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巻頭言

原子力委員会委員就任にあたって

伊原義徳


 4月に原子力委員を拝命いたしました。
 昭和31年1月4日、原子力委員の発足にあたり、総理府原子力局職員として、正力原子力委員長をはじめ5人の委員の謦咳に接した時のことを思い起こし、感慨にたえません。
 米国および欧州先進諸国に大幅に遅れて始まった原子力の仕事は、当時ほとんど唯一のハイ・テクノロジーとして、幾多の俊秀を集めて華華しいスタートを切りました。その時の初心を忘れないようにしたいと思います。
 あれから35年を経た今日、あくまで平和利用に徹するという基本方針のもとに、幾多の困難を乗り超えて発展してきた成果として、原子力発電は中核的なエネルギー源としての役割を果すに到り、また、医療、農業、工業などの諸分野において、放射線利用が幅広く進展するなど、わが国経済の発展と国民生活の向上に原子力が大きく寄与して参いりました。

 しかし、原子力の発展とともに、これに対する批判も次第に高まり、特に5年前のチェルノビル事故以来、原子力安全に対する人々の疑念は根強いものがあります。原子力の開発利用を進めるためには、国民の理解と協力を得ることが何にも増して重要となってきました。
 たまたま、先頃の中東湾岸戦争を契機に、エネルギー源の過度石油依存の脆弱性が更めて認識され、また、最近大きな問題となってきた地球温暖化、酸性雨などによる環境悪化が、人類の生存基盤に深刻な影響をあたえかねないほど、化石燃料過度依存に対する反省が生じ、国際的に原子力エネルギー見直しの気運にあります。
 このような国際情勢のなかで、わが国の存在は、従来にも増して大きな影響力を持つに至り、自己の立場を確立しながら世界の発展に貢献して行くことを常に念頭に置かなければならなくなりました。

 わが国の原子力政策が、原子力委員会の長期的な見通しのもとに、継続性を持って進められていることは、国際的にも評価されております。たまたま、長期計画の改訂の時期にあたり、大いに活な議論が関係者の間でなされることを期待いたします。
 難かしい問題が山積している中で、できる限りの努力をいたさなければなりません。皆様方のご支援を切にお願い申し上げます。

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