第2章 原子力研究開発利用の進展状況

2 新型炉の研究開発

 〔新型転換炉〕
 軽水炉から高速増殖炉へという我が国の動力炉開発の基本路線を補完するものとして位置づけられている新型転換炉については,昭和60年代の実用化を目途に動力炉・核燃料開発事業団において研究開発が進められている。
 新型転換炉の原型炉「ふげん」は昭和54年3月の本格運転開始以来順調な運転を続け,昭和54年度の運転実績は発電電力量約10.5億キロワット時,設備利用率72.4%となっており,昭和55年度に入ってからもおおむね順調な運転を続けている。
 原型炉「ふげん」に続く実証炉については,動力炉・核燃料開発事業団において調整設計及びこれに関連する研究開発が進められたほか電気事業者の意見を実証炉設計に反映させるため,動力炉・核燃料開発事業団と電気事業者との間でATR合同委員会が設置され,原型炉「ふげん」の運転実績と実証炉の設計方針に関する評価検討が行われた。
 また,実証炉の建設については,原子力委員会は,原型炉の建設・運転経験及び大型炉の設計研究を通しての技術的,経済的評価に基づき,総合的な評価研究を行い,昭和50年代半ばまでにこれを決定することとしている。この評価検討に必要な情報及び資料は前述の実績を通して得られつつあるので,原子力委員会は昭和55年1月新型転換炉実証炉の開発に関する今後の施策の確立に資する目的で「新型転換炉実証炉評価検討専門部会」を設置し,新型転換炉実用化の意義,技術的評価,経済的評価等について審議を行っている。

 〔高速増殖炉〕
 高速増殖炉の開発については,内閣総理大臣決定の動力炉・核燃料開発事業団の動力炉開発業務に関する基本方針及び基本計画を昭和55年3月に改正し,昭和70年代の実用化を目途に動力炉・核燃料開発事業団において研究開発を進めることとし,原型炉「もんじゅ」については昭和62年度に臨界に至らしめることを目途に建設に着手することとした。
 高速増殖炉の実験炉「常陽」は,昭和52年4月の初臨界以来順調な運転を続けており,原型炉の開発に必要な技術的データや運転経験を着実に蓄積してきている。現在「常陽」は熱出力7万5千キロワットで定格運転が行われているが,将来高速増殖炉の燃料材料の開発目的のため照射用炉心(最大熱出力10万キロワット)に改造されることになっており,その準備が動力炉・核燃料開発事業団大洗工学センター等で進められている。
 原型炉「もんじゅ」は,その設計,建設,運転の経験を通じて発電プラントとしての高速増殖炉の性能,信頼性を確認し更に将来の実用炉としての経済性の目安を得ることを目的としているが,設計については動力炉・核燃料開発事業団においてこれまでの研究成果を踏まえ,製作準備設計,耐震設計の見直し等最終的な作業が進められている。また,建設準備に関しては,立地について最終的解決には至っていないが,昭和55年9月に,福井県による環境審査が終了した。一方,国においては,昭和55年7月に科学技術庁及び通商産業省による環境審査がそれぞれ終了し,現在は,関係省庁との調整が図られつつあり,これと並行して次のステップである安全審査のための準備が進められている。建設のための資金及び体制に関しては,昭和55年度の電源開発促進対策特別会計電源多様化勘定において原型炉建設費が計上され,また民間企業等により建設費の20%に相当する800億円の拠出が図られるなど,資金面での手当てがなされた他,建設に当っては,9電力,日本原子力発電(株),電源開発(株)など民間企業等による協力体制が整備された。
 また原型炉に続く実証炉の開発については,動力炉・核燃料開発事業団により実証炉概念設計が進められるとともに,電気事業連合会においては電力サイドでの高速増殖炉開発体制の基本方針策定を目的として高速増殖炉推進会議が設置された。

 〔多目的高温ガス炉〕
 昨今のエネルギー情勢のもと,電力以外の分野での石油代替エネルギーとしての核熱エネルギー利用への期待が高まっており,民間においても産業用エネルギー源としての多目的高温ガス炉及び熱利用システムの開発に対する関心が高まりつつある。
 我が国においては,従来からこの分野での調査研究が進められてきたが,特に日本原子力研究所は,昭和44年から多目的高温ガス炉の研究開発を進めてきた。同研究所においては,昭和54年度には,実験炉用機器の実証試験を目的とした大型構造機器実証試験ループ(HENDEL)の建設を進める一方,実験炉のシステム総合設計を完了し,ついでその詳細設計及び関連する研究開発を進めている。
 また,通商産業省は従来から「高温還元ガス利用による直接製鉄技術の研究開発」を進めてきたが,現在までに基礎的な要素技術に関して所期の目標を達成したため,昭和55年度で一旦中断されることとなった。今後は,多目的高温ガス炉開発の進展状況等を勘案しつつ,その推進について適宜検討していくこととしている。


目次へ          第2章 第3節へ