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電源開発(株)キャンドゥ炉技術調査に
係る評価結果について(概要)

昭和61年11月
通商産業省
資源エネルギー庁



 キャンドゥ炉は、ウラン資源の利用効率が高い商業用発電炉であり、カナダ及び諸外国において、1986年9月未現在、24基約1,400万kWが運転中、13基約820万kWが建設中であり、カナダでの累積設備利用率は、1985年末現在、約80%と優れた運転実績を示している。

 電源開発(株)は、キャンドゥ炉の我が国への適合性を確認するため、設計内容、核燃料サイクル、経済性等について総合的な調査を実施してきており、調査結果を「CANDU炉技術調査報告書」としてとりまとめ、当省へ提出した。

 当省は、このようなキャンドゥ炉について、軽水炉時代の長期化、軽水炉技術の高度化等の我が国の原子力発電開発状況を踏まえつつ、同炉の技術面、経済性等の観点から、我が国への適合性及び活用方策について、電源開発(株)が提出した上記報告書及び当省が追加検討を指示した関連事項に対する追加報告書に基づいて評価を行った。

 評価を行うに当たり考慮した事項は以下のとおりである。
① 我が国の指針・基準等の基本的考え方に適合すること。
② 商業用発電炉として、軽水炉と同等の信頼性、経済性及び運転性能を有すること。
③ 我が国の核燃料サイクルの基本的考え方に適合すること。
④ 我が国のエネルギー・セキュリティの確保に寄与しうること。
 当省による評価結果の概要は以下のとおりである。

1. 評価結果の概要

(1)我が国の指針・基準等への適合性
 カナダの600MW級キャンドゥ炉標準設計(以下「カナダ標準設計」という。)は、20年以上にわたる建設・運転実績に基づき、改良がなされたものである。

 電源開発(株)は、この「カナダ標準設計」に基づきキャンドゥ炉の我が国への技術的適合性を検討し、600MW級のキャンドゥ炉発電設備(原子炉熱出力2,156MW、発電端電気出力677MW)の概念設計をとりまとめている。

 同社は、主として安全性及び耐震性強化の観点から「カナダ標準設計」を日本向けに一部変更しているが、設計変更による発電設備の性能及び経済性への影響は小さいとしている。

 また、この日本向けの600MW級のキャンドゥ炉発電設備(以下「600MW級キャンドゥ炉発電設備」という。)の設計については、我が国の軽水炉発電所の設計手法に基づき基本設計レベルの詳細な検討が行われている。

 「600MW級キャンドゥ炉発電設備」の我が国の指針・基準等への適合性の評価結果は以下のとおりであり、我が国の指針・基準等の基本的考え方に適合しうる設計であると判断される。
ア 安全性
 工学的安全施設、放射性廃棄物処理施設等の各種安全施設については、我が国の安全性に係る指針・基準等に従い、「カナダ標準設計」の一部を変更し、この変更された設計に基づき、安全解析及び被ばく線量評価を実施し、安全性が確認されている。特に、キャンドゥ炉の一次冷却材喪失事故(LOCA)時の挙動については、実規模部分模型による安全性確証試験を実施し、LOCA現象の把握、カナダの実験結果の確認・補完、LOCA時の非常用炉心冷却系(ECCS)の有効性及び解析コードの妥当性の確認が行われている。 これらの検討結果から、「600MW級キャンドゥ炉発電設備」は、安全性に係る我が国の指針・基準等の基本的考え方に適合しうると判断される。

イ 耐震性
 原子炉主要設備及び主要建物については、配置設計の変更、建物構造の変更及び機器・配管支持構造の補強を行い、これらをとり入れた設計に基づき我が国の耐震設計に係る指針・基準等に従い、想定した厳しい地震条件(S1約300gal、S2約450gal)の下に解析評価を実施して耐震安全性が確認されている。特に、原子炉本体、燃料取替機等の重要な機器・配管については、実機又は実規模部分模型による耐震性確証試験を実施して耐震安全性が確認されている。

