第3章 原子力開発利用の概観
§2 原子力開発利用長期基本計画に関連する諸問題

 わが国における原子力開発利用の基本計画は,2本立になつている。すなわちその一つは長期にわたる基本的かつ総合的な目標,方針等を示す長期基本計画であり,他は長期基本計画の線にそつて各年度ごとに策定される年度基本計画である。
 これらの基本計画はわが国の原子力政策を具体的に示すものとして重要な意義をもつものであり,その策定は原子力委員会の重要な任務となつている。
 原子力委員会においては,諸般の事情を勘案して,まず31年度基本計画を策定する方針を定め,5月31日これを決定した。つづいて長期計画め策定にとりかかり,問題点を摘出して各界の意見を徴し長期基本計画案をとりまとめ9月6日内定の形で発表したのである。
 原子力の開発利用は関連する分野が広い上に,未確定な要素もあるので,長期にわたる基本計画を策定するに当り軽々に定められない問題を内蔵している。しかしこの長期基本計画は原子力開発利用を計画的かつ効率的に推進するために,現在の時点において重要と考えられる次の諸項目について基本的な考え方を明らかにしたものである。
 したがつて内定された長期基本計画は,広い視野からわが国の原子力開発利用の基本的な方針を網羅しているといえる。その原子炉開発目標は,わが国の国情に適する型式の原子炉の国産,最終的には増殖炉の国産に置かれており,これとともに広い範囲で積極的に基礎的な研究開発を推進し,原子力技術の向上を図るという方針が明らかにされているが,との計画の目標の達成に至るまでの開発規模とその速度をいかに策定するかは大きな課題である。
 しかし,わが国においては現在事項別年次別に具体的な計画を策定する段階に立ち至つていないので将来緩急に応じて計画の細目を定めることにしている。その後原子力委員会においてこの問題を検討した結果,上記のごとき目的達成のためにはわが国における将来のエネルギー需給見通しからみても発電用原子炉の開発規模とその速度を明らかにし,そのため必要な燃料の需給,研究の進展の段階等についての見通しを明確に定めることが最も緊要であるとされるに至つた。
 これより先,31年4月電気事業連合会は原子力委員会に対し10年後には45万kW,15年後には280万kWの原子力発電を行うべきことを要望していたが,英国型動力炉による発電コストは採算ベースにのることが示唆されたので,原子力委員会としては英国型原子力発電所の技術的経済的検討を行うために訪英原子力発電調査団を派遣することとした。
 この調査団の報告では英国型発電用動力炉は安全性が大きくまたその発電コストも新鋭火力発電のコストに拮抗し得るもので,わが国に導入するに適したものの一つであると結論を下し,実用規模の動力炉の導入を示唆した。ここにおいて,実験動力炉導入の論議は一転して,実用動力炉の受入れ体制の論争にまで発展するに至つた。
 また一方米国側からは実用規模の加圧水型または沸騰水型の発電用動力炉についても採算性があるとの申入れがあつて,天然ウラン型か濃縮ウラン型かの論争に拍車をかける結果になつた。
 このように原子力発電の問題については発電用動力炉の型,規模等について解決しなければならぬ点が少なくないのみならず,わが国の長期エネルギー需給計画との関連において原子力発電の開発の規模と速度とをいかに考えるかが大きな問題である。これらの問題に一応の見通しをあたえるため原子力委員会においても32年度中に長期基本計画の一環として発電用原子炉開発のための長期計画を策定する予定である。
 このような原子力発電を実現するためには動力炉の輸入にからんで,当然原子力一般協定の問題がクローズアツプされる。前に述べたように研究用原子炉に必要な濃縮ウランは日米原子力研究協定に基き提供されるが,実用はもちろん実験用であつても動力炉に必要な燃料の提供をうけるためには現在の研究協定より幅の広い原子力一般協定を締結することが必要となる。
 わが国としては一般協定により諸外国から直接核燃料の提供を受けるほか,国際原子力機関からも燃料の提供を期待できるが,国産の核原料資源の開発により燃料自給度を向上させることが好ましいことはいうまでもない。この国産核燃料資源の開発については内定した長期基本計画において一般的な方針が打ち出されているが,動力炉の開発と歩調をあわせた核燃料需給のための計画が策定される予定である。
 さらに原子力船については原子力船調査会で,早くからその調査に着手しているが,原子力船の開発は将来わが国の造船および海運にとつて重要な問題であり,わが国としてはなるべく早い機会に船舶用原子炉の実験研究に着手すべきものと考えられるにいたつた。
 なお,将来の問題としては長期基本計画にもとりあげられているように核融合,ウラン濃縮に関する基礎的な調査研究はこれを推進する方針であり,将来は相当規模の試験研究に発展せしめることが考えられている。


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