第1章 総論

§4 研究開発

 わが国における原子力の研究開発が,本格的に開始されて以来7年を経て,広範な分野にわたり基礎的研究,開発研 究がすすめられており,その成果も逐次あがりつつある。
 わが国で,はじめて原子の火がともされたのは,32年8月であったが,その後,研究炉の設置は急速に進展し,37年末現在の状況は,運転中のもの8基,建設中のもの3基で,合計11基である。運転中の8基の研究炉のうち,5基は米国から購入したものであるが,その建設,運転によって,貴重な経験を蓄積することができた。他の3基,日立研究炉,東芝研究炉およびJRR-3はいずれも日本の技術によって設計,製作されたものである。
 日立研究炉および東芝研究炉は,それぞれ(株)日立製作所,東京芝浦電気(株)が,多額の資金を支出し,自社および関係会社の技術を結集して建設したものである。なお,これらの研究炉の建設には,政府の補助金が交付された。
 IRR-3は,通称国産1号炉といわれるもので,その設計から完成まで,日本原子力研究所を中心に,産業界,学界を含め多数の原子力関係機関の協力によって完成されたもので,アイソトープ生産,各種工学試験に利用される。この国産1号炉の設計研究は,遠く29年にさかのぼる。29年といえば,ようやくわが国における原子力の開発が,その緒についた頃である。当時としては,この原子炉の完成が,原子力開発の当面の目標であり,日本学術振興会は通商産業省の委託をうけ,原子炉設計の基礎研究委員会を設け,アイソトープ生産を主目的とする研究炉として,設計研究をはじめた。その後,日本原子力研究所が発足し,この仕事をひきつぎ,産業界,学界,国立試験研究機関の協力をえて設計を完了し,34年には製作が開始された。この設計には,多数の民間企業が参加し,設計分担は,そのまま製作にひきつがれた。
 この国産1号炉は,関係者の努力の結晶として37年9月臨界に達した。
 この炉の建設は,設計技術のほか核燃料,関連機器および材料の製造技術などわが国の原子力技術全般の水準向上に,はかり知れない貢献をした,今後,この炉の利用が本格化すれば,アイソトープの生産,核燃料技術の開発などの分野で,その真価を発揮するであろう。
 国産1号炉につづく2号炉ともいうべき,国産動力炉の開発計画の検討が,原子力委員会に専門部会を設けて,37年8月以来すすめられている。
 わが国の原子力発電は,当面海外で安全性と経済性の確認された炉を導入するという形ですすめられるが,将来原子力発電が本格的に実用化される時期までには,現在確立された炉型より進歩したもので,わが国の核燃料事情その他の国情に適した炉型を開発ずることを目標にしている。
 この専門部会は,開発対象とすべき炉型の選定,開発体制および計画実施のすすめ方について一応の結論をえたので,38年5月に報告書を原子力委員会に提出した。
 また,高速増殖炉の開発については,日本原子力研究所の発足当初から基礎的な研究が実施されてきた。また冷却材であるナトリウムやナツクについては,民間における研究を助成するとともに,36年度からは,民間企業と日本原子力研究所との共同研究として技術開発がすすめられている。
 一方,高速増殖炉に適した燃料再処理法についても,日本原子力研究所で塩化物分溜法の基礎研究がすすめられており良好な結果がえられている。
 これらの基礎研究の結果にもとづいて,日本原子力研究所は,7〜8年後には,高速実験炉を建設することを目標において,さし当り38年度には臨界実験装置の建設に着手しようとしている。このように高速増殖炉の開発は,原子力委員会がさきに策定した原子力開発利用長期計画の線に沿ってすすめられている。
 わが国の原子力開発も,このように自らの手で動力炉開発をすすめたりまた,海外から導入する動力炉についても,初期装荷燃料はともかく,逐次燃料を国産化すべき段階に近づきつつある。
 このため,燃料・炉材料の照射試験が,原子炉製作技術の開発上極めて重要な意味をもつので照射試験専用炉,つまり材料工学試験炉の必要性が強調された。原子力委員会でも,専門部会を設けて検討してきたが,日本原子力研究所がその建設,運営に当ることとし,さし当り38年度には,予備的調査に着手することとなった。
 核燃料の分野における試験研究としては,天然ウラン燃料については,JRR-3燃料の製造加工を主軸として,従来,ウランの製錬から完成燃料の検査まで,日本原子力研究所,原子燃料公社,産業界,国立試験研究機関で多岐にわたってすすめられてきた。その結果,JRR-3の燃料は2次装荷から国産によることができるようになった。

 濃縮ウラン系燃料の加工については,主として民間企業で技術開発が行なわれているが,日本原子力研究所の半均質臨界集合体,日立研究炉などの燃料は,国内で加工された。この分野での技術開発は,主として二酸化ウランを対象として,近い将来軽水動力炉燃料を国産化することに目標をおいてすすめられており,振動充填法については各研究機関が協調して開発を行なっている。
 一方,日米研究協力の第1着手として,燃料技術についての協力が具体化しつつあり,38年5月には,酸化物系および炭化物系燃料についての専門家会議が開催された。
 つぎに,今後かなり長期にわたって技術開発を要するのは,燃料再処理およびプルトニウム燃料技術である。これらは,今後かなりの規模で動力炉の運転が行なわれれば,その経済性を確保し,さらに,将来の高速炉開発にそなえ,使用済燃料を有効に活用するのに必要な技術である。
 燃料再処理については,再処理専門部会での検討および海外調査団の調査の結果,43年頃には,0.7〜1.0トン/日処理規模の再処理工場を完成する必要があるとの結論に達し,原子燃料公社で,38年度からその設計に着手することとなった。
 燃料再処理技術の開発は,日本原子力研究所,原子燃料公社の共同研究としてすすめており,使用済燃料を実際に使用して試験のできる施設(ホットケーブ)が近く完成する。完成後には,JRR-3の使用済燃料の一部を処理し,将来の再処理工場の運転に必要な技術の習得に努めるものである。
 プルトニウムについては,かねてから検討してきたが,37年秋,米国に調査団を派遣してプルトニウムの利用についての技術的・経済的見通し,関連技術の開発状況を調査させた。プルトニウムは,長期的には高速増殖炉燃料として利用することを目標として計画をすすめているが,当面熱中性子転換炉燃料として利用する道もある。
 その有効利用をはかることは,わが国の核燃料問題の中心課題であるがプルトニウムを動力炉の燃料として利用するための技術は,海外においても未開発分野が多く,わが国としては,燃料設計,加工技術等全く今後の問題である。プルトニウム燃料技術の開発は,日本原子力研究所と原子燃料公社との共同プロジェクトとして推進することとしている。
 わが国の原子力技術の開発は,日本原子力研究所,原子燃料公社,国立試験研究機関,民間企業,大学等多くの機関によってすすめられている。
 原子力の動力利用が,実用化の段階に近づいてきたため,各機関の力を結集して推進しなければならない課題がふえてきた。このため,開発プロジエクトを設定し,明確な方針にもとづいてその実施に当らねはならない。
 しかし,わが国では,この種の計画は類例が少なく,多くの科学技術者の確保,特許の帰属等困難な問題が多いが,原子力研究をその利用に結びつけるためには,ぜひとも克服しなければならない課題である。


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