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第6章 廃止措置及び放射性廃棄物への対応

6-1 東電福島第一原発の廃止措置

 東電福島第一原発の廃炉は、汚染水・処理水対策、使用済燃料プールからの燃料取り出し、燃料デブリ取り出し等の作業からなり、「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ」(以下「中長期ロードマップ」という。)に基づいて進められています。汚染水を浄化した処理水については、地元や全国の関係者からの意見を伺うなどしながら、処分方針を決定しました。
 また、中長期にわたる廃止措置を遂行するためには、廃炉を支える技術の向上や、それらを担う人材の確保・育成を行うことも重要です。国や原子力関係機関は、国際社会に開かれた形で情報発信や協力を行いながら、廃炉に関する技術開発、研究開発、研究者や技術者等の人材育成、研究施設の整備等を進めています。


(1)東電福島第一原発の廃止措置等の実施に向けた基本方針等

 中長期ロードマップでは、東電福島第一原発の具体的な廃止措置の工程・作業内容、作業の着実な実施に向けた、研究開発から実際の廃炉作業までの実施体制の強化や、人材育成・国際協力の方針等が示されています。また、現場の状況等を踏まえて継続的に見直すこととされており、2019年12月に5回目の改訂が行われました(図6-1)。これに基づき、「復興と廃炉の両立」を大原則とし、国も前面に立ち、安全かつ着実に取組が進められています。


中長期ロードマップ(2019年12月27日改訂)の目標工程及び進捗

図6-1 中長期ロードマップ(2019年12月27日改訂)の目標工程及び進捗

(出典)第5回原子力委員会資料第1号 廃炉・汚染水対策チーム事務局「福島第一原発の廃炉・汚染水対策の進捗と今後の取組について」(2021年)


 原子力損害賠償・廃炉等支援機構は、中長期ロードマップに技術的根拠を与え、その円滑・着実な実行や改訂の検討に資することを目的として、2015年以降毎年「東京電力ホールディングス(株)福島第一原子力発電所の廃炉のための技術戦略プラン」(以下「戦略プラン」という。)を策定しています。2020年10月に公表された戦略プラン2020では、2019年12月の中長期ロードマップの改訂により示された新たな目標工程を踏まえ、特に、燃料デブリ取り出しの更なる規模拡大に向けて、取り出し方法の重要な要求事項の抽出、安全確保の考え方の明確化、研究開発の管理体制の強化等が特徴的に記載されています。
 原子力規制委員会は、2012年11月から特定原子力施設監視・評価検討会1を開催し、東電福島第一原発の監視・評価や同原発における放射性物質の安定的な管理に係る課題について検討を行っています。また、東電福島第一原発の廃止措置に関する目標を示すため、「東京電力福島第一原子力発電所の中期的リスクの低減目標マップ」(2015年2月策定、2021年3月最終改訂。以下「リスク低減目標マップ」という。)を策定し、リスク低減目標マップに従って廃炉・汚染水対策が計画的に実施されていることを確認しています。
 東京電力は2020年3月、中長期ロードマップやリスク低減目標マップに掲げられた目標を達成するため、廃炉全体の主要な作業プロセスを示す「廃炉中長期実行プラン2020」を策定しました。廃炉作業の今後の見通しについて地元住民や国民に丁寧に分かりやすく伝えるとともに、作業の進捗や課題に応じて同実行プランを定期的に見直しながら、廃炉を計画的に進めていくとしています。
 なお、東電福島第一原発の廃炉・汚染水対策に関する体制は、図6-2のとおりです。


東電福島第一原発廃炉・汚染水対策の役割分担(2020年度)

図6-2 東電福島第一原発廃炉・汚染水対策の役割分担(2020年度)

(出典)原子力損害賠償・廃炉等支援機構「福島第一原子力発電所廃炉・汚染水対策の役割分担図」


(2)東電福島第一原発の状況と廃炉に向けた取組

① 汚染水・処理水対策

 東電福島第一原発では、燃料デブリが冷却用の水と触れることや、原子炉建屋内に流入した地下水や雨水が汚染水と混ざること等により、新たな汚染水が発生しています。そのため、「東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針」(2013年9月原子力災害対策本部決定)に基づき、「汚染源を取り除く」、「汚染源に水を近づけない」、「汚染水を漏らさない」という三つの基本方針に沿って、様々な汚染水対策が複合的に進められています(図6-3)。


