(付  録)
IV 本文参考資料

7 原子力軍艦放射能調査体制の整備強化について

(昭和43年9月5日
原子力委員会)

 当委員会は,佐世保港における放射能調査について,さきにわが国の放射能調査体制の整備強化を図るぺき旨の見解(昭和43年5月29日付)をのべたが,これを具体化するにあたっては,別紙の原子力軍艦放射能調査指針大綱にそって行なわれるのが適当ど認める。

(別紙)

  原子力軍艦放射能調査指針大綱
  (昭和43年9月5日
  昭和44年4月15日一部改正
  原子力局)

1 基本方針
 政府は,原子力軍艦(以下「軍艦」という。)寄港地周辺住民の安全を確保するために,必要な措置をとらなければならないが,軍艦のもつ特殊な性格にかんがみ,特別な放射能調査その他の措置をとることとし,ここにその手続の基本を定めることとする。
 政府は,軍艦寄港地の市当局の協力をえて,軍艦の寄港する港湾における放射能水準を観測し,平常と異なる値(以下「異常値」という。)が観測された場合には,その状況を把握して,必要な措置をとるとともに,その結果を一般に公表するものとする。
 この際,その測定結果に対する無用な不安感をもたせないための注意も十分に払わなければならない。
 これらの調査は,関係機関がそれぞれの分担において,責任をもつて行ない,これらのとりまとめは,科学技術庁が行なうものとする。

2 調査体制

(1) 調査の目的と種類
 調査をその目的および時期により,つぎのとおり分類する。ただし,モニタリングポストおよびモニタリングポイントでは,軍艦の寄港の有無にかかわらず,常時連続測定を行なう。
① 定期調査
 海水,海底土および海産生物に含まれる放射能の長期的変化を調べるため,四半期ごとに試料を採取し,分析を行なう。
② 非寄港時調査
 軍艦寄港時(軍艦の入港の24時間前から出港までの期間をいう。)の放射能調査に対処するため,寄港時調査に準じた方法により,寄港時以外における放射能を調査する。
③ 寄港時調査
 軍艦寄港時に,周辺の放射能水準を観測して,軍艦からの放射性物質の排出を監視し,異常値が発生した場合には,その原因を追求するとともに,放射能の水準,空間的拡がり,持続状況等を把握して,周辺住民の安全確保のために必要な処置をとる。

(2) 調査班の編成
 寄港時調査については,軍艦の寄港通告があり次第,可及的速かに 
① 科学技術庁から派遣する者
② 当該港湾所在の海上保安部の担当者
③ 当該港湾市の市当局の担当者をもって現地に調査班を編成し,調査にあたる。
 なお,当該港湾市の所在する県当局の希望がある場合は,必要に応じてその職員を参加させることができる。
 調査班長は,科学技術庁長官が指名する者があたる。
 調査班長は,調査を統轄し,とりまとめの任にあたる。また,必要に応じて,班長代理を指名する。
 非寄港時においても,必要に応じ,上記に準じて調査を行なう。

(3) 担当機関と主要機器
 調査結果のとりまとめは,科学技術庁が行なうものとする。

(4) 測定機器の保全
 測定機器,モニタリングボートなどを常時完全な状態に保つため,分解修理および定期点検を行なう。これらの点検は,必要に応じて,機器製作者等に委託して行なうが,このほか調査担当者による日常の点検も励行する。

(5) 研修と演習
 調査担当者があらゆる揚合に完全な調査を行なうことができるようにするため,主要な機器の操作を中心とした研修を,放射線医学総合研究所において毎年1回行なうとともに,非寄港時調査の機会などを利用して,各種の状況を想定した放射能調査の模擬演習を行なう。

(6) 専門家の協力
 放射能調査について助言を受けるために,科学技術庁はあらかじめ各分野の専門家を委嘱しておき,必要に応じて
① 調査指針の作成と改善
② 測定結果の解析および評価
③ 異常値が測定された際の原因究明
 等について協力を受ける。
 なお,必要に応じて専門家を現地に派遣する。

3 調査業務

(1) 定期調査
 試料採取は原則として四半期ごとに1回,非寄港時に,モニタリングボートにより異常のないことを確認したうえで,海上保安庁,水産庁および(財)日本分析化学研究所が共同して行なう。また分析その他の測定については,関係機関で,採取試料分割のうえ行なう。

