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1-2 福島事故の教訓を真摯に受け止めた不断の安全性向上

 国会事故調及び政府事故調の提言を受けて、原子力行政体制の見直しや、過酷事故対策等を盛り込んだ新規制基準の制定等による原子力安全対策の強化が図られました。
 原子力規制委員会は、安全の確保の事務を一元的に実施し、国民の安全を最優先とした活動に取り組んでいます。また、国内外の最新知見を踏まえた規制の継続的な改善に取り組んでいます。2017年4月には「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」(昭和32年法律第166号。以下「原子炉等規制法」という。)の改正法が成立し、原子力事業者等が安全確保の水準の維持・向上に主体的に取り組む意識・意欲を高めるため、検査制度が見直されることとなりました。試運用を経て、2020年度から新たな検査制度の本格運用が開始されました。


(1)原子力安全対策に関する基本的枠組み

① 原子力安全対策に関する枠組み


1)国際的な動向
 東電福島第一原発事故は国際社会に大きな影響を与え、事故を受けて、国際機関や諸外国においては、原子力安全を強化するための取組が進められています。
 IAEAが2011年6月の「原子力安全に関するIAEA閣僚会議」において取りまとめた「原子力安全に関する閣僚宣言 [48]を基に「原子力安全に関するIAEA行動計画」が策定され、同年9月の第55回IAEA年次総会で承認されました [49]。この原子力安全行動計画に従って、IAEA加盟国は自国の原子力安全の枠組みを強化するための様々な取組を実施しています。また、IAEAは原子力利用に際して高い安全性を確保するために参照すべき安全基準文書(安全原則、安全要件、安全指針)を策定していますが、ほとんどの安全要件が、東電福島第一原発事故の教訓を踏まえて改訂されました [50]
 OECD/NEAは、各国の規制機関が今後取り組むべき優先度の高い事項を示しています [7][8] 。特に、原子力の安全確保においては、人的・組織的要素や安全文化の醸成が重要であるとし、OECD/NEA加盟国による継続的な安全性向上の取組を支援しています [51]
 米国や欧州諸国においても、事故の教訓を踏まえ、より一層の安全性向上に向けた追加の安全対策の検討や導入を進めています。例えば米国では、事故直後に米国原子力規制委員会(NRC30)に設置された短期タスクフォースの勧告 [52][53]に基づき、規制の見直しや、電気事業者に対する安全性強化措置の要請を進めています。EU31では、事故直後に域内の原子力発電所に対してストレステスト(耐性検査)を行うとともに、2009年に採択された原子力安全に関するEU指令が2014年7月に改定され、EU全体での原子力安全規制に関する規則が強化されました [54]


2)国の役割
 IAEAの安全基準文書を構成する安全原則では、政府の役割について「独立した規制機関を含む安全のための効果的な法令上及び行政上の枠組みが定められ、維持されなければならない」とされています。
 我が国では、東電福島第一原発事故の反省を踏まえ、規制組織の独立性の担保や縦割り行政の弊害の解消のため、原子力行政体制が見直され、原子力規制委員会が発足しました。原子力規制委員会は、「原子力に対する確かな規制を通じて、人と環境を守ること」を組織理念として、独立性、実効性、透明性、向上心と責任感、緊急時即応に関する5つの活動原則を掲げています [55]。また、行動規範や外部有識者の選定に係る要件を定め、組織の中立性の確保に努めています [56][57]。さらに、委員会の各種会合は原則として内容を公開するなど、情報公開を徹底し、意思決定プロセスの透明性の確保を図っています。
 原子力規制委員会は、国内外の多様な意見に耳を傾け、孤立と独善を戒めることを活動原則の一つとしています。原子力規制委員会は、外部とのコミュニケーションにも取り組んでおり、規制活動の状況や改善等に関して、原子力事業者、地元関係者等との意見交換等を行っています [58][59][60][61]。また、IAEA及びOECD/NEA等の国際機関や諸外国の原子力規制機関との連携・協力を通じ、我が国の知見、経験を国際社会と共有することに努めています [62]