様々な汚染水対策

図6-3 様々な汚染水対策

(出典)資源エネルギー庁スペシャルコンテンツ「汚染水との戦い、発生量は着実に減少、約3分の1に」(2019年)


 「汚染源を取り除く」対策として、複数の浄化設備により汚染水の浄化を行っています。ストロンチウム除去装置で浄化した処理水については、多核種除去設備(ALPS)による再浄化が進められ、2020年8月には日々の水処理に必要な運用タンクを除く貯留タンク分の処理がおおむね完了しました。2020年9月以降は、トリチウム以外の告示濃度比総和が1以上の水をもう一度ALPSで浄化する二次処理の性能確認試験を実施し、同年12月にはトリチウム以外の告示濃度比総和を1未満まで低減できることを確認しました。また、日々発生する汚染水の浄化等にも継続的に取り組んでいます。さらに、政府としてALPS処理水の取扱い方針を決定するため、2020年2月に「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」が取りまとめた報告書も踏まえ、地元自治体等の関係者との意見交換等を実施し、同年10月の廃炉・汚染水対策チーム会合において風評対策や国内外への情報発信の在り方等の論点について検討を行いました2。こうした経緯で、2021年4月13日、廃炉・汚染水・処理水対策関係閣僚等会議においてALPS処理水の処分に関する基本方針が決定され、各種法令等を厳格に遵守するとともに、風評影響を最大限抑制する対応を徹底することを前提に、ALPS処理水の海洋放出を行う方針が示されました3。さらに、同基本方針に定められた対策を、政府が一丸となって、スピード感を持って着実に実行していくため、「ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議」が新設されました。
 「汚染源に水を近づけない」対策は、汚染水発生量の低減を目的として、建屋への地下水等の流入を抑制するものです。建屋山側の高台で地下水をくみ上げ海洋に排水する地下水バイパス、建屋周辺で地下水をくみ上げ浄化処理後に海洋へ排水するサブドレン、周辺の地盤を凍結させて壁を作る陸側遮水壁(凍土壁)等の取組が行われています。こうした予防的・重層的な対策を進めたことにより、汚染水の発生量は、対策前の約540㎥/日(2014年5月)に対し、2020年の実績では約140㎥/日まで低減され、中長期ロードマップにおける目標工程「汚染水発生量を150㎥/日程度に抑制」を達成しました。また、近年国内で頻発している大規模な降雨に備え、2022年の台風シーズン前までに豪雨リスクの解消を図るため、2021年2月から新たな排水路整備に向けた準備工事に着手しています。
 「汚染水を漏らさない」対策としては、海洋への流出をせき止める海側遮水壁、護岸エリアで地下水をくみ上げる地下水ドレン、信頼性の高い溶接型の貯水タンクへの置き換え等の取組が実施されています。また、建屋滞留水の漏えいリスクを低減するため1~4号機建屋水位を順次引き下げており、2020年12月に中長期ロードマップにおける目標工程「1~3号機原子炉建屋、プロセス主建屋、高温焼却炉建屋を除く建屋内滞留水処理完了(2020年内)」を達成し、最下階床面より低い水位を維持する運用が開始されました。1~3号機原子炉建屋については、2022年度から2024年度内までに建屋滞留水を2020年末の半分程度に低減する計画です。プロセス主建屋及び高温焼却炉建屋については、建屋滞留水の中に高線量の土嚢が残置されているため、まずは土嚢を回収した後で滞留水を処理するという対応方針が2021年1月に確認され、土嚢取り出しの工法の絞り込みが進められています。
 「汚染源に水を近づけない」と「汚染水を漏らさない」の両面から、津波の建屋流入に伴う建屋滞留水の増加と流出を防止すること等を目的に、防潮堤の設置が進められています。2020年度内に千島海溝津波防潮堤の補強工事が進められ、2021年度から2023年度にかけて日本海溝津波防潮堤の新設が行われる予定です。また、5、6号機の建屋滞留水を一時貯留するために活用されていたメガフロート(人工島)については、津波により漂流して周辺設備を損傷させるリスクを低減するため、2020年8月に着底工事が完了しました。
 5、6号機放水口北側付近における海水中の放射性物質濃度の推移は、図6-4のとおりです。2011年3月以降、放射性物質濃度が下がっていることが分かります。


