第3章 核 燃 料
§4 わが国の開発状況

4−4 燃料体の加工

 原子炉の開発にともなって,使用する燃料体は炉型の開発にともなって非常に多種にわたり,各炉型に適するような金属系,合金系,セラミツク系,分散系等について世界的に種々の努力が払われている。そして発電コストを在来火力に匹敵するところまでもって行こうとする努力が,燃料の面では加工法を改良して安価で,高温,放射線の存在のもとで安定でありかつ高燃焼度を有する燃料要素の製造という点に集中されて現われている。
 この分野におけるわが国の研究開発は,JRR-3の燃料要素製造,ウラン合金,酸化ウラン燃料および新形式燃料の開発の4つに分けられる。

 i) JRR-3の燃料要素製造
 31年度以降,原子力研究所はJRR-3の取替燃料を対象として真空溶解,圧延加工による天然ウラン棒の加工に必要なデータを得るべく積極的に研究を進めてきたが,基礎的研究の大部分が33年度までに進展したので,34年度は基礎的研究と並行して試作研究に重点をおいて研究が実施された。この試作研究には主としてフランス製のウラン地金が用いられ,年度の終り頃には燃料公社においてつくられたものを用いて試作を行ない,実径25mmの試片を同時に数種の異なる条件下で比較しうる装置を組み立てて,熱処理にともなう熱サイクル,X線熱膨脹および冶金的組織等の試験を行なっている。今後,さらに鋳造条件,圧延条件等を変えて最適製造条件を究明することになっている。
 民間企業においても31年度から32年度にかけて政府補助金の交付をうけて,天然ウランの溶解,造塊に関する研究を行なってきたが,34年度はそれらの研究を土台としてγ相押出しによるJRR-3用燃料棒の,製造法を確立するため,アーク式溶解法と高周波真空溶解法を併用してビレツトの成型法を比較検討しγ相押出し法につき工業的な諸条件を探究して,JRR-3実寸大(25mmφ×884mm,約8.2kg)ウラン棒の試作を行なった。このウラン棒は34年度の政府の研究委託費によって,米国Buttel MemorialInstituteに照射試験を依頼して,その原子炉燃料としての性能をテスト中である。
 燃料棒の製造研究に関連して,ウラン棒の被覆に関する研究も31年度から政府補助金によって民間企業の手で研究がつづけられてきたが,34年度は天然ウランアルミニウム被覆燃料要素の試作研究をさらに一歩すすめて,従来行なっていたメカニカル・ボンデングの研究に加えて34年度は真空蒸着法によるメタリツク・ボンデングの研究を主体にして,両者の比較検討を行ない,同時に燃料要素の検査法についても検討をすすめている。
 原子力研究所においては34年度に超音波利用による接着性検査装置を完成し,試験を開始した。そのほか,放射線利用による被覆厚み検査装置,渦電流による表面欠陥検出装置を34年度に設置して試験を行なっている。

 ii) ウラン合金燃料の研究
 原子力研究所では32年度以降ウラン・モリブデン合金(MO<15%)アルミニウム・ウラン合金(0.25〜50%U)について, 一連の冶金学的基礎研究をつづけてきたが,34年度末までにこれらの基礎的な諸性質を把握しえた。
 民間企業においてはウラン基合金系の開発を目的として,ウラン・クロム,系合金についての研究が開始され,その後ニオブ,タンタル等添加元素を種々とりかえて最適ウラン合金をうるべく研究が進められている。

 iii)  酸化ウラン燃料の加工
 現在米国で開発されている軽水型原子炉の燃料としては,主に低濃縮ウランのセラミック状二厳化ウランをステンレススチールあるいはジルカロイ管で被覆したものが使われている。その原料である二酸化ウランは六フツ化ウランからつくられる。二酸化ウラン粉末は圧縮焼結法によってペレツトに成型され,被覆管に封入されて燃料要素に仕上げられるのであるが,わが国においてはウラン濃縮施設をもたず,また濃縮ウランは協定によってその入手量が限られているため,この分野の研究の多くは天然ウランの重ウラン酸アンモンあるいは厳化ウランからの成型技術について行なわれている。この点については民間企業等において早くから研究が進められているが,小規模の段階では一応の成果を得ており,34年度における研究の重点は量産の場合の均一性,装置の改善,製造コストの引き下げ,燃料要素組立て技術,製品の検査方法の検討,スエージング法,押出し法等による加工法の開発といった点に向けられている。33年度に民間企業で行なわれたスエージング法によるニ酸化ウラン燃料体の加工に関する研究は,二酸化ウラン粉末をステンレス鋼被覆管に充填してスエージ加工*することによってペレツトの成型工程を省略しうる点に特色がある。35年5月にウイーンで行なわれた国際原子力機関主催の「燃料要素成型加工に関するシンポジウム」において,わが国から発表されたが,世界でもこの方法は余り開発されていなかったので参加者の注目をひいた。
 燃料被覆管の密封,,燃料群の組立て技術の開発としては現在軽水炉を対象として,ステンレス鋼被覆管,ジルカロイ被覆管とつめ栓との溶接法,あるいはこれらによって被覆された燃料棒を燃料群として組み立てるに必要なロウ付技術ならびにロウ剤の開発について,基礎的調査研究が行なわれている。このほか32年度から33年度にわたりUO2-Al系分散型板状燃料要素の粉末冶金による製造研究の一環として民間企業においてMTR型燃料要素の組立,接着試験,溶剤およびロウ付用ロウの研究が行なわれた。


* スエージ加工:-モリブデン線,タングステン線の加工の一部に従来から使用されている方法で,原料粉末を固化させる際に静的圧力ではなしに繰返し反覆圧力を局囲より加えて固化させる方法。

 iv) 新燃料の開発
 この分野においてはセラミツク系燃料,あるいはサーメツト系燃料などがあげられる。
 わが国では理化学研究所において,33年度から政府補助金によりウランカーバイドの製造研究が開始されたが,原子力研究所においても,34年度から金属ウランと黒鉛粉末とをアーク溶解して炭化ウランボタンをつくりスカル溶解法*で炭化ウラン棒小試片を製造した。これらはまだ基礎的研究の段階にあり,さらに35年度においても炭化ウランの諸性質,反応機構の究明がつづけられている。
 分散型燃料については,31年に民間企業でUO2-Al系についておこなわれた程度であるが,原子力研究所でも半均質炉開発の一環としてU-C系燃料,B30-UO2系燃料の研究を開始した。
 以上各項について述べたように燃料要素の加工についてはかなり広範にわたって活発に研究がすすめられている。現在までの研究開発の結果原子炉による製品の照射試験を行なうことによって,その性能の評価を行なうべき段階に達しつつあるので国内に材料試験炉等の試験施設の設置が要望されるに至っている。
 一方原子力委員会では,核燃料検査技術を早急に確立することの必要性を認め,核燃料専門部会においてその検討を進めさせているが,34年9月末から約2ケ月間にわたり海外先進国の核燃料検査技術の調査を目的とする調査団を欧米へ派遣した。調査団は米国,英国,カナダ,フランス,ドイツの核燃料製造,加工施設における検査,および試験研究機関における検査技術開発研究の状況,ならびに数ケ所の原子炉施設における受入検査の実態を調査し,34年12月その概要を原子力委員会へ報告した。


* 真空アーク炉の一種であるスカル炉を用いて溶解する方法で高融点の物質を鋳造するのに適している。


目次へ          第3章 第5節へ