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8-3 人材の確保及び育成

 東電福島第一原発事故の教訓を踏まえ、更なる安全性の高みを追求していくためには、高度な技術と高い安全意識を持った人材の確保が必要です。また、原子力分野においては、発電事業に従事する人材以外にも、大学や研究機関の教員や研究者、利用政策及び規制に携わる行政官、医療や農業、工業等の放射線利用分野において様々な人材が必要とされます。我が国では、原子力利用を取り巻く環境変化や世代交代等の要因により、人材の枯渇や知識・技術の継承への不安といった問題が生じています。大学教育の強化・改善のみならず、研究者・技術者の育成など雇用した人材の能力向上が求められています。原子力分野の幅の広さと、原子核科学応用に関する奥の深さなど、その魅力を伝え、優秀な人材を獲得する努力も求められています。


(1) 原子力分野における人材育成・確保の動向

 安全確保を図りつつ原子力の研究、開発及び利用を進めていくためには、これらを支える優秀な人材を育成・確保する必要があります。しかしながら、原子力利用を取り巻く環境変化等の要因により、原子力分野への進学・就職を希望する学生の減少(図 8-7、図 8-8)や現場の技術者の高齢化が進んでおり(図 8-9)、人材の枯渇や知識・技術の継承への不安といった問題が生じています。


図 8-7 原子力関連学科等における学生数の推移

(出典)資源エネルギー庁「原子力分野の人材育成を進めるために」(2018年)[49]



図 8-8 原産セミナー来場者数(学生)の推移

(出典)日本原子力産業協会「PAI原子力産業セミナー2020報告」(2019年)[50]



図 8-9 原子力技術者の年齢構成

(出典)総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会(第13回)資料第4号 経済産業省「原子力政策の動向について」(2018年)[51]


 このような状況の中で、原子力分野の人材育成の重要性は既に原子力関係者の認識として共有されており、原子力関係の行政機関等において様々な取組や検討がなされています。一方で、今後の人材育成活動は、東電福島第一原発事故や現在の原子力をめぐる状況やニーズ等を踏まえつつ、これまでの取組の経験と教訓を参考に、より効率的、効果的な活動とする必要があると考えられます。
 優秀な人材に原子力に興味を持ってもらうためには、原子力分野を志す学生の勧誘のみならず、高校生や一般の学生に、原子力利用の広がりと学問的深みと幅をわかりやすく伝える必要があります。米国大学等での成功例などを参考に、そのためのコンテンツ作りなどを進めていくことが必要です。これまでの人材育成は主に学生や若手の教育と考えられてきましたが、研究開発や就職後の人材育成の取組も必要です。2017年1月17日の原子力委員会の定例会では、経験の深い木口高志氏より研究開発や仕事を通じた人材育成について、「管理職の部下に対する人材育成能力が重要であること。キャリアパスに活かすための評価制度、キャリアパス設計のツールとしての目標管理制度が重要であること」などの取組方針等がのべられています[52]
 上記の課題認識に基づき、2018年2月27日、原子力委員会は「原子力分野における人材育成について(見解)」を取りまとめ、優秀な人材の勧誘、高等教育段階と就職後の仕事を通じた人材育成について、それぞれ留意すべき事項を示しました[53]
 高等教育段階における具体的な取組としては、原子力分野の魅力や、エネルギーの安定供給や地球温暖化問題などにおける原子力の果たす役割の発信、将来のキャリアパスの提示などによる優秀な人材の獲得、海外を含むインターンシップなどの様々な経験を通じた人材育成、国内外のグッドプラクティスの共有を進めるなど大学教育の改善、学部及び大学院修士課程を通じた体系的な原子力教育の実施が考えられることを指摘しています。
 就職後の人材育成については、キャリアパスを活かすための評価制度や目標管理制度、表彰、留学、資格取得などのキャリアパス形成に必要な制度的裏付け、分野横断的な研究活動と連携した人材育成や原子力発電技術の継承や研修資料作成とその実施等、人事管理と関係する活動を挙げています。特に、研究開発機関における研究開発や仕事を通じた人材育成や、研究情報交換・連携活動に組み込まれた人材育成活動が必要と述べています。
 原子力発電プラントが長期間停止していることにより製造や運転管理ノウハウの喪失等の恐れがあるとし、必要な技術と経験を確実に伝承するために暗黙知を顕現化させるとともにその継承の取組や知識ベース化、技術者の育成が必要であるとしています。
 同見解では、人材育成を原子力利用のイノベーションを生む出すために必要な知識基盤の構成要素の一部とし、世界が一目置く研究者、研究グループ、研究企画を作ることが研究開発における人材育成の目標になるとしています。また、この目標を達成することで原子力利用とその安全の基盤を強固にすることが可能であり、目標実現に向けた原子力関係機関における人材育成に係る一層の取組を期待するとしています。
 その後、原子力委員会は見解のフォローアップを行い[54]、大学教育について、海外と国内の大学の両方で、原子力教育に携わった教員からの原子力委員会定例会での発表[55][56][57]をもとに、欧米の大学の厳しい教育運営を参考に、演習・実習・自習の充実や教育方法など、日本の大学原子力教育の改善が必要であると指摘しています。