5、6号機放水口北側付近における放射性物質濃度の推移

図6-4 5、6号機放水口北側付近における放射性物質濃度の推移

(出典)原子力規制庁「福島近傍・沿岸の海水の放射性物質濃度の推移」


② 使用済燃料プールからの燃料取り出し

 事故当時に1~4号機の使用済燃料プール内に保管されていた燃料は、リスク低減のため、各号機の使用済燃料プールから取り出しを行い、敷地内の共用プール等において適切に保管することとしています。
 1号機は、燃料取り出しプランについて工法の見直しも含め検討が進められた結果、オペレーティングフロア作業中のダスト対策の更なる信頼性向上や雨水の建屋流入抑制の観点から、原子炉建屋を覆う大型カバーを設置し、カバー内でガレキ撤去を行う案が選択されました(図6-5左)。2020年11月に使用済燃料プール等へのガレキ落下防止・緩和対策が完了し、同年12月からは残置されている建屋カバーの解体工事が進められています。2021年度上期から大型カバーの設置工事に着手し、その後、2027年度から2028年度に燃料取り出しを開始し、2年程度をかけて取り出し完了を目指すとされています。
 2号機では、空間線量が一定程度低減していると判明していることや燃料取扱設備の小型化検討を踏まえ、ダスト飛散をより抑制するため、建屋を解体せず建屋南側に構台を設置してアクセスする工法が採用されています(図6-5右)。2024年度から2026年度に燃料取り出しを開始し、2年程度をかけて取り出し完了を目指すとされています。
 3号機使用済燃料プールに保管されていた燃料については、2021年2月に全566体の取り出しが完了しました。また、4号機使用済燃料プールからの燃料取り出しは、2014年12月に完了しました。


1号機(左)及び2号機(右)における燃料取り出し工法の概要

図6-5 1号機(左)及び2号機(右)における燃料取り出し工法の概要

(出典)第86回廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議資料3-2 東京電力「1号機使用済燃料取り出しに向けた大型カバーの検討状況について」(2021年)、第87回廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議資料3-2 東京電力「2号機燃料取り出しに向けた検討状況及び作業の進捗について」(2021年)に基づき作成


③ 燃料デブリ取り出し

 1~3号機では、事故により溶融した燃料や原子炉内構造物等が冷えて固まった「燃料デブリ」が、原子炉格納容器内の広範囲に存在していると推測されています。燃料デブリ取り出しに向け、遠隔操作機器・装置等を用いた原子炉格納容器内部の調査により、燃料デブリの分布、堆積物の性状や分布、線量等の状況把握が進められています。2020年10月には、2号機格納容器貫通孔内の堆積物への接触調査及び3Dスキャン測定が実施され、砂状等の堆積物の形状は接触により変化すること、残置されているケーブルは固着しておらず持ち上がること等が確認されました(図6-6)。1号機では、原子炉格納容器内部に調査装置を投入するための準備作業等が進められています。また、廃炉の進捗とともに、1~3号機原子炉格納容器内の堆積物等のサンプル取得が徐々に可能になってきており、サンプル中の微粒子の組成や結晶構造等の化学的特性の分析が進められています。


2号機格納容器貫通孔内の堆積物への接触調査の結果

図6-6 2号機格納容器貫通孔内の堆積物への接触調査の結果

(出典)第84回廃炉・汚染水対策チーム会合/事務局会議資料3-3 東京電力「2号機PCV内部調査及び試験的取り出しの準備状況X-6ペネ内堆積物調査の結果」(2020年)


