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【資料編】

        

6. 世界の原子力の基本政策と原子力発電の状況

 世界の原子力発電設備容量は、2018年1月末時点で、運転中のものは448基、3億9,305万kWに達しており、建設中、計画中のものを含めると総計663基、6億1,795万kWとなっています。2016年中に供給された年間電力量は2兆4,900億kWh 1 であり、これは全世界の電力の約11%に当たります。脱原子力政策を決定したドイツのような国もあれば、アジアを中心に57基が建設中であり、原子力発電の利用を継続・拡大する国もあります。
 2011年以降においても、世界において42基の原子炉について営業運転が開始されているとともに、37基の原子炉建設が開始されています。


表 1 世界の原子力発電の現状(2018年1月末時点)

     

原子力発電比率は総発電量に占める原子力による発電量の割合。

(出典)世界原子力協会(WNA)のデータに基づき作成
※WNAの集計によるデータであり、5(1)「我が国の原子力発電所の現状(2018年3月時点)」に示した日本原子力産業協会のデータに基づく表の基数と整合しない部分があります。


表2 世界の原子炉の運転開始・着工・閉鎖の推移(2010年以降)

     

(出典)日本原子力産業協会「世界の原子力発電開発動向」(2011〜2018年版)


(1)北米

@ 米国
 米国は2018年2月末時点で99基の原子炉が稼働する世界第1位の原子力発電利用国です。1979年のスリー・マイル・アイランド原子力発電所事故の影響で原子力発電所の新規発注が途絶えていましたが、ブッシュ政権(共和党)下で新設計画を支援する連邦債務保証プログラムや生産税控除等の原子力発電推進政策が打ち出されたことを背景に、2007年10月にワッツバー2号機(図1)の建設が再開され、同機は2016年10月に商業運転を開始しました。米国で新規の原子力発電所が運転を開始するのは約20年ぶりとなりました。
     

図 1 ワッツバー原子力発電所

(出典)ワッツバー原子力発電所


 2009年に発足したオバマ前政権も、クリーンエネルギーの一つとして原子力利用の拡大を支持していました。このような状況の中、米国原子力規制委員会(NRC)に対しては2007年以降、18件の建設・運転一括許認可(COL)申請が行われました(表-3)。2018年2月末時点で7件、12基の原子炉のCOLが発給され、そのうちボーグル3、4号機(AP10002基)とV.C.サマー2、3号機(同2基)が2013年に着工されました。
 一方で、米国ではシェールガス革命により、2009年頃から天然ガス価格が低水準で推移しており、原子力発電の経済性が相対的に低下しています。こうした状況は電気事業者の原子力開発に関する意思決定にも影響を及ぼし、2017年7月には、2013年に着工したV.C.サマーの2基の建設について、継続を断念することが公表されています。また18件のCOL申請のうち、8件が取下げられ、更に2件が電力会社の要請でNRCによる審査中断の状態に置かれています。フェルミ、サウステキサス・プロジェクト及びノースアナについては、COLが発給されたものの建設開始時期は未定です。
 2017年1月に発足したトランプ共和党政権は、民間活力を重視した小さな政府を志向しており、予算要求では研究開発予算を大きく削減しています。その一方で、同年6月のエネルギー週間における演説で、トランプ大統領は原子力について、炭素を排出しないクリーンなエネルギー源であるとし、その再興と拡大を開始するとの意向を示しています。

     
表 3 米国での原子炉新設プロジェクトのCOL申請の状況
電力会社・
コンソーシアム
サイト(立地州) 炉型 基数 建設・運転一括・許認可(COL)

COL発給済

サザン社等

ボーグル(ジョージア州)

AP1000

2

申請(2008.3)
発給(2012.2)

サウスカロライナ・エレクトリック&ガス社等

V.C.サマー(サウスカロライナ州)

AP1000

2

申請(2008.3)
発給(2012.3)

デトロイト・エジソン社

フェルミ(ミシガン州)

ESBWR

1

申請(2008.9)
発給(2015.5)

STPニュークリア・オペレーティング社

サウステキサス・プロジェクト(サウスカロライナ州)

ABWR

2

申請(2007.9)
発給(2016.2)

デューク・エナジー社

レヴィー郡(フロリダ州)

AP1000

2

申請(2008.7)
発給(2016.10)

デューク・エナジー社

ウィリアム・ステーツ・リー(サウ スカロライナ州)

AP1000

2

申請(2007.12)
発給(2016.12)

ドミニオン社

ノースアナ(バージニア州)

ESBWR

1

申請(2007.11)
発給(2017.6)

審査中

フロリダ・パワー&ライト社

ターキーポイント(フロリダ州)

AP1000

2

申請(2009.6)

審査中断

デューク・エナジー社

ハリス(ノースカロライナ州)

AP1000

2

申請(2008.2)

ルミナント

コマンチェピーク(テキサス州)

US-APWR

2

申請(2008.9)

この他8件のCOL申請が取り下げ

(出典)米国原子力規制委員会(NRC)のデータを基に作成


 こうした中、連邦エネルギー省(DOE)と連邦エネルギー規制委員会(FERC)の間では、電力系統の信頼性とレジリエンスの確保の観点から、原子力等の電源の価値が反映される電力市場の在り方等を巡って対応を検討する議論が見られます。詳細については第2章のコラム「米国における発電所閉鎖とDOEからFERCへの電力市場改革要請」で記載しています。この他DOEは、「原子力の技術革新を加速するゲートウェイ(GAIN)」等を通じた先進炉や小型モジュール炉(SMR)の開発支援や、ボーグル3、4号機建設のために政府の債務保証プログラムを追加適用するための手続を進める等の施策を行っています。
 米国では、民生・軍事起源の使用済燃料や高レベル放射性廃棄物を同一の処分場で地層処分する方針に基づき、ネバダ州ユッカマウンテンでの処分場建設が計画され、DOEがブッシュ政権期の2008年6月に、NRCに建設認可申請を提出していました。オバマ前政権は同計画を中止する方針でしたが、トランプ政権はユッカマウンテンプロジェクトを進める意向であり、2018会計年度の予算要求でも、プロジェクト遂行のための予算を要求しています。
 なお、1977年のカーター民主党政権(当時)が再処理を禁止したことを受けて、米国では再処理は行われておらず、最終処分場も未整備の状況であるため、現在使用済燃料は事業者が発電所等で貯蔵しています。

