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4-2 核セキュリティ

 核セキュリティとは、「核物質、その他の放射性物質、その関連施設及びその輸送を含む関連活動を対象にした犯罪行為又は故意の違反行為の防止、探知及び対応」のことをいいます[12]
 我が国は、「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」の義務を遵守しており、原子炉等規制法により原子力施設に対する妨害破壊行為や核物質の輸送や貯蔵、原子力施設での使用等の各段階における核物質の盗取を防止するための対策を原子力事業者等に義務付けています。国は、原子力事業者等が講じる防護措置の実効性を定期的に確認しています。
 なお、2001年9月11日の米国同時多発テロ事件以降、放射性物質の発散装置(いわゆる「汚い爆弾」)の脅威も懸念されるようになり、核爆発装置に用いられる核燃料物質だけでなく、あらゆる放射性物質が防護の対象となってきました。従来は、核物質の不法移転及び原子力施設や核物質輸送への妨害破壊行為に対する防護対策であったものが、放射性物質の盗取及び関連施設又は輸送への妨害破壊行為、さらに規制管理外の核物質やその他の放射性物質にまで、防護の対象が広がっています。


(1)核セキュリティに関する枠組み・体制

① 国際的な核セキュリティに関する枠組み
 1987年2月に発効した「核物質の防護に関する条約」(以下「核物質防護条約」という。)は、核物質の不法な取得及び使用の防止を主目的とした条約であり、2018年6月時点の締約国は157か国と1機関(ユーラトム)です[13]。2005年の改正で、適用の対象が国内で使用、貯蔵、輸送されている核物質又は原子力施設へと拡大されるとともに、処罰対象の犯罪が拡大され、題名が「核物質及び原子力施設の防護に関する条約」(以下「改正核物質防護条約」という。)へと改められました。改正核物質防護条約の発効には、締約国の3分の2による締結が必要であり、2016年の第4回核セキュリティ・サミット(米国ワシントンDCにて同年3月31日、4月1日開催)後、102か国の締結を持って同年5月8日に改正が発効しました[14]
2001年9月11日の米国同時多発テロ事件を契機として、原子力施設自体に対するテロ攻撃や、核物質やその他の放射性物質を用いたテロ活動(いわゆる「核テロ活動」)の脅威等に対処するための対策強化が求められるようになりました。IAEAは、核物質や放射性物質の悪用の想定される脅威を以下の4種類に分類しています[15](図 4-4)。

  1. 核兵器の盗取
  2. 盗取された核物質を用いて製造される核爆発装置
  3. その他の放射性物質の発散装置(いわゆる「汚い爆弾」)
  4. 原子力施設や放射性物質の輸送等に対する妨害破壊行為

図 4-4 IAEAが想定する核テロリズム

(出典)外務省「核セキュリティ」7


 2005年には「核によるテロリズムの行為の防止に関する国際条約」(以下「核テロリズム防止条約」という。)が国連総会で採択され、2007年7月に22か国の締結により発効しました。同条約は、核によるテロリズムの行為の防止並びに、同行為の容疑者の訴追及び処罰のための効果的かつ実行可能な措置を取るための国際協力を強化することを目的としています。我が国は2007年に締約国となり、2019年7月時点の締約国数は、116か国です[16][17]
我が国は、テロ対策のための国際的な取組に積極的に参画しており、前述の改正核物質防護条約や核テロリズム防止条約を含め、国連その他の国際機関で採択された13のテロ防止関連諸条約を締結しています。
 また、IAEAは、各国が原子力施設等の防護措置を定める際の指針となる文書(IAEA核セキュリティ・シリーズ文書)について体系的な整備を実施しています。最上位文書としての基本文書(2013年2月発刊の「国の核セキュリティ体制の基本:目的及び不可欠な要素」)、及び3つの勧告文書(2011年1月に発行された「核物質及び原子力施設の物理的防護に関する核セキュリティ勧告 改訂第5版」(以下「INFCIRC/225/Rev.5」という。)、「放射性物質及び関連施設に関する核セキュリティ勧告」、並びに「規制上の管理を外れた核物質及びその他の放射性物質に関する核セキュリティ勧告」)に加えて、実施指針18冊、技術指針10冊、その他文書3冊が刊行されています(2019年3月時点)[18]。さらに、IAEAが加盟各国の核セキュリティ体制強化のための支援サービスとして主導する国際核物質防護諮問サービス(IPPAS8)も、核物質防護条約等の枠組みへの準拠と措置の実効性の向上を図る上で重要な取組の一つです。


