§2 保障措置に関する国際環境
1 IAEA保障措置委員会

 IAEAは,45年3月5日に発効したNPTにもとづく保障措置実施のための保障措置協定を審議するため,45年4月の理事会において保障措置委員会の設置を決定した。
 本保障措置委員会には,わが国を含む約50ケ国が参加し,ウィーンにおいて,①45年6月~7月,②同年10月~11月,③同年12月,④46年1月~2月,⑤同年3月と5回にわたって開催された。審議の結果は,保障措置協定第1部として原則的事項に関する第1回報告書が45年7月理事会に,具体的な実施手続を規定した第2部に関する第2回報告書が46年2月理事会に,また最後に残った財政問題等に関する第3回報告書が46年4月理事会に提出され,それぞれ理事会によって承認された。この結果,上記の報告書の内容は,IAEA事務局がNPT第3条にもとづいて,同条約締約国との間に保障措置協定締結交渉を行なう際にその基礎として使用されることとなった。
 各会期における審議の概要は次のとおりである。

(1)45年6月~7月会期

 本会期に先立つて,事務局から,保障措置協定に関し,各国から提出された見解およびIAEA事務局長が提出した事務局案が配布された。
 審議は冒頭にわが国を含め,34ケ国の代表による一般演説が行なわれた。ここでわが国は,先にわが国がNPTに調印を行なった際の政府声明に基づき,NPT下の保障措置は各国の管理制度を活用して,合理的で簡素なものであり,また保障措置はいかなる国に対しても平等でなければならないという点を強調した。
 ついでIAEA事務局案を基礎として検討が開始された。この問わが国は「国の核物質管理制度」に関して,カナダと共同してわが国主張の方針に沿った提案を行ない,これが採択される等,わが国の従来からの主張に沿って積極的に努力した。

(2)45年10月~11月会期

 保障措置協定第二部の各項中,序,目的,国の核物質管理制度,保障措置の終了および免除,細目取極,設計情報,記録制度,報告制度ならびに核物質の国際間移動等について検討された。
 事務局案では,序としてIAEAの現行保障措置制度を大幅に引用しており,また6月~7月の会期で合意された第一部に規定されている国の核物質管理制度にはふれていなかったが,わが国および独,英,加の共同提案により現行制度の引用はやめ,さらに保障措置の目的が明確化されるとともに,国の核物質管理制度に関する要件を明記する項目が新たに追加された。
 設計情報については,事務局案にあった提出すべき情報のうちPhysical Protectionおよび放射線防護に関する規定等に関する情報はIAEAによる保障措置上の審査の対象ではないとする主張が大勢を占め,PhysicaI Protectionの項は削除され,放射線防護に関する規定については,補足的情報として提出するのみで審査の対象とはされないこととなった。
 報告制度に関しては,事務局案にあった運転報告に関する条項は,核物質を追跡すればよいとの観点から削除され,その代り計量報告の補助的な手段として簡単な運転状況に関する報告を添付することになった。さらに特別報告についてはわが国からの修正提案により,施設における単なる事故については報告の必要がなく,核物質の損失を伴なった事故時に関してのみ報告されることとなった。
 核物質の国際間移動に関しては,英・仏・加およびスウェーデンの修正提案をもとにして検討され,結局,国際間輸送中は輸出入両当事国が保障措置上の責任を負い,第3国には責任を負わさないこと,一定量以上の核物質を輸入する際は当事国は事前にIAEAに通報を行ない,必要があればIAEAは封印等を行なうことが採択された。なお,事務局案にあった輸送中のPhysical Securityについては当事国の所管事項でありIAEAは関与しないことが確認された。

(3)45年12月会期

 主として第二部の査察条項が審議され,査察の目的,機能等が明確にされた。査察は通常査察と特別査察という階段方式をとり,通常査察では査察員はあらかじめ合意した特定の箇所にしか立入ることができず,通常査察の結果,もしIAEAがその立入りだけでは不十分であると考えた場合に被査察国と協議のうえ,特別査察を実施することとなり,査察員はこの段階で初めて特定の箇所以外の場所にも立入ることができることとなった。査察の頻度に間しては,IAEAが行ない得る査察業務量の年間の最大値を定め,IAEAはその範囲内で査察を行ない得ることとなった。実際の査察業務量は最大査察業務量の範囲内で,次の5つの基準を考慮して決定されることとなった。(a)国の核物質管理制度の有効性,(b)原子力施設の種類と数,(c)施設における核物質の形状,(d)国際的相互依存性,(e)任意抽出法等の統計的手法の利用。

(4)46年1月~2月会期

 査察員の指名,査察の通告,用語の定義等および財政問題が検討された。事務局案によればIAEAは当該国に査察員を常駐させる権利を認めさせることになっていたが,審議の結果この条項全体が削除された。

(5)46年3月会期

 財政問題が再度審議され,発展途上国の保障措置費用負担を軽滅する分担方式が採択された。


目次へ          第2章 第2節へ