(2) 非寄港時調査
① モニタリングポスト(当該港湾市当局がある)原則として1日1回巡回して,観測および点検を行なう。この際,前回の巡回以降における異常値の発生の有無,作動の状況などを確認する。
② モニタリングポイント(当該港湾市当局があたる)月に1回巡回する。フィルムバッジおよびガラス線量計を交換して,所定の期間使用ずみのものを持ち帰り,集積線量を測定する。
③ モニタリングボート(当該港湾海上保安部があたる)原則として毎月少なくとも1回以上所定のコースにより連続して放射能の水準を測定するが,異常値を観測した場合は,その状況を把握するためにコースを変更する。
 なお,ボートには,異常値が観測された揚合に備えて,採水器具,ライトブイ,マーカーなどを携行する。

(3) 寄港時調査
 寄港時においては,非寄港時における調査に加えて,つぎのとおり一層厳重な観測を行なうとともに,所要の措置をとる。
① モニタリングポスト(調査班長の統轄のもとに,当該港湾市の市当局があたる。)原則として,3時問おきに1回巡回し,異常値が観測されていた場合には,海水を採取する。
② モニタリングボート(調査班長の統轄のもとに,当該港湾海上保安部があたる。)原則として,1日1回以上所定のコース(寄港時コース)により連続して放射能の水準を測定する。
 異常値を観測した場合は,直ちに採水するとともに,位置標識を投入し,さらにその状況を把握するためコースを変更して観測を継続する。

(4) 異常値が観測された場合の措置
 モニタリングポストまたはモニタリングボートによって,異常値が観測された場合はその拡がりを勘案しつつ,次表の区分にしたがって,つぎの措置をとる。

①の場合

モニタリングポスト
担当者が常駐して測定値を継続的に班長に報告するとともに,測定値の変化に応じて海水を採取する。
モニタリングボート
異常値の状況を把握するために,運航回数を増加して測定を行ない海水を採取する。
採泥
異常値が測定されてから放射性核種の沈降をまって,異常値発生海域の海底土を採取し,(財)日本分析化学研究所に送付する。
②の場合
①に加えて,現地調査班は当該港湾市の市当局と協力して,港湾内の海産生物の放射能調査を実施する。
③の場合
①,②に加えて現地調査班は当該港湾市の市当局と協力して,周辺地区,漁具その他の放射能調査を適宜実施する。また,調査班長は,当該港湾市の市長と協議のうえ,必要に応じ,一定海域への立ち入り制限等,周辺住民の安全を確保するための措置をとるよう勧告する。

(5)分析
 定期調査によって採取された試料は,担当機関において全β放射能を測定するとともに,厚生省および(財)日本分析化学研究所において特定核種について定量する。
 その他の調査にあたって採取された海水は,当該港湾市の市当局において,波高分析器によってγ線エネルギーの分布を測定し,解析する。
 これによって,核種構成比率に異常が認められた場合および異常値発生原因の判定が困難な場合には,海水または作成された検体を(財)日本分析化学研究所に送付して分析を行なう。
 異常値発生後に採取された海底土および海産生物等は,(財)日本分析化学研究所に送付して分析を行なう。

4 報告と発表

(1)報告
 調査結果は,つぎにより各担当機関(ただし,調査班がおかれている場合は調査班長)から放射能課長を経由して原子力局長に報告する。

① 定期調査
採取試料の測定および分析は,可及的速やかに行ない,結果が判明し次第報告する。
② 非寄港時調査
異常値が認められない場合は,1月分の調査結果をとりまとめて報告する。
また,異常値が観測された場合は,直ちに報告する。ただし,分析については,結果が判明し次第とりまめて報告する。
③ 寄港時調査
異常の認められない場合は,ボートによる調査の後で1日分の調査結果をまとめて報告する。
異常値が観測された場合は,調査班長は,調査結果およびとった措置をその都度報告して,所要の指示を受ける。原子力局長は,この報告を受けた時には,直ちに外務省に通報する。
なお,必要に応じて調査班長は,前記の措置をとるほか,当該港湾基地の司令官と直接に連絡をとるものとする。

(2) 発表
 原子力局長は,各担当機関もしくは調査班長から調査結果等の報告を受けたときは,直ちにその要旨を発表する。
 寄港時の調査については,現地においても同時に調査班長から発表する。なお,異常値が観測されて発表するにあたっては,とった措置をつけ加える。


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