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1-4 原子力分野の構造的特性を踏まえた安全性向上への対応

 東電福島第一原発事故後、原子力行政体制や規制基準の見直し、原子力関係事業者等の自主的な安全性向上に関する取組等が進められています。しかし、規制基準を満たせば事故が起きないという誤解を再び生まないためにも、国や原子力関係事業者等の原子力関連機関の関係者は常に緊張感を持って不断の安全性向上に取り組むとともに、従来の日本的組織や国民性の弱点を克服した安全文化を確立していくことが不可欠です。そのため、原子力規制委員会及び原子力事業者等における安全文化醸成の取組が進められています。


(1)安全神話からの脱却と安全文化の醸成

 IAEAでは、安全文化を「全てに優先して原子力施設等の安全と防護の問題が取り扱われ、その重要性に相応しい注意が確実に払われるようになっている組織、個人の備えるべき特性及び態度が組み合わさったもの」としています[100]
 2016年にOECD/NEAが取りまとめた規制機関の安全文化に関する報告書においても、安全文化に国民性が影響を及ぼすという指摘がある [51]ように、国民性は価値観や社会構造に組み込まれており、個人の仕事の仕方や組織の活動にも影響を及ぼすと考えられます。我が国においては、特有の思い込み(マインドセット)やグループシンク(集団思考や集団浅慮)、多数意見に合わせるよう暗黙のうちに強制される同調圧力、現状維持志向が強いことが課題の一つとして考えられます[1]
 国や原子力関係事業者等の原子力関連機関の関係者は、国民や地方公共団体等のステークホルダーの声に耳を傾け、不断の安全性向上に取り組むとともに、従来の日本的組織や国民性の良いところは生かしつつ、一方で上記のような弱点を克服した安全文化を確立していくことが不可欠です。

① 原子力規制委員会における取組
 2016年に実施されたIAEAの総合規制評価サービス(IRRS)ミッションでは、規制行政のマネジメントシステムについて、高いレベルの安全を達成するため、問いかける姿勢を養うなど、安全文化の向上を継続して強化することが必要であると指摘されました。そのため、原子力規制委員会は「原子力規制委員会マネジメントシステムに関する改善ロードマップ」(2016年11月原子力規制委員会決定)を策定し、安全文化の醸成のための取組を進めています。
 IAEAのIRRSミッションでは「人的及び組織的要因を設計段階で体系的に考慮することの要求」が課題として提示されたことから、原子力規制委員会は、安全のためのリーダーシップとマネジメントに関するIAEAの安全要件[101]を踏まえ、安全文化及び原因分析に係るそれぞれのガイドの策定に着手しました。両ガイドは、安全文化及び原因分析に係る規則の要求事項を審査や検査で確認する際に用いられるものです[102]
 両ガイド案は事業者による試運用を経て、2019年9月26日から10月25日まで意見募集が実施されました。原子力規制庁は、意見募集の結果を踏まえて修正したガイドを2020年4月1日より施行しました[103]
 なお、2020年1月に行われたIRRSフォローアップミッションでは、規制の取組に関しIAEAの専門家チームによる評価が行われました[104]

② 原子力事業者等における取組
 原子力発電所においては、原子炉等規制法と、民間規格である原子力安全のためのマネジメントシステム規定JEAC4111-2013に基づいて安全文化醸成の活動が行われています。同規格は、新検査制度の運用開始、新品質基準制定を踏まえ、改訂の検討が進められています。
 また、原子力事業者等が自主的・継続的に安全性向上に取り組み、その時点での世界最高水準の安全性(エクセレンス)を追求していくために2012年に設置された自主規制組織である一般社団法人原子力安全推進協会(JANSI)は、安全文化推進セミナー等の活動を行っています。2019年には4回のセミナーが開催されました。2019年5月23、24日に開催された第12回セミナー(基礎編)では、「組織における安全文化を創続するリーダーシップ力の強化」をテーマに、講師による情報提供や、受講者による職場の課題分析と情報交換が行われました[105]。研修の終了時には受講者が職場で実践する行動目標を設定し、10月10日、11日に開催された第12回セミナー(フォローアップ編)において、その実践に対する職場の同僚、部下たちからの評価についての情報共有と分析が行われました(図1-15)[106]


図1-15 第12回安全文化セミナー(フォローアップ編)での受講者による情報交換(グループワーク)の様子

(出典)一般社団法人原子力安全推進協会「第12回安全文化セミナー(フォローアップ編)を実施しました」 [106]





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