 中長期ロードマップでは、2021年内に2号機で試験的取り出しに着手し、段階的に規模を拡大するとされています。これに向けて英国との協力により進めている試験的取り出し装置の開発については、新型コロナウイルス感染症の影響により遅延が見込まれることから、作業工程を一部見直し、遅延を最小限に抑えられるよう対応が行われています。


④ 廃棄物対策

 事故により、ガレキや水処理二次廃棄物等の固体廃棄物が発生しています。また、今後の燃料デブリ取り出しに伴い、燃料デブリ周辺の撤去物、機器等が廃棄物として発生します。これらは、破損した燃料に由来する放射性物質を含むこと、海水成分を含む場合があること、対象となる物量が多く汚染レベルや性状の情報が十分でないこと等、既往の原子力発電所の廃炉作業で発生する放射性廃棄物と異なる特徴があります。
 戦略プラン2020では、廃棄物対策における当面の目標は、「①当面10年間程度に発生する固体廃棄物の物量予測を定期的に見直しながら、発生抑制と減容、モニタリングを始め、適正な保管管理計画の策定・更新とその遂行を進める」、「②性状把握から処理・処分に至るまで一体となった対策の専門的検討を進め、2021年度頃までを目途に、固体廃棄物の処理・処分方策とその安全性に関する技術的な見通しを示す」こととしています。目標①に関し、東京電力は、2020年7月に「固体廃棄物の保管管理計画」の4回目の改訂を行い、ガレキや水処理二次廃棄物の発生量実績や発生量予測値の更新、施設設計及び工事進捗の反映、記載の適正化を行いました。屋外の一時保管エリアに保管されている固体廃棄物については、遮へい・飛散抑制機能を備えた設備を導入し、可能な限り減容した上で建屋内保管へ集約していく方針としています。これにより、中長期ロードマップの目標工程「2028年度内までに、水処理二次廃棄物及び再利用・再使用対象を除く全ての固体廃棄物の屋外での保管を解消」を達成する見通しが示されています。


⑤ 作業等環境改善

 長期に及ぶ廃炉作業の達成に向けて、高度な技術、豊富な経験を持つ人材を中長期的に確保するため、モチベーションを維持しながら安心して働ける作業環境を整備することが重要です。作業環境の改善に向けて、法定被ばく線量限度の遵守に加え、可能な限りの被ばく線量の低減、労働安全衛生水準の不断の向上等の取組が行われています。多くの作業員が作業するエリアから順次、表土除去、天地返し、遮へい等の線量低減対策を実施しており、2020年度下半期の線量状況確認では、1~4号機周辺(図6-7)や構内主要道路の線量低下が確認されています。


1~4号機周辺の平均線量率の推移及び線量分布

図6-7 1~4号機周辺の平均線量率の推移及び線量分布

(注)平均線量率、線量分布ともに、胸元高さ(地表面から1mの高さ)の測定値。線量分布は30mメッシュ。
(出典)第89回廃炉・汚染水・処理水対策チーム会合/事務局会議資料4-6-5 東京電力「福島第一原子力発電所構内の線量 状況について」(2021年)に基づき作成


 また、定期的に、東電福島第一原発の全作業員(東京電力の社員を除く)を対象とした、労働環境の改善に向けたアンケートが実施されています。2020年8月から9月にかけて実施された第11回アンケートについては、新型コロナウイルス感染拡大防止対策を含む労働環境に対する評価、放射線に対する不安、東電福島第一原発で働くことに対するやりがい等の様々な項目に関する要望や意見を踏まえ、同年12月に改善の方向性やスケジュールが取りまとめられました。


