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第8章 原子力利用の基盤強化

8-1 研究開発に関する基本的考え方と関係機関の役割・連携

 原子力エネルギーが安定的な電力供給や2050年カーボンニュートラル実現に貢献するためにも、事故炉の廃炉や放射性廃棄物の処理・処分等の困難な課題を解決していくためにも、研究開発を推進することは重要です。東電福島第一原発事故の反省・教訓、原子力を取り巻く環境の変化、国際動向等を踏まえ、政府や研究開発機関は研究開発計画を策定・推進するとともに、適切なマネジメント体制の構築に向けた取組を行っています。
また、科学的知見や知識の収集・体系化・共有により、知識基盤の構築を進めるため、原子力関係組織における分野横断的・組織横断的な連携・協働に向けた取組も進められています。


(1) 研究開発に関する基本的考え方

 2016年度から2020年度までを対象とする「第5期科学技術基本計画」(2016年1月閣議決定)では、エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化のため、安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発を推進し、さらに、将来に向けた重要な技術である核融合等の革新的技術、核燃料サイクル技術の確立に向けた研究開発にも取り組むとしてきました。同基本計画に基づき、文部科学省は2017年2月に「研究開発計画」を策定し(2017年8月最終改訂)、文部科学省として重点的に推進すべき研究開発の取組及びその推進方策について取りまとめました。この中で、原子力科学技術は国家戦略上重要な科学技術として位置付けられており、研究開発目標として、安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発を推進し、将来に向けた革新的技術の確立に向けた研究開発に取り組むことが掲げられました。また、革新的なエネルギー技術の開発として、核融合エネルギーの実現に向けた研究開発に取り組むことが示されました。
 また、2021年3月に閣議決定された、2021年度から2025年度までを対象とする「第6期科学技術・イノベーション基本計画」においては、カーボンニュートラルの実現に向けて、多様なエネルギー源の活用等のための研究開発・実証等を推進するため、エネルギー基本計画等を踏まえ、原子力、核融合等に関する必要な研究開発や実証、国際協力を進めるとしています。第5次エネルギー基本計画では、過酷事故対策を含む軽水炉の一層の安全性・信頼性・効率性向上に資する技術の開発、水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれ、固有の安全性を有する高温ガス炉等の安全性の高度化に貢献する技術開発、原子力利用の安全性・信頼性・効率性を抜本的に高める新技術等の開発を進めるとともに、このような取組を支えるため、人材育成や研究開発等に必要な試験研究炉の整備を含め、産学官の垣根を越えた人材・技術・産業基盤の強化を進めるとしています。また、核融合エネルギーの実現に向けた取組を長期的視野に立って着実に推進することや、放射性廃棄物の減容化・有害度低減や、安定した放射性廃棄物の最終処分に必要となる技術開発等を進めることも示されています。
 原子力利用に関する基本的考え方では、知識基盤や技術基盤、人材といった基盤的な力は原子力利用を支えるものであり、その強化を図るとともに、原子力関連機関の自らの役割に応じた人材育成や基礎研究を推進することを、原子力利用のための基盤強化に関する基本目標として位置付けています。
 「技術開発・研究開発に対する考え方」(2018年6月原子力委員会決定)では、原子力エネルギーは、地球温暖化防止に貢献しつつ、安価で安定に電気を供給できる電源として役割を果たすことが期待できるとした上で、軽水炉の再稼働を進め、長期に安定、安全に利用できるように努力すること、多様な選択肢と戦略的な柔軟性を維持しつつ、技術開発・研究開発の実施に際しては実用化される市場や投資環境を考慮することが重要であるとしています。このような考え方を踏まえ、政府、国立研究開発機関及び産業界の各ステークホルダーの果たすべき役割を示しています(表8-1)


