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委員会の決定等

高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の進捗状況について

平成5年7月20日
原子力委員会
放射性廃棄物対策専門部会



1.はじめに

 放射性廃棄物対策専門部会は、高レベル放射性廃棄物地層処分の研究開発の推進方策に関して、平成元年12月に「高レベル放射性廃棄物の地層処分研究開発の重点項目とその進め方」(以下、「『重点項目とその進め方』」という。)を取りまとめた。その中で、当専門部会は高レベル放射性廃棄物地層処分の安全確保の基本的な考え方を示す一方、研究開発を進めていくに当たって、地層処分について国民の理解を得るよう努めることが重要であるとの観点から、研究開発の中核推進機関である動力炉・核燃料開発事業団(以下、「動燃事業団」という。)が、研究開発の成果を適切な時期に報告書として取りまとめ、それを公表して情報提供を積極的に行うとともに、さらにこれを国が評価することなどを通じて、地層処分についての国民的理解を得つつ進めその円滑な実施を目指していくとの方針を示している。
 これに続き当専門部会は、平成4年8月に「高レベル放射性廃棄物対策について」を取りまとめた。その中で、処分対策を円滑に進めるためには、長期にわたり研究開発等を要することとなるので、知見の得られた段階ごとに、国がその妥当性について判断を示すこと等に留意する必要があること、動燃事業団が作成する研究開発の第一次取りまとめについては、とりまとめ段階における研究開発の進展状況および成果を明らかにし、その結果につき国に報告することが必要であること等を示した。
 動燃事業団は,この趣旨に沿って、平成3年度までに得られた研究開発の成果を「高レベル放射性廃棄物地層処分研究開発の技術報告書─平成3年度─」((以下、「『技術報告書』」という。)として中間的に取りまとめ、平成4年9月に公表、平成4年12月に原子力委員会に報告した。
 以上のことから、当専門部会は、地層処分の研究開発に関する我が国で最初の技術報告書である同報告書について、研究開発の進展状況及び将来に向けての課題と進め方等に関し検討を行った。

2.地層処分研究開発の進展状況及びその妥当性

 我が国における地層処分の研究開発は、地層処分した高レベル放射性廃棄物の安全性を長期にわたり確保し得ることを具体的に示すことを目指し、現在のところ、対象となる地域や岩石の種類を特定することなく幅広く地質環境条件を想定し、それらに対応しうる処分技術を研究開発するとともに、いわゆる多重バリアシステムの概念に基づく処分システムの性能を総合的に解析し評価することにより進められてきている。このため、「重点項目とその進め方」では、研究開発の重点項目として、①地質環境条件の調査研究、②処分技術の研究開発、③性能評価研究の三領域を定めており、「技術報告書」においてもこの考えかたに基づき、それぞれの研究領域毎に研究開発の成果が整理されている。以下、各研究領域毎にその進展状況を確認するとともに、その妥当性につき概括的に評価することとする。

(1)地質環境条件の調査研究
 地質環境条件の調査研究は、第一に、処分システムにとって特に重要であると考えられる地質環境条件に関し、我が国の地表から地下深部に及ぶ広範な調査を行い、我が国の地質環境上の特徴を抽出し、その体系化を図るとともに、得られたデータを性能評価研究に活用すること、第二に、将来、特定の地層の地質環境を詳細に評価する段階に備え、高い精度と信頼性を有する地質環境データを効率的に調査・収集し、これらを解析・評価するために必要な技術の開発を行い、その実用化を図ることを目的としている。
 「技術報告書」では、地球科学の分野において蓄積されている情報やデータに関し、地層処分の観点から将来必要となる地質環境情報を体系的に整理するとともに、地質環境データを精度よく収集するための調査技術・機器に関する開発の状況が調査されている。また、深部地質環境に関するデータについては、性能評価等に必要な情報として整備されつつあるが、実測データが一部に限られていることから、今後、さらにデータを収集していくことの必要性が明らかにされている。
 地層処分の観点から見た地質環境に関わるデータは、現在収集可能な広範囲のデータについて、我が国で始めて体系的かつ包括的に整理されており、これらは我が国の地質環境の特徴を示す基礎となるとともに、今後の調査研究の課題の抽出などにも有効なものと評価できる。

