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資料 原子力安全委員会ソ連原子力発電所事故 昭和62年5月 原子力安全委員会は、昨年4月26日に発生したソ連原子力発電所事故を極めて重大なものとして受けとめ、本件に関し幅広く調査、検討を行い、我が国の安全確保対策に反映させるべき事項の有無等につき審義することを目的として、本調査特別委員会を設置した。 当調査特別委員会は、同年5月16日、第1回会合を開催して以来、ワーキンググループを設置し、詳細にわたる調査検討を行わせるとともに、現在まで本調査特別委員会を9回開催し、鋭意調査検討をすすめてきた。 その間、同年9月には、それまでに得られた情報、資料をもとに事故の事実関係について整理するとともに、事故原因につき若干の評価を加えた第1次報告をとりまとめた。しかしながら、その時点において事故の内容はかなり明らかになっていたものの、事故の状況等について定量的な評価、解析等を深める必要があったこと等から最終的な結論は後の検討に委ねることとした。 その後、本調査特別委員会は、引き続き事故に関する情報、資料等の収集に努めるとともに、事故の状況等について定量的な評価、解析等を行った結果、事故全体に関する整合性のとれた理解を得ることができた。さらに、この事故の評価等を踏まえ、我が国の原子炉施設の安全確保対策の現状について、改めて検討、評価し、我が国の原子炉施設の安全確保対策上意義ある事項について考察した。本調査特別委員会は、以上の結果を踏まえ、ここに第2次報告書をとりまとめたものである。 本報告書は、第I部、第II部及び第III部から構成されている。第Ⅰ部は事故の事実関係について整理するとともに、その評価を記述した。第I部は我が国の原子炉施設の安全確保対策の現状について、検討、評価した結果を記述した。第II部は第I部及び第I部を総覧し、そこから抽出された我が国の原子炉施設の安全確保対策上重要な事項を結論としてとりまとめた。 第I部 事故の状況(略) 第II部 我が国の現状 A 設計・運転関連事項 1.設計関連 (1)反応度投入事象 我が国の反応度投入事象に対する事象選定、判断基準及び解析条件は妥当であることを確認した。今回の事故に深く係わったチェルノブイル炉の反応度投入事象に関する設計上の特徴は、我が国の原子炉施設のそれとは異なるものであり、我が国の原子炉施設は、各炉型のそれぞれの特徴を踏まえて適切な設計上の安全確保対策がなされていることから、今回の事故から我が国の原子炉施設の反応度投入事象に対する設計上の安全確保対策について改善を図らねばならない点は見出せない。 (2)原子炉格納容器の機能 RBMK型炉も、事故時の放射性物質の放散を防止する機能を有する設計になっているが、それは、我が国の定義のような格納容器とは基本的に設計概念が異なるものである。従って、今回の事故で観測された現象から我が国の格納容器の設計等に直接反映すべき事項はない。 しかしながら、今回事故は、事故時の放射能の「閉じ込め」の機能がいかに重要であるかを示しており、この見地から、我が国の格納容器の安全対策の現状を検討し、評価した。その結果、我が国の規定に従って設計を行えば結果として、設計を条件を超える事故に対しても、かなりの余裕のある構造になっており、このような設計の考え方を基本的に変える必要はないと判断される。 一方、シビアアクシデント時の健全性に関してはTMI事故以来注目されてきている。我が国においても検討を続けてきているところであり、これを一層拡充すべきである。 (3)想定事象の考え方 今回の事故を見ると、運転員の多数の規則違反があるとは言え、安全系が、事故が設計基準事象の範囲を超えるのを防止するのに十分であったか、事故が設計基準事象の範囲をある程度超えても対処できるだけの余裕のある設計であったかなどの疑問を生ずる。このことから、我が国における想定事象の考え方と内容について調査し、特にこれが事故の拡大防止の見地から妥当であるかどうかを検討した。その結果、反応度投入事象の例に見られるように、現在の想定事象の選定、解析条件及び判断基準は、事故の拡大の防止の見地からも妥当であると判断される。 我が国の想定事象についての判断は上記の通りであるが、指針等が述べているように、想定事象の内容等については、経験の蓄積など新たな知見が得られた場合には必要に応じて適宣見直しがなされるべきものである。現在の指針の見直し作業にあたっては、今後の安全研究の成果も取り入れて、その促進を図るべきである。 (4)ソースターム チェルノブイル事故においては、極めて大量の放射性物質が環境に放出され、大きな被害を招いたことは、第I部で述べた通りである。その事から、事故時のソースタームの取り扱いについて、我が国の現状を検討した。 事故時のソースタームをどのように想定すれば良いかは、その事故を想定した目的にしたがって行われている。我が国のソースタームの取り扱いについて検討したところ、この目的に則して評価が適切になされており、現在の我が国のソースタームの取り扱いを直ちに変更する必要は認められなかった。 ソースタームについては、TMI事故時の環境への放出が極めて少なかった事から、それまでの取り扱いを再検討する動きが活発化しており、また、今回事故から格納容器が大きな役割を果たすことが分かる。今後、このようなソースタームの研究を推進し、研究の成果を適切に踏まえていくことが必要である。 (5)シビアアクシデント 我が国においては、設計、建設、運転の各段階でそれぞれのレベルに応じて、多重防護の考え方に基づいた適切な対策がとられており、異常が発生しても、これを設計基準事象の範囲にとどめることが十分期待できる。また、人的因子についても各種の対策がとられている。このようなことから、現行の設計基準事象の範囲を拡大するといったような新たな措置は必要としないと考える。 TMI事故以来、シビアアクシデントに関しては、軽水炉を中心として広範囲な研究が国際的に進められてきている。今後とも、我が国の安全確保対策が、異常事象がこのようなシビアアクシデントに拡大するのをどれだけ確実に防止できるか、あるいは、事故がある程度設計基準事象の範囲を超えても、これに対処できるどれだけの余裕を持っているかを定量的に把握することは極めて重要であり、格納容器の安全機能、ソースタームの明確化、確率論的安全評価手法等シビアアクシデントに関する研究を一層推進するとともに、その成果を必要に応じ安全確保対策に適宜反映させていく必要がある。 (6)複数立地の問題 チェルノブイル事故では、事故炉から放出された放射性物質が大気中を拡散し換気系を経由して、健全プラントに重大な汚染を与えた。このことに鑑み、我が国における複数基立地サイトにおいて、一つの炉の事故が他の健全な炉に与える影響について検討を行った。 その結果、我が国においては、「安全設計審査指針」において、共用によって、安全機能を失うおそれのある場合は、共用を禁止しており、安全上支障のないものであること、一つの炉が事故を起こした場合、他の健全な炉は安全に運転を継続でき、あるいは少なくとも安全に停止され、かつ停止後の必要な措置が取れるようになっていること、同一サイト内の健全な原子炉が運転を継続し、あるいは停止後再起動するに際して、作業を行うのに支障はない被曝線量であることが確認された。従って、複数の原子炉が設置されているサイトについて、当面特段の措置を取る必要はないと判断する。 今回の事故はそこで直接観察された現象にとどまらず、複数の原子炉が設置されているサイトにおいて、他にも検討を深めるべき点がある可能性を示唆していると思われる。例えば、健全プラントの運転継続可能性等について、隣接する原子炉の配置、事故想定等も勘案しつつ、今後とも検討を深める必要があると考える。 (7)火災防護 チェルノブイル事故では、高温になった大量の黒鉛等が飛散し、これが火源となって火災が発生した。また、炉心の黒鉛が燃焼し、これが放射性物質の放散を更に増加させた。このことに鑑み、我が国の原子力発電所における火災防護対策を検討し、更に高放射線下の火災の発生の可能性についても検討した。 我が国では、「火災防護審査指針」がありこの考え方に従って対策がなされていることから、特にチェルノブイル事故での火災発生条件を想定しても我が国の原子力発電所の防火対策は適切であると認められる。なお、東海1号炉、高速増殖炉についても適切な設計がなされていることを確認した。 以上のことから、我が国の原子力発電所の火災防護対策は、十分なものであると結論される。 (8)人的因子とマン・マシン・インターフェイス ソ連事故は、原子炉の安全確保上、人的因子とマン・マシン・インターフェースがいかに重要なものかを改めて示したものと言えよう。従って、この点について検討した。 原子力発電所の場合、人間と機械との接点であるマン・マシン・インターフェイスがもっとも集中的に存在しているのは中央制御室である。そこで、ここに設置されている制御盤等について、その設計を詳細に調査した。