原子力委員会ホーム > 決定文・報告書等 > 原子力白書 > 「平成30年度版 原子力白書」HTML版 > 2-2 国内外の原子力のエネルギー利用を取り巻く環境変化

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2-2 国内外の原子力のエネルギー利用を取り巻く環境変化

 原子力エネルギーは、地球温暖化防止に貢献しつつ、安価で安定的に電気を供給できる電源の役割を果たすことが期待されます。軽水炉の再稼働を進め、それを長期に安定・安全に利用できるように努力することが重要です。また、電力小売全面自由化により、従前の地域独占や総括原価方式による料金規制等が廃止されており、原子力のエネルギー利用について、関係者は、国民の便益と負担の観点で、安価な原子力発電による電力を安全・安定に供給するという原点を改めて強く認識し、原子力関係企業等は生き残りをかけて、創意工夫や競争・協力していく必要があります。特に、原子力の発電方式は、市場の需要によって決められるものであり、多様な選択肢と戦略的な柔軟性を維持すべきです。
 またこのような原子力のエネルギー利用を取り巻く環境変化を踏まえ、「技術開発・研究開発に対する考え方」(2018年6月原子力委員会決定)では、「核燃料サイクルを実現するためには、再処理施設を早期に稼働させ、まずは、これまで我が国で採用されてきた軽水炉を活用したプルサーマルを推進していくことが、現時点では、最も市場の要請に合致した現実的な手段である」と指摘しています。また、「加えて、長期的な柔軟性を確保する観点から喫緊の課題である使用済燃料の中間貯蔵能力の拡大や、プルサーマル推進に関するプルトニウム利用等について、電力会社間の協力を含めて国と電力会社の精力的な取組が必要である」としています。


(1)原子力のエネルギー利用を進めていくための取組

 2-1に示したように、電力供給の安定性や経済性、環境問題などの課題を踏まえると、責任ある体制のもと徹底したリスク管理を行った上で、適切に原子力のエネルギー利用を進めていくことが必要です。原子力のエネルギー利用を適切に進めていくには、平和利用を旨とし、安全性の確保を大前提に国民からの信頼を得ながら、原子力技術が環境や国民生活及び経済にもたらす便益とコストを十分に意識して進めていくことが大切です。原子力利用においては、次の各項目を目標とした取組が求められます。

  • 東電福島第一原発事故の反省と教訓を真摯に学ぶ
  • 地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力エネルギー利用を目指す
  • 国際潮流を踏まえて国内外の取組を進める
  • 原子力平和利用の確保と国際協力を進める
  • 国民からの信頼回復を目指す
  • 廃止措置及び放射性廃棄物の対応を着実に進める/li>
  • 放射線・放射線アイソトープの利用により生活の質を一層向上させる
  • 原子力利用のための知識基盤や技術基盤、人材といった基盤の強化を進める


(2) 軽水炉の着実な利用に関する取組

① 電力自由化の下での安全かつ安定的な軽水炉利用
 原子力事業は、巨額の初期投資額の回収期間が長期にわたるため、従来、地域独占14及び総括原価料金規制15により投資の回収が保証されてきましたが、2016年4月1日の電力小売全面自由化 [16]により、こうした制度は撤廃されました。
 ただし、原子力発電には、事故炉廃炉の資金確保や原子力賠償など、市場原理のみに基づく解決が困難な課題があります(図 2-18)。こうした課題への対応として、2017年10月には「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」(平成23年法律第94号)が改正され、事故炉の廃炉を行う原子力事業者等に対して、廃炉に必要な資金を原子力損害賠償・廃炉等支援機構に積み立てることを義務付ける制度が創設されました[17]
 また、電力自由化の下で原子力発電所を長期的に利用するに当たっては、安全性向上に係る原子力事業者等の自律的・継続的な取組が必要です[18]。こうした取組を強化する組織として、2018年7月1日には、原子力事業者、メーカー、関係団体が新組織「原子力エネルギー協議会(ATENA)」を設立しています[19]
 このほか、我が国における、原子力事業者等を含む産業界の原子力の自主的安全性向上に関する動向については、第1章1-5「ゼロリスクはないとの認識の下での安全性向上への不断の努力」に記載しています。


