第4章 原子力開発の基本的態度
§2基本的な方針

原子力委員会の原子力開発に関する考え方は上に述べた諸計画や予算の見積りにあたって発表されてきているが, ここではそのいくつかについて略述しよう。

 i)最初に対外的な関係であるが,わが国がおくれを取り戻すためには何よりも前にまず先進国の歩んだあとを学び,その知識を取り入れ,また核燃料その他研究上,開発上に必要な諸資材を入手する道をあける必要があった。そのため29年には米国との間にいわゆる原子力研究協定が結ばれたが,国際原子力機関が生れると率先これに加入し,機関をもり立てていくことを最高の方針としながら,機関が実際的に十分な機能を果すようになるまでとの含みで,33年には米国および英国との間にいわゆる原子力一般協定を結び,さらに34年にはカナダとも双務協定に調印し,ドイツとも書翰交換を行なって情報の相互交換を活発化することとした。知識の修得という面では29年以来先進諸国に多くの留学生を派遣,また各種の調査団を送ったり会議に参加したり,あるいは著名な外国人右招へいした。研究用資材としては燃料をはじめ,原子炉,アイソトープ,機器類,ウラン精鉱等の輸入を行なった。
 特に発足後とかく問題が多くて伸び悩んできた国際原子力機関についてはその強化に努力してきたが,国産1号炉用燃料の一部として天然ウラン3tonの供与を受けたいと申し込んだことは,機関のこの面での初めての仕事として歓迎され,また機関最大の使命である保障体制の確立を促す糸口となった。

 ii)海外からの知識や資材の受入れも,あくまでわが国が先進諸国の水準に追いつくための手段である。模倣と追随のみでは真の意味で原子力がわが国に育つ日はこない。かえって先進諸国の単なる試験台か,さもなければ先進諸国にとってよい市場となるにすぎない。
 わが国の原子力の研究開発利用の目標はあくまで原子力基本法に言う「自主的」なものでなければならず,わが国に最もふさわしいものの,独自性あるものの創造でなければならない。たとえば一つの動力炉を建設する場合でも,国全体としての核燃料経済等の上に立つて意味をもつものであることが望ましい。

 iii)次に国内における研究体制としては31年6月特殊法人として日本原子力研究所が設立され,国立,公立の研究機関たると民間の機関たるとを問わず,広く大学から民間企業までを通じ,数多くの研究機関の中心としてこの日本原子力研究所を育て上げていく方針がとられてきた。今後も原子炉等高価な研究設備は原則としてこの研究所に集中して設備し,主として基礎的な研究,先駆的な研究,長期的な研究を期待するとともに広く各方面に解放して共同の利用に供する等,日本原子力研究所中心主義が一貫してとられていくこととなろう。

 iv)原子燃料公社については,核原料の探査から燃料要素の製造,さらに将来は使用済燃料の再処理までの一連の燃料関係事業のうち,民間企業のなしえないような部面や,民間企業が行なうことが不適当であるような事業を国に代って行なわしめる方針である。現にウラン鉱の精査や粗製錬,精製錬の中間工場試験等に先駆的な役割を果しつつあるが,今後は燃料検査技術の確立や,再処理の工業化研究等に進んでいくこととなろう。

 v)民間企業については,原子力の開発に積極的に参加し,その仕事のできるだけ多くのものを民間産業が分担することを期待して,その研究を助成する方針をとっている。しかし上述したように米国において多くの企業が反省期に入り,英国においても産業グループの統合が策されているのに反して,わが国における企業は積極的で海外からの技術導入についても激しい競争的な様相がうかがわれる。これら民間企業の意欲を活かしつつも,過当競争を排して,わが国の原子力開発のテンポに合った健全な原子力産業の発展をはかっていく必要がある。

 vi)原子力の研究開発にあたって最も留意しなければならぬのは,放射線障害の防止である。原子力委員会は当初からこの問題を開発の前提として考え,法制の整備を図ってきたが,今後も放射線障害防止対策は最重要な問題として取り上げていく方針である。そのための具体的な方途としては,放射線に関する諸基準の確立,法令の適確な運用,特に原子炉設置の際の安全審査に万全を期すること,障害防止のための基礎から応用にわたる研究の促進等がある。

 vii)こうした放射線による障害,災害の防止に万全の措置を講じながらも,なおかつ予測しがたい万一の場合に備え,広く国民一般の不安感を除く努力もまた怠ってはならない。その意味において原子炉災害に対する補償対策,原子力開発従業者の災害補償対策,原子力施設周辺の整備対策等は今後原子力開発上不可欠の要件として引き続き検討,確立への努力が払われねばならない。


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