その結論、原子炉の運転状態の把握、適切な安全装置の自動的動作、特に低出力時の反応度制御にあたっての原子炉の監視、正常状態からの逸脱防止、ヒューマンエラー防止等について、妥当なものであり、我が国の原子力発電所におけるマン・マシン・インターフェイスは、今回の事故との関連のみならず、一般的に清足すべき状態にあると言える。 しかしながら、人的因子を含む問題は、安全性のより一層の向上の観点から、今後更に研究を要する課題である。このことに鑑み、人間と機械が共存する体系における人間の役割とその役割を果たす為の機械系の在り方等については、研究活動を一層拡充する必要がある。 2.運転管理関連 (1)運転管理全般 我が国では原子炉施設の運用と安全確保に関し、原子炉等規制法と電気事業法に基づき適切な運転管理体制が確立していること、国家試験による原子炉主任技術者の配置義務を設けていること、保安規定の内容を遵守し、原子炉施設の安全を確保するために、設置者は手順書等を作成し、これより各運転モードにおいて運転員が適切な行動をとれるようにしていること、安全の確保について国の規制は、原子炉の種別ごとに一元的に扱っているので行政の錯綜による混乱は生じないこと等から我が国の原子炉施設の運転管理体制は、安全の確保の上で適切なものとなっていると考える。なお、手順書等はよく整備されているが、緊急時の対応については対応措置の具体化をする等、安全性の向上のためより一層の充実が望まれる。 (2)運転員の教育・訓練と資格制度 運転員の教育・訓練は、専門知識や技能の習得とならんで安全意識の醸成をも目指したものでなければならない。 我が国では、原子炉施設の設置者が運転員の養成のために、長期間にわたる教育・訓練計画を作成し運転員に必要な専門知識や技能を習得させている。これに加えて、業務改善提案、事故防止強化運動等を通じて、安全意識の醸成のための社員教育が行われている。また、実用発電用原子炉においては、運転責任者すなわち当直長には、国の認定の下に行われる原子力発電所運転責任者資格認定制度による資格試験の合格者を当てることとしている。 これらにより、我が国の原子炉施設の運転員の安全意識並びに専門知識や技能は十分に保たれていると考える。なお、良好な運転実績のもとで今後とも一定の運転水準を確保するため、運転責任者の資格認定制度については、技術の進歩等も踏まえ、その内容等について一層充実させることが望ましい。 (3)特殊試験 今回事故の発生に先立って実施されようとした試験は、供用開始前に実施されるべきものであり、性能を確認しないまま供用開始以後まで放置されてはならない。 我が国の場合、予定した性能確認試験が、すべて完了したことを確認して初めて行政庁により、施設の供用の開始が認められるのである。従って、性能確認試験が供用開始後まで未実施のまま放置されることはない。 また、今回の事故においては、試験の指導に当たって、技術者が予め決められていた手順によらず、発電所の所長をはじめ関係者の同意を得ることなく、試験計画を作成し試験を実施し、重大な結果を招いてしまった。 我が国の原子炉施設の場合、試験のいずれもが、予め主管課が試験(検査)実施計画書を作成し、主管課以外の者による検討を得て、試験計画が安全の確保上道切なものであることを確認してから、責任者により実施が承認される。 以上のことから、我が国においては、原子炉の試験に対する安全確保対策は妥当であると考える。 (4)安全系のバイパス チェルノブイル原子力発電所事故では、安全保護系のバイパスが比較的容易に行われ、重大な結果をまねいた。 我が国の原子力発電所で、安全保護系のバイパス操作が必要になるのは、運転モードの変化に対応するためか、または、定例試験ないし保守のためのバイパスに限られており、いずれの場合においても、安全確保上必要な安全保護機能は確保されている。 また、誤ったバイパスを防止するために、原子炉の起動、停止を含む全ての運転モードにおいて、安全保護系のバイパスを行う操作は、準拠する規定や手原書により各当直員の分担を確認した上で、当直長の指示の下に相互に指差呼称、復唱を徹底することにより、確実な操作を実施することにしている。さらに中央制御室及びリレー室については、出入管理を行っている。 以上により、本項に関して安全確保上処置を要する事項はないと考える。 B 被曝・防災関連事項 1.