(2)処分技術の研究開発
 処分技術の研究開発は、安全性を長期間にわたって確保し得る技術的方法を具体的に明らかにするために、要素技術としての各人工バリア及びそれらを基にした処分場の設計・建設・操業等に関する処分技術について、より高い信頼性を有する技術の開発を行うことを目的としている。
 「技術報告書」では、人工バリアを構成する各種材料についてその適性を比較整理し、その結果として材料の選定例が示されている。また、処分施設の設計・施工の技術的可能性について基礎的検討を行うとともに、技術的に可能な一つの処分システムが例示されている。人工バリアと処分施設の設計や施工等に必要な技術については、基本的に既存技術が適用できる見通しが得られていることに加え、個々の要素技術の信頼性向上のための課題が示され、今後の研究開発の進め方についても言及されている。
 これによって、人工バリアと処分場の設計・建設・施工等に必要な技術開発の方向性が具体的に示され、より高い信頼性を有する技術の確立を目指した研究開発課題が明らかになっている。

(3)性能評価研究
 性能評価研究は、第一に、地震等の自然現象や人間活動等の諸事象によって、高レベル放射性廃棄物が人間に直接的に影響を及ぼす可能性について、その発生の可能性と影響の程度を調査・研究し、あわせて、深地層を高レベル放射性廃棄物の安定な埋設場所とするという地層処分の概念が適切であることを明らかにすること、第二に、高レベル放射性廃棄物中の放射性物質が地下水に溶出した場合、それによって人間が受ける影響の可能性とその程度について定量的な評価を行い、その結果に基づいて、多重バリアシステムの技術的可能性を評価することを目的としている。
 火成活動や隆起・侵食などの要因により、高レベル放射性廃棄物が人間に直接的に影響を及ぼす可能性については、これらの現象に地域性があることから個々の地域をそれぞれ具体的に評価することが重要であるが、「技術報告書」では、特定の地域を対象とすることなく我が国の地質環境条件が広く調査研究されており、そのような概括的調査によれば、深地層を安定な埋設場所にするという地層処分の概念が我が国においても有効であることが示されている。あわせて、地域を特定した場合における現象の評価手法・評価技術の開発の重要性が指摘されている。
 次に、多重バリアシステムの技術的可能性については、我が国の場合、地下水による放射性物質の移動の可能性への配慮が特に重要であるとの観点から、我が国の地質環境条件を幅広く想定し、地下水の水質や流動特性、人工バリアの長期的健全性、人工バリアから溶出した放射性物質の移行を抑制する働き等多重バリアシステム全体の性能について解析する基本モデルを体系的に構築し、これを用いて、多重バリアシステムの性能を例示的に評価している。その結果、人工バリア及び処分場を地質環境条件に対応して適切に設計・施工すれば、多重バリアの性能を長期的に保持することができ、安全が確保され得ることが示されている。また、同時に、適切な設計・施工に際しては、特に人工バリア及びその比較的近傍の地質環境条件を精度良く評価することが重要であることが示されている。
 これによって、多重バリアシステムの性能を評価する方法論が明らかにされ、その解析に必要なモデル体系の基礎が構築されたものと判断される。さらに、将来、信頼性の高い解析を行っていく上で重要な影響因子が示されており、性能評価研究の今後の方向性も明らかになっている。加えて、多重バリアシステムの概念に基づく安全確保の具体的な技術についても重要な知見を得ており、地層処分の安全確保を図っていく上での技術的基盤がより明らかにされていると評価できる。

