2. 高速増殖炉の開発

(1)概要

 高速増殖炉は,軽水炉や新型転換炉と異なり,主として高速中性子による核分裂反応を利用する原子炉で,消費された以上の核燃料を生成する画期的なものであり,この炉によってウランのもつエネルギーを在来炉に比べてはるかに効率よく利用することが可能になる。高速増殖炉は,核燃料の有効利用を果し,濃縮ウランを必要としない理想的な動力炉として,将来の原子力発電の主流になると考えられている。
 世界の原子力先進諸国においては,このような認識のもとに,高速増殖炉の開発を国家的プロジェクトとして強力に推し進めている。米国はすでに3基の実験炉を臨界に至らせ,現在,電気出力36万〜38万kWの実証炉の建設計画を推進している。
 英国は,PFR(電気出力25万kW)の建設を本年はじめに終了し,今夏には臨界の予定である。PFRにつづく実証炉CFR-1(電気出力130万kW)は,目下設計研究をすすめており,75年頃建設に着手する予定である。
 ソ連は,発電および海水淡水化を行なう二重目的高速増殖炉BN-350(電気出力換算で35万kW)を,1972年11月臨界させており,それに続くBN600(電気出力60万kW)を建設中である。
 フランスは,PHENIX(電気出力25万kW)を1973年に臨界に至らせるべく運転準備を進めており,これに続く電気出力120万kWの実証炉PHENIX-1,200をベネルックス3国およびイタリーと共同で75年から建設することとしている。
 西独は,ベネルックス3国と共同で,原型炉SNR-300(電気出力30万kW)を1978年臨界を目標に建設に着手した。SNR-300に続く実証炉SNR-2000(電気出力180万〜200万kW)はフランス,イタリーと共同で設建される予定で,建設計画がたてられている。
 世界の高速増殖炉開発計画を第7-1図に示す。

 このような情勢のもとで,動力炉・核燃料開発事業団は,先に述べた基本方針および基本計画に基づき,プルトニウムとウランの混合酸化物系燃料を用いるナトリウム冷却型高速増殖炉の開発を鋭意すすめている。
 現在のスケジュールによれば,実験炉については,初期熱出力5万kW(目標熱出力10万kW)のものを昭和49年に臨界に至らせ,原型炉については,電気出力30万kW程度のものを昭和53年頃に完成し臨界に至らせる予定である。高速増殖炉の開発計画の概要を第7-2図に示す。

(2)実験炉の建設

第7-1表 高速実験炉の主要仕様

 実験炉は,わが国初のナトリウム冷却型高速増殖炉であり,この設計,建設,運転を通じて高速増殖炉に関する技術的経験を蓄積するとともに,完成後は,燃料,材料等の照射施設として利用することを目的としている。
 実験炉の建設については,昭和45年2月,原子炉等規制法に基づく設置が許可され,建設に着手し47年度までに,原子炉付属建家,運転管理棟,廃棄物処理建家の建設がほぼ終了し,原子炉建家の90%,主冷却建家の80%,燃料集合体検査施設の40%が終了した。昭和48年度には新たに保守建家の建設に着手している。機器については,46年度に格納容器の据付が終了したあと,47年度末には安全容器が据付けられた。このあと炉容器,炉心構造物,回転プラグ,燃料交換機,制御棒駆動機構などが順次とり付けられ,昭和49年3月頃までに完了,ひきつづき運転試験に入る予定である。実験炉の主要仕様は,第7-1表のとおりである。

(3)原型炉の設計

 原型炉は,設計,建設,運転の経験を通じて高速増殖炉の性能,信頼性,安全性を確認し,さらに将来の実用炉の段階における経済性の目安を得ることを目的としている。
 原型炉の設計については,昭和43年度に行なった予備設計によって基本概念を固め,昭和44年度から45年度にかけて,第1次設計で炉心およびプラントの主要パラメーターの検討評価を行い,昭和46年度には,第2次設計により原型炉のプラント全体の設計を行なった。
 昭和47年度は第3次設計をおこない安全性等を含め,詳細な検討を行なった。
 原型炉の第3次設計における主要仕様は,第7-2表に示すとおりである。

