第10章 原子力施設の安全対策
§2 原子炉の設置と運転にともなう安全対策

3 米国原子力貨物船サバンナ号の本邦立入りについて

 サバンナ号の日本寄港については,42年2月,米国海事局から原子力貨物船サバンナ号を42年6月頃本邦に寄港させたい旨申し入れがあった。ついで,42年3日,同船の運航者であるファースト・アトミック・トランスポート社は,原子炉等規制法の規定にもとづき,同船の本邦水域立入り許可の申請を内閣総理大臣に行なった。
 内閣総理大臣は,この申請に対し,42年3月,
(1) 原子炉が平和目的以外に利用されるおそれがないこと,
(2) 原子炉の運転を的確に遂行するに足りる技術的能力があること,
(3) 原子炉施設の位置,構造および設備が原子炉その他による災害の防止上支障がないこと,
(4) 原子力損害を賠償するに足りる措置が国際約束により講ぜられること,
 の各項について,原子力委員会に諮問した。
 原子力委員会は,内閣総理大臣の諮問にもとづき,(2)および(3)に掲げられているサバンナ号の安全審査等を原子炉安全専門審査会に求めた。
 同審査会では,審議ののち,42年4月,安全上問題ない旨の結論を原子力委員会に報告した。
 一方,(4)に掲げる原子力損害の賠償に関する日米両国間の国際取極めについては,外務省が中心となって米国政府と交渉がすすめられた。
 すなわち,わが国の原子力損害賠償制度では,外国原子力船が本邦水域に立入る場合,原子炉等規制法の許可に係らしめ,万一原子力損害をひき起した場合は,運航国政府との間で締結された原子力損害を賠償するための国際約束によって,その賠償処理に実効性を確保する建前をとっており,原子力損害賠償法は外国原子力船をその対象から除外している。
 したがって,運航国政府との間に締結すべき国際約束の内容としては,原子力損害賠償法との均衡から,妥当な損害賠償措置額の確保等のほか,同法に規定されている無過失責任,責任の集中等のいわゆる被害者保護の諸原則が,当該外国原子力船に適用されるように確保する必要がある。
 今回サバンナ号に係る国際約束の締結交渉にあたっても,同諸原則がサバンナ号の運航者に対して適用される旨の条項を行政協定に入れるよう米国政府に申し入れたが,米国政府は,米国内法上,寄港国の法律に従わせるとの取極めを行なうことだけを授権されているにすぎず,これら原則の適用を協定上約束することは,米国政府の権限に属していないとして,日本側の申し入れを拒否してきた。
 同諸原則の適用が協定上確保できないとすれば,本邦水域立入りに係る原子炉等規制法上の許可要件である原子力損害を賠償するに足る措置が国際約束により講じられていないこととなり,しかも,この問題を短期日のうちに解決することは,両国の制度上の相異から事実上不可能になったため,国際約束に関する交渉は打切らざるをえなくなった。
 以上の事情により,米国原子力貨物船サバンナ号の本邦立入りについては,原子炉等規制法上の許可を早急に行ないえなくなり,42年6月に予定されていた同船の日本寄航は事実上中止となった。


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