A カナダ
 カナダは、2009年にカザフスタンに取って代わられるまで世界最大のウラン生産国であり、世界全体の生産量の約20%を占めていました。近年その割合は15%程度まで低下しましたが、現在でも世界のウラン供給に重要な役割を果たしています。
 カナダでは2018年2月末時点で、19基の原子炉がオンタリオ州(18基)とニューブランズウィック州(1基)で稼働中であり、国内の総発電電力量の約16%を供給しています。原子炉は全てカナダ型重水炉(CANDU炉)であり、国内で生産される天然ウランを濃縮せずに燃料として使用することが可能です。
 各地方政府と電気事業者は、今後の電力需要への対応と気候保全対策の両立手段として原子力利用を重視していますが、電力需要の伸びの鈍化や経済危機の影響等経済性の観点から、近年は原子炉の新増設よりも既存原子炉の改修・寿命延長計画を優先的に進めています。オンタリオ州では2015年12月にブルース原子力発電所の6基、2016年1月にはダーリントン原子力発電所でも4基の原子炉の大規模改修を実施することが発表されました。一方、原子炉の新増設については、オンタリオ州とアルバータ州で建設計画が保留、ニューブランズウィック州ではポイントルプローでの1基増設計画が中止されています。
 カナダは使用済燃料の再処理を行わない方針を採っており、使用済燃料は原子力発電所サイト内の施設で保管されています。2002年に核燃料廃棄物法が制定され、処分の実施主体として核燃料廃棄物管理機関(NWMO)が設立されました。法律に基づきNWMOは国民対話等を踏まえ政府に使用済燃料の長期管理アプローチを提案しました。これは、最終的には地層処分を行うものの、当面(約60年)はサイト内貯蔵、あるいは必要に応じて集中貯蔵を実施する「適応性のある段階的管理(AdaptivePhasedManagement)」というものであり、2007年6月に政府により承認され決定しました。その後2010年5月に、9段階からなるサイト選定プロセスを含む処分場選定計画が決定され、2012年9月末までに関心を表明した22自治体から段階的に、候補の絞り込みが進められています。2018年2月末時点では、選定プロセスは第3段階第2フェーズ(現地調査)まで進んでおり、候補に残った5自治体を対象に現地調査が実施されています。


(2)欧州

 2007年3月に欧州理事会は、2020年までに@温室効果ガスの排出を1990年比で20%削減する、A最終エネルギー需要に占める再生可能エネルギーのシェアを20%に引き上げる、Bエネルギー効率を20%高めるという目標を採択しました。更に欧州理事会は2050年までに1990年比で温室効果ガスを80〜95%削減するために、2030年までの気候・エネルギー政策枠組みを2014年10月に決定し、2030年までに1990年比で40%削減する目標を掲げました。
 一方で、2013年以降のウクライナ危機を受けて、特に天然ガス供給に関するロシアへの依存に対する懸念が高まり、欧州委員会は、エネルギー安全保障、気候変動対策、省エネ等を含めた包括的な政策アプローチとして、「将来を見据えた気候変動政策を伴うレジリエントなエネルギー同盟枠組み戦略」を2015年2月に発表しました。この戦略に基づき、欧州理事会は同年3月、エネルギー同盟の構築を正式に決定しました。
 温室効果ガスの削減方法やエネルギーミックスの選択は各加盟国の判断に委ねられています。ただし欧州委員会は低炭素エネルギー技術開発の側面から、原子力分野における技術開発を推進する方針を示しています。EUにおける研究開発(R&D)支援制度である「ホライズン2020」の枠組みで、EU加盟国の研究機関や事業者等を中心に立ち上げられたR&Dプロジェクトに対し、資金援助が行われています。

@ 英国
 英国では2018年2月末時点で、15基の原子炉が稼働中であり、総発電電力量の約20%を供給しています。英国では1995年運転開始のサイズウェルB発電所を最後に新設が途絶えていました。しかし、北海ガス田の枯渇や気候変動が問題となる中、政府は2008年1月に原子炉新設を推進していくことを盛り込んだ「原子力白書」を発表しました。11月には、原子力発電所の建設に係る許認可プロセスを効率化し、プロジェクトを円滑に進めるため、「発電所や空港等国家的に重要なインフラ・プロジェクトに対する計画許認可プロセスの効率化について定めた計画法」が制定されました。同法に基づき、政府は原子力に関する国家政策声明書(NPS)を策定し、同NPSは2011年7月に議会の承認を得て発効しました。同NPSには、8か所の新規原子力発電所の建設候補サイトが記載されており、2017年12月末時点では、このうち5サイトにおいて、新設計画が進められています(表4)。このうちヒンクリーポイントC(HPC)サイトにおける2基の欧州加圧水型原子炉(EPR)の建設プロジェクトについては、2016年9月に、政府、フランス電力(EDF)、中国広核集団(CGN)の3者が固定価格買取差額決済契約(FITCfD)と投資合意書に署名しています。なお、2012年10月に制定されたインフラ法に基づき、重要なインフラ投資と位置付けられたHPCプロジェクトに対しては債務保証が適用されます。また、2013年に制定されたエネルギー法に基づくFITCfD制度では、原子力発電を含む低炭素発電を対象に、発電電力量当たりの基準価格を設定し、市場価格を下回った場合には、その差額の補填を受けることができるため、長期的に安定した売電収入を見込めることになります。HPCプロジェクトについては、政府とEDFが2013年10月に、FITCfDの基準価格について合意していました。
 2016年の国民投票後に発足した新政権も、原子力開発を推進するこれまでの政策を踏襲しています。2017年11月に公表した産業戦略では、英国の生産性向上のためには原子力が不可欠であると位置付けられました。更に政府は、2025年末までに運転開始可能な原子炉の建設を想定していた2011年のNPSに代わる新たなNPS(2026〜2035年に運転開始可能な原子炉を対象)を策定する方針であり、新たなNPSの案についての意見募集が行われています。
 英国では、1950年代からセラフィールド再処理施設で国内外の使用済燃料の再処理を行っています。政府は2006年10月、再処理で生じるガラス固化体について、再処理施設内で貯蔵した後、地層処分する方針を決定しました。2008年6月の白書「放射性廃棄物の安全な管理-地層処分の実施に向けた枠組み」で示された公募に基づく6段階からなる処分場サイト選定プロセスが開始され、セラフィーフィルドのあるカンブリア州西部が関心を示しましたが、2013年1月にプロセスから撤退しました。政府が2014年7月に公表した白書「地層処分-高レベル放射性廃棄物の長期管理に向けた枠組み」では新たなサイト選定プロセスが提示されました。プロセスは2018年6月頃にも開始される見込みです。

     
表4 英国での主たる原子炉新設プロジェクト
電力会社・コンソーシアム サイト 炉型 基数

フランス電力(EDF)と中国広核集団(CGN)

