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第1章 福島の着実な復興・再生と教訓を真摯に受け止めた不断の安全性向上

1-1 福島の着実な復興・再生の推進と教訓の活用

 東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「東電福島第一原発」という。)の事故は、福島県民をはじめ多くの国民に多大な被害を及ぼし、これにより、我が国のみならず国際的にも、原子力への不信や不安が著しく高まり、原子力政策に大きな変動をもたらしました。放射線リスクへの懸念等を含むこうした不信・不安に対して真摯に向き合い、その軽減に向けた取組を一層進めていくとともに、事故の発生を防止できなかったことを反省し、国内外の諸機関が取りまとめた事故の調査報告書の指摘等を含めて、得られた教訓を生かしていくことが重要です。
 また、事故から9年が経過した現在も、多数の住民の方々が避難を余儀なくされ、一部食品の出荷制限が継続する等、事故の影響が続いています。福島の復興・再生に向けて全力で取り組み続けることは重要であり、引き続き以下のような取組が進められています。

  • 東電福島第一原発の廃炉と事故状況の究明
  • 放射性物質に汚染された廃棄物の処理施設、中間貯蔵施設の整備と、廃棄物や除去土壌等の輸送、貯蔵、埋立処分等
  • 避難指示の解除と、避難住民の方々の早期帰還に向けた安全・安心対策、事業・生業の再建や風評被害対策等の生活再建に向けた支援への取組
  • 福島イノベーション・コースト構想をはじめとした、復興・再生に向けた取組

(1)東電福島第一原発事故の調査・検証

① 東電福島第一原発事故に関する調査報告書
 事故後、国内外の諸機関が事故の調査・検証を行い、多くの提言等を取りまとめ、事故査報告書として公表してきました(表1-1) [1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

表1-1 東京電力福島原子力発電所事故に関する主な事故調査報告書
報告書名 発行元 発行年月

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会報告書

東京電力福島原子力発電所事故調査委員会

2012年7月

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会最終報告

東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会

2012年7月

福島原子力事故調査報告書

東京電力株式会社(現東京電力ホールディングス株式会社)

2012年6月

福島原発事故独立検証委員会調査・検証報告書

福島原発事故独立検証委員会

2012年2月

福島第一原子力発電所事故
その全貌と明日に向けた提言
学会事故調 最終報告書

一般社団法人日本原子力学会

2014年3月

The Fukushima Daiichi Accident Report by the Director General

国際原子力機関(IAEA1

2015年8月

The Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident: OECD/NEA Nuclear Safety Response and Lessons Learnt

経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA2

2013年9月

Five Years after the Fukushima Daiichi Accident: Nuclear Safety Improvement and Lessons Learnt

経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)

2016年2月


 国会に設置された「東京電力福島原子力発電所事故調査委員会」(以下「国会事故調」という。)の報告書では、表1-2に示す7つの提言が出されました [1]。 提言を受けて政府が講じた措置については、毎年、国会への報告書の提出が義務付けられており、政府は年度ごとに報告書を取りまとめ、国会に提出しています3。2019年度に政府が講じた主な措置は、2020年6月に閣議決定された「令和元年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」に取りまとめられています(表1-3)。
 政府に設置された「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」(以下「政府事故調」という。)の報告書においても、表1-4に示す7つの提言が出されました [2]。 政府は、これらの提言を受けて講じた措置についても、年度ごとに報告書を取りまとめています。

表1-2 国会事故調報告書の提言内容
提言

提言1

規制当局に対する国会の監視

国民の健康と安全を守るために、規制当局を監視する目的で、国会に原子力に係る問題に関する常設の委員会等を設置する。

提言2

政府の危機管理体制の見直し

緊急時の政府、自治体、及び事業者の役割と責任を明らかにすることを含め、政府の危機管理体制に関係する制度についての抜本的な見直しを行う。

提言3

被災住民に対する政府の対応

被災地の環境を長期的・継続的にモニターしながら、住民の健康と安全を守り、生活基盤を回復するため、政府の責任において対応を早急に取る必要がある。

提言4

電気事業者の監視

東電は、電気事業者として経産省との密接な関係を基に、電気事業連合会を介して、保安院等の規制当局の意思決定過程に干渉してきた。国会は、提言1に示した規制機関の監視・監督に加えて、事業者が規制当局に不当な圧力をかけることのないように厳しく監視する必要がある。

提言5

新しい規制組織の要件

規制組織は、今回の事故を契機に、国民の健康と安全を最優先とし、常に安全の向上に向けて自ら変革を続けていく組織になるよう抜本的な転換を図る。新たな規制組織は以下の要件を満たすものとする。
①高い独立性、②透明性、③専門能力と職務への責任感、
④一元化、⑤自律性

提言6

原子力法規制の見直し

原子力法規制については、抜本的に見直す必要がある。

提言7

独立調査委員会の活用

未解明部分の事故原因の究明、事故の収束に向けたプロセス、被害の拡大防止、本報告で今回は扱わなかった廃炉の道筋や、使用済み核燃料問題等、国民生活に重大な影響のあるテーマについて調査審議するために、国会に、原子力事業者及び行政機関から独立した、民間中心の専門家からなる第三者機関として「原子力臨時調査委員会〈仮称〉」を設置する。また国会がこのような独立した調査委員会を課題別に立ち上げられる仕組みとし、これまでの発想に拘泥せず、引き続き調査、検討を行う。

(出典)東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調)「国会事故調報告書」(2012年)に基づき作成


表1-3 「令和元年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」に記載されている政府の取組(抜粋)
国会事故調査報告書の提言内容 提言に対する措置の例