我が国の原子力防災対策の現状とその検討 我が国の原子力発電所においては、今回の事故と同様な事態になることは極めて考え難いことであり、我が国の原子力発電所の特徴等を考慮して定めた現行の防災対策及び防災対策を重点的に充実すべき地域の範囲については基本的に変更する必要はないと考える。 しかしながら、今回事故は大規模な防災対策の発動を必要とした世界最初の事故であったところから、今回の事故を契機として、今後は、各般の防災対策に関し、内容をさらに充実し、より実効性ある対策とすることが肝要である。また、これまでの防災対策に係る各種の調査・研究の成果やICRP、IAEA等の国際機関において検討されている事故時の対応策等についても防災対策に反映していくことが重要である。 当調査特別委員会は、以上のような観点から、チェルノブイル事故において実際にとられた対策の事例を参考としつつ、現在の我が国の原子力防災対策の各項目について検討を行った。 (1)緊急時の判断と初期活動 緊急時の判断と事故発生時の情報伝達体制については、昭和54年の中央防災会議決定等に定められているところであり、今回のチェルノブイル事故によって、基本的事項については特段見直すべき措置はないものと考える。 しかしながら、事故の初期段階における対策の重要性に鑑み、①事故後の原子炉の挙動予測を踏まえた、より一層明確な緊急時の判断基準の整備のための検討、②初期通報連絡、初期活動の実施についてあらかじめより具体的に定めておくことが重要である。また、③電気事業者等による事故対応能力の高度化を進めておくことが望ましい。 (2)通報・連絡 緊急時の通報・連絡体制は、原子力防災対策の特徴等を踏まえ、既に基本的に整備されているところであるが、さらに通信網の高度化を進めていくことが望ましい。 (3)緊急時環境放射線モニタリング 緊急時環境放射線モニタリングについては適切な対策が講じられてきているところであり、チェルノブイル原子力発電所事故を踏まえた特段の見直しの必要はないと考えられるが、これまでに得られた研究成果等の実際のモニタリング体制への組み入れ、これらの成果を踏まえた緊急時環境放射線モニタリング指針の改訂について検討することが必要であると考える。 (4)防護対策 イ.原子力防災計画において考慮すべき主な核種は、気体状の放射性物質である希ガス及び拝発性の核種であるよう素である。この考え方の基本は、現時点においても変更すべき理由はないが、より円滑な防護対策の実施に資するため、希ガス、ヨウ素以外の検出される可能性のあるセシウム等の核種も考慮したうえで、より多様な食物に対する摂取制限等の防護対策に対して予め指標を定めておくことが望ましい。(5)緊急時医療 現在の緊急時医療体制は概ね妥当なものとなっているが、より一層充実した体制とするため、医療機関間の協力体制等について引き続き検討を進めていくとともに、緊急時医療技術の調査研究を進めることが重要である。 (6)国の支援 イ.緊急技術助言組織(7)防災関係者の教育訓練 イ.緊急時における災害応急対策が円滑有効に行われるためには、防災業務関係者が万一の場合にも沈着冷静な判断、指示及び行動をすることが肝要であり、このために、現地災害対策本部の組織のなかで種々の災害応急対策を実施する防災業務関係者等に、原子力防災に関する教育及び訓練を行うことは重要である。(8)周辺住民に対する知識の普及、啓蒙及び緊急時における情報伝達 イ.周辺住民に対する知識の普及と啓発については、現在各機関において様々な対策が講じられてきているところではあるが、日頃からの広報活動は継続的に行うことのほか、住民に理解し易いよう常に見直していくことが大切である。第III部 結論-安全性の一層の向上をめざして-(全文) 本報告書では、第I部において、事故を起こしたチェルノブイル原子力発電所4号炉の特性、事故の経過、原因、被曝、緊急時にとられた措置等を詳細に検討し、評価を行い、原子力発電所の設計・運転関連事項及び被曝・防災関連事項で特に注目すべきものを指摘した。これを受けて、第II部において、我が国の原子炉施設の安全確保対策を調査検討し、評価した。 我が国の安全確保対策の現状を調査した結果、我が国の原子炉施設の安全性が、その設計、建設、運転等の各段階における真摯な努力により、現状においても十分に確保されていることから、今回の事故に関連して、現行の安全規制やその慣行を早急に改める必要のあるものは見出されず、また、防災対策についても、我が国の原子炉施設の特徴等を考慮して定めた我が国の防災対策の枠組みを変更すべき必要性は見出されないとの結論を得た。 