図 2-18 自由化の下での財務・会計上の課題への対応の基本的な考え方

(出典)総合資源エネルギー調査会基本政策分科会電力システム改革貫徹のための政策小委員会「電力システム改革貫徹のための政策小委員会 中間とりまとめ」(2017年)に基づき作成


 一方で、電力小売全面自由化時代の原子力のエネルギー利用について、関係者は、国民の便益と負担の観点で、安価な原子力発電による電力を安全・安定に供給するという原点を改めて強く認識し、原子力関係企業等は生き残りをかけて、創意工夫や競争・協力していく必要があります。


② 使用済燃料の貯蔵
 使用済燃料は、再処理されるまで各原子力発電所の貯蔵プール等で貯蔵・管理されており、2018年9月末時点で、各原子力発電所には合計約15,260tUの使用済燃料が貯蔵・管理されています(表 2-3)

表 2-3 各原子力発電所(軽水炉)の使用済燃料の貯蔵量及び管理容量
(2018年9月時点)

(出典)電気事業連合会「使用済燃料貯蔵対策の取組強化について(「使用済燃料対策推進計画」)」(2018年)

 一部の原子力発電所では貯蔵容量が逼迫しており、今後、原子力発電所の再稼働による使用済燃料の発生等が見込まれる中、貯蔵能力の拡大が重要な課題です。このような状況を踏まえ、「使用済燃料対策に関するアクションプラン」(2015年10月最終処分関係閣僚会議)が策定され、安全の確保を大前提として、貯蔵能力の拡大に向けて官民が協力して取り組んでいます。このアクションプランに基づき、電気事業者が2015年11月に策定した「使用済燃料対策推進計画」では、発電所敷地内の使用済燃料貯蔵施設の増強(貯蔵用プールのリラッキング16、乾式貯蔵施設17の設置等)、中間貯蔵施設の建設・活用等により、2020年頃に4,000tU程度、2030年頃に2,000tU程度、合わせて6,000tU程度の使用済燃料貯蔵対策を行う方針を打ち出しました。その後、電気事業者は2018年11月に「使用済燃料対策推進計画」を更新し、中間貯蔵や乾式貯蔵の着実な推進、燃焼度18向上研究等を通じた使用済燃料発生量の低減等について、積極的な理解活動に取り組むとともに、事業者間の連携を強化し、日本全体としての使用済燃料対策を充実・強化する方針です。経済産業省の使用済燃料対策推進協議会では、同計画を踏まえた電気事業者の取組状況について確認を行っています。2018年11月の第4回協議会では、経済産業大臣から事業者が具体的な取組を着実に進めていくにあたり、国との連携や事業者間の連携を強化するよう要請しました。なお、2018年7月に原子力委員会が公表した「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」においても、使用済燃料の貯蔵能力の拡大に向けた取組を着実に実施するとの方針が示されました[20]


(3) 核燃料サイクルに関する取組

 エネルギー資源の大部分を輸入に依存している我が国では、原子力発電所で発生する使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を再び燃料として有効利用する「核燃料サイクル」の確立を基本方針としています。この基本方針に基づき、立地地域をはじめとする国民の理解と協力を得つつ、安全の確保を大前提に、国や原子力事業者等による取組が進められています(図 2-19)。

図 2-19 我が国の核燃料サイクル施設立地地点(2019年3月時点)

(出典)日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集」を一部編集


 このうちウラン濃縮施設や使用済燃料の再処理施設は、核兵器の材料となる高濃縮ウランやプルトニウムを製造するための施設に転用されないことを確保する必要があります。我が国は、「原子力基本法」(昭和30年法律第186号)にのっとり、原子力利用は厳に平和の目的に限り行っています。日本の全ての核物質及び原子力活動は、IAEA保障措置の厳格な適用を受け、原子力の平和利用を担保しています。また、核不拡散へ貢献し、国際的な理解を得ながら取組を着実に進めるため、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持し、プルトニウムの回収と利用のバランスを十分に考慮しつつ、プルサーマルの推進等によりプルトニウムの適切な管理と利用を行うことで、平和利用に係るプルトニウム利用の透明性向上を図っていきます。


