昭和61年版
原 子 力 白 書 昭和61年10月
原子力委員会
昭和61年原子力年報の公表にあたって 現在エネルギー情勢については緩和基調で推移していますが,中長期的には再びひっ迫することが予想され,今後とも我が国のエネルギー供給の安定化を図るためには石油代替エネルギーの中核たる原子力の開発利用を進めていくことが重要であります。
我が国の原子力発電は,昭和60年度には総発電電力量の26パーセントを供給し,初めて石油火力を上回るとともに,設備利用率も過去最高を記録するなど主力電源の一翼を担うにふさわしい稼動実績を示しています。また,青森県六ヶ所村における核燃料サイクル事業化計画及び高速増殖原型炉「もんじゅ」の本格工事着工等のプルトニウム利用体系の確立に向けた研究開発も着実に進んでいます。エネルギー供給構造の脆弱性の克服のためにも,我が国としては今後とも,これらの実績を踏まえて原子力開発利用を着実に進めていくことが重要であります。他方,本年4月にソ連チェルノブイル原子力発電所で起きました事故は,世界各国に大きな衝撃を与えました。我が国の原子力発電は設計,建設,運転等の各段階で十分な安全確保が行われてきているところでありますが,今回のチェルノブイル事故を謙虚に受け止め,今後とも安全確保に万全を期すとともに,より一層の安全性の向上を目指して技術の改良,高度化を図っていかなければなりません。
我が国は原子力分野ではすでに先進諸国の仲間入りを果たしております。原子力発電が世界全体の電力量の15パーセントを供給し,人類にとって必要なエネルギー源として定着しつつある今日,安全確保を大前提とした原子力開発利用の推進は,国際的な重要課題であるといっても過言ではありません。かかる見地から,我が国といたしましても国際協力に積極的に対応し,国内のみならず人類全体の発展に役立つ原子力開発利用の推進に貢献していくことが求められています。
本年の年報におきましては,我が国の原子力開発利用の現状を記述するとともに原子力を巡る最近の情勢に対する考え方を示しております。本年報が広く国民各位の原子力開発利用に対する理解を深めるために役立つことができれば幸いです。
昭和61年10月31日
国務大臣 原子力委員会委員長 三ツ林 弥太郎
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