提言2

政府の危機管理体制の見直し

【基本的な対応】

  • 2012年9月に、原子力災害対策本部等の拡充とともに、平時の体制では原子力防災会議を新設。同年10月、官邸を中心とした情報収集・意思決定を行う有事の体制を確立。2014年10月に原子力防災に係る総合調整を一元的に担う内閣府政策統括官(原子力防災担当)を設置。
  • 原子力発電所立地地域の「地域原子力防災会議」の活動を通じ、地域防災計画・避難計画の具体化等を支援。「緊急時対応」を原子力防災会議で了承。毎年、複合災害を想定した原子力総合防災訓練を実施。
  • 2012年10月に原子力災害対策指針を策定し、原子力災害対策重点区域(PAZ4(原子力施設からおおむね5km)、UPZ5(同おおむね30km))、緊急時活動レベル(EAL6)等を設定。国と地方の役割分担を含むオフサイト対応措置を強化。緊急時モニタリング体制や原子力災害時の医療体制を強化。

【2019年度に講じた主な措置】

  • 2019年7月に原子力災害対策指針及び「安定ヨウ素剤の配布・服用にあたって」を改正し、適切な服用タイミング及び服用を優先すべき者への配慮、薬剤師会会員が所属する薬局等での配布を可能とすること等を明示した。
  • 同年11月に、島根原子力発電所を対象に、原子力総合防災訓練としては初めて3日間に渡り令和元年度原子力総合防災訓練を実施、「島根地域の緊急時対応」の取りまとめに向けてその実効性を確認。
  • 2020年3月に、女川地域原子力防災協議会において「女川地域の緊急時対応」を取りまとめ。

提言3

被災住民に対する政府の対応

【基本的な対応】

  • 国は、福島県が創設した「福島県民健康管理基金」に交付金を拠出し、福島県はこの基金を活用して、県民健康調査や内部被ばく線量の検査等を実施。環境省は、福島県が行う取組を支援するとともに、疾病罹患動向の把握、地域ニーズに合ったリスクコミュニケーション事業等を実施。「総合モニタリング計画」に沿ってモニタリングを実施し、原子力規制委員会が結果を公表。
  • 除染特別地域は環境省等が、汚染状況重点調査地域は市町村が中心となって除染を実施。帰還困難区域を除き、2018年3月には全ての面的除染が完了。
  • 2020年3月までには、全ての避難指示解除区域及び居住制限区域の避難指示を解除。避難指示解除後は、「「原子力災害からの福島復興の加速に向けて」改訂」の要件に沿って、国と地元が一体となって帰還、復興の作業を一層本格化。

【2019年度に講じた主な措置】

  • 中間貯蔵施設整備に必要な用地として2019年度末までに1,759人、約1,164haの契約に至る。2017年から除去土壌等の分別処理と分別した土壌の貯蔵を開始し、2019年度末までに累計で約668万m3の除去土壌等を搬入。除去土壌等の最終処分に向けて、再生利用実証事業等を推進。
  • 特定復興再生拠点区域の一部地域の避難指示の解除を、帰還困難区域として初めて実施。
  • 東京電力が原子力損害賠償を実施。

提言4

電気事業者の監視

【基本的な対応】

  • 原子力規制委員会は、被規制者等との面談等のルールを定め、情報公開を徹底。原子力事業者等が2012年に設立した「原子力安全推進協会(JANSI7)」において、事業者間の相互監視体制を構築。
  • 原子力産業界での連携を強化し、原子力発電所の安全性を更に高い水準で結び付けていくため、原子力事業者に加え、メーカー及び関係団体も含めた原子力産業界の組織として、原子力エネルギー協議会(ATENA8)を2018年7月に設立。
  • 廃炉・汚染水対策のための体制を強化し、引き続き事業者に加え国も前面に立って対策を実施。汚染水対策については、予防的かつ重層的な対策を実施。廃炉を着実に進められるよう、2014年5月に原賠機構に「事故炉の廃炉支援業務」を追加。2016年4月より「楢葉遠隔技術開発センター」(楢葉町)、2018年3月より「大熊分析・研究センター」(大熊町)の運用を開始。

【2019年度に講じた主な措置】

  • 原子力規制委員会は、安全性向上に係る取組等について原子力事業者との意見交換を実施。原子力を取り巻く課題や具体的な技術的事項について意見交換の場を設けることについて合意。
  • 廃炉対策については、使用済燃料プールからの燃料取り出しに向けた取組として2019年4月から3号機の燃料取り出しを開始し、2020年3月31日時点で全燃料566体のうち119体の取り出しを完了。
  • 汚染水対策については、「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の2020年2月の報告書も踏まえ、政府として多核種除去設備等処理水の取扱い方針を決定するため、4月から幅広い関係者の意見を伺う場を開催することを決定。

提言5

新しい規制組織の要件

【基本的な対応】

  • 2012年9月に、関係行政機関が担っていた原子力の規制等の機能を統合し、国家行政組織法第3条に規定される委員会として、原子力規制委員会を設置。
  • 国際原子力機関(IAEA)の総合規制評価サービス(IRRS)や国際核物質防護諮問サービス(IPPAS)での指摘や、委嘱した国際アドバイザーの助言等から取り入れた最新の知見を踏まえて自己変革を実施。

【2019年度に講じた主な措置】

  • IRRSフォローアップミッションの結果、2016年のIRRSミッションで受けた13の勧告と13の提言のうち、新検査制度の導入などにより10の勧告と12の提言について対応が完了するなど、大きな進展があったことを確認。
  • IPPASミッションで示された勧告事項や助言事項への対応状況等の確認を受けるためのフォローアップミッションの報告書を2019年4月に受領。同報告書では「前回のミッション以降、日本の核セキュリティ体制に顕著な改善がみられる。その体制は、強固で十分に確立されており、改正核物質防護条約の基本原則に従ったものである。」と評価。

