第Ⅰ部 総論
第3章 核不拡散をめぐる国際的動向

1 米国の核不拡散政策と我が国の対応

 〔東海再処理施設運転に係る日米交渉〕
 動力炉・核燃料開発事業団では,東海再処理施設の試験運転の一貫として,昭和52年,米国において濃縮されたウラン燃料を再処理することに先立ち,日米原子力協力協定第8条C項に基づき,再処理の実施に関して米国の事前同意を得る必要があつた。
 一方,米国は,核不拡散政策及び経済性等の理由から,商業的再処理とプルトニウム・リサイクルの,期限を定めぬ延期及び高速増殖炉の商業化延期等を骨子とした新原子力政策を打ち出す状況にあつたため,前述の事前同意の取り付けが難航した。
 交渉に当たつては,我が国は
① 核不拡散の強化には,積極的に協力する。
② 原子力平和利用の推進と核不拡散は,両立しうる。
③ 核不拡散条約においては,非核兵器保有国での原子力平和利用が阻害されないことが保証されており,核兵器保有国と非保有国の間で差別があつてはならない。
④ 米国と違つて,エネルギー資源の乏しい我が国にとつて,原子力開発利用は必要不可欠である。
 との基木的立場で臨んだ。その結果,昭和52年9月1日に,ようやく,原則的合意が得られ,昭和52年9月12日,日米原子力協力協定第8条C項に基づく共同決定が行われた。
 同再処理施設の運転に関しては,2年間に限り,99トンの範囲内で使用済燃料の再処理を行うことが合意された。
 動力炉・核燃料開発事業団は,再処理施設の運転を昭和52年9月22日に開始するとともに,共同決定に当たつての両国の相互了解に基づき,核不拡散につながる各種の試験を同施設を中心として実施している。昭和53年9月には,これらの試験のうち,混合抽出法及び混合転換法に関する試験の中間成果を中心に情報交換を行うため,日米技術専門家会合が開催された。また,保障措置技術を進展させるための日本,米国,フランス及び国際原子力機関(IAEA)の共同研究(TASTEX)が進められた。
 昭和54年9月には,2年間の期限が切れるため,再度共同決定が必要となるが,そのための次期交渉に当たつては,前述の核不拡故に対する我が国の基木政策等を堅持しつつ,INFCEの進捗状況,及び東海再処理施設で実施した各種試験成果等を十分踏まえて臨む必要がある。

 〔米国の核不拡散法成立と日米原子力協力協定改訂交渉〕
 昭和53年3月10日,米国で「1978年核不拡散法」が発効した。同法の目的は,
① 米国からの原子力関連資材,技術の輸出に際して,核不拡散のための惜置を強化すること。
② 同時に,拡不拡散政策を遵守する国に対して,核燃料が安定して供給されるよう努力すること。
 にあり,また,同法は,これらの目的を達成するため,米国行政府に対し,関係諸国と結んでいる現行原子力協力協定改訂等を行うことを要求している。
 同法の発効により,米国政府から我が国に対しても,原子力協力協定改訂交渉を開始したい旨申し入れがされることとなつた。交渉に臨むに当たつては,前述の核不拡散に対する我が国の基本的な立場を堅持しつつ対処する必要がある。

 〔使用済燃料の第三国移転〕
 我が国が,米国において濃縮されたウラン燃料を再処理する等のために,海外に移転する場合には,現行日米原子力協力協定第10条A項による米国の事前同意が必要である。
 従来,米国政府は,この事前同意に際しては,使用済燃料の船積み毎に,ケース・バイ・ケースに判断し,同意してきたが,前述の核不拡散法の発効及びそれに基づく輸出入基準の改正に伴い,より厳しい基準と手続きが定められた。
 一方,我が国の電気事業者は,英国原子燃料公社(BNFL)又は,フランスCOGEMA社と,米国において濃縮されたウラン燃料の再処理委託契約を締結しており,これに基づく昭和53年分の使用済燃料の移転は,米国核不拡散法発効後,最初のケースとなり,その事前同意を取り付けることが難航した。
 結局は,我が国の拡不拡散に対する積極的姿勢が評価され,承認が得られたが・今後とも,我が国の原子力平和利用の推進が損われることのないよう,米国の理解と協力を求める必要がある。


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