ヒンクリーポイントC

EPR

2

EDFとCGN

サイズウェルC

EPR

2

ホライズン社

ウィルファ

ABWR

2

ホライズン社

オールドベリーB

ABWR

2

NuGeneration社

ムーアサイド

AP1000

3

各プロジェクトへのEDFとCGNの出資比率はサイトによって異なる。
(出典)WNAのデータを基に作成

A フランス
 フランスでは2018年2月末時点で58基の原子炉が稼働中です。我が国と同様にエネルギー資源の乏しいフランスは、総発電電力量の約7割を原子力発電で賄う原子力立国であり、その規模は米国に次ぐ世界第2位となっています。また、2006年の原子力政策に関する国民討議を経て、10年ぶりの新規原子炉となるフラマンビル3号機(EPR、160万kW)の建設が2007年12月以降進められています。
 2012年に発足したオランド前政権は、総発電電力に占める原子力の割合を、2025年までに50%に縮減する目標を掲げ、2015年8月には、この政策目標が規定された「グリーン成長のためのエネルギー転換に関する法律」(エネルギー転換法)が制定されました。2017年に発足したマクロン政権も、この方針を踏襲しました。しかし、送電系統運用株式会社(RTE)が11月に、2025年までに原子力発電電力量を50%に縮減するためには、既存の石炭火力発電所の維持とガス火力の新規建設が必要との分析結果を示したことで、減原子力目標の達成時期を2025年から先送りする方針を発表しました。なお、エネルギー転換法では、原子力発電の総設備容量の上限を、現行の6,320万kWとすることも規定されているため、国内の原子力発電所の運転者であるEDFは、2018年末頃に予定されているフラマンビル3号機の運転開始に伴い、同機と同等分の既存炉を閉鎖する必要があります。EDFは政府との間で、国内最古のフェッセンハイム発電所の2基の原子炉を閉鎖することを決定し、閉鎖後の地域経済の振興策等を検討しています。
 マクロン政権も、仏原子力事業者の海外進出等を支援する方針です。政府は円滑な原子力事業者の協力体制を構築するために、株式の大半を保有するEDF及びアレバ社を中心とする原子力産業界の再編を主導しています。再編によってアレバ社は燃料サイクル事業を担うオラノ社、原子炉製造事業を担うフラマトム社等に分割されました。フラマトム社の株式の75.5%をEDFが、19.5%を三菱重工業(株)が、5%を仏エンジニアリング会社Assystemが保有しています。またオラノ社には日本原燃(株)及び三菱重工業(株)がそれぞれ5%ずつ出資しています。
 また、高レベル廃棄物処分関連の動向として、2006年の放射性廃棄物等管理計画法に基づき、放射性廃棄物管理機関(ANDRA)が「可逆性のある地層処分」を基本とする方針に沿って高レベル放射性廃棄物等の地層処分場の設置に向けた準備を進めています。ANDRAは2019年に設置許可申請を政府に提出し、2025年に地層処分場の操業を開始する計画です。また地層処分場の操業は、地層処分場の可逆性と安全性を立証することを目的としたパイロット操業フェーズから開始され、その結果の審査後に地層処分の可逆性の実現条件を定める法律が制定され、その後に原子力安全機関(ASN)が地層処分場の全面的な操業許可を発給できます。

B ドイツ
 ドイツでは2017年12月31日に原子炉1基が閉鎖され、稼働中の原子炉が7基となりました。2002年の原子力法改正により、ドイツでは原子炉の新規建設が禁止され、既存炉についても運転期間32年を基準に決められた発電電力量の上限値に達した原子炉から、順次閉鎖することが定められました。
 その後、2009年に発足した第2次メルケル政権は、原子力発電を「再生可能エネルギー社会への橋渡しに必要な技術」と位置付け、2010年12月に原子力法を改正し、既存炉の運転期間を平均12年延長しました。しかし、2011年3月に発生した東電福島第一原発事故を受けて連邦政府は原子炉の運転延長を撤回し、同年8月に再び原子力法を改正して各原子炉の閉鎖年限を定め、2022年末までに原子力発電からの撤退を完了することを決定しました。2010年末時点でドイツ国内では17基の原子炉が稼働中でしたが、原子力法改正に伴い、8基の原子炉が2011年8月6日付で一斉閉鎖されました。その後2015年6月にグラーフェンラインフェルト、2017年末にグンドレミンゲンB号機が閉鎖され、ドイツにおける稼働中の原子炉は残り7基となりました。次の閉鎖炉は、2019年末が閉鎖期限とされているフィリップスブルク2号機となる予定です。
 ドイツでは1970年代からゴアレーベンを候補地として高レベル放射性廃棄物処分場計画が進められてきましたが、東電福島第一原発事故後の原子力政策見直しの一環で白紙化されました。その後、公衆参加型の新たなサイト選定プロセスを経て、複数の候補地から段階的に絞り込みを行う方針が決定し、新たな選定プロセス実施に向けた処分実施・規制体制の変更や関係法令の整備が行われ、2017年9月に、新たなプロセスによるサイト選定が開始されました。サイト選定について規定する「発熱性放射性廃棄物の処分場サイト選定法」では、2031年末までに処分場サイトを確定することが定められています。

C スウェーデン
 スウェーデンでは2018年2月末時点で、運転中の8基の原子炉で総発電電力量の約40%を賄っています。スウェーデンでは原子力発電に関する政府方針が、複数回変遷しています。1980年の国民投票の結果を受け、2010年までに既存の原子炉12基(当時)を全廃するとの国会決議がなされましたが、代替電源確保のめどが立たない中、2006年に政府は脱原子力政策を凍結しました。この間、実際に閉鎖されたのはバーセベック発電所1、2号機のみでした。2010年には既設炉の建て替え(リプレース)を認める法律が成立し、2012年にはヴァッテンファル社が1〜2基のリプレースを申請しました。
 その後、2014年10月に発足した社会民主党と緑の党の連立政権は脱原子力政策を推進することで合意し、原子力発電への課税強化措置を採りました。さらに、欧州における卸電力価格の低迷による原子力発電の経済性の悪化もあり、2015年には、電気事業者がオスカーシャム2号機、リングハルス1、2号機の早期閉鎖を決定しました。しかし2016年6月、同連立政権と一部野党は、原子力発電への課税を撤廃するとともに、既存サイトにおいて10基を上限としてリプレースを認める方針で合意しています。
 スウェーデンでは、使用済燃料は各発電所で冷却された後、オスカーシャム自治体にある集中中間貯蔵施設(CLAB)で貯蔵されており、再処理は行わず地層処分されます。地層処分場については、2009年6月に立地サイトとしてエストハンマル自治体のフォルスマルクが選定されました。使用済燃料処分の実施主体であるスウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB社)は2011年3月に立地・建設の許可申請を行いました。スウェーデンでは、環境法典に基づく許可と、原子力活動法に基づく許可の二つの許可が必要となり、前者は土地・環境裁判所、後者は放射線安全機関(SSM)による審査が進められています。このうち、環境法典に基づく許可の審査の一環として、2017年9月には、土地・環境裁判所で口頭弁論が実施されました。2018年1月には、土地・環境裁判所とSSMはそれぞれ、意見書を政府に提出しました。SSMは政府に対して許可を発給するよう勧告していますが、土地・環境裁判所は、処分場の安全性を立証する追加資料がSKB社から提出される場合に限り、政府が環境法典に基づく処分場の許可を発給することが可能になるとの結論を示しています。