提言6

原子力法規制の見直し

【基本的な対応】

  • 2013年に、シビアアクシデント対策の強化やバックフィット制度の導入等のいわゆる新規制基準を策定し、世界で最も厳しい水準の新たな規制を導入した。
  • 2017年4月の原子炉等規制法の改正により、検査制度を見直し、安全確保に係る事業者の一義的責任の徹底、規制機関による包括的な監視・評価、検査結果を踏まえた原子力施設ごと評定結果のその後の監視・検査の継続又は強化への反映等により、より高い安全性の確保を行う。

【2019年度に講じた主な措置】

  • 2017年4月に成立した原子炉等規制法等改正法について、2020年4月の法施行を受けて、新たな検査制度の本格運用を開始。
  • 事故の原因を究明するための継続的な取組として、原子力規制委員会において、事故分析の実施方針及び体制について改めて整備し、2020年内を目途に、中間的な報告書を取りまとめることとした。

(出典)「令和元年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」(2020年)に基づき作成



表1-4 政府事故調報告書の提言内容
提言

提言1

安全対策・防災対策の基本的視点に関するもの

1)複合災害を視野に入れた対策に関する提言

2)リスク認識の転換を求める提言

3)「被害者の視点からの欠陥分析」に関する提言

4)防災計画に新しい知見を取り入れることに関する提言

提言2

原子力発電の安全対策に関するもの

1)事故防止策の構築に関する提言

2)総合的リスク評価の必要性に関する提言

3)シビアアクシデント対策に関する提言

提言3

原子力災害に対応する態勢に関するもの

1)原災時の危機管理態勢の再構築に関する提言

2)原子力災害対策本部の在り方に関する提言

3)オフサイトセンターに関する提言

4)原災対応における県の役割に関する提言

提言4

被害の防止・軽減策に関するもの

1)広報とリスクコミュニケーションに関する提言

2)モニタリングの運用改善に関する提言

3)SPEEDIシステムに関する提言

4)住民避難の在り方に関する提言

5)安定ヨウ素剤の服用に関する提言

6)緊急被ばく医療機関に関する提言

7)放射線に関する国民の理解に関する提言

8)諸外国との情報共有や諸外国からの支援受入れに関する提言

提言5

国際的調和に関するもの

1)IAEA基準などとの国際的調和に関する提言

提言6

関係機関の在り方に関するもの

1)原子力安全規制機関の在り方に関する提言

2)東京電力の在り方に関する提言

3)安全文化の再構築に関する提言

提言7

継続的な原因解明・被害調査に関するもの

1)事故原因の解明継続に関する提言

2)被害の全容を明らかにする調査の実施に関する提言

(出典)東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会(政府事故調)「最終報告」(2012年)に基づき作成



② 事故原因の解明に向けた取組
 国会事故調や政府事故調、IAEA事務局長報告書等において、事故の大きな要因は、津波を起因として電源を喪失し、原子炉を冷却する機能が失われたことにあるとされています。その後、原子力規制委員会では、国会事故調報告書において未解明問題として指摘されている事項については、おおむね検討を終え、2014年10月に「東京電力福島第一原子力発電所事故の分析中間報告書」に取りまとめました[9]。しかし、事故現場の放射線量が非常に高い等の理由により現地調査に着手できない事項等もあり、継続した現地調査・評価・検討が必要であるとしています。また、東電福島第一原発における廃炉作業の進捗に併せ、新たに明らかになる事実等についても、今後、現地調査や東京電力株式会社9(以下「東京電力」という。)への確認等を行った上で、長期的に検討を継続する必要があるとしています。
 東京電力は、事故の総括として「福島原子力事故調査報告書」(2012年6月公表)と「福島原子力事故の総括及び原子力安全改革プラン」(2013年3月公表)を取りまとめていますが、事故発生後の詳細な進展メカニズムに関する未確認・未解明事項について、引き続き、計画的な現場調査やシミュレーション解析を用いて調査・検討を継続しています [10]。また、事故の教訓を生かした設備面・運用面及びマネジメント面の安全対策強化状況は、四半期に一度「原子力安全改革プラン進捗報告」として公表しています [11]
 OECD/NEAは、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(以下「原子力機構」という。)が関係機関と協議しつつ提案した「福島第一原子力発電所の原子炉建屋および格納容器内情報の分析(ARC-F10)」国際共同研究プロジェクトを2019年1月から開始しています。同プロジェクトは、先行する「東電福島第一原発事故のベンチマーク研究(BSAF11)」プロジェクトを引き継いで、更に詳細に事故の状況を探り、今後の軽水炉の安全性向上のための研究に役立てることを目的としています [12]

 原子力規制委員会は、現場環境の改善や廃炉の進捗等により東電福島第一原発における事故の分析に必要な現場調査等が可能となったこと等を踏まえ、2019年9月に事故分析の実施方針及び体制について改めて整備及び決定しました [13]。現場調査や試料採取等の情報収集を行い、得られた情報を基に、原子炉格納容器耐圧強化ベントラインを通じた放射性物質等の放出経路等について「東京電力福島第一原子力発電所における事故分析に係る検討会」で検討を行っており、2020年内を目途に中間報告書を取りまとめる予定です。また、事故分析と廃炉作業を両立するために必要な事項を関係機関と公開で議論・調整する場として「福島第一原子力発電所廃炉・事故調査に係る連絡・調整会議」が設けられました [14]
 なお、国会事故調報告書で示された「提言6:原子力法規制の見直し」の中で、原子力法規制が、内外の事故の教訓、世界の安全基準の動向及び最新の技術的知見等が反映されたものになることを求めた提言に対し、先にふれた「令和元年度 東京電力福島原子力発電所事故調査委員会の報告書を受けて講じた措置」では、原子力規制庁による具体的な措置として以下の内容が報告されています。