(3)廃炉に向けた研究開発、人材育成及び国際協力

① 廃炉に向けた研究開発

 国、民間企業、研究開発機関、大学等が実施主体となり、廃炉研究開発連携会議の下で連携強化を図りつつ、基礎・基盤から実用化に至る様々な研究開発が行われています。
 経済産業省は、東電福島第一原発の廃炉・汚染水対策に係る技術的難度の高い研究開発のうち、国が支援するものについて研究開発を補助する「廃炉・汚染水対策事業」を実施しており、原子炉格納容器内の内部調査技術や、燃料デブリ取り出しに関する基盤技術、取り出した燃料デブリの収納・移送・保管に関する技術等の開発を進めています。
 文部科学省は、「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」(以下「英知事業」という。)を実施しており、原子力機構の廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)を中核とし、国内外の多様な分野の知見を融合・連携させることにより、中長期的な廃炉現場のニーズに対応する基礎的・基盤的研究及び人材育成を推進しています。
 原子力機構は、CLADSを中心として、国内外の研究機関等との共同による基礎的・基盤的研究を進めています。また、廃炉に関する技術基盤を確立するための拠点整備も進めており、遠隔操作機器・装置の開発・実証施設(モックアップ施設)として「楢葉遠隔技術開発センター」(図6-8)を運用しています。また、燃料デブリや放射性廃棄物等の分析手法、性状把握、処理・処分技術の開発等を行う「大熊分析・研究センター」は、2018年3月に一部施設の運用を開始しており、同センターを活用した分析実施体制の構築に向けて第1棟及び第2棟の整備を進めています。


楢葉遠隔技術開発センターにおけるVRシステムによる東電福島第一原発原子炉建屋内のシミュレーション

図6-8 楢葉遠隔技術開発センターにおけるVRシステムによる東電福島第一原発原子炉建屋内のシミュレーション

(出典)原子力機構楢葉遠隔技術開発センター「VR室」


② 廃炉に向けた人材育成

 東電福島第一原発の廃炉には30年から40年を要すると見込まれており、中長期的かつ計画的に、廃炉を担う人材を育成していく必要があります。
 東京電力は、廃炉事業に必要な技術者養成の拠点として「福島廃炉技術者研修センター」を設置し、地元人材の育成に取り組んでいます。
 文部科学省は、英知事業の一部として「研究人材育成型廃炉研究プログラム」を実施し、原子力機構を中核として大学や民間企業と緊密に連携し、将来の廃炉を支える研究人材育成の取組を推進しています。
 原子力機構は、学生の受入制度の活用等を通じた人材育成を実施しています。また、CLADSを中心に、国内外の大学、研究機関、産業界等の人材交流ネットワークを形成しつつ、研究開発と人材育成を一体的に進める体制を構築しています。
 技術研究組合国際廃炉研究開発機構は、同機構の研究開発成果の報告及び若手研究者や技術者の育成を目的として、シンポジウムを開催しています。


