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はじめに

1. 原子力委員会について

 我が国の原子力の研究、開発及び利用(以下「原子力利用」という。)は、1955年12月19日に制定された原子力基本法(昭和30年法律186号)に基づき、厳に平和の目的に限り、安全の確保を前提に、民主、自主、公開の原則の下で開始されました。同法に基づき、原子力委員会は、国の施策を計画的に遂行し、原子力行政の民主的運営を図るため、1956年1月1日に設置されました。原子力委員会は、様々な政策課題に関する方針の決定や、関係行政機関の事務の調整等の機能を果たしてきました。

2. 原子力委員会の役割の改革

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故(以下「東電福島第一原発事故」という。)を受けて、原子力を巡る行政庁の体制の再編が行われるとともに、事故により原子力を取り巻く環境が大きく変化しました。これを踏まえ、「原子力委員会の在り方見直しのための有識者会議」が2013年7月に設置され、原子力委員会の役割についても抜本的な見直しが行われ、2014年6月に原子力委員会設置法が改正されました。
 その結果、原子力委員会は、関係組織からの中立性を確保しつつ、平和利用の確保等の原子力利用に関する重要事項にその機能の主軸を移すこととなりました。その上で、原子力委員会は、原子力に関する諸課題の管理、運営の視点に重点を置きつつ、原子力利用の理念となる分野横断的な基本的な考え方を定めながら、我が国の原子力利用の方向性を示す「羅針盤」として役割を果たしていくこととなりました。
 求められる役割を踏まえ、2014年12月に新たな原子力委員会が発足し、2021年7月現在、上坂充委員長、佐野利男委員、中西友子委員の3名で活動をしています。新たな原子力委員会では、東電福島第一原発事故の発生を防ぐことができなかったことを真摯に反省し、その教訓を生かしていくとともに、より高い見地から、国民の便益や負担の視点を重視しつつ、原子力利用全体を見渡し、専門的見地や国際的教訓等に基づき、課題を指摘し、解決策を提案し、その取組状況を確認していくといった活動を行っています。

3. 我が国の原子力利用の方向性

 このような役割に鑑み、原子力委員会では、かつて策定してきた「原子力の研究、開発及び利用に関する長期計画」や「原子力政策大綱」のような網羅的かつ詳細な計画を策定しないものの、今後の原子力政策について政府としての長期的な方向性を示唆する羅針盤となる「原子力利用に関する基本的考え方」(以下「基本的考え方」という。)を策定することとしました。
 新たな原子力委員会が発足して以降、東電福島第一原発事故及びその影響や、原子力を取り巻く環境変化、国内外の動向等について、有識者から広範に意見を聴取するとともに、意見交換を行い、これらの活動等を通じて国民の原子力に対する不信・不安の払拭に努め、信頼を得られるよう検討を進め、その中で様々な価値観や立場からの幅広い意見があったことを真摯に受け止めつつ、2017年7月20日に「基本的考え方」を策定しました。さらに、翌21日の閣議において、政府として「基本的考え方」を尊重する旨が閣議決定されました。
 「基本的考え方」では、原子力政策全体を見渡し、我が国の原子力の平和利用、国民理解の深化、人材育成、研究開発等の目指す方向性や在り方を分野横断的な観点から示しています。この中では、特に、東電福島第一原発事故の教訓と反省の上に立ち、安全性の確保を大前提に、国民の理解と信頼を得つつ進めていくことの重要性を改めて強調しました。今後、「基本的考え方」において示した原子力政策の本質的な課題や、幅広い国民の方々の声にもしっかり向き合っていくことで、国民の理解と信頼を得られるよう努めてまいります。


