第14章 国際関係

§5 情報および科学者技術者の交流

 原子力の研究の進展は情報交流の度合によっても示すことができよう。
 米国の原子力委員会が作成しているニュークリア・サイエンス・アブストラクトに収録された世界の原子力関係の論文数は年ごとに4,000件以上も増加する傾向にあり,34年にはその数は23,150件となっている。この中には,各国の政府関係の機関の公表する論文数も多数含まれており,そのうちでは米国原子力委員会の報告が最も多く,英国の原子力公社,フランス原子力庁の報告がこれについでいる。これらの報告は各国との情報交換という形で配布されているが,わが国からはまだ研究の成果を海外に組織的に流通させる体制はとられていない。
 国際的な情報の交換の場としては,これまで4年に1度開かれた国際連合の原子力平和利用国際会議があるが,原子力の研究の進展につれてその分野が広くなりかつ専門化されてきたこともあって,専門別の会議も数多く開かれるようになった。国際原子力の機関の活動が軌道にのり出した34年以降は原子力関係国際会議の数は,同機関主催のものだけでも34年には5会議となり,35年には14となっている。この他,各国の主催で行なわれるものを含めれば,その数は1年に約50に及んでいる。国際原子力機関主催の会議にはほとんどすべてわが国からの論文が提出されている。
 わが国でも35年2月には28学会の共催による原子力研究総合発表会で279件の論文が紹介され,また,アイソトープの分野では18カ月ごとに開催されるアイソトープ会議が34年9月に開かれ,同じく約280編の論文が発表された。このアイソトープ会議には海外からの参加者も加わっており,これら二つの総合的な会議を通じて単に国内の情報交換だけでなく,広く海外に対してもわが国の研究成果を公表する機会が醸成されるものと考えられる。
 一方,科学者,技術者が国際的に交流することは,論文を通しての情報の交換よりさらに直接的な効果がある。現在の段階においては,わが国は海外に学ぶ点が多く,そのため海外留学生の数は34年度においては約80名程度となっていて,このうち半分以上が米国で研究を行なっている。このようなわが国からの海外留学に対して受入国としても多くの努力を行なっている。米国の原子力委員会の研究所では34米国会計年度に630名の研修生を受け入れているが,そのうち229名(36%)は海外からの留学生であった。わが国も国際的に寄与しうる分野においては海外の研修生を受け入れることとし,国際原子力機関を通じて34年度には16名が日本に滞在してそれぞれ専門分野の研究を行なった。


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