れた先端技術の軍縮技術への適用に寄与するなど,我が国の立場に対する国際的な信頼感の一層の醸成を図っていくことが重要である。
 特に,1992年から行われるプルトニウムの国際輸送については;国際的な理解を得るためにも,万全の核物質防護体制の下に輸送が行われるよう,国内関係機関はもとより,関係国とも十分連携を密にし,慎重に輸送計画を進めることが必要である。


目次へ          第1部 第3章へ