D フィンランド
 フィンランドでは2018年2月末時点で、4基の原子炉が稼働中であり、総発電電力量の約34%を原子力発電で賄っています。政府は気候変動対策や、ロシアへのエネルギー依存度の低減を目的として、エネルギー利用の効率化や再生可能エネルギー開発と、原子力発電も活用する方針です。
 この方針に沿って、TVO社は国内5基目の原子炉となるオルキルオト3号機(EPR、160万kW)の建設を2005年5月から進めていますが、工事の遅延により、運転開始は当初予定の2009年から大幅に遅れ、2019年となる予定です。さらに、国内6基目の原子炉として、Fennovoima社がハンヒキビ1原子力発電所の建設を計画しており、2015年9月から建設許可申請の審査が開始されています。
 また、フィンランドは高レベル放射性廃棄物の地層処分場のサイトが世界で初めて最終決定された国です。地元自治体の承認を経て、2000年末に政府は地層処分場をオルキルオトに建設する原則方針を決定し、2003年には同地において地下特性調査施設(ONKALO)の建設が許可され、建設作業と調査研究が実施されています。その後、地層処分事業の実施主体であるポシバ社は2012年12月に処分場の建設許可申請を行い、政府は2015年11月に建設許可を発給しました。地層処分場は2020年代初め頃に操業開始する予定です。


     

図 2 スウェーデン・オスカーシャム原子力発電所

(出典)オスカーシャム原子力発電所


E スイス
 スイスでは2018年2月末時点で、5基の原子炉が稼働中であり、総発電電力量の約34%を原子力で賄っています。2007年2月に政府が発表した「2035年までのエネルギー見通し」では、2020年頃に既存の原子力発電所が運転寿命を迎え、発電設備容量の恒常的な不足が生じるとの予測が示され、2031年以降の原子炉新設が長期エネルギーシナリオに盛り込まれました。これを受けてATEL社(2009年2月以降Alpiq社)、AXPO社、BKW社の3社は、2008年内に合計3基の新設・リプレースに係る概要承認(計画の大枠に対する政府承認)申請を提出しました。しかし、2011年3月の東電福島第一原発事故を受けて、政府は同年5月、中長期のエネルギー政策方針「エネルギー戦略2050」を閣議決定し、原子力発電所の新規建設・リプレースを行わず、段階的脱原子力を進める方針を示しました。脱原子力への政策転換を巡っては、既存炉を運転開始後45年で早期閉鎖することを求める意見もありましたが、最終的には国民投票を経て、原子力発電所の新規建設・リプレースは禁止するものの、既存炉については閉鎖期限を規定しない内容の原子力法改正が決定され、2018年1月1日に発効しました。なお、従来英国及びフランスに委託して実施していた使用済燃料再処理は禁止されることとなりました。
 放射性廃棄物処分場に関しては、3段階のプロセスで候補地の絞り込みが進められています。2018年2月末時点で、プロセスは第2段階の途上であり、地質学的候補エリア「チューリッヒ北東部」「ジュラ東部」及び「北部レゲレン」の3か所について、第3段階に向けた調査が継続されています。

F イタリア
 1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故により原子力への反対運動が激化した後、1987年に行われた国民投票の結果を受け、政府が既設原子力発電所の閉鎖と新規建設の凍結を行った結果、2018年2月末時点で、主要先進国(G8)の中で唯一、イタリアでは原子力発電所の運転が行われていません。電力供給の約10%以上を輸入に頼るという国内事情から、産業界等から原子力発電の再開を期待する声が上がり、2008年4月に発足したベルルスコーニ政権(当時)は、原子力発電再開の方針を掲げ、必要な法整備を進めました。しかし、2011年3月の東電福島第一原発事故を受けて、国内世論が原子力に否定的な方向に傾く中、原子力発電の再開に向けて制定された法令に関する国民投票が実施された結果、原子力発電の再開に否定的な票が全体の約95%を占め、政府は原子力再開計画を断念しました。

G 中東欧及びコーカサス諸国
 中東欧及びコーカサス諸国では2018年2月末時点で、ブルガリア(2基)、チェコ(6基)、スロバキア(4基)、ハンガリー(4基)、ルーマニア(2基)、スロベニア(1基)、アルメニア(1基)の7か国で20基の原子炉が運転中、スロバキアで2基が建設中です。ポーランドでも原子力発電の新規導入が計画されています。原子力発電を行っている7か国の原子力発電比率は総じて高く、中でもスロバキアとハンガリーでは50%を超えます。なお、同地域で運転中の原子炉は、ルーマニアの2基(カナダ型重水炉(CANDU炉))とスロベニアの1基(米国製加圧水型軽水炉(PWR))を除き、全て旧ソ連型の炉(VVER)です。
 旧ソ連型VVERの安全性を懸念する西側諸国は、同地域各国のEU加盟条件として、旧型VVERの閉鎖を要求しました。これを受け、ブルガリア(2007年1月加盟)ではコズロドイ原子力発電所1〜4号機、スロバキア(2004年5月加盟)ではボフニチェ原子力発電所1、2号機が閉鎖されました。
 その後、2011年の東電福島第一原発事故を経た後も、中長期的な電力需要増加への対応、温室効果ガス排出の抑制、また天然ガス供給国であるロシアへの依存度低減といった観点から、同地域では複数の国で引き続き、原子炉の新増設や、社会主義体制崩壊後に建設が中断された原子炉の建設再開等が計画されています。
 現在の国際的な経済情勢の下、同地域ではEUの国家補助(StateAid)規則や公正競争に係る規則への抵触を避けつつ、いかに原子力事業に係る資金調達を行うかが課題となっています。こうした中、2015年11月にはルーマニア国営企業とCGNがチェルナボーダ3、4号機の建設、運転や資金調達等に関する覚書(MOU)を締結、2016年3月にはチェコ電力(CEZ)とCGNが原子力発電所の建設、運転、燃料サイクル等の分野での長期的な協力方針を示すMOUを締結する等、近年、旧来関係の深いロシアに代わる新たなパートナーとして中国に接近する動きが見られています。また、ポーランドでは国立原子力研究センターが我が国の原子力機構と高温ガス炉技術に関する協力覚書を2017年5月に締結する等、我が国との協力も進められています。


