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8-2 研究開発・イノベーションの推進

 第5次エネルギー基本計画や統合イノベーション戦略2020においては、原子力について、安全性・信頼性・効率性の一層の向上に加えて、再生可能エネルギーとの共存、水素製造や熱利用等の多様な社会的要請の高まりも見据えた原子力関連技術のイノベーションを促進するという観点の重要性が挙げられています。その上で、2050年に向けて、人材・技術・産業基盤の強化に直ちに着手し、安全性・経済性・機動性に優れた炉の追求、バックエンド問題の解決に向けた技術開発を進めていくとしています。
 これらやグリーン成長戦略3に基づき、原子力関係機関による連携や国際協力により、基礎的・基盤的なものから実用化を見据えたものまで様々な研究開発・技術開発が推進されています。


(1) 基礎・基盤研究から実用化までの原子力イノベーション

 原子力は実用段階にある脱炭素化の選択肢であり、2050年カーボンニュートラル実現に向けて、国、研究開発機関、大学、企業等が連携し、基礎・基盤研究から実用化に至るまでの中長期的な視点に立って、軽水炉の安全性向上に向けた研究開発に加え、高速炉、小型モジュール炉(SMR)、高温ガス炉、核融合等に関する研究開発等を推進しています(図8-3)。また、人的・資金的資源を分担し、成果を共有する国際的な枠組みで進めることが合理的であるという認識の下、国際協力の枠組みを活用した研究開発も進めています。


安全性・経済性等の向上に向けた原子力イノベーションの推進

図8-3 安全性・経済性等の向上に向けた原子力イノベーションの推進

(出典)第35回総合資源エネルギー調査会基本政策分科会資料1 資源エネルギー庁「2050年カーボンニュートラルの実現に 向けた検討」(2020年)


 原子力に関する基礎的・基盤的な研究開発は、主に原子力機構、量研、大学等で実施されています。原子力機構は、我が国における原子力に関する総合的研究開発機関として、核工学・炉工学研究、燃料・材料工学研究、環境・放射線工学研究、先端基礎研究、高度計算科学技術研究等、原子力の持続的な利用と発展に資する基礎的・基盤的研究等を担っています。量研は、量子科学技術についての基盤技術から重粒子線がん治療や疾病診断研究等の応用までを総合的に推進するとともに、これまで国立研究開発法人放射線医学総合研究所が担ってきた放射線影響・被ばく医療研究についても引き続き実施しています。
 また、文部科学省と資源エネルギー庁は、開発に関与する主体が有機的に連携し、基礎研究から実用化に至るまで連続的にイノベーションを促進することを目指し、2019年4月にNEXIP(Nuclear Energy × Innovation Promotion)イニシアチブを立ち上げました。同イニシアチブでは、文部科学省の「原子力システム研究開発事業」と経済産業省の「原子力の安全性向上に資する技術開発事業」及び「社会的要請に応える革新的な原子力技術開発支援事業」について、原子力機構の研究基盤等も活用しながら相互に連携することにより、原子力イノベーションの創出を目指しています(図8-4)。なお、「原子力システム研究開発事業」については、2020年度に事業の見直しが行われ、多様な社会的要請の高まりを見据えた原子力関連技術のイノベーション創出につながる新たな知見の獲得や課題解決を目指し、原子力技術を支える戦略的な基礎・基盤研究を推進することを目的として実施されています。


NEXIPイニシアチブにおける各事業の位置付け

図8-4 NEXIPイニシアチブにおける各事業の位置付け

(出典)第2回科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会原子力研究開発・基盤・人材作業部会資料1-1 文部科学省「原子力イノベーションの実現に向けた研究開発事業の見直しについて」(2019年)


(2) 軽水炉利用に関する研究開発

 1950年代、1960年代には様々な炉型の数十基の試験炉が建設されました。これらのうち、水により中性子を減速・冷却する軽水炉は、最も多く建設され利用されてきた炉型です。2019年末時点では、世界で運転中の443基の原子炉のうち軽水炉は365基で、発電設備容量では約89%を占めています(図8-5)。今もなお、原子力発電の主流は軽水炉によるものであり、世界の多くの国で継続的に利用され、新規建設も行われています。
 我が国では、再稼働している原子力発電所、再稼働を目指している原子力発電所、建設中の原子力発電所は、全て軽水炉です(第2章 図2-4)。地球温暖化対策に貢献しつつ安価で安定的に電気を供給できる電源として、これらの軽水炉を長期的に有効利用していくためには、安全性、信頼性、効率性の一層の向上が求められます。そのため、高経年化対策、稼働率向上、発電出力の増強、安全性向上4、過酷事故対策5、建設期間の短縮、建設性の向上、セキュリティ対策等の様々な課題に対応するための研究開発が、関係機関の連携により引き続き実施されています。