③ 国際社会との協力

 東電福島第一原発事故を起こした我が国としては、国際社会に対して透明性を確保する形で情報発信を行い、事故の経験と教訓を共有するとともに、国際機関や海外研究機関等と連携して知見・経験を結集し、国際社会に開かれた形で廃炉等を進め、国際社会に対する責任を果たしていかなければなりません。また、廃炉作業の進捗や得られたデータ等を積極的に発信することは、福島の状況に関する国際社会の正確な理解の形成に不可欠です。
 我が国は、毎年秋に開催されるIAEA総会において事故後の我が国の取組を紹介するなど、IAEAに対して定期的に東電福島第一原発に関する包括的な情報を提供し、IAEAとの協力関係を構築しています。グロッシーIAEA事務局長は、2020年2月に東電福島第一原発を訪問し、同原発の廃炉の取組は「体系的かつ周到」であり、多核種除去設備等処理水の処分方法の選択肢は国際慣行に沿っているとの認識を示しました。同年4月には、IAEAにより、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」報告書等に対するフォローアップレビュー報告書が取りまとめられました。同報告書においてIAEAは、日本政府が処理水の処分方法を公表した際には、放射線安全に係る支援のフレームワークを日本政府と協力して構築する用意があるとしています。我が国は、同年9月のIAEA第64回総会4において、処理水の取扱いについては同レビュー報告書の助言も踏まえ検討し、IAEAの支援を得つつしっかりと取り組み、丁寧かつ透明性をもって国際社会に説明していく旨を示しました。さらに、2021年4月13日、ALPS処理水の処分に関する基本方針の公表を受けてグロッシー事務局長はビデオメッセージを発表し、我が国が選択した方法は技術的に実現可能であり国際慣行にも沿っているとの認識を改めて述べました。
 IAEAを通じた取組に加え、原子力発電施設を有する国の政府や産業界等の各層との協力関係を構築しており、継続的に情報交換を行っています。各国の在京大使館向けには、廃炉・汚染水対策の現状について累次にわたってブリーフィングを行っており、2020年度は4月及び10月にブリーフィングを実施しました。さらに、英語版動画やパンフレット等の説明資料を作成し、IAEA総会サイドイベントや要人往訪の機会等、様々なルートで海外に向けて情報を発信するとともに、経済産業省のウェブサイト5にも掲載しています。
 また、廃炉作業に伴い得られたデータも活用し、必要な技術開発等を進めるため、様々な国際共同研究が進められています。経済産業省の廃炉・汚染水対策事業や文部科学省の英知事業では、海外の研究機関や企業等との協力による取組が実施されています。英知事業の「国際協力型廃炉研究プログラム」の枠組みでは、2020年度は英国、ロシアとの二国間共同研究が行われました。また、原子力機構のCLADSでは、海外からの研究者招へい、海外研究機関との共同研究を実施しており、国際的な研究開発拠点の構築を目指しています。OECD/NEAの共同研究プロジェクト「燃料デブリの分析に関する予備的研究(PreADES6)プロジェクト」では、原子力機構の主導により、燃料デブリの分析に関する知見や方法論を向上させるために必要な情報収集等が行われています。


コラム ~身の回りのトリチウムの存在と取扱い~

 トリチウムとは、水素の放射性同位体で、一般的な水素と同様に酸素と結合して水分子(トリチウム水)を構成します。トリチウムは、宇宙から地球へ降り注いでいる放射線(宇宙線)と地球上の大気が反応することにより自然に発生するため、トリチウム水の形で自然界にも広く存在し、大気中の水蒸気、雨水、海水、水道水、人の体内にも含まれます。
 トリチウムは放射線の一種であるβ線を出しますが、エネルギーが小さく、紙一枚で遮ることができます。この弱いβ線は服や皮膚を通過できないため、体の外にある放射性物質から人が影響を受ける外部被ばくは、トリチウムではほとんど発生しません。一方、空気中の水蒸気として吸い込んだり、水道水として飲み込んだりすることにより、私たちは日常生活の中でトリチウムを体内に取り込んでいます。現在の研究では、トリチウム水は普通の水と同様に体外へ排出され、体内に蓄積されていくことはないと見られています。
 トリチウムは、原子力発電所の運転や使用済燃料の再処理でも発生します。トリチウム水は普通の水と同じ性質を持つため、トリチウム水だけを分離・除去することは非常に困難です。そのため、原子力発電所や再処理施設で発生したトリチウムは、過去40年以上にわたり各国の規制基準を遵守して海洋や大気等に排出されています。我が国では、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告に沿って規制基準が定められています。
 東電福島第一原発の汚染水の浄化により発生するALPS処理水にも、トリチウムが含まれます。同処理水の処分に関する基本方針では、規制基準等の科学的な観点だけでなく、風評影響等の社会的な観点も含めた対応が示されています。


トリチウム関連図説

(出典)経済産業省「ALPS処理水について(福島第一原子力発電所の廃炉対策)」(2021年)




  1. 2015年10月から特定原子力施設放射性廃棄物規制検討会で行われていた東電福島第一原発における廃棄物の管理に係る検討についても、2019年2月以降は特定原子力施設監視・評価検討会にて実施。
  2. 第5章5-4(3)「東電福島第一原発の廃炉に関する取組」を参照。
  3. https://www.meti.go.jp/earthquake/nuclear/hairo_osensui/alps_policy.pdf
  4. 第3章コラム「~IAEA総会~」を参照。
  5. https://www.meti.go.jp/english/earthquake/nuclear/decommissioning/index.html
  6. Preparatory Study on Analysis of Fuel Debris


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