(3)旧ソ連諸国

@ ロシア
 ロシアでは2018年2月末時点で、36基の原子炉(うち2基は高速炉)が運転中で総発電電力量の約15%を供給しており、6基が建設中です。原子力行政に関しては、2007年に設置された国営企業ロスアトムが民生・軍事両方の原子力利用を担当し、連邦環境・技術・原子力監督局が民生利用に係る安全規制・検査を実施しています(軍事利用に係る安全規制はロスアトム自ら実施)。
 ロシアでは、2010年に閣議決定された連邦重点プログラム(FederalTargetProgram)で、2050年までに発電電力量に占める原子力の割合を45〜50%とする目標が掲げられました。その後2016年8月には、2030年までに現在建設中のものに加えて11基を国内で新規建設する方針が決定されています。またロシアは原子力事業の海外展開を積極的に進めており、ロスアトムは旧ソ連圏以外のイラン、中国、インドでロシア型原子炉VVERを運転開始させている他、トルコやフィンランド等にも進出が決定しています。
 ロシアは原則として使用済燃料を再処理する方針ですが、現在は一部の燃料がRT-1再処理プラントで再処理され、残りは原子炉等で貯蔵されています。鉱業化学コンビナート(MCC)内のプラントでは、高速炉向けの混合酸化物(MOX)燃料が製造されています。ロシアは2030年までのクローズドサイクル実現に向けて、高速炉でのMOX燃料利用を進めており、2015年12月には、ベロヤルスクのナトリウム冷却型高速炉BN800が系統接続しました。同炉は2019年までにフルMOX運転に移行する予定です。
 またロシアは、政治的理由により核燃料の供給が停止した場合の供給保証を目的として、2007年5月、シベリア南東部のアンガルスクに国際ウラン濃縮センター(IUEC)を設立し、IAEA監視の下、2010年以降約120tの低濃縮ウランを備蓄しています。2018年2月末時点で、同センターにはロシアが70%、カザフスタン、ウクライナ、アルメニアが10%ずつの比率で出資しています。

A ウクライナ
 ウクライナでは2018年2月末時点で、15基の原子炉が運転中で総発電電力量の50%以上を供給しています。従来、核燃料供給や石油・天然ガス等、エネルギー源の大部分をロシアに依存してきましたが、クリミア問題等に起因する両国の関係悪化もあり、原子力分野も含めてロシアへの依存脱却に向けた取組を進めています。
 ウクライナ政府は、2017年8月に策定された2035年までの新エネルギー戦略において、2035年まで総発電量が増加する中で、原子力比率を約50%に維持する目標を設定しています。なお、1990年に建設途上で中断したフメルニツキ3、4号機についてはロシアの協力で両機を完成させる計画でしたが、議会は2015年にロシアに発注する計画の撤回を決議しました。ウクライナは、ロシアに代わる事業引継に関連して、EU加盟国の企業であるチェコのシュコダ社との協力を検討している他、2016年8月には韓国水力原子力(KHNP)と原子力分野における協力拡大に関するMOUを締結する等、関係を強化しています。このほか、既存原子炉への燃料供給元の多様化、寿命延長のための安全対策等も欧米の企業や国際機関の協力を得て進めています。
 なお、チェルノブイリ原子力発電所では1986年に事故が発生した4号機を密閉するため、国際機関協力の下で老朽化したコンクリート製「石棺」を覆うシェルターが建設されています。

B カザフスタン
 カザフスタンは2009年以降、世界一のウラン生産国の座を維持しており、国営原子力会社カザトムプロムが、ウルバ冶金工場(UMP)でウラン精錬、転換及びペレット製造等を行っています。カザトムプロムは2030年までに世界の核燃料供給の3割を占めることを目標に、ロシアに加えカナダ、フランス、中国等の出資・協力を得て事業の多国籍化・多角化を図り、UMP内のプラントにラインを増設して様々な炉型向けの燃料を製造する計画です。なお、カザトムプロムは低濃縮ウランの国際備蓄にも大きく関与しています。同社はロシアのアンガルスクにあるIUECに10%出資している他、2017年8月には、IAEAとの協定に基づきUMPで建設が進められていたウラン燃料バンクが完工しました。同燃料バンクでは、最大90tの低濃縮ウランが備蓄されます。
 カザフスタンはフロントエンド事業の拡大だけでなく、中小型炉を中心とした原子力発電の本格導入も検討しています。同国では旧ソ連時代に建設された高速炉1基(BN-350)が1999年まで運転していましたが、現在運転中の原子炉は存在しません。2012年に策定した2030年までの発電開発計画において、政府は2030年における原子力発電設備容量を90万kWとしています。また2012年には原子力・放射線安全、核物質防護等の分野を担当する新組織として、国家原子力庁が設置されました。
 カザフスタンはロシアと2014年に設備容量合計30〜120万kWの原子炉の建設に係る二国間協力に関する政府間協定に仮署名しました。しかしその後の2015年、カザフスタンのエネルギー省は新規原子炉の運転開始時期を2025年以降とする見通しを示しました。建設の有力候補地はクルチャトフ近郊あるいはバルハシ湖南西地域とされています。
 カザフスタンに対しては、我が国も原子力平和利用に関する交流及び協力を進めており、2010年に原子力協定を締結しました。近年でも2015年10月に日本原子力発電(株)及び丸紅ユティリティ・サービスがカザトムプロムと、原子力発電導入に向けた協力に関するMOUを締結しています。また、原子力機構も、ウラン開発や高温ガス炉の研究開発でカザフスタンとの協力を継続しています。