世界の原子力発電所における各炉型の割合(2019年末時点)

図8-5 世界の原子力発電所における各炉型の割合(2019年末時点)

(出典)IAEA「Nuclear Power Reactors in the World 2020 Edition」(2020年)に基づき作成


(3) 高温ガス炉に関する研究開発

 高温ガス炉は、冷却材として化学的に安定なヘリウムガスを利用しており、万が一冷却材がなくなるような事故が起きても自然に炉心が冷却されるという固有の安全性を有する原子炉です。また、900℃を超える高温の熱を供給することが可能であり、発電のみならず、水素製造を含む多様な産業利用についても期待されています。グリーン成長戦略では、高温工学試験研究炉(HTTR)を活用し、安全性の国際実証に加え、2030年までに大量かつ安価なカーボンフリー水素製造に必要な要素技術の確立を目指すとされています。


① 高温工学試験研究炉(HTTR)

 HTTR(図8-6)は、我が国初かつ唯一の高温ガス炉であり、高温ガス炉の基盤技術の確立を目指してデータを取得・蓄積しています。1998年に初臨界を達成した後、2010年3月に定格出力3万kW、原子炉出口冷却材温度約950℃での50日間の連続運転を実現しました。原子力機構は、2020年6月に原子力規制委員会から新規制基準への適合性に係る設置変更許可を取得し、2021年7月頃の運転再開を目指して作業を進めています。また、950℃の熱供給能力を有効利用できる水素製造技術(熱化学法IS6プロセス)の開発を進めています。


高温工学試験研究炉(HTTR)

図8-6 高温工学試験研究炉(HTTR)

(出典)原子力機構高温ガス炉研究開発センター「高温工学試験研究炉(HTTR)の概要」


② 高温ガス炉研究開発に関する日・ポーランド協力

 2017年5月、日・ポーランド外相会談における「日・ポーランド戦略的パートナーシップに関する行動計画」への署名を受け、原子力機構は、ポーランド国立原子力研究センターと「高温ガス炉技術に関する協力のための覚書」を締結しました。さらに、両者は2019年9月に「高温ガス炉技術分野における研究開発協力のための実施取決め」に署名し、研究データ共有等による研究協力の範囲で、高温ガス炉の設計研究、燃料・材料研究、原子力熱利用の安全研究等の協力を実施しています。


③ 高温ガス炉研究開発に関する日英協力

 2019年7月に経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省による「日本国経済産業省と英国ビジネス・エネルギー・産業戦略省との間のクリーンエネルギーイノベーションに関する協力覚書」への署名を受け、原子力機構は、2020年10月に英国国立原子力研究所(NNL7)と締結している包括的な技術協力取決めを改定し新たに「高温ガス炉技術分野」を追加するとともに、同年11月には英国原子力規制局(ONR)と高温ガス炉の安全性に関する情報交換のための取決めを締結しました。これにより、開発と規制の両輪で、英国との高温ガス炉開発の協力体制が強化されています。


(4) 高速炉に関する研究開発

 高速の中性子を減速せずに利用する高速炉及びそのサイクル技術(高速炉サイクル技術)は、使用済燃料に含まれるプルトニウムを燃料として再利用する技術です。原子力関係閣僚会議が策定した戦略ロードマップでは、①競争を促し、様々なアイディアを試すステップ、②絞り込み、支援を重点化するステップ、③今後の開発課題及び工程について検討するステップ、の3つのステップに大きく区分して研究開発を進めていく計画が示されており、2023年末頃までの当面5年間程度は、これまで培った技術・人材を最大限活用し、民間によるイノベーションの活用による多様な技術間競争を促進するとしています8


① 高速実験炉原子炉施設(「常陽」)

 「常陽」は、我が国初の高速増殖炉であり、高速炉の実用化のための技術開発や燃料・材料の開発に貢献しています。1977年の初臨界以来、累積運転時間約70,798時間、累積熱出力約62.4億kWh9に達しており、588体の運転用燃料、220体のブランケット燃料及び101体の試験燃料等を照射し、高速炉炉心での燃料集合体や燃料ピンの安全性と照射特性を明らかにしてきました。運転再開に向けて、原子力機構は、2017年3月に新規制基準への適合性審査に係る設置許可申請を行いました。2021年3月末時点で、原子力規制委員会において審査が進められています。