② 国内の核セキュリティ体制

1) 核物質及び原子力施設の防護
 我が国では、原子炉等規制法により原子力施設に対する妨害破壊行為、核物質の輸送や貯蔵、原子力施設での使用等に際して核物質の盗取を防止するための対策を原子力事業者等に義務付けています。原子力事業者等は、原子力施設において核物質防護のための区域を定め、当該施設を鉄筋コンクリート造りの障壁等によって区画しています。さらに、出入管理、監視装置や巡視、情報管理等を行っています。また、核物質防護管理者を選任して、核物質防護に関する業務を統一的に管理しています(図 4-5)。国は、原子力事業者等が講じる防護措置の実効性を核物質防護規定の遵守状況の検査(核物質防護検査)において、定期的に確認しています。
 現在、原子力施設の核物質防護対策は、原子炉等規制法に基づき、図 4-6に示す体系で行われています。

図 4-5 原子力施設における核物質防護(措置の例)

(出典)第1回核セキュリティに関する検討会資料第4号 原子力規制委員会「核セキュリティに関する検討会」(2013年)


図 4-6 原子力施設における核物質防護の仕組み

(出典)原子力規制委員会作成


2) 輸送における核セキュリティ
 表 4-4に示すように、輸送時の核セキュリティは、輸送の種類によって所管する規制行政機関及び治安当局が異なります。特定核燃料物質9の輸送の際の要件は、陸上輸送に関しては原子炉等規制法で、海上輸送に関しては「船舶安全法」(昭和8年法律第11号)で定められています。


表 4-4 特定核燃料物質の輸送を所管する関係省庁

輸送物

輸送方法

輸送経路・日時

陸上輸送

原子力規制委員会

【所外輸送】
国土交通省
【所内輸送】
原子力規制委員会

都道府県公安委員会

海上輸送

国土交通省

国土交通省

海上保安庁

※特定核燃料物質の航空輸送は実施されない。
(出典)第2回核セキュリティに関する検討会 資料第4号 国土交通省・原子力規制庁「輸送における核セキュリティの検討について」(2013年)


(2) 核セキュリティ対策の強化

① 原子力規制委員会における取組
 原子力規制委員会は核セキュリティ勧告第5版(INFCIRC/225/Rev.5)の内容を踏まえ、2016年9月に原子力規制委員会規則を改正するとともに、法令上の義務の要件の一部を定める告示及び運用ガイドを制定し、実用発電用原子炉施設等の一定の範囲の原子力施設について個人の信頼性確認制度を導入し、これらは核物質防護規定の変更許可を経て2017年11月から運用を開始しました。2019年3月には、上記の原子力施設以外である試験研究用等原子炉施設及び使用施設等の未実施施設に対して個人の信頼性確認制度等を導入するため、関係規則等を改正しました。また、放射性同位元素に係る核セキュリティについては、放射性同位元素使用施設等の規制の見直しに関する検討チームによる「放射性同位元素使用施設等の規制の見直しに関する中間取りまとめ」を踏まえ、テロ対策の充実・強化を目的とした「放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律」(昭和32年法律第167号。以下「放射線障害防止法」という。)等の改正が行われました[19]。サイバーセキュリティに関しては、2018年3月に策定した「原子力施設情報システムセキュリティ対策ガイドライン」の内容に照らして、2018年10月に原子力施設の情報システムに係る妨害破壊行為等の脅威を決定し、当該脅威を事業者に提示しました。
 このほか、原子力事業者等との間では、原子力規制委員が経営層との面談等を通じてセキュリティに対する関与意識の強化を図っています。さらに、原子力規制庁は、原子炉等規制法に基づき、特定核燃料物質の防護のために事業者とその従業員が守るべき核物質防護規定の認可、同規定の遵守状況の検査を毎年行っています。