① 核燃料サイクルの基本的考え方

1) 核燃料サイクルの概念
 核燃料サイクルは、ウラン燃料の生産から発電までの上流側プロセスと、使用済燃料の中間貯蔵や再処理、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX19)燃料製造及び放射性廃棄物の適切な処理・処分等からなる下流側プロセスに大別されます(図 2-20)。
 上流側のプロセスは、ⅰ)天然ウランの確保・採掘・製錬、ⅱ)六フッ化ウランへの転換、ⅲ)ウラン235の割合を高めるウラン濃縮、ⅳ)二酸化ウランへの再転換、ⅴ)ウラン燃料の成型加工、ⅵ)ウラン燃料を用いた発電からなります。
 下流側のプロセスは、ⅰ)使用済燃料の中間貯蔵、ⅱ)使用済燃料からウラン及びプルトニウムを分離・回収し、残りの核分裂生成物等をガラス固化する再処理、ⅲ)ウランとプルトニウムの混合酸化物のMOX燃料加工、ⅳ)MOX燃料を軽水炉で利用するプルサーマル、ⅴ)放射性廃棄物の適切な処理・処分等からなります。なお、再処理を行わない政策を採っている国では、原子炉から取り出した使用済燃料については、冷却後、直接、高レベル放射性廃棄物として処分(直接処分)する方針です。


図 2-20 核燃料サイクルの概念

(出典)日本原子力文化財団「原子力・エネルギー図面集2016」(2016年)


2) 我が国の核燃料サイクルに関する取組の基本的考え方

 原子力利用に関する基本的考え方(2017年7月原子力委員会決定、政府として尊重する旨閣議決定)では、プルトニウム利用に当たって、利用目的のないプルトニウムは持たないという原則を引き続き堅持することを示しています。また、プルトニウムの回収と利用のバランスに十分考慮しつつ、プルサーマルを通じてプルトニウムの適切な管理と利用を行うとともに、再処理施設の竣工、MOX燃料加工工場の建設等を進めていくことが必要であることを指摘しています。一方、高速炉開発については、「もんじゅ」の開発によって得られた様々な教訓や技術的知見を踏まえ、国として、電力自由化等の国内環境の変化等を勘案し、商業化の在り方や方向性を検討する必要があるとしています。
 また、2018年7月に原子力委員会が公表した「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」においては、プルトニウムの需給バランスを確保し、プルトニウム保有量を減少させる方針等が示されました。なお、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」の詳細に関しては、第4章4-1「平和利用の担保」に記載しています。 また、エネルギー基本計画(2018 年7月閣議決定)では、核燃料サイクルに関する以下のような基本的考え方が示されています。[1]

  1. 我が国は、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム等を有効利用する核燃料サイクルの推進を基本的方針とする。
  2. 利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則を引き続き堅持し、プルトニウム保有量の削減に取り組む。
  3. 核燃料サイクルに関する諸課題は、短期的に解決するものではなく、中長期的な対応を必要とする。また、技術の動向、エネルギー需要、国際情勢等の様々な不確実性に対応する必要があることから、対応の柔軟性を持たせることが重要である。

② 核燃料サイクルに関する取組

1) 天然ウランの確保

 天然ウランの生産国は、政治情勢が比較的安定している複数の地域に分散しており、国内での燃料備蓄効果が高く、資源の供給安定性に優れています。図 2-21に示すとおり、1940年以降、ウラン探査が開始され、軍事利用更には発電利用のために生産量が伸びていきましたが、冷戦構造の崩壊後、高濃縮ウランの希釈による発電用燃料への転用が開始されたことで、生産量は落ち込んでいます。一方で、需要は2005年頃まで一貫して増加した後、最近まで減少又は横ばいで推移していますが、この頃から、世界的な原子力発電の伸びが予想されたこと等から、ウラン価格が急上昇しました。この価格急上昇を受けて、ウラン増産プロジェクトが開始され、2011年の東電福島第一原発事故後にウラン価格は急落したものの、現在も増産が続いている状況です。


図 2-21 ウラン市場の変遷

(出典)第11回高速炉開発会議戦略ワーキンググループ資料2 石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)「ウラン資源とその需給について」(2018年)