② 高速増殖原型炉もんじゅ

 「もんじゅ」については、「もんじゅ」の取扱いに関する政府方針において、廃止措置へ移行するとともに、「もんじゅ」サイトを活用して新たな試験研究炉を設置することで、今後の高速炉研究開発における新たな役割を担うよう位置付けることとされました。2017年6月、政府は「『もんじゅ』の廃止措置に関する基本方針」を策定し、この方針に基づき、原子力機構が「『もんじゅ』の廃止措置に関する基本的な計画」を策定しました。同計画では、策定から約5年半での燃料体取出し作業の終了を目指し、廃止措置作業をおおむね30年で完了するとしています。2018年8月に燃料体の炉外燃料貯蔵槽から燃料池への移送が開始され、2019年9月からは燃料体の炉心から炉外燃料貯蔵槽への移送が実施されています。
 「もんじゅ」サイトに設置する新たな試験研究炉の炉型については文部科学省において調査・検討が進められ、西日本における原子力分野の研究開発・人材育成の中核的拠点の形成及び地元振興への貢献の観点から、中性子ビーム利用を主目的とした中出力炉とする方針が2020年9月に示されました。これを受け、試験研究炉の概念設計及び運営の在り方の検討を実施するため、中核的機関(原子力機構、京都大学、福井大学)、学術界、産業界、地元関係機関等からなるコンソーシアムが構築され、2021年3月に開催された第1回コンソーシアム委員会では利用ニーズに関する意見交換等が行われました。


③ 高速炉開発に関する日仏協力

 2014年5月、日仏両政府は、フランスのナトリウム冷却高速炉の実証炉開発計画である第4世代ナトリウム冷却高速炉実証炉(ASTRID10)計画及びナトリウム冷却炉の開発に関する一般取決めを締結し、日仏間の研究開発協力を開始しました。その後、フランスにおける高速炉の研究開発方針の見直しを踏まえ、2019年6月、日仏政府間で、高速炉研究開発の枠組みについて定めた新たな取決めが締結されました。また、2019年12月には、原子力機構、三菱重工業株式会社、三菱FBRシステムズ株式会社、フランスの原子力・代替エネルギー庁(CEA11)及びフラマトム社の間で、ナトリウム冷却高速炉開発の協力に係る実施取決めが締結されました。2020年1月から、同取決めの下でシミュレーションや実験に基づく協力を実施しています。


④ 高速炉開発に関する日米協力

 米国では、高速炉の多目的試験炉(VTR)の建設を検討中です。2019年6月、日米政府間でVTR計画への研究協力に関する覚書が締結され、安全に関する研究開発等の協力が進められています。


(5) 小型モジュール炉(SMR)に関する研究開発

 小型モジュール炉(SMR)は、プレハブ住宅に代表されるモジュール建築の手法を取り入れ、規格化したユニットを工場生産し、現地で組み上げる原子炉です。炉心が小さいため、システムのシンプル化を通じた信頼性向上や避難区域縮小、モジュール生産による工期短縮での初期投資コスト削減を図れることが期待されています。グリーン成長戦略では、海外の実証プロジェクトとの連携により、2030年までにSMR技術の実証を目指すとしています。
 NEXIPイニシアチブでは、SMRに関する研究開発・技術開発も行われています。また、米国ニュースケール社(図8-7)を始めとして、英国、カナダ等でSMRの実証プロジェクトが進められており、その一部には我が国の企業も参画しています。


ニュースケール社が開発を進めるSMRの概要

図8-7 ニュースケール社が開発を進めるSMRの概要

(出典)第23回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会資料5 資源エネルギー庁「原子力人材・技術・産業基盤の維持・強化について」(2021年)


(6) 核融合に関する研究開発

 核融合エネルギーは、軽い原子核同士(重水素、三重水素)が融合してヘリウムと中性子に変わる際、質量の減少分がエネルギーとなって発生するものです。将来的かつ長期的な安定供給が期待されるエネルギー源として、「原型炉研究開発ロードマップについて(一次まとめ)」(2018年7月)等を踏まえ、量研、大学共同利用機関法人自然科学研究機構核融合科学研究所と大学等が相互に連携・協力して段階的に研究開発を推進しています。また、グリーン成長戦略では、ITER(国際熱核融合実験炉)計画等の国際連携を通じた核融合研究開発を着実に推進し、21世紀中葉までに核融合エネルギー実用化の目処を得ることを目指すとされています。
 ITER計画は、核融合エネルギーの科学的、技術的実現性を確立することを目指す国際共同プロジェクトであり、日本、欧州、米国、ロシア、中国、韓国及びインドの7極により進められています(図8-8)。2025年運転開始(ファーストプラズマ)、2035年核融合運転開始を目標としてサン・ポール・レ・デュランス(フランス)において建設作業が行われており、日本製の超伝導コイルを始め各極から機器が納入され、2020年夏に核融合炉の組立てが開始されました。我が国では量研が国内機関となっており、ITER機構(本部:フランス)との調達取決めに基づき、超伝導コイル等の高い技術を必要とする主要機器等の製作を担当するなど、ITER計画の推進に大きな役割を担っています。