(4)アジア

@ 韓国
 韓国政府はエネルギーの安定供給や気候変動対策に取り組むため、CO2の排出が少ない電源として原子力発電を維持する方針を示し、原子力技術の国産化と次世代炉の開発等、積極的な原子力政策を進めてきましたが、2017年5月に発足した文在寅政権は、原子力政策の見直しを表明しています。
 なお、2018年2月末時点で、24基、2,251万kWの原子力発電所が運転中で、総発電量に占める原子力発電の割合は30%です。さらに、次世代軽水炉(APR-1400)を含め建設中が4基、560万kW、計画中が1基、140万kWとなっています。前政権は第二次国家エネルギー基本計画で、2035年までに発電設備容量に占める原子力の比率を29%とする計画を示しており、2035年時点で必要な原子力発電設備容量を4,300万kWとしていました。しかしながら、文在寅新大統領は、新増設は認めず、設計寿命を終えた原子炉から順に閉鎖する漸進的な脱原子力発電政策へと転換する旨を宣言しました。文新政権は2017年8月から10月にかけて実施された討論型世論調査の結果を踏まえ、既に建設前準備が進んでいた新古里5、6号機の建設は継続するとしました。しかし、これら2基を除く6基の新設計画については、2017年10月に閣議決定されたエネルギー転換ロードマップにおいて白紙撤回し、今後の新増設及び運転延長を認めない方針を定めました。同年12月に官報公示された第8次電力需給基本計画は上記ロードマップの方針に沿ったもので、今後の原子炉基数は2017年時点の24基(2,250kW)から、2030年には18基(2,040万kW)に、設備容量ベースでの原子力発電の比率は現在の19.3%から2030年には11.7%に減少させる想定となっています。
 政府はこれまで、国産炉の海外輸出を推進してきました。アラブ首長国連邦(UAE)では、2009年末に受注したバラカ原子力発電所(APR-1400、4基)が建設中で、2018年に初号機が運転開始予定です。研究開発面では、海水淡水化と熱供給を目的として開発してきた多用途炉SMARTの海外輸出も進めており、2015年にはサウジアラビアとの間で、2基以上のSMARTをサウジアラビアに建設し、同国との協力により第3国への輸出を目指す協力覚書に署名しました。更に両国は同年9月、同協力覚書に基づき、建設前詳細設計事業協定を締結しました。なお文新政権は、国内で脱原子力政策を進める一方で、輸出については国益にかなうなら推進する方針を打ち出しており、韓国企業は英国等でのプロジェクトへの進出を計画しています。

A 中国
 中国では、電力需要の増加と石炭利用による大気汚染問題に対応する観点から、原子力発電の拡大が図られるとともに、2011年の東電福島第一原発事故を契機に、安全性の向上に向けた取組も行われています。
 2018年2月末時点で、中国で運転中の原子炉は38基であり、設備容量は合計3,000万kWを超えました。更に20基(約2,155万kW)が建設中です。2007年に国務院が承認した「原子力発電中長期発展計画(2005〜2020年)」では、2020年までに原子力発電設備容量を4,000万kWとする目標が掲げられました。その後、目標達成を前倒しするペースで建設が進み、目標の大幅な上方修正も検討されましたが、2011年の東電福島第一原発事故を受けて、原子力安全の再検討のため新規建設承認の手続が一時中断されました。2012年に政府は、「原子力安全・放射性汚染防止第12次五カ年計画と2020年長期目標」、「原子力発電安全計画」、「原子力発電中長期発展計画」を承認し、既存炉及び新設炉の安全規制方針や、安全性向上に関する方針を示しました。その上で政府は2014年に「エネルギー発展戦略行動計画(2014-2020年)」を策定し、2020年までに原子力発電の設備容量を5,800万kWとし、更に同時期の建設中の発電所の設備容量を3,000万kW以上にする目標を掲げ、内陸部における新設計画は当面着工しないものの、沿海部を中心に引き続き原子力発電設備容量を増大する方針を示しました。これを受けて2015年3月には、原子炉新規建設の承認も再開されました。
 中国では、米国及びフランスの技術をベースに、中国核工業集団公司(CNNC)とCGNがそれぞれ軽水炉の国産化を進めてきましたが、これを統合して国産の第3世代炉「華龍1号」を開発、2016年3月に両社出資による華龍国際核電技術有限公司(華龍公司)が発足しました。華龍1号は国内外での展開を想定しており、既に2015年に福清5号機として華龍1号の初号機の建設が開始されています。今後国内で複数基の建設が予定されている他、華龍1号を採用したパキスタンのカラチ原子力発電所2、3号機の建設も開始されています。なお、クローズドサイクルの実現に向けた高速炉開発も進めており、2010年には実験炉CEFRが初臨界を達成し、2011年に送電を開始しました。また2017年12月には、高速実証炉の建設が開始されています。
 中国は近年、原子炉の国外輸出を積極的に進めています。前述のパキスタンに加え、英国でも2015年の両国首脳合意に基づき、原子力発電所新規建設への中国企業の出資が予定されており(ヒンクリーポイントC、サイズウェルC)、さらには華龍1号の供給も行われる見込みです(ブラッドウェルB)。このほか、中国の原子力事業者は東欧や中東、アジア、南米でも高温ガス炉やカナダ型重水炉(CANDU炉)等を含む各種原子炉の建設協力に向けたMOUを締結しています。

B 台湾地域
 台湾地域では、2016年の選挙で発足した蔡政権(民進党)下で、2017年1月に、2025年までに原子力発電を全廃するとの内容を含んだ改正電気事業法が成立しました。台湾地域では2018年2月末時点で、3か所の原子力発電所で合計6基(BWR4基、PWR2基)の原子炉が運転中であり、2016年時点で原子力発電が総発電電力量に占める割合は約15%です。
 台湾では2000年発足の民進党政権が段階的脱原子力政策を打ち出しましたが、2008年の政権交代で成立した国民党政権は、原子力発電を再生可能エネルギー社会に至るまでの過渡的な電源として維持する方針を示し、龍門で建設中であった第四原子力発電所(ABWR×2基、各135万kW)の建設を継続し、既存炉のリプレースや増設も検討する意向を示しました。しかし、2011年の東電福島第一原発事故を受け、政府は同年6月、中長期的な脱原子力発電へと再度政策を転換し、既存炉の寿命延長やリプレースを行わないことを決定しました。ただし、第四原子力発電所の建設については安全性を確認した上で継続する方針が示されていました。
 しかし、政府と議会は2013年2月に、第四原子力発電所建設中止の是非を国民投票で決定することで合意し、これを受けて国民投票実施まで建設に関する活動を凍結することになりました。その後、国民投票は実施されないまま、2017年1月に脱原子力を定める改正電気事業法が成立しています。