  • (原子力安全研究の推進)
    原子力規制庁は、軽水炉照射材料健全性評価や電気・計装設備用高分子材料の長期健全性評価に係る安全研究を始めとした13研究分野24件の安全研究プロジェクトを実施し、その結果をもって、原子力規制庁職員により、2件のNRA技術報告の公表、1件のNRA技術ノートの公表、23件の論文誌への掲載、4件の国際会議論文発表及び38件の学会発表を行った。

 また、衆議院に設置されている原子力問題調査特別委員会において、原子力問題に関する件(原子力規制行政の在り方)として、原子力規制委員長等による報告に基づき審議が行われています。


(2)福島の復興・再生に向けた取組

① 被災地の復興・再生に係る基本方針
 東電福島第一原発事故により、発電所周辺地域では地震と津波の被害に加えて、放出された放射性物質による環境汚染が引き起こされ、現在も多数の住民の方々が避難を余儀なくされるなど、事故の影響が続いています。このような状況に対処するため、政府一丸となって福島の復興・再生の取組を進めています(図1-1)。
 原子力災害対策本部の下に設置された廃炉・汚染水対策チームは東電福島第一原発の廃炉や汚染水への対応、原子力被災者生活支援チームは避難指示区域の見直しや原子力被災者の生活支援等の役割を担っています。復興庁12は、復旧・復興の取組として長期避難者への対策や早期帰還の支援、避難指示区域等における公共インフラの復旧等の対応を行っています。環境省は、特定復興再生拠点区域における放射性物質で汚染された土壌等の除染や廃棄物処理、除染に伴って発生した土壌や廃棄物を安全に集中的に管理・保管する中間貯蔵施設の整備等に取り組んでいます。福島の現地では、原子力災害対策本部の現地対策本部、廃炉・汚染水対策現地事務所、復興庁の福島復興局、環境省の福島地方環境事務所が対応に当たっています。


図1-1 福島の復興に係る政府の体制(2020年2月時点)

(出典)復興庁「福島の復興・再生に向けた取組」(2019年) [15]


 福島の復興・再生に向けて、「福島復興再生特別措置法」(平成24年法律第25号。以下「福島特措法」という。)及び同法に基づく「福島復興再生基本方針」(2012年7月閣議決定)において、福島の復興・再生の意義、目標、基本姿勢が示されるとともに、政府が実施すべき施策に関する基本的な事項が記載されています。また、「『復興・創生期間』後における東日本大震災からの復興の基本方針」(2019年12月20日閣議決定)において、福島の復興・再生は中長期的対応が必要であり、復興・創生期間後も引き続き国が前面に立って取り組むこと、及び当面10年間は本格的な復興・再生に向けた取組を行うことが示されています [16]。同方針に基づき、復興・創生期間後の2021年度以降の復興を支える仕組み・組織・財源を整備するため、復興庁の設置期間を10年間延長すること等が決定されています[17]

② 放射線影響への対策

1)避難指示区域の状況等
 東電福島第一原発事故を受け、年間の被ばく線量を基準として「避難指示解除準備区域13」、「居住制限区域14」、「帰還困難区域15」が設定されました。避難指示は、①空間線量率で推定された年間積算線量が20ミリシーベルト以下になることが確実であること、②電気、ガス、上下水道、主要交通網、通信等の日常生活に必須なインフラや医療・介護・郵便等の生活関連サービスがおおむね復旧すること、子どもの生活環境を中心とする除染作業が十分に進捗すること、③県、市町村、住民との十分な協議の3要件を踏まえ、解除されます。2020年3月4日に双葉町の避難指示解除準備区域・特定復興再生拠点区域16の一部区域、同5日に大熊町の特定復興再生拠点区域の一部区域、同10日に富岡町の特定復興再生拠点区域の一部区域で、それぞれ避難指示が解除されました。これにより、全ての避難指示解除準備区域、居住制限区域の避難指示が解除されるとともに、帰還困難区域内に設定された特定復興再生拠点区域で初めて避難指示が解除されました [18]
 2020年3月時点での避難指示区域は図1-2の最右図のとおりです。空間線量から推計した年間積算線量の推移は、図1-3のとおりです。
 政府としては、たとえ長い年月を要するとしても、将来的に帰還困難区域全てを避難指示解除し、復興・再生に責任を持って取り組むとの決意の下、可能なところから着実かつ段階的に政府一丸となって、帰還困難区域の一日も早い復興を目指して取り組んでいくこととしています。


図1-2 避難指示区域の変遷(2011年4月から2020年3月まで)

(出典)内閣府原子力被災者生活支援チーム「避難指示区域の見直しについて」(2013年)及び「避難指示区域の概念図(2020年3月10日時点)」(2020年)等に基づき作成


図1-3 空間線量から推計した年間積算線量の推移

(注)本値は対象地域を250kmメッシュに区切り、各メッシュの中心点の測定結果の比から算出したもの。
(出典)原子力規制委員会「福島県及びその近隣県における航空機モニタリングの測定結果について」等に基づき内閣府原子力被災者生活支援チーム作成

 放射線への対策として、生活環境を中心にした除染に加え、放射性物質による汚染の疑われた食品の管理、福島県民の健康影響への対応、また、環境放射線に係るモニタリング等が、国の検討と対応を踏まえ福島県及び各地方自治体で計画的に実施されてきています。詳しい内容を次節以降に示します。



2)食品中の放射性物質への対応
 2012年4月以降、厚生労働省では、より一層の食品の安全と安心の確保をするために、事故後の緊急的な対応としてではなく、長期的な観点から新たな基準値を設定しました。コーデックス委員会17が定めた国際的な指標を踏まえ、食品の摂取により受ける放射線量が年間1ミリシーベルトを超えないようにとの考え方で設定されています(図1-4) [19]