ITERの概要

図8-8 ITERの概要

(出典)ITER ORGANIZATIONウェブサイト


 また、幅広いアプローチ(BA12)活動は、ITER計画を補完・支援するとともに、核融合原型炉に必要な技術基盤を確立することを目的とした先進的研究開発プロジェクトであり、日欧協力により我が国で実施しています。我が国では量研が実施機関となっており、青森県六ヶ所村にある六ヶ所核融合研究所では、核融合原型炉に必要な高強度材料の開発を行う施設の設計・要素技術開発のほか、核融合原型炉の概念設計及び研究開発並びにITERでの実験を遠隔で行うための施設の整備を進めています。さらに、茨城県那珂市にある那珂核融合研究所では、2020年3月末に組立てが完了した先進超伝導トカマク装置JT-60SAを用いて、核融合原型炉建設に求められる安全性・経済性等のデータの取得や、ITERの運転や技術目標達成を支援・補完するための取組等を進めるため、運転開始に向けた準備を進めています。
 上記プロジェクトのほか、IAEAやIEAの枠組みでの多国間協力、米国、欧州等との二国間協力も推進しています。これらの協力を通じて、ITERでの物理的課題の解決のために国際トカマク物理活動(ITPA13)で実施されている装置間比較実験へ参加するとともに、協力相手国の装置での実験に参加しています。


(7) 第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)

 第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF14)は、「持続可能性」、「経済性」、「安全性・信頼性」及び「核拡散抵抗性・核物質防護」の開発目標の要件を満たす次世代の原子炉概念を選定し、その実証段階前までの研究開発を国際共同作業で進めるためのフォーラムです。2021年3月末時点で、13か国と1機関(アルゼンチン、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、フランス、日本、韓国、ロシア、南アフリカ、スイス、英国、米国及びユーラトム)が参加しています15。第4世代原子力システムに求められている達成目標を満足させ、2030年代以降に実用化が可能と考えられる6候補概念(ガス冷却高速炉、溶融塩炉、ナトリウム冷却高速炉(MOX燃料、金属燃料)、鉛冷却高速炉、超臨界圧水冷却炉、超高温ガス炉)を対象に、多国間協力で研究開発を推進するとともに、経済性、核拡散抵抗性・核物質防護及びリスク・安全性についての評価手法検討ワーキンググループで横断的な評価手法の整備を進めています。


(8) 原子力革新2050(NI2050)イニシアチブ

 原子力革新2050(NI162050)イニシアチブは、原子力エネルギーが低炭素エネルギーミックスにおいて重要な役割を果たすこと、新たな原子力技術を開発及び商用化するに当たりイノベーションが必要であることを踏まえ、OECD/NEAが開始した活動です。原子炉システム、燃料サイクル、廃棄物、廃止措置、発電以外への活用等、幅広い技術領域を対象にしており、2050年を念頭に置いた将来のロードマップを策定しています。2020年8月には、OECD/NEA、IEA、IAEAの3機関による共同プロジェクトの成果として、原子力が直面する課題に対する革新的な原子力技術の取組に関する報告書が公開されました。



  1. 第2章2-1(5)「地球温暖化対策と原子力」を参照。
  2. 第1章1-2(2)②「原子力安全研究」を参照。
  3. 第1章1-3(2)「過酷事故に関する原子力安全研究」を参照。
  4. Iodine-sulfur
  5. National Nuclear Laboratory
  6. 第2章2-2(2)⑨「高速炉に関する検討状況」を参照。
  7. 発電設備を有しないため電気出力はなく、熱出力のみ。
  8. Advanced Sodium Technological Reactor for Industrial Demonstration
  9. Commissariat a l'energie atomique et aux energies alternatives
  10. Broader Approach
  11. International Tokamak Physics Activity
  12. Generation IV International Forum
  13. ただし、アルゼンチンとブラジルは「第四世代の原子力システムの研究及び開発に関する国際協力のための枠組協定」に未署名。
  14. Nuclear Innovation



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