② 文部科学省における取組
 我が国は2010年の核セキュリティ・サミットにおいて、主にアジア諸国の核セキュリティ強化を支援するセンターの設立を表明し、同年12月に原子力機構に「核不拡散・核セキュリティ総合支援センター(ISCN10)」を設置しました。ISCNは人材育成支援、技術開発等の活動を積極的に進めています。
 人材育成支援では、原子力平和利用のセミナー、バーチャルリアリティ(VR)技術や核物質防護の実習施設を活用したトレーニング、保障措置の体制整備の実務者研修等を実施し、各国から高い評価を受けています。IAEA査察官向けに原子力機構の施設を活用した我が国でしか実施できないトレーニングを提供し、IAEAからも高く評価されています。これらの受講者数は、4,200名以上に上っています。
 技術開発では欧米と協力して、押収・採取された核物質を分析して出所等を割り出す核鑑識技術、中性子線を照射して対象物を非破壊分析するアクティブ法などの技術開発を進めています。アクティブ法は対象物からの放射線による影響があっても適用できる分析手法であり、高い放射線レベルの試料中の核物質測定等への適用が期待されています。また、従来の方法では検知困難な厚い遮へい体で覆われたコンテナ等に隠された核物質を非破壊で検知する核検知技術等の開発、核セキュリティ事象における核物質・放射性物質の魅力度(核爆発装置や放射性物質を飛散させる爆発物等への転用のしやすさ)の評価研究も進めています。


③ 国際的取組への対応
 我が国は2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会に向け、大規模国際行事の核テロ対策を強化していく考えです。我が国は2018年2月に、IAEAとの間で「東京2020年オリンピック・パラリンピック競技大会の機会における核セキュリティ措置の実施支援分野における日IAEA間の実施取決め」に署名しました[20]
 このほか、2015年にはIAEAのIPPASミッションの受け入れを行いました。2018年11月26日から12月7日には、IPPASミッションでの勧告事項や助言事項に対する対応状況のレビュー等を行う、IPPASフォローアップミッションの受け入れが実施されました。ミッションチームからは、「前回のミッション以降、日本の核セキュリティ体制には顕著な改善がみられる。その体制は、強固で十分に確立されており、改正核物質防護条約の基本原則に従ったものである。」との見解が示されました。また、日本の核セキュリティを強化し持続性あるものにするための勧告や助言が示されるとともに、幾つかの日本の核セキュリティ措置が良好事例として挙げられました。原子力規制委員会は、これらのミッションの評価結果を踏まえ、引き続き核セキュリティ対策の向上に取り組んでいくとともに、IAEAとの密接な協力の下、国際社会に貢献していく方針です[21][22]


(3) 核セキュリティに関する国際的な取組

① 核セキュリティ・サミット
 米国同時多発テロ(2001年9月11日)以降、国際社会は新たな緊急性を持ってテロ対策を見直し、取組を強化してきました。2009年4月、オバマ米大統領(当時)がプラハ(チェコ)において演説を行い、核テロは地球規模の安全保障に対する最も緊急かつ最大の脅威とした上で、核セキュリティ・サミットを提唱しました。同サミットは4回にわたり開催されました。
 2010年4月にワシントン(米国)で開催された第1回のサミットで、我が国は、「核セキュリティ強化のためのアジア総合支援センターを2010年中に我が国に設立」「核物質の測定、検知及び核鑑識に係る研究開発の実施」「IAEA核セキュリティ事業に対する一層の財政的・人的貢献」「世界核セキュリティ協会(WINS11)会合の我が国での開催」の4つの協力措置を表明しました。2012年3月にソウル(韓国)で開催された第2回サミットで、我が国は、第1回で表明した協力措置全てを達成したことを報告しました。また、第2回サミットでは核セキュリティ向上のための様々なテーマにつき、リード国が中心となって有志国を取りまとめ、具体的な取組を実施する「バスケット提案方式」が採用され、我が国は輸送セキュリティに関するバスケット提案をリードしました。2014年3月にハーグ(オランダ)で開催された第3回サミットでは、安倍首相が、「国内の研究施設にある核物質の移転・処分を内容とする日米合意の発表を含む、核物質の最小化と適正管理についての我が国のこれまでの取組と今後の方針」「核物質防護条約改正への対応等の国内取組強化」「核不拡散・核セキュリティ総合支援センターによる各国の人材育成・能力構築、輸送セキュリティに関するバスケット提案等の国際貢献の強化」の三つの柱からなるステートメントを発表し、我が国の核セキュリティ向上への姿勢を表明しました。第4回サミットは2016年3月にワシントン(米国)で開催され、我が国は、前回サミットで約束した高速炉臨界実験装置(FCA12)の核燃料の全量撤去を日米で緊密に連携し完了したこと、京都大学臨界集合体実験装置(KUCA13)の高濃縮ウラン(HEU14)燃料を低濃縮ウラン(LEU15)燃料に転換し、全てのHEU燃料の米国への撤去を行うことを決定したことについて、日米共同声明の形にまとめて国際社会に対するメッセージとして発出しました。最終回となった第4回サミットでは、サミット終了後の核セキュリティ強化の取組に向けた行動計画等が採択されました[23][24]


