2. 原子力施設の安全対策

(1)原子炉の設置,運転に伴う安全対策

イ 原子炉の設置許可

 昭和47年度に新たに設置が許可された原子炉は,東京電力(株)福島原子力発電所6号炉,関西電力(株)大飯発電所1,2号炉,四国電力(株)伊方発電所,日本原子力発電(株)東海第二発電所および日本原子力研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)の計6基であり,昭和47年度末までに許可された原子炉の総基数は,臨界実験装置を含め48基となった。このうち,昭和47年度末現在で運転中の原子炉は24基,建設中の原子炉は21基である。
 原子炉設置の年度数の許可状況を第3-1表に示す。

 設置許可(変更を含む)の件数は,20件あり,このうち,関西電力(株)美浜発電所1号炉は,燃料集合体の一部にウラン,プルトニウム混合酸化物燃料集合体を使用出来るように変更したものである。このほか,放射性物質の環境への放出を低減するための活性炭式希ガスホールドアップ装置,蒸発濃縮器等の増設などの変更が行なわれた。
 なお,わが国における原子炉の設置状況は付録V-1に示すとおりである。
 また,原子炉の設置及び変更に伴う設計及び工事の方法の認可,それに伴う使用前検査等が関係省庁において行なわれ,設置に伴う安全対策に関する国の所要措置がとられた。

ロ 原子炉の安全審査

 原子炉の設置または設置変更について許可を行なう場合,内閣総理大臣の諮問により,原子力委員会において厳重な審査が行なわれている。
 このうち,とくに安全性にかかわる事項については,原子炉安全専門審査会において専門的な調査審議が行なわれる。
47年度には,12回の原子炉安全専門審査会が開催され,20件の原子炉の設置または変更について安全審査が行なわれた。とくに,炉の設置および重要な変更の審査にあたっては部会を設置し,厳重なる審査を行なった。これらの概要は,付録V-2に示すとおりである。このなかで,東京電力(株)福島発電所6号炉および日本原子力発電(株)東海第二発電所については,いずれもBWRで電気出力110万kwで,BWRとしてはわが国初の100万kW級の発電用原子炉であり,また,マークII型格納容器を採用するなど新機軸の炉であったため,審査会の審査はとくに慎重に行なわれた。その結果,大出力炉ではあるが,炉心の核熱設計,燃料の出力密度等在来のものに比して,特別に安全上問題はなく,さらに原子炉立地審査指針,安全設計審査指針等にも適合しており,十分に安全性は確保できるとの結論を得,その旨原子力委員会に報告された。
 研究炉としては,日本原子力研究所の原子炉安全性研究炉(NSRR)の審査が行なわれ,十分に安全性を確保出来る旨原子力委員会に報告された。同炉は,主として原子炉の反応度安全性研究を目的とするもので,安全研究の充実強化に大きく貢献しうるものとして期待されている。
 なお,本年7月現在,東京電力(株)福島第二原子力発電所1号炉だけが審査中であるが,既許可のものと同容量同型炉である。

ハ 発電所の故障および事故

 昭和47年6月,関西電力(株)美浜発電所1号炉において,蒸気発生器細管体の漏えい事故が発生し,その原因は熱腐食などによるものと推定された。事故の際の放射性気体の放出率は,平常時の最大放出率に比べてはるかに低く,周辺環境に対する影響はまったくなかった。しかし,より一層の安全を期するために,漏えいした細管1本を含め合計110本について盲栓した。また,本年3月の定期検査においても,蒸気発生器細管の熱腐食が発見され,修理を行なった。
 日本原子力研究所の動力試験炉(JPDR)の炉心スプレイ系配管が,熱ぼう張による集中応力を受けやすい形状になっていたことなどから,そこにクラックを生じ,冷却水が漏えいするという事故が発生した。そこで過大応力が生じないような構造にするとともに,溶接施工にあたって材料の鋭敏化が生じないように十分配慮するなど必要な対策を講じた。
 このほか,原子炉とは直接関係はないが,変圧器の絶縁不良による短絡事故が関西電力(株)美浜発電所2号炉および日本原子力発電(株)敦賀発電所で発生した。

