はじめに
第2章我が国の原子力開発利用の動向

2.新長期計画への取り組み

 原子力委員会は,原子力開発利用を国民の理解と協力のもとに計画的かつ総合的に遂行していくため,長期的指針となるべき計画をほぼ5年ごとに数次にわたって策定してきている。
 現行の原子力開発利用長期計画は,昭和57年6月に改定されたものであるが,原子力委員会においては,我が国の原子力開発利用が本格的な着手以来30年という一つの節目を迎えていること,現行長期計画策定以来約4年間の研究開発の進捗状況,昨今のエネルギー情勢の変化等を踏まえ,本年4月長期計画の見直しを行うことを決定し,原子力委員会に長期計画専門部会を設置した。
 同専門部会の下には,総合企画委員会,第1分科会(軽水炉による原子力発電と核燃料サイクル),第2分科会(プルトニウム利用と新型動力炉開発),第3分科会(技術フロンティア),及び第4分科会(国際協力)の合計5つの分科会等が設置され,現在,これらにおいて,鋭意検討が進められている。なお,検討にあたっては,総合エネルギー調査会原子力部会において本年7月にとりまとめられた「原子力ビジョン」等の調査審議結果,日本原子力産業会議における検討結果等をも参酌することとしている。
 今回の新長期計画取り組みの背景及び分科会等の設置の背景となった主要検討事項を述べれば,以下のとおりである。
(1)軽水炉時代が,従来考えていたより長期化するものと考えられ,原子力発電が今後,経済性,供給安定性に優れた主力電源として大きな責任を果していくためには,核燃料サイクルを含めた軽水炉利用の体系的整備,高度化方策を策定することが必要である。
(2)我が国は,ウラン資源の有効利用の観点からFBRを中核とするプルトニウム利用体系の確立を図ることを基本目標としている。これを達成するため,経済性を含め総合的に軽水炉利用に勝る技術体系として,プルトニウム利用体系の確立を積極的に目ざす必要があり,このための基本指針及び推進方策を策定することが必要である。
(3)従来の原子力研究開発の基本的考え方として,自主技術開発の重要性が強調され,その進め方としては先進国の開発目標をモデルとしつつ,これに追いつくことを目指す“キャッチ・アップ型"′であった。近年,我が国の原子力技術水準が向上し,欧米にも比肩すべきものが出てきている。このため,今後は諸外国にモデルを求めることはできず,むしろ世界にも貢献しうる創造的技術開発を積極的に推進していく必要がある。
(4)原子力技術は,世界の共通課題であるエネルギー問題の解決に寄与しうるという性格を有している。我が国としては,原子力の研究開発を積極的に進め,国内のニーズに対応するという観点だけでなく,平和利用のために国際的に貢献していくという役割を果していくことが必要である。
(5)原子力開発利用政策の柱である,軽水炉の高度化,核燃料サイクルの確立,及び高速増殖炉等新型動力炉の開発は相互に密接に関連しており,研究開発と事業化のための基本的目標を明確にし,各分野における開発計画との間に整合性を有する総合戦略を確立することが重要である。
(6)これまで国の研究開発機関を中心に進められた,ウラン濃縮,再処理,新型転換炉などナショナルプロジェクトによる研究開発が進展し,実用化移行段階を迎えたことを踏まえ,今後の研究開発体制のあり方を検討すべき状況に至っている。このため,事業者,メーカー,国の研究開発機関が各々の技術能力を生かし得る効率的な官民協力体制の確立が大きな課題となっている。
 以上述べたような主要検討事項を検討・解決し,原子力開発を推進していくことにより,低廉かつ安定したエネルギーの供給等を通じて,我が国社会の福祉と国民生活の向上に寄与するとともに,我が国が国際社会に貢献するためにも,今次策定される長期計画の意義は極めて重要であり,原子力委員会は,その策定に最大の努力を傾注していく所存である。
各論


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