 図 2-22では、2013年末時点と2015年末時点での、在来型ウラン資源量20が示されており、短期的には資源量は減少したように見えますが、1997年と比較すると、既知資源量は1.3倍に増加しており、中長期的にはウラン資源量は増加しているといえます。原子力委員会も2018年12月18日に公表した「高速炉開発に関する見解」において[21]、枯渇が懸念される石油や天然ガス等の資源と同様に、ウランも埋蔵量は探査技術、採掘技術の進歩とともに増加してきたとの見方があり、原子力ルネッサンスといわれていた2000年代後半に、需要の増加を見込んで探鉱が進んだためにウラン資源量は増加していると指摘しています。


図 2-22 在来型ウラン資源量

(出典)石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC21)「ウラン資源とその需給について」(2018年)


 国際的なウラン価格は図 2-23に示すとおり、1980年代中旬以降、50米ドル/kgU程度で推移していましたが、2005年以降は価格が大きく変動しており、2007年から2008年にかけてスポット契約価格が急上昇した後、2009年には急下落しています。一方で長期契約価格は2012年頃まで上昇を続けましたが、近年はスポット契約価格、長期契約価格とも、100米ドル/kgU程度で推移しています。


図 2-23 ウラン価格の推移

(出典)OECD/NEA & IAEA「Uranium2018:Resources, Production and Demand」(2018年)22に基づき作成


また、ウラン需給見通しは図 2-24に示すとおりです。

図 2-24 ウラン需給見通し

(出典)OECD/NEA & IAEA「Uranium2018:Resources, Production and Demand」(2018年)23に基づき作成


 我が国の電気事業者は、天然ウランの全量を海外から調達しています。中国やインド等、世界的に原子力発電が拡大し、中長期的にウラン需給逼迫の可能性が高まると見込まれる中、安定的に天然ウランを調達することは我が国の重要な課題です。経済産業省資源エネルギー庁は、資源国との関係強化に資する案件を中心に、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が実施するウラン探鉱の探索への支援を実施しています[22]

2) ウラン濃縮

 天然ウランには、原子力発電所で利用するウラン235が0.7%程度しか含まれていないため、この濃度を3〜5%まで濃縮して燃料として使用されています。日本原燃(株)の六ヶ所ウラン濃縮工場では、1992年から六フッ化ウランを用いて濃縮ウランが生産されています。世界的には、ウラン濃縮では「ガス拡散法」と「遠心分離法」が利用されています。日本では、日本原燃(株)が開発したより高性能で経済性に優れた新型遠心分離機による濃縮ウランが生産されています。既存の遠心分離機の新型遠心分離機への変更及び新規制基準の対応のため変更許可申請が申請され、原子力規制委員会により、2017年5月に事業変更の許可がなされました[23]
なお、2015年時点での世界全体のウラン濃縮能力は以下の表 2-4のとおりです[24]


表 2-4 世界の濃縮能力(2015年)
事業者・施設 濃縮能力
(トンSWU24/年)

フランス

オラノ社、ジョルジュベスⅡ

7,000

ドイツ、オランダ、英国

ウレンコ社、英カーペンハースト、蘭アルメロ、独グロナウ

14,400

日本

日本原燃(株)、六ヶ所

75

米国

ウレンコ社、ニューメキシコ

4,700

ロシア

Tenex社、アンガルスク、ノヴォウラリスク、ジェレノゴルスク、セベルスク

26,578

中国

核工業集団公司(CNNC25
陝西省漢中、甘粛省蘭州

5,760

その他

アルゼンチン、ブラジル、インド、
パキスタン、イランの施設

100

(出典)世界原子力協会(WNA)「Uranium Enrichment」(2019年)に基づき作成


3) 再転換・成型加工

 濃縮ウランから軽水炉用の核燃料(燃料集合体)を製造するためには、六フッ化ウランから粉末状の二酸化ウランにする「再転換」工程と、粉末状の二酸化ウランを成型、焼結し、ペレット状に加工し、被覆管の中に収納して燃料集合体に組み立てる「成型加工」工程の2つの工程が必要となります。
 再転換工程については、国内では三菱原子燃料(株)のみが実施しています。東電福島第一原発事故前、国内で必要とされる量について、同社で再転換されるもののほかに、海外で濃縮し、再転換された後に輸入したもので賄っていました。
 成型加工工程については、国内では三菱原子燃料(株)、(株)グローバル・ニュークリア・フュエル・ジャパン及び原子燃料工業(株)の3社が実施しています。東電福島第一原発事故前は、加圧水型軽水炉(PWR)用と沸騰水型軽水炉(BWR)用ともに国内で必要とされる量の大部分をこの3社で賄っていました。