② 国連の行動計画
 国連総会と国連安保理は、グローバルな核セキュリティを強化する上で重要な役割を果たしています。2016年の第4回核セキュリティ・サミットで発表された国連の行動計画では、2021年までに国連安保理決議第1540号16の核セキュリティ責務を完全に履行するための取組及び、同決議の2016年包括レビューの機会を利用して同決議の履行と1540委員会17及びその専門家グループへの支援の強化に加えて、核テロリズム防止条約の発効10周年を期に、同条約の履行状況を評価する締約国会合を2017年に開催することを目指すことが含まれています。核テロリズム防止条約発効10周年を記念する締約国会合は、2017年12月5日にウィーンで開催され、112の締約国のうち47か国から代表者が参加しました。同会合では、締約国が経験を共有するとともに、同条約の重要性と同条約に基づく責務を確認し、改正核物質防護条約をはじめとする他の核セキュリティ関連の国際枠組みとの相乗効果や相違点の確認が行われました。また、同条約の有効性を高めるため、締約国を今後更に拡大していく方向性が確認されました[25]


③ IAEAにおける取組
 IAEAは、核テロ対策を支援するために2002年3月、核物質及び原子力施設の防護等8つの活動分野で構成される核セキュリティ第1次活動計画を策定し、核物質等テロ行為防止特別基金を設立しました。現在は、2017年に策定された第4次行動計画が遂行されています。
 これまでに2013年と2016年の2度にわたり、IAEAが主催する閣僚級会議「核セキュリティに関する国際会議」が開催されました。2016年12月5~9日に開催された2回目の会議「核セキュリティに関する国際会議:誓約と行動」では、130か国及び17の国際機関が参加、我が国を含む50か国以上から閣僚レベルが出席し、核セキュリティ・サミットの精神を承継し、今後IAEAが中心となって核セキュリティ強化に向けて各国が努力していくことが確認され、閣僚宣言が発出されました。


④ その他の取組
 上記のほか、我が国も参加する、核セキュリティの向上を目的とした代表的な国際取組として、「大量破壊兵器及び物質の拡散に対するグローバル・パートナーシップ(GP18 )」[26]、「核テロリズムに対抗するためのグローバル・イニシアティブ(GICNT)」、「核セキュリティ・コンタクトグループ(NSCG19 )」[27]等が挙げられます。これらは、それぞれ2002年、2006年のG8を機に設置されましたが、その後G8の枠を超えて、多くの国や国際機関が参加する取組へと拡大しています。また、2008年の第52回IAEA年次総会の際に設立された「世界核セキュリティ協会(WINS)」は、核物質及び放射性物質がテロ目的に使用されないように、これらの物質の管理を徹底することを目的として活動を行っています。WINSは、核セキュリティ管理に関するWINSアカデミーをオンラインで提供しているほか[28]、世界各地で核セキュリティに関わるワークショップを開催しています。2019年2月には、原子力機構の核不拡散・核セキュリティ総合支援センターとの共催で、ワークショップ「核セキュリティにおけるサイバーセキュリティ」が東京で開催されまし[29]



  1. http://www.mofa.go.jp/mofaj/dns/n_s_ne/page22_000968.html
  2. International Physical Protection Advisory Service
  3. プルトニウム(プルトニウム238の同位体濃度が100分の80を超えるものを除く)、ウラン233、ウラン235のウラン238に対する比率が天然の混合率を超えるウランその他の政令で定める核燃料物質です(原子炉等規制法第2条第6項)。
  4. Integrated Support Center for Nuclear Nonproliferation and Nuclear Security
  5. World Institute for Nuclear Security
  6. Fast Critical Assembly
  7. Kyoto University Critical Assembly
  8. High Enriched Uranium
  9. Low Enriched Uranium
  10. 大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散が国際の平和と安全に対する脅威を構成することが明記された、初の国連憲章第7章下の国連安保理決議であり、全ての加盟国が本件決議の実施について安保理の下に置かれる1540委員会へ報告することが定められました。
  11. 国連安保理決議第1540号の履行状況を把握・検討する目的で、国連安保理下に設置された委員会です。
  12. Global. Partnership
  13. Nuclear Security Contact Group

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