図1-4 食品中の放射性物質の新たな基準値の概要

(出典)厚生労働省「食品中の放射性物質の新たな基準値」(2012年) [19]

 また、食品中の放射性物質については、原子力災害対策本部の定める「検査計画、出荷制限等の品目・区域の設定・解除の考え方」(2011年4月初版公表)を踏まえ、17都県18を中心とした地方公共団体によって検査が実施され、基準値を超過した食品はキノコ・山菜類、水産物を除けば見られなくなっています(表1-5)。
 なお、福島県産米については、2012年から全量全袋検査が実施されています。あわせて、福島県の生産現場では、カリウム肥料の追加施用による放射性物質の吸収抑制、土壌から作物への放射性物質の移行低減のための反転耕、また機械の清掃等による生産管理等、徹底した生産対策が実施されてきました。そのような対策も奏功し、2015年からは基準値を超えるものは検出されていません。福島県では、今後の検査の方向性として、通算5年間基準値を超えるものがない時点を目途にモニタリング(抽出)検査に移行することを示しています[20]


表1-5 農林水産物の放射性セシウム検査結果(17都県)

(注1)2012年4月施行の基準値(100Bq/kg)を超過した割合(原乳については50Bq/kg)。なお、茶は、荒茶や製茶の状態で500Bq/kgを超過した割合。
(注2)穀類(米、大豆等)について、生産年度と検査年度が異なる場合は、生産年度の結果に含めている。
(注3)福島県で行った2011年度産の緊急調査、福島県及び宮城県の一部地域で2012年度以降に行った全袋検査の点数を含む。
(注4)2012年度以降の茶は、飲料水の基準値(10Bq/kg)が適用される緑茶のみ計上。
(注5)水産物については全国を集計。

(出典)農林水産省「令和元年度の農産物に含まれる放射性セシウム濃度の検査結果(令和元年4月~)」 [21]に掲載の「平成23年3月~現在(令和2年4月27日時点)までの検査結果の概要」に基づき作成


 また、厚生労働省は、全国15地域で実際に流通する食品を対象に、食品中の放射性セシウムから受ける年間放射線量の推定を行っています。2019年9・10月の調査では、年間上限線量(年間1ミリシーベルト)の0.1%程度と推定されています19
 諸外国・地域では、東電福島第一原発事故後に輸入規制措置が取られました。2020年5月現在、規制措置を設けた54の国・地域のうち、34の国・地域で規制措置が撤廃され、輸入規制を継続している国・地域は20になっています。2019年3月にバーレーン、同6月にコンゴ民主共和国、同10月にブルネイ、2020年1月にはフィリピンで、輸入規制措置が撤廃されました [22]。風評被害を防ぐとともに、輸入規制の緩和・撤廃に向け、我が国における食品中の放射性物質への対応等について、より分かりやすい形で国内外に発信していくなどの取組を継続していく必要があります。


③ 放射線影響の把握の取組

1)放射線による健康影響の調査
 福島県は県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ることを目的に、「県民健康調査」を実施しています。この中では「基本調査20」と「詳細調査21」が実施されており、個々人が調査結果を記録・保管できるようにしています。国は、2011年度に県が創設した「福島県民健康管理基金」に交付金を拠出するなど、県を財政的に支援しています。
 国は2015年2月に公表した「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議の中間取りまとめを踏まえた環境省における当面の施策の方向性」 [23]に基づき、リスクコミュニケーション事業の継続・充実、福島県の県民健康調査「甲状腺検査」の充実、福島県及び福島近隣県における疾病罹患動向の把握、事故初期における被ばく線量の把握・評価の推進の取組を進めています。
 なお、放射線の健康管理は中長期的な課題であることから、放射線による健康への影響について調査を継続するとともに、科学的に正確な情報や客観的な事実(根拠)に基づき、一般の国民にとってより分かりやすく説明していくことが求められます。

2)東電福島第一原発事故に係る環境放射線モニタリング
 東電福島第一原発事故を受けて、放射線モニタリングを確実かつ計画的に実施することを目的として、政府は原子力災害対策本部の下にモニタリング調整会議を設置し、「総合モニタリング計画」(2011年8月決定)に基づき、関係府省、地方公共団体、原子力事業者等が連携して放射線モニタリングを実施しています(表1-6) [24]。モニタリングの結果は、原子力規制委員会から「放射線モニタリング情報22」として公表され、特に、空間線量率については、全国に設置されたモニタリングポストの測定結果をリアルタイムで確認することができます。
 また、原子力規制委員会では、帰還困難区域等のうち、要望のあった川俣町、富岡町、大熊町、浪江町、葛尾村、双葉町、飯舘村の区域を対象として、測定器を搭載した測定車による走行サーベイ及び測定器を背負った測定者による歩行サーベイも実施しています [25]


表1-6 総合モニタリング計画

(出典)原子力規制委員会「放射線モニタリングの実施状況」(2019年)[24]


④ 放射性物質による環境汚染からの回復に関する取組と現状

1)除染の取組
 「平成二十三年三月十一日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」(平成23年(2011年)法律第110号。以下「放射性物質汚染対処特措法」という。)に基づき除染が実施され、福島県内の11市町村の除染特別地域については、2017年3月末までに帰還困難区域を除き、面的除染が完了しました(図1-5左図)。汚染状況重点調査地域についても、2018年3月に完了しました(図1-5右図)。また、特定復興再生拠点区域では、区域内の帰還環境整備に向けた除染・インフラ整備等が集中的に実施されています。


図1-5 国直轄除染及び市町村除染の進捗状況(2020年3月31日時点)

