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第8章 原子力利用の基盤強化

         

8-1 研究開発の方針並びに関係組織の連携や研究開発機関の機能の変革

 原子力科学技術は、科学技術基本計画において原子力の利用に資する研究開発を推進していくこととなっています。しかし、東電福島第一原発事故やもんじゅ等における度重なるトラブルが招いた国民の原子力への不信・不安は、いまだ高いままです。福島の復興・再生及び廃止措置や放射性廃棄物への対応を着実に進めつつ、地球温暖化問題や国民生活・経済への影響を踏まえた原子力利用を目指すためには、技術開発だけでなく原子力関連機関における安全文化の確立を含む安全性向上に取り組む必要があります。
 加えて、原子力利用による国民の便益の観点等を踏まえて、新しい技術を市場に導入する事業者と技術創出に必要な新たな知識や価値を生み出す研究開発機関や大学の両者の連携や協働により、厚い知識基盤を構築することが重要です。
 また、我が国唯一の総合的原子力研究開発機関である原子力機構は、もんじゅ等における事故を踏まえ安全確保を最優先とした改革を実施するとともに、我が国全体の原子力利用の基盤と国際競争力を強化し研究開発成果を最大化していくために、組織マネジメントの改善を進めています。


(1)我が国における研究開発の考え方

@ 東電福島第一原発事故に関する調査報告書
 1990年代以降、原子力利用機関において生じた様々なトラブルや、2011年3月の東電福島第一原発事故により、国民の原子力に対する不信・不安が高まっています。一方で、事故炉の廃止措置や、放射性廃棄物の処理・処分といった困難な課題を解決していくためには、研究開発の重要度は極めて高いといえます。
 東電福島第一原発事故の反省・教訓や、原子力を取り巻く環境の変化、国際展開の必要性等を踏まえ、政府や研究開発機関は研究開発計画の策定を行うとともに、適切なマネジメントがなされるよう新たな仕組みを構築し、課題を着実に解決していくことが必要です。
 文部科学省は、2016〜2020年度を対象とする「第5期科学技術基本計画」(2016年1月閣議決定) [1] に基づき、2017年2月に「研究開発計画」を策定し(最終改訂2017年8月)、文部科学省として重点的に推進すべき研究開発の取組及び、その推進方策について取りまとめました [2] 。この中で、原子力科学技術は国家戦略上重要な科学技術として位置付けられおり、研究開発目標として、安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発の推進、さらに、将来に向けた革新的技術の確立に向けた研究開発への取組が掲げられています。目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組として、東電福島第一原発の廃炉等の事故の対処、安全性向上等に資する研究開発の推進、及び、人材育成や国際協力等を通じた原子力分野の研究・開発・利用の基盤整備が挙げられています。また、革新的なエネルギー技術の開発として、核融合エネルギーの実現に向けた研究開発に取り組むことが示されています。      

(2)原子力関係組織の連携による知識基盤の構築

 新しい技術を市場に導入するのは主として事業者である一方、技術創出に必要な新たな知識や価値を生み出すのは研究開発機関や大学であり、両者の連携や協働が重要です。効果的な取組としては、まず、原子力関係事業者と研究開発機関の壁を越えた知識基盤を構築すること、その上で、新しい技術を迅速に市場に導入するための連携や協働を進めることの二つが挙げられます。ところが、我が国の原子力分野では、こうした分野横断的・組織横断的な連携が十分とはいえず、科学的知見や知識も組織ごとに存在している状況です。このような現状を踏まえ、原子力委員会は、2016年12月に軽水炉利用に関する見解を取りまとめた際に、産業界と研究機関・大学をまたぐようなネットワークや省庁横断的な体制の構築等、欧米における取組等も参考とした仕組み作りを早急に検討すべき旨を指摘しました [3] 。このような連携により、研究機関や学協会、原子力関連事業者が情報交換しつつ連携・協働し、厚い知識基盤の構築を進め、企業側では、学理を修得した人材により、深い知識に基づいた不断の技術向上等が可能となり、一方、研究機関や大学では、俯瞰的能力を持つ人材の育成や重要な研究開発テーマの抽出等が可能となるといった、相乗効果も得られると期待されます。このため、「軽水炉長期利用・安全」「過酷事故・防災等」「廃止措置・放射性廃棄物」の3つのテーマで、産業界と研究機関・大学等をまたぐ連携プラットフォームの立ち上げを原子力委員会が声掛けをしています(図8-1)。それぞれのテーマに基づいたプラットフォームでは、研究開発や国民理解の増進、根拠情報の明示・俯瞰、研究や利用の進展等を行い、厚い知識基盤の構築に向けた取組を進めています。      