我が国はこれまで、昭和54年に起こったTMI事故を踏まえ、その反映事項を基に既に我が国の原子炉施設の安全性の向上対策を講じてきたところである。今回の調査検討の結果は、今日までのこれらの努力には基本的に間違いはないということを示している。このことは、我が国の原子力の開発利用が、着実にその成果を挙げ、世界的にも高い水準に到達しているという事実にも現れている。 しかしながら、従来から認識し実行しているものの、改めて心に銘ずべき事項が、この調査検討の結果からいくつか摘出される。今回得られた以下の事項については、その重要性を再認識することにより、今後の我が国における安全性の一層の向上に資していくことが重要であると考える。 (1)チェルノブイル原子力発電所4号炉は、開発以来、設計の改良改善が重ねられた原子炉であっが、原型となる炉の安定した実績を基に、長所を伸長させることに偏り、短所を補う点に努力が欠けていたとの指摘がなされている。 このことは、技術向上の過程において、一般に、ともすれば陥りやすい事柄であるが、我が国の原子炉施設においてこの轍を踏むことは許されない。進歩する設計のひとつひとつについて、安全評価が確実に実施されることが必要である。 (2)今回の事故は、規則違反の重畳により原子炉の状態が設計基準事象の範囲を超えた状態に置かれたこと、及びそのことの重大性に運転員が気付かなかったこと、に端を発している。このことに鑑み、原子炉の設計範囲内の異常事態については勿論のこと、万一その範囲を超えた事態になっても適切な対応を確保できるよう安全上の的確な知識を把握・整備し、それを運転管理面に適宜反映して行く必要がある。 (3)今回の事故は、運転員による数多くの規則違反が重要な要員であったことに鑑みれば、運転管理における規律の維持は、規則の万別に匹敵する程安全上重要であると言える。すなわち、原子力発電所の従事者一人一人の高い安全意識が大切である。この意味で、我が国の運転管理の現状は良好な状態にあるが、これに蘇り慢心することなく、一層の努力を払うことが肝要である。 (4)今回の事故の重要な原因のひとつとして、安全性の維持に不可欠な機能が運転員に対する規則という形でしか担保されていないことが挙げられ、今回の事故は、設計上の多重防護の考え方及び原子炉の安全に対する人間と機械の役割分担の考え方の重要性を再認識させるものであった。 我が国の原子炉施設においては、多重防護の思想に基づいた設計となっており、それに対応した運転管理が行われ、機械と人間の役割分担は現状においては良好なものであると考えるが、これについては、従来から安全性の一層の向上の観点から、人的因子、マン・マシン・インターフェースの研究が継続されているところであり、今後ともその研究活動の拡充が必要である。 (5)シビアアクシデントについては今日なお、国際的に研究が進められている段階にあるが、軽水炉を中心として進められている今日迄の検討によれば、現存する原子炉施設は大きな安全上の余裕があり、仮に設計の範囲を逸脱した状態になっても、かなりの範囲において、安全機能が維持されること及び事故時に適切な操作を行うことによって、異常事象を設計の範囲に収めあるいはそれを超えても災害の度合いを著しく低下させること等が明らかになりつつある。 シビアアクシデントの研究について、我が国においてこれまで重ねてきた努力を一層推進させることが必要である。 (6)我が国の原子力防災の枠組みは既に整備されている。これを基礎に、今後、今回のソ連の事故に際しとられた防災活動を参考としつつ、今後は、各種の防災対策に関し、第II部で記述したところに従い、その内容を充実し、より実効性ある対策とすることが重要である。また、今回の事故では、その放射能の影響が国際的にわたったため、より効果的な防災対策のための国際的な活動が活発になると考えられるので、この面の国際協力も充実していくことが必要である。 (7)我が国においては、安全性に関する情報交換、研究等の国際協力を推進し、その成果を適宜安全確保のための諸対策に反映する努力を続けてきた。今回の事故を契機として、安全確保の一層の向上のため、国際協力を今後とも推進していくことが必要である。 当調査特別委員会は、本報告書が関係各位の今回の事故に対する認識を深めるための一助となり、さらに、今回事故を含め今後とも、事故故障に関する情報の収集、分析、評価の努力を継続することによって我が国の安全性の一層の向上を図ることを期待する。 |
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