(出典)環境省「除染情報サイト」[26]に基づき作成


2)放射性物質に汚染された廃棄物の処理

イ)廃棄物の分類
 放射性物質汚染対処特措法において、廃棄物の分類と遵守すべき処理基準が定められました。この中で、環境大臣が指定した汚染廃棄物対策地域(以下「対策地域」という。)にある廃棄物のうち、一定要件に該当する「対策地域内廃棄物」と、事故由来放射性物質による汚染状態(放射能濃度)が合計で8,000Bq/kgを超えると認められ、環境大臣の指定を受けた「指定廃棄物」の2つを併せて「特定廃棄物」と定め、国が収集、運搬、保管及び処分を行うこととしています。
 なお、放射能濃度が8,000Bq/kg以下に減衰した指定廃棄物については、放射性物質汚染対処特措法施行規則(平成23年環境省令第33号)に基づき、当該指定廃棄物の指定の解除が可能となり、通常の廃棄物と同様に管理型処分場で処分することができます。また、指定解除後の廃棄物の処理について、国は、技術的支援のほか、指定解除後の廃棄物の処理に必要な経費を補助する財政的支援を行うこととしています。


ロ)廃棄物の処理
 福島県の11の市町村にまたがる地域23が対策地域として定められ、対策地域内廃棄物処理計画に沿って、2020年1月末までに、対策地域内の災害廃棄物等約255万tの仮置場への搬入が完了しました [27]。これらの災害廃棄物等は、仮設焼却施設により減容化を図るとともに、金属くず、コンクリートくずは安全性が確認された上で、再生利用を行っています。
 2020年3月末時点で、福島県を含めた10都県24において、約30万t25が指定廃棄物として環境大臣による指定を受け、国に引き渡されるまでの間、適切に一時保管されています[28]。福島県内の対策地域内廃棄物及び指定廃棄物のうち、放射能濃度が10万Bq/kg以下の廃棄物は、富岡町にある既存の管理型処分場(旧フクシマエコテッククリーンセンター)へ搬入され(図1-6)、10万Bq/kgを超えるものは、中間貯蔵施設に搬入することとされています。
 管理型処分場への搬入は2017年11月に開始され、2020年3月時点で累計117,671袋の廃棄物が搬入されています [29]。また、福島県内において、指定廃棄物に指定された焼却灰(10万Bq/kg以下)のうち、放射性セシウムの溶出量が多いと想定される焼却飛灰及びそれと主灰の混合灰を、放射性物質汚染対処特措法に基づいて安全に埋立処分できるようセメント固型化処理を行う施設(特定廃棄物等固型化処理施設)が、2019年3月から稼働を開始しています。


図1-6 放射能濃度が10万Bq/kg以下の廃棄物の管理型処分場

(出典)環境省「放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト」[30]に基づき作成


 このほか、指定廃棄物が多量に発生し、保管がひっ迫している宮城県、栃木県、千葉県、茨城県及び群馬県の5県について、宮城県、栃木県及び千葉県では、国が当該県内に長期管理施設を設置する方針であり、また、茨城県及び群馬県では、8,000Bq/kg以下となるまでに長時間を要しない指定廃棄物については、「現地保管継続・段階的処理」として、8,000Bq/kg以下になったものを、指定解除の仕組み等を活用しながら段階的に既存の処分場等で処理する方針が決定されるなど、各県の実情に応じた取組が進められています(図1-7)。 [31]


図1-7 指定廃棄物の処理

(出典)環境省放射性物質汚染廃棄物処理情報サイト「指定廃棄物について」 [32]


3)除染に伴って発生した土壌等のための中間貯蔵施設の整備に向けた取組
 放射性物質汚染対処特措法等に基づき、福島県内の除染に伴い発生した放射性物質を含む土壌及び福島県内に保管されている10万Bq/kgを超える指定廃棄物等を最終処分するまでの間、安全に集中的に管理・保管する施設として中間貯蔵施設が整備されています。中間貯蔵施設については、「中間貯蔵・環境安全事業株式会社法」(平成15年法律第44号)において「中間貯蔵開始後30年以内に、福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」こととされています。
 2015年3月から、仮置場から中間貯蔵施設への除去土壌等の輸送が開始されており、2020年1月に環境省が公表した「2020年度の中間貯蔵施設事業の方針」の中で、2021年度までに県内に仮置きされている除去土壌等(帰還困難区域を除く)のおおむね搬入完了を目指すとしています [33]。施設の整備・稼働状況や輸送の状況は、中間貯蔵施設情報サイト26にて公表されています。
 福島県内で発生した除去土壌等の県外最終処分の実現に向けては、最終処分量を低減するため、政府一体となって、除去土壌等の減容・再生利用を進めていきます。技術開発の検討が進められるとともに、南相馬市及び飯舘村において除去土壌再生利用の実証事業が実施されています(図1-8)。中間貯蔵施設事業の確実な実施に向けて、安全確保を大前提として、今後も地方公共団体や地元住民と十分に協議を行いつつ、これらの取組を進めていきます。


図1-8 飯舘村における除去土壌再生利用実証事業の概要

(出典)中間貯蔵施設環境安全委員会(第17回)資料1環境省「中間貯蔵施設事業の状況について」を一部加工 [34]