(2)核燃料物質の使用にともなう安全対策

イ 核燃料物質の使用許可および検査

 核燃料物質の使用に伴う安全性については,「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規則に関する法律」(原子炉等規制法)に基づき規制が行なわれている。すなわち,核燃料物質(300グラム以上のウラン,900グラム以上のトリウム,濃縮ウラン,照射済燃料,ウラン233およびプルトニウム)を使用しようとする者は,原子炉等規制法に基づき,内閣総理大臣の許可を受けなければならない。また1グラム以上の密封されていないプルトニウムおよび100キュリー以上の使用済燃料を使用しようとする者は,使用許可のほか保安規定の認可および施設検査をうけなければならない。
 昭和47年度末現在,これらの使用許可を受けている事業所は約130あり,このうち,5事業所が非密封プルトニウム1グラム以上を使用し,9事業所が100キュリー以上の使用済燃料を使用している。
 昭和47年度には,9事業所について施設検査が行なわれたが,いずれも核燃料物質の使用に際し,その安全性が確保されているものと認められた。
 また,核燃料物質の使用許可をうけている施設に対しその使用状況,核燃料物質の管理状況等について随時立入検査が行なわれており,47年度は38施設について行なわれたが,その使用状況はおおむね良好であった。

ロ 核燃料物質の加工事業許可および検査

 核燃料物質の加工の事業を行なおうとする者,または,変更しようとする者は,原子炉等規制法に基づき内閣総理大臣の許可をうけ,さらに建設工事の着手前に設計および工事の方法の認可,工事の施行過程および完成時に施設検査,また,操業開始前には保安規定の認可をそれぞれうけなければならないこととなっている。
 昭和47年度には,住友電気工業(株)および古河電気工業(株)による合弁会社原子燃料工業(株)の設立に伴う加工事業の許可申請があり,「加工施設の安全審査指針」に基づき検討が行なわれた結果,47年9月許可された。なお,原子燃料工業(株)の設立に伴って,住友電気工業(株)および古河電気工業(株)は,板状燃料の加工にかかわる事業をそれぞれ廃止し,昭和47年度末現在,核燃料物質の加工事業の許可をうけているのは5社5事業所となった。
 設計及び工事の方法の認可は,昭和47年度には4事業所10件を行なった。
 また,5事業所11件について施設検査を実施したが,核燃料物質の加工に際し,その安全性が確保されているものと認められた。

(3)放射性同位元素等の使用等に伴う安全対策

イ 放射性同位元素の使用等の許可及び届出

 放射性同位元素の使用等に伴う安全性の確保については,「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(放射線障害防止法)に基づき,規制が行なわれている。すなわち同法は,放射性同位元素,放射線発生装置を使用しようとする者,また,放射性同位元素の販売ならびに放射性同位元素によって汚染された物の廃棄の業を行なおうとするものに対し,許可または届出(密封された放射性同位元素の1工場または1事業所あたりの使用総量が100ミリキュリー以下の場合には届出)を義務づけている。
 これら使用,販売,廃棄の事業の許可にあたっては事業所等からの申請内容を検討し,使用,詰替,貯蔵,廃棄等の施設,その他について,同法に規定する許可基準に適合しているか否かを審査したのち,許可(届出の受理)されることになっている。
 また放射性同位元素等の取扱いにあたっては,放射線障害予防規定の作成,放射線取扱主任者の選任を義務づけ,管理上の安全を期することにしている。さらに使用等にあたっては,作業従事者の被ばく線量の測定,健康診断等放射線障害防止上の基準を設けて放射線作業従事者の安全を図るばかりでなく,線量率の測定,排気,排水中の放射性物質の濃度を規制することにより事業所外の一般公衆の安全を確保している。
 これら事業所は,教育機関をはじめ研究機関,医療機関,民間企業等多岐にわたり,その数も第3-1図に示すとおり,年々増加しており,昭和47年度には218事業所が新たに許可され,241事業所から届出があった。

 この結果昭和47年度末現在許可事業所1,991,届出事業所881,合計2,872事業所となった。販売の業については,昭和47年度には20事業所が許可され,合計103事業所となり,廃棄の業は前年度とかわりなく6事業所である。なお,昭和47年度における使用の廃止等の届出数は,許可事業所67,届出事業所70および販売業7の計144である。

ロ 放射性同位元素使用事業所等に対する立入り検査

 放射線障害防止法では,同法または同法に基づく命令の実施のため,科学技術庁長官は,必要ある場合には,使用事業所等の放射線取扱施設に放射線検査官を立入らせ,必要物件の検査を行ないうることになっている。
 この規定に基づき,使用事業所等への検査が毎年行なわれているか,昭和47年度は435事業所について立入検査が行なわれた。

ハ 放射線障害防止法違反

 昭和47年6月22日から24日までの3日間,岡山大学医学部附属病院の未承認施設において60Co(針)を使用していた事実が判明した。(放射線障害防止法第10条2項違反)科学技術庁では,早速,原子力局長名で文部省に各国立大学に対する厳重な指導,監督を求めるとともに,岡山大学長に対しても文書により厳重な注意を与えた。


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