原子力利用に関する基本的考え方

4. 原子力白書の発刊

 原子力委員会が設置されて以来継続的に発刊してきた原子力白書は、東電福島第一原発事故の対応及びその後の原子力委員会の見直しの議論と新委員会の立ち上げを行う中で、約7年間休刊していましたが、我が国の原子力利用に関する現状及び取組の全体像について国民の方々に説明責任を果たしていくことの重要性を踏まえ、2017年から原子力白書の発刊を再開することとしました。令和2年度版原子力白書は、再開後5回目の発刊となります。
 原子力白書では、特集として、年度毎に原子力分野に関連したテーマを設定し、国内外の取組を分析しています。令和2年度版原子力白書の特集では、東電福島第一原発事故から10年の間に行われてきた取組や、福島の復興・再生の状況等を踏まえ、原子力委員会として、全ての原子力関係者が忘れてはならないこと、協働して取り組まなければならないことをまとめています。
 第1章以降では、「基本的考え方」において示唆した長期的な方向性に関する取組状況のフォローアップとして、「基本的考え方」の構成に基づき、福島の着実な復興・再生の推進、事故の教訓を真摯に受け止めた安全性向上や安全文化確立に向けた取組、2050年カーボンニュートラル実現等への貢献に向けた原子力のエネルギー利用、核燃料サイクル、国際連携、平和利用の担保、核セキュリティの確保、核軍縮・核不拡散体制、信頼回復に向けた情報発信やコミュニケーション、東電福島第一原発等の廃止措置、放射性廃棄物の処理・処分、放射線・放射性同位元素の利用、研究開発・原子力イノベーションの推進、人材育成といった原子力利用全体の現状や継続的な取組等の進捗について俯瞰的に説明しています。
 なお、本書では、原則として2021年3月までの取組等を記載しています。ただし、一部の重要な事項については、2021年7月までの取組等も記載しています。
 今後も継続的に原子力白書を発行し、我が国の原子力に関する現状及び国の取組等について国民に対し説明責任を果たしていくとともに、原子力白書や原子力委員会の活動を通じて、「基本的考え方」で指摘した事項に関する原子力関連機関の取組状況について原子力委員会自らが確認し、専門的見地や国際的教訓等を踏まえつつ指摘を行うなど、必要な役割を果たせるよう努めてまいります。



原子力委員会委員長談話1

令和3年3月9日

 東北地方を中心に未曾有の被害をもたらした東日本大震災により、かけがえのない多くの命が失われました。犠牲となられた方々とご遺族に対し、改めて深く哀悼の意を表します。また、東京電力福島第一原子力発電所の事故の被災者を含め、多くの方が現在も避難生活を続けられていることを忘れてはなりません。

 震災から10年が経過する中、被災地の復興の取組が進められてきており、避難指示区域の解除が進む一方で、未だ帰還困難区域も残され、避難生活の継続により不自由な生活を強いられている方や、故郷を離れるとの苦渋の決断をされた方も大勢おられます。原子力関係者は、このような事故による悲惨な事態を防ぐことができなかったことを真摯に反省するとともに、原子力利用に対する国民の不信・不安が払拭できていないことを念頭に置きつつ、事故から得られた教訓を生かして、原子力安全を最優先課題として取り組んでいく必要があります。

 国内外の原子力を取り巻く環境は大きく変化しています。昨年10月、2050年までに温室効果ガス排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルの実現を目指すことを菅総理が表明しました。原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢の一つであることを踏まえると、安全を最優先に活用されていくことが求められます。また、このためには、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえて、更なる安全性を追求していく観点、そして、知識・技術の継承の観点から、原子力人材の育成・確保がますます重要となってきています。

 原子力委員会は、平成29年7月に、東京電力福島第一原子力発電所の事故の教訓、専門的知見、国際的教訓等を踏まえた視点から、原子力政策についての長期的な方向性を示唆する「原子力利用に関する基本的考え方」を策定しました。原子力委員会は、この考え方に基づき、毎年度「原子力白書」を刊行して関係者の取組のフォローアップを行うとともに、様々な決定や見解を発出してまいりましたが、今後も国民との信頼関係の構築や安全を最優先とした取組に向けて、責務を果たしてまいります。


  1. 東日本大震災及び東電福島第一原発事故から10 年を迎えるに当たって発出したもの。


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