4) 使用済燃料再処理

イ) 使用済燃料再処理機構の設立

 電力自由化など原子力事業をめぐる事業環境が変化する中においても、再処理等が将来にわたって着実に実施されるよう、2016年5月に公布された「原子力発電における使用済燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律の一部を改正する法律」(以下「再処理等拠出金法」という。)に基づき、同年10月に使用済燃料再処理機構(以下「再処理機構」という)が設立されました(図 2-25)。


図 2-25 原子力発電における使用済燃料の再処理等のための拠出金制度の概要

(出典)経済産業省資源エネルギー庁


 原子力委員会は2016年10月に再処理機構の使用済燃料再処理等実施中期計画の認可に係る見解を示すに当たり、再処理を実施する前に、再処理や再処理関連加工の実施時期及び量を含む実施中期計画が提示されるよう求めました[25]。同計画の変更に関して、原子力委員会は2018年4月に見解を公表し、実施中期計画の認可に際しては、利用目的のないプルトニウムは持たないとの原則の下、原子力委員会の意見を聴取するよう経済産業大臣に要請しました[26]。2018年7月に原子力委員会が公表した「プルトニウム利用に関する基本的考え方」においても、再処理等の計画の認可に当たっては、六ヶ所再処理工場、MOX燃料加工工場及びプルサーマルの稼働状況に応じて、プルサーマルの着実な実施に必要な量だけ再処理が実施されるよう認可を行う方針が示されました。
 なお、プルトニウム利用に関する基本的な考え方やプルトニウム・バランスに関する取組については、第4章4-1「平和利用の担保」に記載しています。


ロ) むつ中間貯蔵施設及び六ヶ所再処理工場に関する取組

 使用済燃料対策を着実に進める観点からは、リサイクル燃料貯蔵(株)のリサイクル燃料備蓄センター(むつ中間貯蔵施設)や日本原燃(株)の六ヶ所再処理工場(図 2-26)について、地元の理解を得つつ、着実に竣工させることは重要な課題です。 むつ中間貯蔵施設は、2021年度に貯蔵容量3,000トン規模での事業開始を見込んでおり、最終的に貯蔵容量を5,000トンまで拡大する予定です[27] 。2019年3月時点では、原子力規制委員会において、新規制基準への適合性の審査が行われています。


図 2-26 日本原燃(株)六ヶ所再処理工場

(出典)日本原燃(株)「再処理事業の概要」26


 六ヶ所再処理工場では、アクティブ試験27がほぼ終了しており、トラブルのあったガラス固化試験については、2013年に社内試験を終了しています。六ヶ所再処理工場には2000年12月以降、使用済燃料受入れ・貯蔵が開始されており、2019年2月末時点で約3,393トンが搬入されています[28]。そのうち、約425トンがアクティブ試験の段階で再処理されています。2019年3月時点では、原子力規制委員会において、新規制基準への適合性の審査が行われており、施設の竣工時期は2021年度上期の予定です[29]


ハ) 原子力機構における取組

 我が国ではこれまで、原子力機構を中心として、主に東海再処理施設にて、再処理及び再処理技術に関する研究開発を行い、試験運転期間を含め1977年9月から2007年5月まで累積で約1,140トンの使用済燃料の再処理を実施しました。原子力機構は2017年6月には廃止措置計画の認可を原子力規制委員会に申請しており[30]、同計画は2018年6月に認可されました[31]。同施設での再処理を通じて得られた技術は、原子力機構から六ヶ所再処理工場を操業予定の日本原燃(株)への移転が、ほぼ完了しています。
 なお、「我が国におけるプルトニウム利用の基本的な考え方」では、「研究開発に利用されるプルトニウムについては、情勢の変化によって機動的に対応することとしつつ、当面の使用方針が明確でない場合には、その利用又は処分の在り方についてすべてのオプションを検討する」としています。


5) ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料製造

 日本原燃(株)は、商用の軽水炉用民間MOX燃料加工施設(最大加工能力は年間130tHM28)の建設を進めており(図2-27)、2019年3月時点では同施設の竣工時期は2022年度上期の予定です。現在、原子力規制委員会において、この施設の新規制基準への適合性の審査が行われています[32]。
 日本原燃(株)六ヶ所再処理工場で回収されるプルトニウムは、このMOX燃料加工施設でMOX燃料体に加工され、我が国の軽水炉で利用される予定です。 なお、これまでに海外の再処理施設で回収された我が国のプルトニウムがMOX燃料体に加工され、我が国に輸送されています。
 また、我が国では、原子力機構を中心として、「もんじゅ」、「常陽」等の高速増殖炉、新型転換炉等に使用するためのMOX燃料製造(成形加工)に関する研究開発の実績があり、2010年までに、累積で約173tHMのMOX燃料が製造されました[33]


図 2-27 日本原燃(株)MOX燃料加工施設(イメージ)

出典)日本原燃(株)「MOX燃料加工事業の概要」29


6) 軽水炉によるMOX燃料利用(プルサーマル)

 プルトニウムの利用において、プルトニウムの回収と利用のバランスを十分考慮して、軽水炉でのMOX燃料利用(プルサーマル)を行うことが求められています。また、エネルギー基本計画においても、関係自治体や国際社会の理解を得つつ、プルサーマルを着実に推進することとされています。
 電気事業連合会は、東電福島第一原発事故以降も、原子力委員会の「我が国におけるプルトニウム利用の基本的考え方について」(2003年8月原子力委員会決定)に基づき、海外に保有するプルトニウムを含め、六ヶ所再処理工場において800トン再処理時に回収されるプルトニウムを各社で確実に利用するために導入することとしている基数である16〜18基の原子炉でプルサーマルを順次実施する方針を堅持しています[34]。2018年7月に改定された「プルトニウム利用に関する基本的考え方」においても、プルトニウムの需給バランスを確保し、再処理から照射30までのプルトニウム保有量を必要最小限とし、再処理工場等の適切な運転に必要な水準まで減少させるため、事業者に必要な指導を行い、実現に取り組む方針、また、事業者間の連携・協力を促すこと等により、海外保有分のプルトニウムの着実な削減に取り組む方針が明示されています。
 軽水炉でのMOX燃料利用は、海外において約7,200体の実績(2018年1月時点)があり[35]、我が国では、九州電力(株)玄海原子力発電所3号機は2009年12月より、四国電力(株)伊方発電所3号機は2010年3月より、東電福島第一原発3号機(2012年4月廃止)は2010年10月より、関西電力(株)高浜発電所3号機は2011年1月より、同4号機は2017年5月より、プルサーマルを実施した実績があります。2018年7月に原子力委員会が公表した2017年6月末時点での電気事業者のプルサーマル実施状況は図 2-28のとおりです。


図 2-28 電気事業者のプルサーマル実施状況(2017年6月末時点)

(出典)総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会原子力小委員会(第16回) 資料3号 資源エネルギー庁「核燃料サイクル・最終処分に向けた取組」(2018年)


