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7-3 我が国における放射線利用環境の整備

(1) 放射線利用に関する規則

 放射線利用は社会に大きな効用をもたらしていますが、関連機器や放射性物質は、取扱いを誤れば人の健康や環境に悪影響を与える可能性があります。このため、放射線による障害を防止し、公共の安全を確保するため、放射性物質及び放射線発生装置に係る使用、販売、廃棄等に対する規制や保安及び保健上の措置に関することが各種の法律で定められています。
 放射線利用は、放射性同位元素や放射線発生装置の使用などを規制することにより、放射線障害を防止し、公共の安全を確保することを目的に制定された放射線障害防止法、放射線障害等から労働者を保護する「労働安全衛生法」(昭和47年法律第57号)、放射線や放射性同位元素等を診断や治療で用いる際の基準等を定める「医療法」(昭和23年法律第205号)及び医薬品等の安全性等の確保のために必要な規制を行う「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(昭和35年法律第145号)等に基づいて、厳格な安全管理体制の下で進められています。


(2) 放射線防護に関する研究

 放射性同位元素及び放射線発生装置を利用する際に、その利用業務に従事する者に放射線障害が発生することを防止するために講ずる措置を「放射線防護」といいます。原子力安全のための規制を担う原子力規制委員会では、放射線源規制・放射線防護による安全確保のための根拠となる調査・研究を推進するため、「放射線安全規制研究戦略的推進事業」を実施しています。同事業では、原子力規制委員会が実施する規制活動におけるニーズ、国内外の動向、放射線障害防止法の改正、放射線審議会等の動向を踏まえ年度毎に重点テーマが設定されます。2019年度の公募では、「放射性物質による多数の汚染・傷病者の初期対応に係る技術的課題の検討」、「放射性同位元素・放射線利用の実態を踏まえた安全管理の合理化・体系化」及び「放射線規制関係法令の運用に係る共通的課題の調査研究」という重点テーマが設定されています[4]
 量研は、原子力災害医療体制の中核機関として、更に実行性のある緊急時の医療体制・支援体制の確立を目指しています。また、原子力災害医療等に係る人材育成の研修体系化及び研修テキスト作成や、放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばく線量を測定するための装置の開発等の研究を行っています。
 原子力機構は、外部被ばくや内部被ばくの線量評価に関する研究や関連する基礎データの整備等を進めており、核医学検査・治療に伴う患者の被ばく線量評価のための米国核医学会の線量計算用放射性核種データ集の改訂に貢献する等の成果も上げています。


(3) 放射性同位元素及び放射線発生装置の利用状況

 放射線障害防止法の規制の対象となる放射性同位元素又は放射線発生装置は、様々な用途で幅広く利用されています。それらの使用事業所は、2018年3月末時点で7,721事業所に達しています。これを機関別に見ると、民間企業が4,593か所、研究機関が439か所、医療機関が1,129か所、教育機関が515か所、その他の機関が1,045か所です(図 7-3)[5]


図 7-3 放射性同位元素又は放射線発生装置の使用事業所の推移

(出典)原子力規制委員会「規制の現状 表2機関別使用事業所数の推移」3に基づき作成


 これらの事業所においては、コバルト60が医療用具の滅菌等の照射装置やレベル計に、ニッケル63がガスクロマトグラフ装置に、クリプトン85が厚さ計に、ストロンチウム90がたばこ量目制御装置に、セシウム137がレベル計や密度計等に、イリジウム192が非破壊検査装置に、アメリシウム241が厚さ計や密度計等に主に使用されています。また、医療機関においては、ヨウ素125、イリジウム192、金198等が密封小線源として、コバルト60及びセシウム137が遠隔照射治療装置及びガンマナイフ装置の線源として利用されています。
 放射線障害防止法に定める放射線発生装置は、2018年3月末時点で1,755台に達しています。放射線発生装置の75.3%は医療機関に設置され、がん治療等に利用されています[6]。また、同装置は教育機関、研究機関、民間企業等にも設置され、様々な研究開発や事業活動等に利用されています。そのほか、放射線障害防止法の規制対象とならない低エネルギー電子加速器、イオン注入装置等も民間企業等に多数設置され、幅広く利用されています。
 放射性同位元素や放射線発生装置の利用によって製造された医療機器や加工製品は、我が国の国民生活に広く普及しており、2015年度の放射線利用の経済規模は約4兆3,700億円と評価されています(図 7-4)。


図 7-4 2015年度の我が国における放射線利用の経済規模

(出典)第29回原子力委員会資料第1-1号 内閣府「放射線利用の経済規模調査」(2017年)[7]


コラム ~放射線利用規模の変化~

 原子力委員会では2017年に、2005年度の調査から10年ぶりに、2015年度の放射線利用の経済規模を調査して公表しました[7][8]。その経済規模は、放射線を利用したサービスの価格や放射線照射の割合を考慮した製品の市場価格等から推計したもので、放射線が国民の生活にどの程度貢献しているかを示す指標の一つと捉えることができます。
 2015年度の放射線利用の経済規模を2005年度と比較してみると、放射線利用分野の全体として増加しており、放射線利用の国民生活への貢献が着実に拡大していることが伺えます。2015年度の工業分野や農業分野における放射線利用は、2005年からほぼ横ばいでしたが、医療・医学での放射線利用の成長が顕著に表れています。特に、放射線を利用した診療行為が増加しているためと考えられ、例えば粒子線治療については、2005年度は約27億円であったのに対し、2015年度は約140億円にまで増加しており、経済規模は10年でおよそ5倍に成長しています。


2005年度と2015年度の放射線利用の経済規模の比較

(出典)第29回原子力委員会 資料第1-1号 内閣府「放射線利用の経済規模調査」(2017年)に基づき作成


  1. http://www.nsr.go.jp/activity/ri_kisei/kiseihou/kiseihou4-1.html
    



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