C ASEAN諸国
 ASEANを構成する10か国は2018年2月末時点で、いずれも原子力発電所を持っていません。しかし、気候変動対策やエネルギー安全保障の観点から、原子力計画への関心を示す国が増大しています。
 ベトナムでは2009年に、2020年の運転開始を目指し、原子力発電所を2か所(100万kW級の原子炉計4基)建設する計画が国会で承認されました。また2011年の「第7次国家電力マスタープラン」では、2030年までに10基の原子炉を運転開始させ、国内の電力の約10%を原子力で賄う計画が示されました。同国初の原子力発電所となるニントゥアン第1、第2原子力発電所は、それぞれロシアと我が国が建設プロジェクトのパートナーに選定されましたが、政府は2016年11月、国内の経済事情を背景に、両発電所の建設計画の中止を決定し、国会もこれを承認しました。
 インドネシアは2007年に制定された「長期国家開発計画(2005〜2025年)に関する法律」において、2015〜2019年に初の原子炉の運転を開始し、2025年までに追加で4基の原子炉を運転開始させる計画を示しました。しかし、ムリア半島における初号機建設計画は2009年に無期限延期となり、2010年以降はバンカ島を新たな候補地として検討が継続されていますが、原子力発電所建設の決定には至っていません。一方で、政府はロシアや中国の協力を得て実験用発電炉(高温ガス炉)の建設計画を進める等、商用発電炉導入に向けたインフラ整備を進めています。
 タイは2010年の電源開発計画(PDP2010)において、2020〜2028年に5基の原子炉(各100万kW)を運転開始させる方針を示していましたが、東電福島第一原発事故や2014年の軍事クーデター後の政情不安等に伴い計画は先送りされています。軍による暫定政権下、2015年に発表された電源開発計画(PDP2015)では、初号機の運転開始時期が2035年、2基目が2036年とされています。
 マレーシアは、2010年策定の「経済改革プログラム」において原子力発電利用を検討し、2011年にマレーシア原子力発電会社(MNPC)を設立しました。2021年と2022年に原子炉各1基を運転開始することを目標としていましたが、MNPCは2013年に、建設開始は2021年以降となるとの見通しを発表しています。
 フィリピンは、現行のエネルギー計画(2012年〜2030年)には原子力発電利用の計画を盛り込んでいないものの、2016年に就任したドゥテルテ大統領が、1986年に完成後、運転しないままとなっているバターン原子力発電所(60万kW)の復活検討に言及しており、11月には同国エネルギー省(DOE)が、工業化目標達成のため、エネルギー源多様化に向けて原子力発電の導入を検討する意向を発表しました。

D インド
 インドでは故バーバ博士を中心に研究開発がスタートし、1948年に原子力委員会が発足、1954年には原子力省も設置されました。少量・低品位な国内ウランに対し豊富なトリウム資源を有するインドでは、バーバ博士により、第1段階として天然ウラン重水炉(PHWR:加圧重水炉)で発電し燃料再処理によりプルトニウムを生産、第2段階としてプルトニウムを高速炉で燃やしトリウムを装荷してウラン233を生産、更に第3段階としてトリウムサイクルを確立する独自の開発計画が立案されました。現在は第2段階の途上にあります。
 2018年2月時点で、インドで運転中の原子力発電所は7か所、合計22基で、総出力は622万kWです。このうち17基が国産PHWR、2基がBWR、2基がVVER、1基がカナダ型重水炉(CANDU)です。また、現在建設中の原子力発電所は、PHWR4基とVVER1基、高速増殖炉原型炉(PFBR)1基の計6基です。インドは急増するエネルギー需要を賄うため、原子力発電の拡大を計画し、原子力発電の総設備容量を2032年までに6,300万kWに拡大し、2050年までに総発電電力量の25%を原子力発電で賄うことを計画しています。
 核兵器不拡散条約(NPT)未締約国であるインドに対しては従来、核実験実施に対する制裁として国際社会による原子力関連物資・技術の貿易禁止措置が採られ、その間専ら国産PHWRを中心に原子力発電の開発を独自に進めてきましたが、2008年以降に米国、フランス、ロシア等と相次いで二国間原子力協定を締結したことにより、諸外国からも民生用原子力機器や技術を輸入することができるようになりました。
 既に運転を開始しているロシアのVVERに加え、2018年3月にはフランスからのEPR導入について、枠組み合意が結ばれました。米国からのAP-1000導入も計画されています。2017年7月には、我が国との間で日印原子力協定が発効しています。インド政府は2017年に国産PHWR10基の新設計画を承認しており、今後は国産炉、国外炉両輪での原子力拡大が進むと考えられます。インドは上掲の開発計画に基づき高速増殖炉(FBR)の開発・導入を進めています。1985年に運転を開始した高速増殖実験炉(FBTR)は、2011年に2030年までの運転延長が決定しました。上述のとおり、現在PFBR1基が建設中です。


(5)その他

@ 中東諸国
 中東地域では現在稼働中の原子力発電所はありませんが、電力需要の伸びを背景として、原子力発電の建設・導入に向けた動きが活発化しています。
 UAEでは、電力需要の増加により、2020年までに4,000万kW分の発電設備が必要であるとされています。このためUAEはフランス、米国、韓国と協力し、原子力発電の導入を検討してきました。UAEが2020年までの100万kW級の原子炉4基の建設に関する国際入札を実施した結果、2009年末に韓国電力公社(KEPCO)を中心とするコンソーシアムが選定されました。建設サイトであるバラカでは、2012年に建設が開始された1号機が2018年に運転を開始する予定です。2〜4号機の建設も進捗中であり、2020年までに順次運転開始する予定です。
 トルコは、経済成長と電力需要の伸びを背景として、2030年までに3か所の原子力発電所に合計12基の原子炉を建設する計画です。3か所の原子力発電所のうち、アキュではロシアが120万kW級原子炉を4基、シノップでは三菱重工業(株)と仏アレバ社の合弁会社であるATMEA社のATMEA1を4基建設する予定です。現状では、アキュ、シノップともに初号機の運転開始は2023年と見込まれています。
 サウジアラビアでは、2030年までに16基の原子炉を建設する計画です。原子力導入に向けては、フランス、韓国、中国、ロシア等が協力しており、フランスとは2015年6月に、サウジアラビアにおける2基のEPRの建設に関するフィージビリティ調査を実施する協定に調印しています。韓国とは2015年3月、韓国国産の小型炉SMARTのサウジアラビアでの建設及び第三国への共同進出の推進に係るMOUを締結しています。ロシアとは2015年6月に原子力平和利用に関するMOUに調印しています。更に中国とは、2014年8月に原子力平和利用に関するMOUに調印した他、2016年1月には、高温ガス炉の建設に関するMOUも結んでいます。
 ヨルダンは、フランス、中国、韓国と原子力協定に署名し、同国初の原子力発電所建設を担当する事業者の選定を進めていましたが、2013年10月に、ロシアを優先交渉権者として選定し、2015年10月には、原子力発電所の建設・運転に関する政府間協定を締結しました。ヨルダンは2025年までに100万kW級原子炉を2基稼働させる計画です。
 イランでは、ロシアとの協力で建設されたブシェール原子力発電所1号機が2013年に運転を開始しました。更に両国は2014年11月、イランに追加的に8基の原子炉を建設することで合意しました。