7) 高速炉に関する検討状況

 我が国の将来的な高速炉開発方針案の検討・策定作業を行うために設置された「高速炉開発会議」での検討を踏まえ、2016年12月に開催された第6回原子力関係閣僚会議では、「『もんじゅ』の取扱いに関する政府方針」[36]とともに、「高速炉開発の方針」[37]が決定され、「もんじゅ」は今後、廃止措置に移行し、あわせて将来の高速炉開発における新たな役割を担うよう位置付けられました。
 「高速炉開発の方針」に則って、今後10年程度の開発に関する戦略ロードマップの策定を目指すため、高速炉開発会議の下に「戦略ワーキンググループ」が設置されました。同ワーキンググループは2017~2018年にかけて、有識者ヒアリングを実施した後、2018年12月18日に「戦略ロードマップ(案)」を公表しました[38]31
 原子力委員会は2018年6月に「技術開発・研究開発に対する考え方」を決定し、電力自由化後の技術開発及び研究開発の在り方について、「高速炉の開発や炉型の選択においても、様々な環境変化に柔軟に対応すべきである。(中略)現在、世界では様々な選択肢や技術的チャレンジが追求されており、我が国も開発のスピードを含め、柔軟かつ現実的に考えるべきである。高速炉開発会議の下に設置された戦略ワーキンググループにおいて高速炉開発のロードマップの検討が進んでいるが、上述の観点から検討がなされるべきである。」と述べています [39]
 さらに原子力委員会は戦略ロードマップ(案)の公表と同じタイミングで、高速炉開発に関する見解を発表しました[21]。この見解では、ロードマップ案について、民間主導のイノベーションを促進することや多様な選択肢、柔軟性を確保するなど、これまでの原子力委員会の考え方を踏まえたものと評価し、「高速炉は原子力技術の可能性の一つであるが、経済性に十分留意することが必要である。また、再処理技術が確立していることが前提である以上は、軽水炉核燃料サイクル技術の実用化の知見を十分に生かすことも重要である。国民の利益と負担の観点から、安価な電力を安全かつ安定的に供給するという原点を改めて強く意識し、多様な選択肢と柔軟性を維持しつつ、市場で使われてこそ意味のあるものとの意識で常に取り組むことが必要不可欠であろう。」と述べています。
 核燃料サイクルとプルトニウム利用、ウラン資源量、高レベル廃棄物の有害度低減についても見解を示しています。同見解のまとめでは「高速炉とその核燃料サイクルは、軽水炉使用済燃料の再処理の延長上にあり、日本原燃の再処理工場の竣工と順調な運転を確認するのに今後数年間は必要である。国民の利益や原子力発電技術の維持、国際市場への対応の観点で検討を進めること、また、これまで得られてきた技術的成果や知見を踏まえて、その在り方や方向性を将来にわたって引き続き検討していくことが必要である。その際には、原子力委員会の『技術開発・研究開発に対する考え方』等にて示されている考え方を尊重することを期待する。」と述べています。
 なお、高速炉の研究開発に関しては、第8章8-2「基礎基盤の強化とイノベーションの推進」に記載しています。


  1. 特定地域の電力販売をその地域の電力会社1社が独占できる枠組みです。
  2. 総原価を算定し、これを基に販売料金単価を定める枠組みです。
  3. リラッキング:使用済燃料の貯蔵ラックの間の距離を短くするなどして貯蔵容量を大きくすること。(原子力百科事典ATOMICA:https://atomica.jaea.go.jp/data/pict/04/04070316/05.gif)
  4. 乾式貯蔵:使用済核燃料の貯蔵方法の一つで水中に貯蔵する湿式貯蔵に対して気体中に貯蔵する方式でキャスク貯蔵などがある。 (原子力百科事典ATOMICA:https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_1985.html)
  5. 燃焼度:原子炉に装荷された核燃料が炉内で核分裂反応で発生した熱エネルギーを単位燃料重量当たりで表示したもの(原子力百科事典 ATOMICA:https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_566.html)
  6. Mixed Oxide
  7. ウランを主産物、共産物、副産物として行う生産に十分な歴史を持つウラン資源。
  8. Japan Oil, Gas and Metals National Corporation
  9. OECD/IAEA (2018), Uranium 2018: Resources, Production and Demand, OECD Publishing, Paris. DOI: http://dx.doi.org/10.1787/uranium-2016-en
  10. OECD/IAEA (2018), Uranium 2018: Resources, Production and Demand, OECD Publishing, Paris. DOI: http://www.oecd.org/publications/uranium-20725310.htm
  11. SWU:分離作業単位の英語略で、放射性元素の同位体を分離するのに必要な作業の単位を意味しています。例えば、ウラン濃縮において天然ウランから濃縮ウランを製造する際に必要な作業量などです。(原子力百科事典 ATOMICA:https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_125.html
  12. China National Nuclear Corporation
  13. http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/cycle/summary/history.html
  14. アクティブ試験:再処理工場の操業開始に向けて実施される試験運転のうち、最終段階の試験運転として、実際の使用済み燃料を用いてプルトニウムを抽出する試験のことです。(原子力百科事典 ATOMICA:https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_2274.html)
  15. MOX燃料中のプルトニウムとウラン金属成分の質量です。
  16. http://www.jnfl.co.jp/ja/business/about/mox/summary/
  17. 照射:放射性同位体、原子炉、加速器を用いて物質に中性子、電子線、γ線などの放射線をあてることをいいます。原子力発電所において原子炉内で核燃料に中性子をあてることも照射のひとつです。(原子力百科事典ATOMICA:https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_374.html
  18. 戦略ロードマップ(案)は、2018年12月21日の原子力関係閣僚会議で決定されました。



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