表 8-1 技術開発・研究開発に対する考え方において示された関係機関の役割
政府の役割 政府は長期的なビジョンを示し、その基盤となる技術開発・研究開発のサポートをする役割を担うべきであり、新たな「補助スキーム」の構築が必要である。このスキームは、新たな炉型の研究開発との位置付けではなく、民間が技術開発・研究開発を経て原子力発電方式を決定・選択するための支援をするものと位置付ける必要がある。予算補助の在り方も技術の成熟度や利用目的等に応じて補助の割合を考えるべきである。
国立研究開発機関のあるべき役割 国立研究開発機関が行う研究開発とは、本来、知識基盤を整備するための取組であり、今後は一層、民間による技術開発・研究開発の努力を支援する役割が期待される。知識基盤を企業等関係者ともしっかり共有することによって、ニーズに対応した研究開発が可能になり、効率化がもたらされるだけでなく、イノベーションの基盤が構築でき、重層的な我が国の原子力の競争力強化につながると考えられる。
産業界のあるべき役割 産業界は、電力市場が自由化された中で国民の便益と負担を考え、安価な電力を安全かつ安定的に供給するという原点を考える必要がある。こうした視点から、今後何を研究開発し、どの技術を磨いていくべきかの判断を自ら真剣に行い、相応のコスト負担を担い、民間主導のイノベーションを達成すべきである。

(出典)原子力委員会「技術開発・研究開発に対する考え方」(2018年)に基づき作成


(2) 原子力機構の在り方

 原子力機構は、2019年10月に将来ビジョン「JAEA 2050 +」を公表し、原子力機構が将来にわたって社会に貢献し続けるために、2050年に向けて何を目指し、そのために何をすべきかを取りまとめました。2020年11月には「イノベーション創出戦略改定版」を公表し、「JAEA 2050 +」に示した「新原子力」の実現に向けて、イノベーションを持続的に創出する組織に変革するための10年後の在るべき姿と、それを達成するために強化すべき取組の方針を提示しています(図8-1)。


原子力機構が目指す「新原子力」の実現(左)とそのための在るべき姿(右)

図8-1 原子力機構が目指す「新原子力」の実現(左)とそのための在るべき姿(右)

(出典)原子力機構「イノベーション創出戦略改定版の概要」(2020年)


 文部科学省の原子力研究開発・基盤・人材作業部会では、原子力機構の中長期目標・計画が2022年度から改定されることを踏まえ、今後の原子力機構の在り方についての検討を行っています。検討事項案として、業界や大学と連携し、戦略性をもった機動的な研究開発を進めるためにどのような取組を行うべきか、我が国全体の原子力の研究開発・人材育成の基盤を支える観点からどのような役割を果たすべきか、という2つの観点が挙げられています。これらを念頭に、2021年2月に、原子力機構に期待する役割や成果、原子力機構において維持・高度化すべき施設・設備やその利活用の在り方等について、関係機関からのヒアリングが実施されました。


(3) 原子力関係組織の連携による知識基盤の構築

 原子力利用の基盤強化において、新技術を市場に導入する事業者と、技術創出に必要な新たな知識や価値を生み出す研究開発機関や大学との連携や協働は重要です。しかし、我が国の原子力分野では分野横断的・組織横断的な連携が十分とはいえず、科学的知見や知識も組織ごとに存在している状況です。このような現状を踏まえ、原子力委員会は、原子力利用に関する基本的考え方において、原子力関連機関がそれぞれの役割を互いに認識し尊重し合いながら情報交換や連携を行う場を構築し、科学的知見や知識の収集・体系化・共有により厚い知識基盤の構築を進めるべきであると指摘しました。「軽水炉長期利用・安全」、「過酷事故・防災1」、「廃止措置・放射性廃棄物2」の3つのテーマで、産業界と研究機関等の原子力関係機関による連携プラットフォーム(図8-2)が立ち上げられており、重要な研究開発テーマの抽出、技術向上、専門人材の育成等につながることが期待されます。
 軽水炉長期利用・安全プラットフォームの下には、更に「燃料プラットフォーム」が設置されています。フェーズ1(2018年10月から2020年3月まで)では、軽水炉燃料に関する国内外の研究開発状況の調査・整理、研究開発課題の抽出と産業界の立場からの重要度評価が実施され、2020年5月にフェーズ1の報告書が取りまとめられました。2020年度から2022年度は、フェーズ2として、フェーズ1で抽出した研究開発課題についてのロードマップ検討等を進めています。


原子力関係組織の連携プログラム

図8-2 原子力関係組織の連携プログラム

(出典)第14回原子力委員会資料第2-1号 原子力委員会「『原子力利用の基本的考え方』のフォローアップ~原子力関係組織の連携・協働の立ち上げ~」(2018年)に基づき作成




  1. 第1章1-3(3)「過酷事故プラットフォーム」を参照。
  2. 第6章6-3(4)「廃止措置・放射性廃棄物連携プラットフォーム(仮称)」を参照。



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