(4)総合的評価
 今後、さらに所要の研究開発及び調査を行うことにより、地質環境条件をより精緻に把握するとともに、技術の高度化や解析の詳細化などを図り、より信頼性の高い評価を行っていく必要があるものの、「技術報告書」においては、①人工バリアと処分施設の設計や施工等に必要な技術については、基本的に既存技術が適用できること、②多重バリアシステムの性能については、ニアフィールド(人工バリアとその近傍の地層とを併せた領域)の性能評価を中心とした包括的解析手法が整備されたこと、③変動幅を考慮しつつ例示的に想定した地質環境条件について解析した結果、人工バリア及び処分施設を地質環境条件に対応して適切に設計し施工すれば、多重バリアシステムの性能を長期的に保持し得ることが示されており、我が国における地層処分の安全確保を図っていく上での技術的可能性が明らかにされている。
 以上を総合的に評価すると、「技術報告書」に示された地層処分の研究開発は、「重点項目とその進め方」に沿って適切かつ着実に進められており、また、地層処分の安全確保に関し、多重バリアシステムの有効性を示唆する知見が得られ、あわせて具体的な技術的方法が明確になってきていることを考慮すれば、現段階にあっては、概ね妥当なものと結論できる。

3.地層処分研究開発に関する今後の課題等

 地層処分研究開発の今後の展開については、「技術報告書」に示されたこれまでの研究開発の成果を基に、以下に示す考え方を踏まえ、さらに研究開発の推進を図ることが必要である。
 また、その際には、深部地質環境を適切に把握するための調査・研究、より高度で信頼性の高い人工バリアや処分場の設計・施工等の技術開発、ニアフィールドの性能評価と多重バリアシステムの信頼性のさらなる向上が特に重要であると考えられる。

(1)地質環境条件の調査研究
 地質環境条件の調査研究では、地層処分の観点から、長期にわたる安全性の確保に重要な地質環境条件にさらに焦点を当て、地下深部における地質構造、地層・岩石の分布、岩盤物性、水理地質特性、地下水の地球化学特性等について、調査・計測技術や機器の開発・改良を進め信頼性の高いデータの充実を図る必要がある。
 一方、火成活動、地震活動、断層活動、隆起・侵食、気候変動、海面変化等の自然現象については、その活動の履歴を調査するとともに、それらが多重バリアシステムに与える影響の可能性に関しさらに評価することが重要である。その際には、個別の現象の評価のみならず、各現象相互の関連性等も考慮して総合的にとらえることが重要である。また、地域性があると考えられる火成活動等の自然現象については、地域の現象を適切に評価することが重要であることから、その評価手法・技術の開発をさらに進めることが必要である。その他、自然現象の影響に加え、治山工事、資源開発等の大規模な人間活動が地域環境に与える影響等についても検討しておくことが望ましい。

(2)処分技術の研究開発
 処分技術の研究開発では、人工バリアについては、その求められる要件を明らかにした上で、より信頼性の高い人工バリアの開発に重点をおいた研究開発が必要である。オーバーパックについては、引き続き炭素鋼について長期的耐久性に係る研究開発を進めるとともに、チタン等の炭素鋼以外の材料についても検討することが望ましい。また、オーバーパックの溶接の健全性を含め、設計・製作に係る検討を進めることが必要である。緩衝材については、粘土材料(ベントナイト)を中心とし、その他の新しい材料についても、より幅広い特性調査と施工法の検討が必要である。施工法については、性能の確保にあたって極めて重要であることから、大型試験を実施するなどの研究開発が必要である。処分場の設計・建設・操業等に関する技術開発については、種々の要素技術に基づいた総合的な解析技術、調査技術、施工技術等のさらなる向上を図ることが重要である。さらに、安全上より厳しい状態を想定した試験や坑道等の空洞の長期安定性についても検討することが望ましい。

(3)性能評価研究
 性能評価研究では、当面、ニアフィールドの性能の評価と多重バリアシステムの信頼性の向上が重要である。そのためには、解析モデルや手法の改良・開発及びその妥当性の確認、解析に用いるデータの信頼性の確保が特に必要であると考えられる。
 また、動燃事業団の性能評価のための研究施設等を有効に活用していくことにより、解析に必要な放射性物質の熱力学データを含む基本的なデータの充実・整備を図り、データベースの拡充を図ることが必要である。
 一方、長期の現象を科学的に把握するためには、天然現象による理解が有効であるので、ナチュラルアナログ研究を引き続き実施するとともに、地球化学反応における速度論的考察も重要である。