(2) 原子力人材の育成・確保に関する取組

① 産学官連携による幅広い原子力人材の育成
専門分野に限定することなく、総合的な能力を持つ人材を育てるため、産学官の幅広い連携と分野横断的な取組が求められます。
 「原子力人材育成ネットワーク」は、国(内閣府、文部科学省、経済産業省、外務省)の呼びかけにより2010年11月に設立されました。同ネットワークは、産学官連携による相互協力の強化と一体的な原子力人材育成体制の構築を目指し、機関横断的な事業を実施しています(図 8-10)。具体的には、国内外の関係機関との連携協力関係の構築、ネットワーク参加機関への連携支援、国内外広報、国際ネットワーク構築、機関横断的な人材育成活動の企画・運営、海外支援協力(主に新規原子力導入国)の推進等を行っています33


図 8-10 原子力人材育成ネットワークの体制

(出典)原子力人材育成ネットワーク パンフレット34


② 国による取組
 原子力人材の育成・確保に関する課題を解決するため、様々な施策が展開されています。
 文部科学省は、「国際原子力人材育成イニシアティブ」や「英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業」等により、産学官が連携した国内外の人材育成の取組を支援しています。
資源エネルギー庁は、我が国の原子力施設の安全を確保するための人材の維持・発展を目的として、2013年からの継続的な施策として「原子力の安全性向上を担う人材の育成事業」を実施しています。同事業では、「軽水炉安全技術・人材ロードマップ」(2015年6月自主的安全性向上・技術・人材ワーキンググループ、2017年3月改訂)において重要度が高いとされた「システム・構造・機器の信頼性向上と高度化などの課題を解決できる人材の育成」の支援等を行っています[49]
 原子力規制委員会は、「原子力規制人材育成事業」により国内の大学等と連携し、原子力規制に関わる人材を、効果的・効率的・戦略的に育成するための取組を推進しています[58]。また、同委員会の下に設置された「原子力安全人材育成センター」では、「原子力規制委員会職員の人材育成の基本方針」に沿って人材育成制度等の充実に取り組んでいるほか、事業者等の専門家を確保するために原子炉主任技術者等の国家試験を行っています[59]
 内閣府は、原子力災害への対応の向上を図るため、原子力災害対応を行う行政職員等を対象とした各種の研修等を実施しています[60]


③ その他の原子力・放射線分野の人材育成の取組
 2004年に新設された技術士制度の原子力・放射線部門の2018年度の技術士試験では、第一次試験の申込者140名に対して合格者は68名、第二次試験の申込者114名に対して合格者は22名でした[61][62]。2017年度末時点で、原子力・放射線部門の技術士登録者数は491名となっており、企業、研究機関等において計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務に従事しています[63]
 原子力機構、量研では、それぞれ人材育成センターを設置し、研究者、技術者、医療関係者等幅広い職種を対象に種々の研修を実施しています[64][65]
このほか、原子力安全推進協会は、原子力事業者等による人材育成の充実・強化のためのリーダーシップ研修、運転責任者判定35、技術的専門性を高めるための各種セミナー、原子力発電所の保全工事従事者の技量認定制度等を構築、運用しています[66]。また、日本アイソトープ協会、公益財団法人原子力安全技術センター等では、放射線取扱主任者資格指定講習等の資格取得に関する講習会を実施しています。これらの研修・講習では、研究開発機関だけでなく、地方公共団体、大学関係者や民間企業等からの幅広い参加者を受け入れています[67][68]
 また、人材育成・確保の取組は各地域でも進められており、青森県、福井県や茨城県では、それぞれ青森県量子科学センター(2017年10月)[69]、若狭湾エネルギー研究センターや福井県国際原子力人材育成センター(2011年4月)[70]、原子力人材育成・確保協議会(2016年2月)[71]が設立され、当該地域の関係機関が協力して原子力人材の育成に取り組んでいます。



  1. 原子力人材育成ネットワーク等が日本側のホストを務めるIAEA原子力エネルギーマネジメントスクール(アジア版)の開催については、第3章3-3②「原子力発電の導入に必要な人材育成」に記載しています。
  2. https://jn-hrd-n.jaea.go.jp/material/common/pamphlet.pdf
  3. 原子力発電所運転責任者に必要な教育・訓練及び原子力発電所運転責任者に係る基準に適合しているか否かについて判定を行います。


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