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第32回IAEA総会政府代表演説文 昭和63年9月19日 議長 私は、貴下が第32回IAEA総会の議長に選出されたことに対し、心から祝意を表するものであります。貴下の豊富な経験と卓越した指導力により、本総会が実り多きものとなり、原子力の平和利用に関する国際協力の促進に資するものとなることを強く確信するものであります。 (我が国の原子力開発と国際協力) エネルギー資源に乏しい我が国は、原子力を基軸エネルギーとして位置づけ、今日までその研究、開発及び利用に積極的に取り組んでまいりました。我が国の原子力発電は、既に36基の発電炉を擁し、総発電電力量の約30%を供給しております。 我が国としては、「原子力開発利用長期計画」を指針として、原子力利用の安全性、信頼性、経済性の向上を図り、濃縮、再処理や高速増殖炉開発事業を推進し、放射性廃棄物対策を進めることによって、核燃料サイクルの確立を図ることとしております。さらに、原子力の創造的・革新的領域、すなわち基礎研究、基盤技術開発、先導的プロジェクト等の「原子力のフロンティア領域」における研究開発の推進を図ることとしております。 去る7月に発効した新しい日米原子力協定も、このような我が国の努力に大きく貢献するものであります。 核物質の防護に関する条約にも、我が国は、近く加入する予定であります。この条約により多くの国が加入することによって、核物質防護に関する国際協力体制の整備が一層進展することを強く願うものであります。 また、核融合に関する研究は、これが実用化された場合、人類が恒久的なエネルギー源を確保することを可能とするのみならず、多くの極限技術・先端技術を先導するプロジェクトとしても重要でありますが、IAEAの下で発足した国際熱核融合実験炉(ITER)共同概念設計作業には、我が国は積極的に参画してまいる所存であります。 原子力分野における国際協力につきましては、原子力平和利用推進国としての国際的責務を果すとともに、核不拡散の確保と各国のニーズに十分な配慮を払いつつ、我が国は、欧米の主要先進国とともに、二国間及び近隣地域協力、IAEA、OECD等の国際機関を通じての協力を充実・拡大させるなど積極的な対応を行う考えであります。特に対途上国協力につきましては、積極的に推進してまいる所存であります。 (IAEAの活動、就中、原子力安全の確保) 原子力の平和利用に関する国際協力は、この1年間に、IAEAを中心として大きな進展を遂げました。そのなかでも特筆すべきは、原子力安全分野における広範な協力の推進であります。国際原子力安全諮問委員会(INSAG)によって、3月には、新たに「原子力発電所の安全に関する基本原則」が作成され、また、IAEAの原子力安全基準体系の改定が精力的に進められるとともに、原子力事故に関する通報条約、援助条約の実施体制も着実に整備されつつあります。このような原子力安全に関するIAEAの積極的な成果を我が国は高く評価するものであります。 我が国としても、このようなIAEAの活動に積極的に協力してまいりました。2月には、ブリックス事務局長の出席を得てマン・マシーン・インターフェイス国際会議が東京で開催されたところであり、また、10月にはIAEAの原子力発電所安全運転評価チーム(OSART)の調査団が訪日する予定であります。 原子力の研究、開発及び利用を進めるに当たっては、安全性の確保に万全を期すことが大前提であり、今後とも安全分野におけるIAEAの活動に積極的に貢献してまいる所存であります。 (核不拡散体制の強化と保障措置の重要性) 原子力安全の向上と並んで忘れてならないのは、平和利用の確保であります。本年は、核兵器の不拡散に関する条約の署名20周年に当りますが、この間、この条約の締約国が漸次増大し、世界の核不拡散体制が着実に強化されてきたことは慶賀に耐えません。このうえは、この条約への加入がさらに進み、国際的な核不拡散条約体制の普遍性がさらに拡大することを強く希望するものであります。 IAEAの保障措置は、核不拡散を実効的に確保するために、きわめて重要な役割を果しております。現在に至るまで、核拡散に至る転用は検知されておらず、保障措置制度は有効に機能してまいりました。 他方、対象施設の増加や多様化に伴い保障措置の一層の効果的、効率的な実施、新しい保障措置技術手法の確立等が求められていることも事実であります。このため、保障措置実施諮問委員会等において効果的、効率的そして実効性のある保障措置に関する議論が進展することを望むものであります。 また、我が国としても、IAEAに対する保障措置技術支援協力計画(JASPAS)の実施などを通じ積極的な協力を行う所存であります。なお、本総会開催直前の18日にIAEAにより保障措置に関するセミナーが開催されましたことは喜ばしいことであります。 (技術協力) IAEAの技術協力活動は、途上国における原子力の平和利用の普及に大きく貢献してまいりました。 このような技術協力活動の重要性に鑑み我が国としても、技術協力基金に対する拠出に加え、このような技術活動に対する我が国からの人的資源の提供についても可能な限り積極的な協力を行う考えであります。 他方、技術協力基金の拡充目標については、技術協力の重要性及び加盟各国の負担能力の双方を勘案した慎重な検討が行われることを希望するものであります。 アジアに関するIAEAの地域協力(RCA)は、地域的な原子力協力の代表的な成功例であり、我が国としても、地域のニーズに応じた可能な限りの協力を行う所存であります。 (原子力に関するパブリックアクセプタンスの重要性) 世界の発電用原子炉は既に410基を越えており、原子力の平和利用は着実な進展を遂げております。これらの原子力開発及び省エネルギーの推進の結果、各国においてエネルギーの安定供給を確保できただけでなく、石油消費の抑制により、世界の石油ひいてはエネルギー需給の安定化に貢献しているものと言えましょう。 原子力の平和利用を円滑に推進していくためには、原子力に対する公衆の正しい理解と協力を得ることが必要不可欠であり、そのため、原子力発電の安全性や便益について公衆の高い関心を呼んでいる現在、このような公衆の関心に十分に応え、原子力に対する理解と協力を得つつ原子力の平和利用を推進していくことが、重要な課題であると言えます。 このような課題への取り組みには、各国関係者の積極的な対応が強く期待されるところでありますが、同時に、各国間の密接な情報交換等の協力を推進することにより、国際的な連携を強化していくことが重要であります。 このような認識を踏まえ、IAEAの作業を通じ、原子力利用の必要性と安全性に関する公衆の一層の理解が深められることを希望するものであります。我が国としても、そのために必要な協力を惜しまない所存であります。 (行財政問題) 次にIAEAの行財政問題について申し述べます。 IAEAの運営が、効率的かつ健全に行われていることは周知の通りであり、このためにブリックス事務局長以下事務局関係者の払われた努力を多とするものであります。 他方、IAEAのこのような健全な運営は、加盟国が一致して強く望むところであり、そのためにはブリックス事務局長を加盟国が支援することこそ肝要であります。 IAEAが直面している財政事情の改善問題についても、加盟国の理解と協力の下に、資金流動性の拡大について円満な解決が得られることを強く期待するものであります。 (IAEAの政治的中立性/結び) IAEAは、今日まで、核不拡散に貢献しつつ、原子力の平和利用を推進する技術的かつ普遍性のある国際機関として遺憾なくその重大な使命を果たしてまいりました。 このようなIAEAの重要な役割に鑑み、我が国としてもIAEAに対して我が国なりの積極的な貢献を行うべく努力を惜しまない所存であります。 ご清聴ありがとうございました。 |
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