3)原子力事業者等の役割
 IAEAの安全原則では、「安全のための一義的な責任は、放射線リスクを生じる施設と活動に責任を負う個人又は組織が負わなければならない」と規定し、安全確保の一義的な責任は原子力事業者等にあるとしています。
 原子力事業者等は、新規制基準で採用されている「深層防護」の考え方に基づき、安全確保のための措置を講じています。また、新規制基準に対応するだけでなく、最新の知見を踏まえつつ、安全性向上に資する措置を自ら講じる責務を有しています。このような自主的かつ継続的な安全性向上の取組については、第1章1-5「ゼロリスクはないとの認識の下での安全性向上への不断の努力」に記載しています。


② 原子力安全規制に関する法的枠組みと規制の実施


1)新規制基準の導入と原子力安全規制の継続的な改善
 東電福島第一原発事故後、2012年の原子炉等規制法の改正により、その目的に、国民の 健康の保護、環境の保全等が追加されました。また、2012年の改正後の原子炉等規制法では、原子力安全規制の強化のため、(1)重大事故対策の強化、(2)許可済み原子力施設に対して最新の技術的知見を踏まえた新たな規制基準が定められた場合の当該基準への適合の義務付け(バックフィット制度の導入)、(3)運転期間延長認可制度の導入(運転可能期間を、最初の使用前検査合格日から起算して40年とする。ただし、原子力規制委員会が認可した場合は、1回に限り20年を限度に延長可能とする)、(4)発電用原子炉施設に関する規制の原子炉等規制法への一元化等が新たに規定されました。
 この改正を受け、最新の技術知見、IAEA安全基準を含む各国の規制動向等を取り入れて、2013年7月に、実用発電用原子炉施設の新規制基準が施行されました。同様に、同年12月には核燃料施設等の新規制基準が施行されました [63]。新規制基準は、地震や津波等の自然災害や火災等への対策を強化するとともに、万一重大事故が発生した場合に対する十分な準備等を要求しています。また、意図的な航空機の衝突等のテロリズムに対処する施設の整備等についての規定が新設されました [64]。2019年10月には、テロリズム以外による重大事故等発生時にも特定重大事故等対処施設を用いて対処するために必要な事項を定めること等が求められるようになりました [65]
 自然災害のうち地震については、安全上重要な施設が「基準地震動による地震力」によって、その安全機能が損なわれるおそれがないかを確認しています。「基準地震動」とは、施設に大きな影響を及ぼすおそれがある地震に伴って生じる揺れのことを指し、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、敷地周辺の地質構造や地盤構造等に基づき策定されます。なお、津波についても、地震と同様に「基準津波」による波力等を用い、安全上重要な施設の安全機能が損なわれるおそれがないかを確認しています。さらに、火山・竜巻・森林火災についても想定を大幅に引き上げた上で防護対策を要求しています。例えば火山については、原子力発電所の半径160km圏内の火山を調査し、火砕流等の設計対応不可能な火山事象の可能性を評価するとともに、敷地周辺で確認された火山灰層厚から火山灰の影響を評価し、あらかじめ防護措置を講じることを要求しています。
 また、原子力規制委員会は、国内外における最新の技術的知見や動向を考慮して、規制の継続的な改善にも取り組んでいます。2016年1月には、IAEAが加盟国の原子力規制に関する法制度や組織等についてIAEA安全基準に照らして総合的なレビューを行う総合規制評価サービス(IRRS32)を受け入れました。これにより、検査と執行、放射線源規制・放射線防護及び人材育成・確保等の課題が指摘され [66] [67]、2020年1月には、これらの課題への対応状況等のレビューを行う IRRS フォローアップミッションを受け入れました。
 IRRS フォローアップミッションの最終報告書は2020年3月に日本政府へ提出され、2016年に指摘された課題の多くが改善されていると評価されました。一方で、統合マネジメントシステムの実施及び従事者の放射線防護に対する規制の強化や、放射性物質輸送における緊急時対応措置の定期的な訓練や検査の拡大が勧告されています [68]