     

図 8-1 原子力関係組織の連携プログラム


コラム 〜欧米における研究開発機関と産業界の連携・協働〜

 欧州や米国では、研究開発機関や大学と産業界が知識基盤を共有しつつ、それぞれの強みを活かして補完的に連携・協働しながら軽水炉技術の向上等が図られています。その事例として、欧州のNUGENIA、米国の軽水炉持続プログラムLWRS 1 が挙げられます。
欧州のNUGENIA
 NUGENIAは、安全で信頼性、競争力のある第二、第三世代の核分裂技術を実現するために、2012年に設置された研究開発の枠組みで、欧州を中心とした政府、企業、研究機関、大学の114のメンバーが参画しています。具体的には、原子炉安全、リスク評価、過酷事故、原子炉の運転改善、軽水炉技術の向上等の分野をターゲットとして、産業界、研究開発機関等が連携し、知識基盤の構築や付加価値の高い研究開発成果の実用化を目指しています。


     

NUGENIAの枠組み

(出典)第25回原子力委員会 資料第1-3号 原子力委員会「原子力利用に関する基本的考え方 参考資料」(2017年) [4]


米国の軽水炉持続プログラム
 米国エネルギー省(DOE)は、既存炉の寿命延長を目指し4つの研究領域(材料の経年劣化、原子炉安全、リスク情報を活用した安全裕度の評価、計測・制御・情報システムの改良)を設定し、研究開発を支援しています。アイダホ国立研究所を中心とした国立研究所のインフラ・資源を活用するとともに、電力研究所(EPRI)を中心とした産業界、NRCとも連携をしています。


     

NUGENIAの枠組み

(出典)Kathryn A. McCarthy, Ph.D.「Informing Long-Term Operationof US Plants:the Department of Energy Light Water ReactorSustainability Program」(2014)



(3)研究開発機関の変革

 原子力機構は、我が国における原子力に関する総合的研究開発機関として、原子力の持続的な利用と発展に資する基礎的・基盤的研究等を担っています。
 国内外の環境の変化や国際潮流等を的確に踏まえて研究開発成果を最大化していくためには、意識改革に留まらず、目標管理手法等、経営上の手法・仕組みといった具体的な組織マネジメントの改善を進めていくことが必要です。さらに、我が国全体の原子力利用の基盤と国際競争力の強化に資するため、プロジェクトの抽出とその実施を重視する従来の志向から脱却し、ニーズ対応型の研究開発を行うとともに、その駆動力としての役割を果たすことが求められています。
 このような状況の下、2017年3月、原子力機構は「国際戦略」 [5] 及び「イノベーション創出戦略」 [6] を策定しました。「国際戦略」においては、@原子力安全確保への貢献、A核不拡散・核セキュリティの確保への貢献、B研究開発成果の最大化、C原子力人材育成支援、D研究成果の海外への普及、国際展開、の5つの基本方針を定めています。この基本方針の下、東電福島第一原発の廃止措置や、安全性向上や次世代炉、バックエンドに関する研究等の分野について、諸外国及び国際機関との協力を進めることとなっています。「イノベーション創出戦略」においては、原子力のエネルギー利用に係るイノベーションと、基礎基盤研究や施設供用等による原子力科学を通じたイノベーションの2つに分類して、原子力機構が目指すべきイノベーションを挙げています。イノベーション創出のため、原子力機構内外での協力・連携及び異分野融合の促進、研究インフラの整備、人材育成と確保等の取組が行われる予定です。
 しかし、このような取組が進められる中、2017年6月、原子力機構大洗研究開発センターにおいて作業員5名が内部被ばくする事故が発生し [7] 、根本原因の分析や再発防止に向けた検討が進められました。原子力機構が事故の状況、原因の調査・分析結果並びに対策等について取りまとめた報告書 [8] に対して、2018年2月、原子力規制委員会は「原因分析や対策等は妥当」と評価しました。一方で、原子力機構に対し実施中の対策を確実に履行することを求めています [9] [10] 。我が国全体の原子力利用の基盤と国際競争力の強化に資する研究開発において主導的な役割を果たせるよう、保全活動の継続的な改善や安全文化の醸成を含め、原子力機構全体の自主的安全性向上活動に取り組むことが望まれます。      

