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8-3 研究開発活動や人材育成を支える基盤的施設・設備

 研究用原子炉等は、我が国の原子力研究開発基盤を支えるとともに、原子力人材を養成する場として必須のものです。新規制基準や高経年化への対応により、これまでどおりの施設運用が困難な状況の中、研究開発及び人材育成に影響が出ないよう留意しつつ、これら施設の集約化、重点化が進められています。


(1)研究用原子炉等の運転再開に向けた審査状況

 研究用原子炉(以下「研究炉」という。)等は、我が国の原子力研究開発基盤を支えるとともに、原子力人材を養成する場として必須のものです。原子力機構及び大学等の研究炉や臨界実験装置は、最も多い時期には20基程度運転していましたが、現在は9基までに減少し(図8-5)、さらに老朽化も進んでいます。また、東電福島第一原発事故以降は、新規制基準対応のため、全ての研究炉が一旦休止しました。このような現状を踏まえ、原子力委員会は2016年4月に研究用原子炉等に関する見解を取りまとめ、全研究炉の休止による人材育成や研究開発に深刻な影響が及んでいること、運転を再開した場合も高経年化対策や廃止措置等の課題があることを指摘しました。また、人材育成や研究開発等の観点から優先度の高い研究炉に対して、集中的に人的資源・経営資源を投入し、規制対応等を進めるべきであるとし、原子力機構においては大学等研究機関・民間企業に対する施設・設備供用の一層の促進を図ることが望ましいとの見解を示しました [39] 。なお、2016年5月に京都大学のKUCA [40] 及び近畿大学の近畿大学原子炉 [41] 、2016年9月に京都大学の京都大学炉(KUR 19[42] について、新規制基準への適合に係る設置変更が原子力規制委員会により許可(承認)され、使用前及び定期検査合格を経て、2017年4月に近畿大学原子炉 [43] 、6月にKUCA [44] 、8月にKUR [45] がそれぞれ運転を再開しました。また、2018年1月には、原子力機構の研究炉のうち、STACY及びNSRRについて、新規制基準への適合に係る設置変更が許可されました [46] [47] 。HTTR、JRR-3及び常陽については、現在、新規制基準への適合性確認に係る申請を行い、審査対応を進めています。      


     

図 8-5 我が国の主な研究炉等施設

(出典)第45回原子力委員会 資料第1号 日本原子力学会上塚寛会長(当時)「原子力研究開発と人材育成―原子力学会の現状等から考える―」(2015年)を一部編集


(2)研究用原子力施設の集約化・重点化

 原子力機構が管理・運用している原子力施設は、研究開発のインフラとして欠かせないものです。2018年3月現在、加速器施設等も含めて10施設・設備が供用施設として、大学、研究機関、民間企業等に属する外部研究者に提供されており [48] 、東電福島第一原発事故以前は、現在量研に移管されたイオン照射研究施設(TIARA 20 )等も含め、年間1,000件程度の利用実績がありました [49] 。しかし、施設の多くは昭和時代に整備されたものであり、高経年化への対応が課題となっています。また、2011年3月の東日本大震災とこれによる東電福島第一原発事故後に規制基準が見直された結果、継続利用には多額の対応費用が掛かることが見込まれています。一方、役割を終えた施設については、施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分といったバックエンド対策を進める必要があり、バックエンド対策にも多額の費用が発生します。これらの状況を踏まえ、原子力機構は、「施設の集約化・重点化」「施設の安全確保(高経年化対策、新規制基準対応・耐震化対応等)」、「バックエンド対策」を三位一体で進める方針を取りまとめた「施設中長期計画」の案を2016年10月に発表し、2017年4月に策定しました(2018年4月改定) [50] 。施設の集約化・重点化に当たっては、最重要分野とされる「安全研究」及び「原子力基礎基盤研究・人材育成」に必要不可欠な施設や、東電福島第一原発事故への対処、高速炉研究開発、核燃料サイクルに係る再処理、燃料製造及び廃棄物の処理処分研究開発といった原子力機構の使命達成に必要不可欠な施設については継続利用とする方針の下で、検討が進められました。全89施設のうち、現在廃止中のものを含めて44施設が廃止施設とされています(図8-6)。廃止施設の中には、我が国で唯一の材料試験炉であるJMTRも含まれており、原子力研究開発に携わる多くの関係者から、今後の研究開発活動に支障を生じる可能性が高いとの懸念が示されています。      


     

図 8-6 原子力機構における施設の集約化・重点化計画

(出典)原子力機構「施設中長期計画の概要」(2018年) [51]


 文部科学省は、国として持つべき原子力研究開発機能の維持に必須な施設及び、その運営の在り方等についての整理・検討のため、2017年1月、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会原子力科学技術委員会の下に、原子力研究開発基盤作業部会を設置しました [52] 。2018年4月に取りまとめられた中間まとめでは、国として持つべき原子力の研究開発機能について、東電福島第一原発事故の対処に係る廃炉等の研究開発、原子力の安全性向上に向けた研究、原子力の基礎基盤研究、高速炉の研究開発、放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発等、核不拡散・核セキュリティに資する技術開発等及び人材育成の大きく7つに整理しています。また、原子力研究開発の将来像や国の内外の原子力研究開発施設の状況を踏まえ、短期・中期的な視点として、国内の試験研究炉の早期運転再開のほか、海外施設について情報収集や、その利活用に係る一元的な窓口機関の整備をするとともに海外施設利用に伴う支援が必要としています。さらに、長期的な視点から、関係機関の利用ニーズを踏まえ、協働してJMTRの後継としての安全研究や材料照射研究を担う新たな照射炉の建設に向けた検討を進めることや、もんじゅサイトを活用した試験研究炉の方向性について、設置すべき炉に係るニーズ調査や具体の運営方法など委託調査の状況を踏まえつつ、引き続き多様なステークホルダーを交えた検討を継続することのほか、グレーデッドアプローチに関して、建設時と運用時の両面で柔軟な対応を構築できるよう規制当局と議論を進めることが重要であるとしています。加えて、産学の多様な関係者が原子力研究開発施設を効果的・効率的に活用できるよう、その基盤の維持・発展を目的にした支援を実施するとともに、供用のための仕組みを強化し、供用可能な施設・設備等を我が国全体へ拡大することが重要であるとしています。なお、上記を進めるに当たっては、常に国民の声に耳を傾けながら、俯瞰的な視点でとらえ、透明性のある情報発信とともに進めるべきとしています。



  1. Kyoto University Research Reactor
  2. Takasaki Ion Accelerators for Advanced Research Application

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