2)原子炉等規制法等に基づく規制の実施

イ)実用発電用原子炉施設に係る規制
 実用発電用原子炉施設については、原子力規制委員会が、原子炉等規制法に基づき、設計・建設段階、運転段階の各段階の規制を行っています。設計・建設段階では、まず、電気事業者が設備の設計方針について記した原子炉設置(変更)許可申請を原子力規制委員会に提出します。これを受け、原子力規制委員会は設置許可基準規則等に定められた技術基準に適合しているかを審査し、原子炉の設置(変更)の許可について判断します。設置(変更)許可を受けた電気事業者は、設備の詳細な設計内容を示した工事計画について、原子力規制委員会に認可申請を行います。電気事業者は、工事の各工程において、設計及び工事の計画との適合性や技術基準との適合性を確認する使用前事業者検査を行い、原子力規制検査でその状況を確認します。また、運転開始に当たっては、原子力発電所の運転の際に実施すべき事項や、従業員の保安教育の実施方針等原子力発電所の保安に関する基本的な事項を定めた保安規定の審査・認可を行います。2020年3月時点で16基が設置変更許可を受けており、そのうち9基が再稼働しています33
 2019年度の新規制基準適合性に係る審査では、東北電力株式会社女川原子力発電所2号機について、原子力規制委員会により設置変更の許可がなされました [69]。また、原子力規制委員会は2019年6月に原子炉等規制法に基づき、関西電力株式会社高浜発電所、大飯発電所及び美浜発電所について、基本設計ないし基本的設計方針の変更を命じました [70]。これは、既に許可されていた大山火山の噴火規模に係る想定が、新知見により基準を満たしていないと判明したことによるものであり、バックフィットを適用したものです。運転段階では、電気事業者による「定期事業者検査」が行われ、さらに原子力規制委員会は原子力規制検査を通じて、技術基準への適合性をはじめ、事業者の安全活動におけるパフォーマンスを監視します。なお、発電用原子炉設置者は、運転に関する主要な情報については定期的に、事故や故障等のトラブルについては直ちに、原子力規制委員会に報告することとされています。

ロ)核燃料施設等に係る規制
 原子炉等規制法に基づき、製錬施設、加工施設、試験研究用等原子炉施設、使用済燃料貯蔵施設、再処理施設、廃棄物埋設施設、廃棄物管理施設、使用施設等に対する規制が行われています。これらの施設は、取り扱う核燃料物質の形態や施設の構造が多種多様であることから、それぞれの特徴を踏まえた基準を策定する方針が採られています。これらの施設についても新規制基準への適合性審査が進められています。

(2)原子力安全対策に関する最近の取組

① 新規制基準を踏まえた安全対策に関する取組
 原子力事業者の自主的な安全性向上の取組を促進するために、原子炉等規制法では、定期的に施設の安全性の向上のための評価(以下「安全性向上評価」という)を行い、その結果を原子力規制委員会に届け出ることを事業者に義務付けています。2019年度には関西電力株式会社高浜発電所3号機及び大飯発電所3号機、四国電力株式会社伊方発電所3号機、九州電力株式会社玄海原子力発電所3号機の安全性向上評価が届け出されました。
 また、2019年8月には、日本原子力発電株式会社敦賀発電所2号機における屋外重要施設の配置等が見直されました。これは、2019年4月に地震動評価を見直した結果、基準地震動が引き上げられたことへの対策であり、重大事故等発生時の安全性を向上させるためのものです [71]