⑤ 被災地支援に関する取組と現状

1) 避難指示の解除と早期帰還に向けた支援の取組
 避難指示区域からの避難対象者数は、2019年4月時点では約2.3万人となっています[35]。事故から9年が経過し、帰還困難区域を除くほとんどの地域で避難指示が解除され、福島の復興及び再生に向けた取組には着実な進展が見られる一方で、避難生活の長期化に伴って、健康、仕事、暮らし等の様々な面で引き続き課題に直面している住民の方々もいます。復興の動きを加速するため、早期帰還支援、新生活支援の対策、安全・安心対策の充実、帰還支援への福島再生加速化交付金の活用、帰還住民のコミュニティ形成の支援等の取組に、国と地元が一体となって注力しています。
 帰還困難区域においては、2018年5月までに、双葉町、大熊町、浪江町、富岡町、飯舘村、葛尾村の特定復興再生拠点区域復興再生計画が認定され、帰還環境の整備が推進されています [36]。前述のとおり、2020年3月には、双葉町、大熊町、及び富岡町でそれぞれ、特定復興再生拠点区域の一部の避難指示が解除されました [18]。また、双葉町、大熊町では、避難指示の解除と同時に、特定復興再生拠点区域内における立入規制の緩和区域が設定されました [37][38]。さらに、 同月7日には常磐道の「常磐双葉インターチェンジ」が開通し [39]、同月14日には東電福島第一原発事故以降一部区間で運転を見合わせていた常磐線で富岡から浪江間の運転が再開されて全線開通となりました [40]

2)生活の再建や自立に向けた支援の取組
 避難指示等の対象となった被災12市町村のおかれた厳しい事業環境に鑑み、12市町村の事業者等の自立へ向けて、事業や生業の再建を図ることが重要です。
 2015年8月に国、福島県、民間の構成により創設された「福島相双復興官民合同チーム(官民合同チーム)」は、 避難指示等の対象となった12市町村の被災事業者・農業者を個別に訪問し、事業再開等に関する要望や意向を把握するとともに、その結果を踏まえ、専門家を交えたチームにより、事業再建計画の策定支援、支援策の紹介、生活再建への支援等を実施しています。また、2017年9月からは、分野横断・広域的な観点から、商業施設やまちづくり会社の創設・運営等、12市町村へのまちづくり専門家支援を進めています。さらに、地域経済に新たな波及効果をもたらすために、官民合同チームでは交流人口増加につながる自治体による情報発信を支援し、域外からの人材の呼び込みと域内での創業支援にも取り組んでいます。

3)新たな産業の創出・生活の開始に向けた広域的な復興の取組
 「福島12市町村の将来像に関する有識者検討会」において、2015年7月、30年から40年後の姿を見据えた2020年の課題と解決の方向が提言として取りまとめられました。当該提言の主要個別項目の具体化・実現に向けた進捗管理を行うため、「福島12市町村将来像提言フォローアップ会議」では2016年5月に「福島12市町村将来像実現ロードマップ2020」を策定し、2017年6月、2018年5月、2019年6月にその後の進捗を踏まえて改訂しています [15]
 これらの取組の一つにも挙げられている「福島イノベーション・コースト構想」は、東日本大震災及び原子力災害によって失われた浜通り地域等の産業を回復するため、当該地域の新たな産業基盤の構築を目指すものです。廃炉、ロボット、エネルギー、農林水産等の分野におけるプロジェクトの具体化を進めるとともに、産業集積や人材育成、交流人口の拡大等に取り組んでいます(図1-9)。
 2018年4月、福島県が策定した重点推進計画を内閣総理大臣が認定し、実施主体として「公益財団法人福島イノベーション・コースト構想推進機構27」を位置づけ、本構想の具体化を推進しています。
 また、復興・創生期間後も見据え、構想の深掘りを軸に浜通り地域等の自立的・持続的な産業発展を実現するため、2019年12月、復興庁、経済産業省、福島県の3者により、地域の現状と今後の見通し、目指していく姿とその実現に向けた取組の方向性を整理する「福島イノベーション・コースト構想を基軸とした産業発展の青写真」が取りまとめられました[41]


図1-9 福島イノベーション・コースト構想 関連プロジェクト

(出典)福島イノベーション・コースト構想推進分科会(第3回)資料3福島イノベーション・コースト構想推進分科会事務局「福島イノベーション・コースト構想の進捗状況」(2019年) [42]


4)風評払拭・リスクコミュニケーションの強化
 2017年12月、復興庁を中心とした関係府省庁において「風評払拭・リスクコミュニケーション強化戦略(以下「強化戦略」という。)」 [43]が取りまとめられました。この中で、科学的根拠に基づかない風評や偏見・差別は、福島県の現状についての認識が不足してきていることと、放射線に関する正しい知識や福島県における食品中の放射性物質に関する検査結果等が十分に周知されていないことに主たる原因があると考えられるとされています。そのため、従来実施されてきた被災者とのリスクコミュニケーションに加え、この経験を生かしながら、国民一般を対象としたリスクコミュニケーションにも重点を置くことが述べられています。
 強化戦略に基づき、「知ってもらう」、「食べてもらう」、「来てもらう」の観点から関係府省庁が連携して取組を進めています。また、「原子力災害による風評被害を含む影響への対策タスクフォース」において、強化戦略に基づく取組状況の継続的なフォローアップが行われています。2019年11月に開催された同タスクフォースでは、復興大臣より、2020年東京オリンピック競技大会・東京パラリンピック競技大会28(以下「東京2020大会」という。)を契機とした風評払拭のための情報発信等の必要な施策において、より効果的な取組となるよう検討し、強力に推進すること等が指示されています [44]

コラム ~福島県の現状に関する国内外に向けた情報発信の取組~

 東電福島第一原発の状況、及び福島県の各種放射線モニタリング結果や復興の状況について、様々な情報発信の取組が実施されています。
 福島県では、誰もが親しみやすく、分かりやすい情報発信をコンセプトに、復興情報ポータルサイト「ふくしま復興ステーション」を立ち上げています。
 同サイトでは、“情報の見つけやすさ”、“視覚的なわかりやすさ”を重視し、東電福島第一原発の状況、福島県で測定している空間線量率や食品中の放射性物質濃度等、「震災・復興」関連情報を10のカテゴリーに整理するとともに、写真や動画、図解記事等が多く用いられています。また、国内外を問わず多くの人に福島の現状を発信するため、英語、中国語、韓国語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語、タイ語の9か国語に対応しています。
 また、外務省は、東電福島第一原発事故を含む東日本大震災からの復興関連情報をまとめた英語サイト29を公開しています。