A アフリカ諸国
 アフリカでは、唯一南アフリカで原子力発電所が稼働中です。南アフリカでは、クバーグ原子力発電所で2基の原子炉(PWR)が稼働しており、総発電電力量の約7%を供給しています。同国は2030年までに合計960万kW相当の原子炉を運転開始させ、電源構成に占める原子力シェアを23%とする方針を示し、新設計画には、中国、ロシア、フランス、韓国等各国企業が関心を示しています。しかし経済難や公衆受容の問題もあり、原子力計画の推進が難しい状況にあります。
 エジプトでは、チェルノブイリ原子力発電所事故の影響で1986年に頓挫していた原子力発電の導入計画が、2006年9月のエネルギー最高評議会で、原子力開発計画が20年ぶりに再開されました。しかし、2011年のムバラク政権(当時)の崩壊とその後の政情不安により、予定されていたダバにおける原子力発電所建設のための国際入札は延期されました。その後エジプトは、国際入札ではなく提案招請を行い、これに応じたロシア、中国、韓国の事業者と協議を行った結果、2015年11月、ロシアとの間で、120万kW級の原子炉4基の建設・運転に関する政府間協定を締結しました。2017年12月には、エジプトとロシアの間でダバ原子力発電所建設に係る契約が発効しています。
 アルジェリアは、2027年の運転開始を目指して国内初の原子力発電所の建設を計画しており、2007年12月のフランスとの原子力協定締結を始め、米国、中国、アルゼンチン、南アフリカ、ロシアと原子力協定を締結しています。
 モロッコは、2009年の国家エネルギー戦略に基づき、2030年以降のオプションとして原子力発電の導入を検討する方針です。2017年10月にモロッコとロシアは原子力協力覚書を締結しており、モロッコ国内での原子力発電導入を目的とした共同研究を開始することとしています。なおモロッコは、原子力損害の補完的な補償に関する条約(CSC)の締約国です。
 ナイジェリアは、2025年までに100万kW分の原子力発電所を建設し、2030年までに4基の原子炉(合計480万kW)を建設する計画です。同国はロシアとの間で、2009年3月に原子力協定を、2017年10月にはナイジェリアにおける原子力発電所の建設・運転に向けた協定を締結しています。
 ケニアは、中長期的な開発計画「Vison2030」の中で、総発電電力設備容量を1,900万kWまで拡大する目標を掲げ、この目標の達成に向けて、政府は原子力を活用する方針です。このためケニアは2013年以降、韓国の韓国電力国際原子力大学院(KINGS)に技術者を派遣し、2016年8月には人材育成も含む原子力全般に係るMOUに調印しました。また、2015年9月には中国と、原子力開発に係る包括的なMOUに調印しています。更に2016年6月にはロシアと、9月には韓国ともMOUを結んでいます。

B オーストラリア
 世界最大のウラン資源埋蔵量を持つオーストラリアは、同時に豊富で安価な石炭資源を保有しており、現在まで原子力発電は行われていません。ただし温室効果ガス排出削減の観点から、原子力発電導入の是非が度々議論されています。2005年の京都議定書発効後、ハワード保守連合政権下で原子力発電の導入を検討する方針が示されましたが、2007年の総選挙で原子力に批判的な労働党政権が誕生し、検討は中止されました。近年では主に南オーストラリア州において原子力発電を含む核燃料サイクル導入が検討され、2016年には同州政府が設置した委員会が報告書を州政府に提出しました。同報告書では、原子力発電については商業的に困難との見方が示されましたが、放射性廃棄物に関しては、国外からの使用済燃料を受入れ管理・処分することが同州に利益をもたらすとの見解が示されました。また2017年には、オーストラリア原子力科学技術機構(ANSTO)が、第4世代原子力システムに関する国際フォーラム(GIF)に正式加盟しました。
 オーストラリアは近年、初の原子力発電所建設中のアラブ首長国連邦に加え、長年禁輸対象であったインド、燃料供給のロシア依存度低減に取り組むウクライナ等と協定を締結し、新興国等へのウラン輸出拡大を図っています。

C 中南米諸国
 中南米諸国では2018年2月末時点で、メキシコで2基、アルゼンチンで3基、ブラジルで2基の計7基の原子炉が運転中です。
 メキシコでは、ラグナベルデ1、2号機(BWR)が稼働中であり、総発電電力量の約6%を供給しています。2010年の電源開発計画では、2028年までに10基を新設するシナリオが示されていましたが、国内におけるシェールガス田の発見を受けて見直しとなりました。2017年8月に発行された「国家電力システム開発プログラム(PRODESEN)」では、2029年から2031年に1基ずつ、計3基を運転開始させる計画が示されています。
 アルゼンチンでは、アトーチャ1、2号機(PHWR)とエンバルセ発電所(CANDU炉)で計3基が稼働中であり、総発電電力量の約6%を供給しています。4〜6基目の建設計画も進められています。4基目(アトーチャ3号機〔PHWR〕)と5基目(PWR)は中国の協力の下、それぞれ2018年、2020年の着工に向け準備が進められています。6基目については、2015年にロシア政府と、120万kW級VVER建設の協力枠組みを定めるMOUに署名しました。
 ブラジルでは、アングラ1、2号機(PWR)が稼働中であり、総発電電力量の約3%を供給しています。経済不況により1980年代に建設を中断していたアングラ3号機は、2010年に建設が再開されました。2015年の「エネルギー拡大計画2024」によれば、2024年までに増設が見込まれる原子炉は、アングラ3号機のみとされています。また、核燃料工場を始めとするサイクル施設が立地するレゼンデでは、アングラ1、2号機の燃料自給を目的として濃縮工場が2006年から稼働しており、段階的に拡張されています。
 キューバは、1976年に旧ソ連と結ばれた原子力協定に基づき、1983年にフラグア1号機、1985年にフラグア2号機を着工していました。しかし、旧ソ連の崩壊により1991年にロシアがキューバに対する支援を全面的に停止した影響で、1992年に建設工事が無期限延長となり、2000年に計画は撤回されました。その後キューバとロシアは2009年5月に、原子力研究における協力を再開することで合意しましたが、原子力発電計画再開に関する具体的な動向は確認されていません。
 ボリビアでは、ロシアの技術支援の下、アルゼンチン等の南米諸国が参加して、研究炉1基を含む、原子力技術研究開発センターが建設される計画です。



  1. 出典)世界原子力協会(WNA)



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