§6 食品照射

 食品に放射線を照射し,輸送および貯蔵中の腐敗,虫害,発芽等による損失を防止することは,食品流通の安定化および食生活の改善をはかるうえに大きく寄与するものと期待される。この食品照射に関する研究については,すでに10年前から,大学,国立試験研究機関,民間等において行なわれてきたが,これらの研究は,必ずしも効率的に行なわれているとはいえなかった。
 原子力委員会は,このような事情を勘案し,40年11月,食品照射専門部会を設置し,食品照射をした場合の食品としての適性,照射技術,経済性等について,総合的な立場から研究体制を整備し,計画的に研究の促進をはかるため,その推進上の具体策について検討することとした。
 食品照射専門部会は,海外で照射食品としてすでに実用化されている馬鈴薯,玉ねぎ,またわが国独自の観点から開発すべき米,さらに照射による効果が期待される農産物,水産物,畜産物等について審議を重ね,その結果を42年7月,原子力委員会に報告した。
 原子力委員会は,42年9月, 食品照射の早期実用化を目途に研究開発をすすめることとし,「食品照射研究開発基本計画」を策定し,関係各機関の協力のもとに,原子力特定総合研究として,食品照射の研究開発を計画的に推進することとした。
 同基本計画においては,発芽防止を目的とする馬鈴薯,玉ねぎの食品照射については,42年度から3年計画とし,殺虫および殺菌を目的とする米の食品照射については,42年度から5年計画とし,また,主として殺菌を目的とする農産物,水産物,畜産物等の食品照射については,別途6品目程度を指定して,49年度完了を目途に,それぞれ研究開発を推進することとされている。
 この研究開発は,農林省,厚生省,通商産業省,原研,理化学研究所等の試験研究機関の総合協力体制のもとに,毒性試験,栄養成分の変化に関する研究,衛生化学的研究等食品としての安全性および健全性に関すを研究ならびに照射効果の研究を行なうとともに,包装材,線源工学,微生物殺菌等の研究もあわせ行ない,かつ,基礎的な分野については,大学,国立試験研究機関の研究に,期待することとしている。
 また,42年11月,科学技術庁原子力局に食品照射研究運営会議を設け,この研究開発を,円滑に運営実施することとした。同研究運営会議は,すでに着手されている馬鈴薯,玉ねぎ,米について,今後の研究開発の推進方法,農産物,水産物および畜産物の実施品目の選定,ならびにその研究開発に必要な共同利用施設の設置についての検討を行なっている。
 このうち,馬鈴薯,玉ねぎについては,常温照射が可能なので,原研高崎研究所の照射装置を用いて,42年11月以降,それぞれ約20トンが照射され,関係各試験研究機関に送られ,研究が行なわれた。


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