(4)研究開発

イ 炉物理

 実験炉の模擬臨界実験について,日本原子力研究所に設置されている高速臨界実験装置(FCA)を用いて,昭和46年度にフルモックアップ試験をおこなったが,昭和47年度はひきつづき炉心部の特性試験をおこない,炉心設計および安全性の確認等をおこなった。
 原型炉の模擬臨界実験については,昭和46年度から,英国原子力公社の大型臨界実験装置ZEBRAを利用した共同研究計画「MOZART計画」により,原型炉のフルモックアップ試験をおこない,47年度に終了した。
 その他,高速炉用炉定数の作成と評価,炉心解析法の開発,燃焼,解析法の開発等を進めた。

ロ ナトリウム技術

 ナトリウム中での構造材料の特性を調べるため,中純度および低純度材料試験ループによって,質量移行試験,内圧クリープ試験,引張クリープ試験をおこない,その解析を進めている。
 また,ナトリウム技術開発ループにより熱荷重,熱サイクル試験,自己融着摩粍試験ループにより摩もう試験等を,またナトリウム流動伝熱試験装置を使って実験炉の模擬炉心燃料集合体の流動,耐久試験を実施し,さらに原型炉燃料集合体試験のための準備をすすめている。

ハ 主要機器部品の開発

 昭和47年度は実験炉用構造機器については,回転プラグ,燃料取扱装置,炉内構造物をナトリウム機器構造試験装置に組込み,ナトリウム中総合試験をおこなった。
 ナトリウム主循還ポンプの耐久試験装置が昭和46年度末完成し,昭和47年度は主循還ポンプのナトリウム中確性試験をおこなった。
 原型炉用構造機器については,燃料交換機パンタグラフ機構のナトリウム中試験が完了した。また回転プラグシール構造部品試験などを実施しており,更に回転プラグシール,制御棒駆動機構,炉内外燃料中継機構などのモックアップ試験をおこなうための試験体および試験装置を製作中である。

ニ 計測制御,遮へい研究

 実験炉用計測制御機器について,炉外中性子検出器特性試験を完了し,ひきつづき炉内中性子検出器,破損燃料検出器,燃料チャンネル閉塞検出器の試作開発を実施している。
 プロセス計装では,相関式流量計試験,超音波流量計基礎試験を終了し,4インチ電磁流量計特性試験等を実施中である。
 遮へい研究については,透過解析コート,ガンマ線発熱設計コート等を開発したほか,中性子透過試験,不規則形状実験等を行なった。

ホ 燃料,材料の開発

 燃料ピンの開発に関しては,東海事業所において,実験炉用燃料の製造試験を用いて原型炉用燃料製造試験を行なっている。
 材料の開発については,ひきつづき制御棒,遮へい材,構造材について製造試験,物性測定,高温中試験,ナトリウム中試験を行なった。
 燃料,材料の照射試験については,日本原子力研究所の材料試験炉(JMTR),フランスのRAPSODIE,米国GE社のGETR等の原子炉を利用して燃料ピン,被覆材等の照射を行なった。また,照射材料の試験のための照射材料試験施設(MMF)の建設を行ない,本格的な試験の準備を進めている。

へ 安全性

 実験炉の炉容器モデルの熱衝撃試験,1次冷却系配管破断に関する研究,ナトリウム過度沸騰試験等を実施するとともに核分裂生成ガスの捕集,除去試験が行なわれた。

ト 蒸気発生器の開発

 原型炉用蒸気発生器の開発のため,1MW蒸気発生器を用いて試験,運転が進められてきたが,昭和46年度から48年試験開始を目途に50MW蒸気発生器および同試験施設の建設を進めている。また蒸気発生器の安全性を研究するため,大リークナトリウム-水反応装置および小リークナトリウム-水反応装置による試験が行なわれた。


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