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資料

「核融合プラズマの長時間燃焼制御に関する
調査研究」報告(概要)

1991年6月11日

1.調査の目的

 本調査の目的は、次の2点である。
(1) プラズマの長時間燃焼制御のために、どのようなプラズマの性能と制御性が予測され努力されるべきか、最新のデータベースに立脚して調査する。
(2) 長時間燃焼制御の可能性を検討し、今後解決すべき課題を摘出する。

2.最近のトーラス閉じ込め研究の進展

(1) 昨年度の「核融合プラズマの閉じ込め改善点に関する調査研究」が行われた後、この1年間にもβ値限界(脚注参照)の向上等、プラズマ・パラメタや閉じ込めの理解に大きな進歩があった。
(2) エネルギー閉じ込め時間の長いHモードと呼ばれるトカマク放電を定常的に維持する方策について各国で集中的な研究がなされた。これにあわせて、Hモードの閉じ込め時間の経験則が得られた。
(3) 長時間放電に関しては、小型装置で1時間の放電達成、大型装置では2MA級の大電流駆動実験に成功する等、長時間化、大電流化に大きな進展が見られた。
(4) 燃焼制御に関しては、核燃焼の結果生じる灰の排気を模擬する実験開始、熱とプラズマの高い負荷に耐えられるプラズマ対向面の材料開発、設計とプラズマ制御の進展等、核融合炉で要求される制御手段開発に進展が見られた。
(5) これらの多方面にわたる研究において、各々の性能や精度は向上しており、遅速はあるものの、燃焼プラズマのためのパラメータ領域に近づきつつある。

3.最近の長時間燃焼制御研究の進展

(1) 長時間燃焼制御研究の特性
 制御すべき対象の「核融合燃焼プラズマ」を作り出すことによって初めて、特性の把握や、効率の良い制御法を研究することができる。それに当たっては、研究段階に応じて、目前の課題をうまく解決するための短期的な制御研究と、実用炉の炉心にまで適用できる中長期的な制御研究とを区別して論じる事が重要である。

(2) 長時間放電に係わる基本的問題点の研究
 プラズマの長時間放電に係わる研究課題は大別して以下の2点に集約される。これらの課題に関しては、本調査では最近の成果を中心に現状調査を行い、核融合炉開発から見た研究進展度のレベルを評価した。
 1) プラズマ制御の研究
 長いエネルギー閉じ込め時間、高い燃料純度、小さな時間変動、高い電流駆動効率による安定した燃焼を目指した研究が行われている。従来、それらを別々の研究対象としてきたが、最近、特にこれらの重要課題を同時に実現する放電を探求する方向に研究が向けられつつある。
 2)プラズマ対向部(第一壁、ダイバータ)の開発研究
 熱の上手な処理、壁の損耗と不純物発生の制御、安定した粒子循環と効率良いヘリウム排気、ディスラプション等非定常運転での装置の健全性を保証するシステムを考え出すべく理論的・実験的研究のみならず、技術的・設計的研究が行われている。

 具体的な一例をあげてこの二方向の研究の成果を示すと、β値限界といった運転限界をとると、原因を理解して向上を図る研究が進み、この1年でも、β値は9%から11%へと改善されている。それにあわせ、限界に近づいた時に、最も危険とされるディスラプションが、どのような確率で発生するかも調べられるにいたった。これにより、ディスラプション回避の安全率が評価できるようになったことも特筆される。

(3) 燃焼制御の方策に係わる研究
 装置設計に例を取れば、
 1) プラズマ閉じ込め等、実験データの不確実性が将来の実験装置の規模に大きく影響する要因に関しては、装置規模の不要な拡大を抑制しつつ、運転時の装置の健全性や(電流や加熱パワーの増力に耐えるような)設計上の柔軟性を確保するための手段、
 2) 燃焼実験・工学試験を確実に行えるための手段、
 3) 更に万一制御に失敗しても穏やかに停止することができるような受動的手段という観点から制御方法が整理され設計に盛り込まれつつある。また、
 4) 熱制御やディスラプション制御等の制御手段の確実さを増すことと、装置構成の複雑さを避けることとの調和が重視され、具体化されつつある。

4.今後の課題

(1) 一層の充実をはかるべき点
 本調査で進展度が評価された項目に対し、それぞれの進展度に応じた研究のレベルアップが必要である。
 1) ほぼ定量的に現状のデータが把握出来ている項目に関しては、現在のデータから実験炉プラズマへの外挿の精度を高めること、
 2) 定性的な理解のレベルにある項目に関しては、実験・理論の両面から定量的評価が可能な水準まで研究を引き上げること、
 3) データベースの出来ていない項目に関しては、どの様な研究を行えば良いか、もし、それらのデータが無い場合、実験炉の設計がどれだけ変わるか、遅れるか等を評価すること。

(2) 研究上努力すべき点
 1)閉じ込め時間の改善だけでなく、燃料粒子の制御、熱出力の制御、電流駆動効率の改善等、長時間燃焼制御を指向した研究が重要である。
 2) 研究の進展につれ、制御機器の性能・必要性がより明らかになり、設計の変更や追加が必要になる。研究組織もこれにフレキシブルに対応できるようにする必要がある。実験上の柔軟性の確保にあわせ、この点にも留意しなくてはいけない。
 3)ここでは、材料、加熱装置、超電導磁石等の工学上の研究の詳細は調査課題ではなかったが、それらの研究開発も重要であることを申し添える。

5.おわりに

 核融合燃焼プラズマの実現は、核融合炉開発の不可欠なステップであるのみならず、燃焼によって生じたエネルギーがプラズマを加熱するという人類の初めて手にする研究対象である。具体的に長時間燃焼制御研究を進めていく上で、それを有効にするためには、つぎの様に核融合研究を発展させていく必要がある。

(1) 閉じ込め研究・技術工学研究・設計研究を各分野の単一的な成果で満足せず、制御された核融合を実現し、原型炉に向けた工学試験を行うための実験炉を包含する組織だった開発計画が必要である。

(2) 理論・閉じ込め実験・テストスタンドでの工学実験を組織的に展開する。特に燃焼プラズマには実験データが無いため、実験炉で試験すべき項目の把握と試験範囲の定量的評価および模擬実験等も含む十全の研究を行っておくべきである。

(3) 多数の目的指向型装置による実験の確保と、ターンアラウンドの早い創意ある実験が一層重要である。プラズマの性質と対向面や制御手法との強い関連が見つけられている。そのために、複数燃焼実験を始め、大型装置から小型装置にいたる非核燃焼装置のラインが揃っていることが不可欠である。

(4) 研究開発における核燃焼装置の検討。次段階の研究には、例えば「原型炉に向けた総合的工学試験装置の実現」と「核融合燃焼プラズマの閉じ込め」というふたつの課題を考えることが出来る。材料の高熱負荷や耐核試験からプラズマ性能の改善に及ぶ広い課題の研究を行うことにより、単一装置によるリスクの軽減がはかれると同時に、核融合研究の学問的・技術的体系化が推進できる。
 この調査報告が、今後の学問的体系化や国際的な新しい視野形成に役立てば幸いである。
(脚注)β値はプラズマ圧力と磁場圧力の比であり、これが高い程コイルを簡単化できる。実際はベータ値が高くなると放電が停止してしまい、β値に限界がある。
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