② 検査制度の見直しに関する取組
 2016年に実施されたIAEAのIRRSチームによる検査制度への勧告や提言 [66]を踏まえ、検査制度の見直しが進められています。検査制度見直しに係る考え方として、原子力施設の安全確保に一義的責任を有する原子力事業者等自らが、安全確保のための取組を適切に実施し、その取組について評価・改善し、規制は安全上重要な事項に焦点を当て、検査官が監視・評価を行うこととしています。
 新たな検査制度の2020年度実運用開始に向け、2018年10月1日から2020年3月31日にかけて試運用が実施されました。試運用フェーズ1(2018年10月1日から2019年3月31日)では、新検査制度に係る文書類の現場活用における問題点の抽出・改善、各検査ガイドの所要時間の適正化、新検査制度における検査活動に対する経験の蓄積を狙いとした検査が実施されました [72]。試運用フェーズ2(2019年4月1日から2019年9月30日)では、フェーズ1での課題を是正しつつ、本格運用に限りなく近い状況を模擬して試運用を実施・検証しました。その一環として、関西電力株式会社大飯発電所及び東京電力柏崎刈羽原子力発電所を代表プラントとしてチーム検査が実施されるとともに、大飯発電所については、フェーズ2終了後、総合的な評定が実施されました [73] [74]。試運用フェーズ3(2019年10月1日から2020年3月31日)では、本格運用直前であることを考慮し、本格運用と同等なプロセスに従った検査、サンプル数の適正化、ほとんどの原子力施設を対象としたチーム検査等が実施されました [75]。また、いずれの試運用でも、原子力規制庁と原子力事業者が定期的に状況を共有するとともに、公開会合や現場において議論が行われました [76]。これらのスムーズな検査の導入に向けた取組を経て、本格運用が開始されました。


③ 原子力安全研究
 原子力規制委員会では、「規制基準等の整備に活用するための知見の収集・整備」、「審査等の際の判断に必要な知見の収集・整備」、「規制活動に必要な手段の整備」、「技術基盤の構築・維持」等を目的として、安全研究を実施しています。原子力規制委員会は、2019年7月に発表した「今後推進すべき安全研究の分野及びその実施方針(令和2年度以降の安全研究に向けて)」において、横断的原子力安全(外部事象、火災防護、人的組織的要因)、原子炉施設(リスク評価、シビアアクシデント(軽水炉)、熱流動・核特性、核燃料、材料・構造、特定原子力施設)、核燃料サイクル・廃棄物(核燃料サイクル施設、放射性廃棄物埋設施設、廃止措置・クリアランス)、原子力災害対策・放射線規制等(原子力災害対策、放射線規制・管理、保障措置・核物質防護)、技術基盤の構築・維持の5つのカテゴリーについて2020年度以降の安全研究プロジェクトの概要を示しています [77]
 原子力機構や国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(以下「量研」という。)では、IAEA等の国際機関及び諸外国の研究機関と連携し、安全研究を実施しています。具体的には、事故時の燃料破損挙動や原子炉冷却に係る現象把握、材料・構造安全性、核燃料施設の過酷事故の発生可能性、燃料デブリ等の臨界34安全、放射性廃棄物管理、リスク評価・放射線安全・防災研究、保障措置、核不拡散に関する研究等を行っています。
 経済産業省では、東電福島第一原発以外の廃止措置を含めた軽水炉の安全技術・人材の維持・発展のため、国、原子力事業者、学会等の関係者が担うべき役割や各課題の優先度を明確化した「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」(2015年6月自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ、2017年3月改訂) [78]の優先度に基づく研究開発を「原子力の安全性向上に資する共通基盤整備のための技術開発委託費」事業において推進しています [79]


  1. Nuclear Regulatory Commission
  2. European Union
  3. Integrated Regulatory Review Service
  4. 詳細は、第2章2-1(1)②「我が国の原子力発電の状況」を参照。
  5. 原子核分裂の連鎖反応が一定の割合で継続している状態のこと。


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