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巻頭言

原子力委員会委員就任にあたって

林 政義

 4月に原子力委員を拝命いたしましてから、はや1ヶ月が過ぎました。内・外の原子力を巡る諸情勢が複雑かつ困難なこの時期に、原子力委員の一員として、我が国の原子力政策等の企画、審議、決定に参画することは心引き締まる思いであります。
 今年は、スリーマイルアイランド事故から10年が経過し、又、チェルノブイル事故から3年目を迎えましたが、これらの影響は今も残り、我が国においても、原子力に対するアゲンストの風が吹いており、それは原子力施設立地地域だけでなく女性や若い人々を含んで全国的な広がりを見せております。

 4月中旬、私はお隣りの韓国原子力産業会議の招きで、我が国の原子力開発状況について講演する機会を得ましたが、その際、世界各国の皆さんと原子力の信頼性、向上等について意見交換を行い、改めて原子力の重要性を強く認識いたしました。
 我が国の資源・エネルギー基盤の脆弱性等を考慮するならば、やはり原子力を石油代替エネルギーとして位置付け、エネルギー多様化の重要な役割を担わせるとともに、長期的には基軸エネルギーとして定着させるべくその開発利用を進めることが、我が国の政策上、重要なことであると考えます。特に21世紀のエネルギーを展望した場合、原子力を準国産エネルギー、我が国のエネルギー供給の基軸として定着させるためには、核燃料サイクルの整備とプルトニウム利用体系の確立が最重要課題であると考える次第です。

 さて、原子力の開発利用を進めるに当たっては、申すまでもなく安全確保が大前提であり、また国民の十分な理解と信頼なくしては不可能であります。又、当然のことながら、平和利用と核不拡散、そして地球規模の環境問題等幅広い面から、国際的、全地球的視点が不可欠であり、この面での国際協力が一層重要となるものと考えます。
 さて、私の出身は茨城ですが、水戸の偕楽園にある好文亭に徳川斉昭の額がありまして、それに「巧詐は拙誠にしかず」という言葉がございますが、原子力を巡るこのような時期には、言葉上だけではなく誠意を持って国民の理解を得るべく努力することが重要と考えます。この言葉を座右の銘といたしまして、原子力委員としての職務に最大限の努力をいたす所存でありますので、何卒皆様の御指導と御鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。

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