コラム 〜諸外国における研究開発マネジメントの状況〜

 米国やフランス等の原子力利用国は、継続的な原子力利用等のために、様々な研究開発を実施しています。研究開発の実施に当たっては、民間のノウハウを活用する国、国が一貫したマネジメントを担保している国等、それぞれの国で特徴的な仕組み・体制が採用されています。我が国においても、このような諸外国の取組を参考にしながら、最適な研究開発マネジメントを実現していく必要があります。以下では、米国、フランス、ドイツ、欧州委員会の研究開発マネジメント体制について紹介します。

国名 マネジメント体制の概要

米国 [11]

連邦政府が制定する歳出法により予算配分を受けたDOEが国立研究所で研究開発を実施するが、国立研究所のマネジメントは民間企業に委託。
DOEは全米に17の国立研究所を有しており、これが米国のエネルギー分野における研究開発の一つの中心となっている。国立研究所の予算は歳出法として連邦議会によって決定されるため、研究開発の方向性の決定において議会の役割は重大である。なお、研究開発が長期的で一貫した方針の下で行われるようにするために、学術機関や政府の科学技術政策局(OSTP 2 )が政府に対して助言を与えている。
大部分の国立研究所のマネジメントには「政府所有・外注運営」の形態が採用されており、マネジメントは入札等によって選定された民間企業が実施している。こうした形態の採用のメリットとしては、受託者が政府機関に適用される規制を受けないことによる人材確保等における柔軟性の維持、研究所とマネジメントを請け負う民間企業との間の長期的な関係の構築等が挙げられる。
国立研究所のマネジメントの向上のために、連邦議会は2014年に「エネルギー分野の国立研究所の効率性のレビュー委員会」(CRENEL 3 )を設置して検討を行わせるなどの取組を行っている。

フランス [12]

国が主導でマネジメントを行っているのが特徴的である。フランス電力は政府が大半の株式を所有している。
国として重要と位置付けられる原子力に関するR&Dの方針の方向性については、政府や原子力・代替エネルギー庁(CEA)フランス電力会社(EDF)等によって作られ、政令に規定される。研究開発は国の機関であるCEAやEDFの研究所によって行われる。CEAの活動方針は、大統領が召集する原子力政策評議会等の政府機関によって決定される。政府が決定した方針は、産・学のニーズや内部シナジー、財政的制約も考慮した上で、CEA内部の戦略やプログラムに落とし込まれる。戦略やプログラム等は毎月、四半期、年間で確認され、各部局やCEA理事会がコストやスケジュール上の目標の達成状況を把握する。フォローアップの結果次第では、いくつかのプロジェクトが方向転換あるいは中止されることもあり得る。EDFは自ら研究開発を行うほか、欧州委員会の第2、第3世代原子炉プログラムのNUGENIAを主導している。規制機関のASNの研究開発は技術支援組織のIRSNによって行われている。

ドイツ [13]

公費研究の全体計画は連邦経済・エネルギー省「エネルギー研究計画」に規定され、研究プロジェクトのマネジメントは各分野の専門機関に委託される。
連邦による研究予算の支出は、研究プロジェクト単位での予算拠出と、公立研究施設の運営予算として施設単位で予算を配賦するものの2種類に大別される。連邦予算を受けて実施されるプロジェクトに関しては、所管省から委託を受けた各分野の専門機関に「プロジェクト管理機関(PT)」が設置され、このPTがプロジェクト実施者による提案から成果評価までを一貫して管理・監視する。プロジェクト採択の決定や、最終成果の承認といった意思決定は予算の所管省が行うが、PTは決定に至るまでの協議や検証、管理、監視を担い、省庁をサポートする。

欧州委員会

欧州委員会では2014年からフレームワークプログラムHorizon2020が開始されており、原子力分野におけるイノベーションプログラムもそこに含まれている。そのうちNUGENIAと呼ばれるプログラムは、ベルギーの法令に基づく国際的な非営利組織であり、安全で信頼性、競争力のある第2、第3世代核分裂技術を統合する枠組みである。欧州を中心とした政府、産業界、研究・訓練機関及び大学等の組織で構成されており、知識と専門性を築くとともに、価値ある成果を生み出すことを目的としている。
NUGENIAの運営は理事長、副理事長と事務局長と少数の事務局員、事務支援のコンサルト会社で行われ、プロジェクト運営費用は、民間企業・各国政府が60%、EC−Euratomが40パーセントを負担している。運営委員の半分は研究開発機関や政府で、残り半分は産業界であり、産学官全ての視点で重要なプロジェクトの決定・評価等を実施している。

      


  1. Light Water Reactor Sustainability
  2. Office of Science and Technology Policy
  3. Commission to Review the Effectiveness of the National Energy Laboratories

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