復興情報ポータルサイト「ふくしま復興ステーション」

(出典)福島県復興情報ポータルサイト「ふくしま復興ステーション」 [45]

5)原子力損害賠償の取組
 我が国においては、原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度である原子力損害の賠償に関する法律(昭和36年法律第147号。以下「原賠法」という。)が制定されています。同法に基づき、文部科学省に設置された「原子力損害賠償紛争審査会」は、被害者の迅速、公平かつ適正な救済のために、「東京電力株式会社福島第一、第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)を策定し、賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示すとともに、中間指針に明記されていない損害についても、事故との相当因果関係があると認められたものは賠償の対象とするよう、柔軟な対応を東京電力に求めています [46]。中間指針は、2020年3月時点で第四次追補まで策定されています。
 原子力損害賠償の迅速かつ適切な実施及び電気の安定供給等の確保を図るため、原子力損害賠償・廃炉等支援機構は「原子力事業者からの負担金の収納」、「原子力事業者が損害賠償を実施する上での資金援助」、「損害賠償の円滑な実施を支援するための情報提供及び助言」、「仮払法に基づく国又は都道府県知事からの委託による仮払金の支払」、「廃炉の主な課題に関する具体的な戦略の策定」等の業務を実施しています。また、原子力損害賠償紛争解決センターにおいては、事故の被害を受けた方からの申立てにより、仲介委員が当事者双方から事情を聴き取り損害の調査・検討を行い、和解の仲介業務を実施しています(図1-10)。
 東京電力は中間指針等を踏まえた損害賠償を実施しており、2020年3月27日現在、総額で約9兆4,829億円の支払を行っています [47]


図1-10 原子力損害賠償・廃炉等支援機構による賠償支援

(出典)経済産業省「平成26年度 エネルギー白書」(2015年)に基づき作成



  1. International Atomic Energy Agency
  2. Organisation for Economic Co-operation and Development/Nuclear Energy Agency
  3. 「国会法」(昭和22年法律第79号)附則第11項において規定。
  4. Precautionary Action Zone
  5. Urgent Protective action planning Zone
  6. Emergency Action Level
  7. Japan Nuclear Safety Institute
  8. Atomic Energy Association
  9. 2016年4月からホールディングカンパニー制に移行し、「東京電力ホールディングス株式会社」に社名変更。
  10. Analysis of Information from Reactor Building and Containment Vessels of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
  11. Benchmark Study of the Accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station
  12. 復興庁は、復興庁設置法により2021年3月31日までを期限として時限措置的に設置されていましたが、2019年12月20日に閣議決定された「『復興・創生期間』後における東日本大震災からの復興の基本方針」において設置期間を10年延長し、2025年度に組織の在り方を検討することが示されました。2020年6月には、復興庁の設置期間の10年延長等を定める「復興庁設置法等の一部を改正する法律」が成立、公布されました。
  13. 2011年12月26日時点で年間積算線量が20ミリシーベルト以下となることが確実であることが確認された区域。
  14. 2011年12月26日時点で年間積算線量が20ミリシーベルトを超えるおそれがあり、住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することが求められる区域。
  15. 2011年12月26日時点で年間積算線量が50ミリシーベルトを超え、5年間を経過してもなお、年間積算線量が20ミリシーベルトを下回らないおそれがある区域。
  16. 将来にわたって居住を制限するとされてきた帰還困難区域内で、避難指示を解除し、居住を可能とする区域。2017年5月の福島特措法の改正で、特定復興再生拠点区域の復興及び再生を推進するための計画制度が創設されました。
  17. 消費者の健康の保護等を目的として設置された、国際的な政府間機関。
  18. 青森県、岩手県、秋田県、宮城県、山形県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県の17都県。
  19. 詳しいデータは、厚生労働省ウェブサイト「流通食品での調査(マーケットバスケット調査)」(2019年)[151]を参照。
  20. 問診表に基づく行動記録から、外部被ばく実効線量が推計されています。
  21. 「甲状腺検査」、「健康診査」、「こころの健康度・生活習慣に関する調査」、「妊産婦に関する調査」の4種の調査が含まれています。
  22. https://radioactivity.nsr.go.jp/ja/
  23. 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町、葛尾村及び飯舘村の全域、並びに田村市、南相馬市、川俣町及び川内村のうち警戒区域又は計画的避難区域に指定されていた区域の計11市町村。
  24. 2017年に山形県で、2019年に静岡県で、それぞれ全量が8,000Bq/kgを下回ったことから指定廃棄物の指定が解除されたため、12都県から10都県へ減少。
  25. 2019年12月31日時点より、福島県の集計から、国の仮設焼却施設において焼却処理するため搬出した指定廃棄物17,442tを除外。一方、国が当該搬出した指定廃棄物を焼却処理(広域処理)した結果、発生した焼却灰を新たな指定廃棄物として計上。
  26. http://josen.env.go.jp/chukanchozou/
  27. 2019年1月1日に一般財団法人から公益財団法人へ移行。
  28. 2020年3月30日に、東京オリンピック競技大会は2021年7月23日から8月8日に、東京パラリンピック競技大会は同年8月24日から9月5日に開催されることが決定されました。
  29. https://www.mofa.go.jp/j_info/visit/incidents/index.html


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