(4)共通的課題と今後の進め方
 今後の研究開発を進めるにあたっては、「技術報告書」に示されているこれまでの成果をより一層深める必要があることから、地質環境条件をより精緻に把握し、技術の高度化を図り、さらに解析手法の精度向上を図る等、各研究領域において、より信頼性の高い成果が得られるよう配慮することが肝要である。そのためには、研究施設・設備の充実、人材の育成等を進めていくことが重要である。
 特に深地層の研究施設は、地質環境条件の調査研究、処分技術の研究開発、性能評価研究の共通的な研究基盤となる施設として必要であるとともに、我が国における地質学、水文学、地球化学、岩盤工学等の学術的研究にも寄与しうる深地層に係る総合的な研究の場としても有用である。
 動燃事業団においては、我が国の地質環境に適合する地層処分技術の確立を図るための研究開発が進められているが、この研究開発は長期にわたるものであるため、2000年前までに予定されている動燃事業団による第二次取りまとめ、国によるその評価等を通じ、研究開発の進捗状況を見極め、研究方策をさらに評価検討することが必要である。
 なお今後とも、研究開発を総合的かつ効果的に推進するためには、中核推進機関である動燃事業団を中心に、日本原子力研究所、地質調査所等の国立試験研究機関、大学の協力、関連する民間の技術力の活用及び国際協力の効率的推進を図っていく必要がある。


(参考)

構成員及び開催日
原子力委員会 放射性廃棄物対策専門部会
(1)構成員(平成4年12月以降)
(部会長)生田 豊朗 (財)日本エネルギー経済研究所理事長
 池亀 亮 東京電力(株)取締役副社長
 植草 益 東京大学教授
 打越 肇 三菱原子燃料(株)常務取締役
 (平成4年12月から)
 川上 幸一 神奈川大学教授
 木村 敏雄 東京大学名誉教授
 畔柳 昇 電気事業連合会専務理事
 (平成5年7月から)
 佐藤 一男 日本原子力研究所理事
(平成元年9月から平成5年7月まで)
 佐渡 敏彦 前放射線医学総合研究所科学研究官
 (平成4年5月から平成5年7月まで)
 鈴木 篤之 東京大学教授
 住谷 寛 日本原燃(株)専務取締役
 高木 勇 電気事業連合会専務理事
 (平成元年9月から平成5年7月まで)
 鳥井 弘之 日本経済新聞社論説委員
 (平成3年7月から)
 永倉 正 (財)電力中央研究所特別顧問
 蓮見 洗一 中部電力(株)常務取締役
 (平成4年5月から)
 浜田 達二 (社)日本アイソトープ協会常務理事
 福田 俊雄 (財)原子力環境整備センター理事長
 松浦 祥次朗 日本原子力研究所理事
 (平成5年7月から)
 森 一久 (社)日本原子力産業会議専務理事
 山口 梅太郎 東京大学名誉教授
 山内 喜明 弁護士
 山本 正男 動力炉・核燃料開発事業団理事
 (平成4年5月から)


(2)開催日
  第11回会合 平成4年12月9日
  第12回会合 平成5年7月7日

○取りまとめ経緯
 第11回専門部会(平成4年12月9日開催)において、鈴木篤之専門委員に本報告書の具体案の取りまとめが一任されたため、同専門委員が下記の専門家の協力を得てその具体案を作成した。

  飯山 敏道 千葉大学理学部地学科教授
  市川 逵生 日本原子力研究所安全性試験研究センター長
  歌田 實 東京大学総合研究資料館助教授
  大橋 弘士 北海道大学工学部原子工学科教授
  北村 信 東北大学工学部名誉教授
  小出 仁 地質調査所環境地質部長
  徳山 明 兵庫教育大学教授
  水谷 伸治郎 名古屋大学理学部地球科学科教授
  小島 圭二 東京大学工学部資源開発工学科教授
  辻川 茂男 東京大学工学部金属工学科教授
  栃山 修 東北大学工学部原子核工学科助教授
  東 邦夫 京都大学工学部原子核工学科教授
  渡辺 隆上 越教育大学自然系教授

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