 これらの検討結果から、「600MW級キャンドゥ炉発電設備」は、我が国の厳しい耐震条件に対しても十分に耐震安全性が確保しうると判断される。

ウ 研究開発
 キャンドゥ炉の我が国の指針・基準等への適合性を確認するため、上記の安全性及び耐震性確証試験のほか、圧力管、カランドリア管の材料特性試験、原子炉出入口管破断特性試験が実施されている。

 したがって、「600MW級キャンドゥ炉発電設備」を我が国に適合させるために必要な研究開発は、既に実施されているものと判断される。
(2)運転・保守性
 キャンドゥ炉は、運転中に燃料取替えを行うので長期連続運転が可能であり、定期検査時期の選定にも自由度がある。また、短時間の起動等、急速な負荷変化が可能であり、負荷調整運転も容易である。我が国の制度に従って「600MW級キャンドゥ炉発電設備」の定期検査を行う場合、その期間は約50日であり、13か月連続運転を仮定すると、85%以上の設備利用率が達成可能と考えられる。

(3)技術改良及び大型化
 「600MW級キャンドゥ炉発電設備」には、次に示す技術改良及び大型化によって性能及び経済性を一層向上させる可能性がある。

 この技術改良及び大型化は、これまでに蓄積された技術の延長線上にあり、容易に実用化できるものと判断される。
ア 技術改良
(ア)出力増加
 カナダ原子力公社(AECL)は、600MW級炉の建設・運転実績に基づき、設計の合理化及び設備の一部改良により、出力増加を図る計画を進めている。

 「600MW級キャンドゥ炉発電設備」についても、同様の設計の合理化及び設備の一部改良等により10%程度の出力増加が可能であると考えられる。

(イ)微濃縮ウラン燃料又はMOX燃料の利用
 キャンドゥ炉で微濃縮ウラン燃料又はMOX(ウラン・プルトニウム混合酸化物)燃料を使用すると、格段に燃焼度が向上する。微濃縮ウラン燃料(濃縮度1.2%)又はMOX燃料(総合富化度1.2%)の利用は、燃料取替手順の変更及び燃料集合体内濃縮度調整を行うことにより、原子炉設備を変更せずに可能であると判断される。

 微濃縮ウラン燃料については、照射試験の追加が必要であるが、これまでの照射実績から健全性を確保しうる見通しであり、実用化は容易である。MOX燃料の実用化については、微濃縮ウラン燃料より時間を要すると考えられる。
イ 大型化
 AECLの1,100MW級炉の概念設計は、「カナダ標準設計」(600MW級)で実証された技術を採用し、先行大型炉(935MW炉等)の実績をも反映させた設計であることから、「600MW級キャンドゥ炉発電設備」と同様の設計変更により、我が国に適合させることが可能であると判断される。電源開発(株)の技術検討に基づく日本向けの「1,100MW級キャンドゥ炉発電設備」は、原子炉熱出力3,536MW、発電端電気出力1,120MWである。
(4)核燃料サイクル
ア 燃料利用特性
 キャンドゥ炉は、原子炉設備を変更することなく、天然ウランのほかに微濃縮ウラン、軽水炉からの回収ウラン(以下「回収ウラン」という。)、MOX等の多様な燃料を利用することができ、いずれの燃料を利用する場合にも、資源利用効率が高い。

 特に、微濃縮ウラン燃料を利用する場合には、大幅な天然ウランの節減を図ることができ、濃縮度1.2%程度の場合に天然ウラン所要量が最少になる。

 また、回収ウランについては、再濃縮することなく、効率的に利用することができる。

 MOX燃料については、微濃縮ウラン燃料の場合とほぼ同様の燃焼特性が得られ、ウラン資源の節減効果が大きい。

 なお、将来的にはトリウムを利用して増殖炉に近い性能が実現できる可能性がある。

 このように、キャンドゥ炉は、核燃料利用面における柔軟性及び省資源性が高い炉であると判断される。特に、ウラン資源の有効利用のため、電源開発(株)は、天然ウラン燃料使用による運転実績を踏まえて、微濃縮ウラン燃料へ移行するとしており、この方針は妥当なものと判断される。

イ 再処理
 電源開発(株)は、キャンドゥ炉の使用済燃料を軽水炉と同様再処理することとしており、これは我が国の核燃料サイクルの基本的考え方に適合しているものと判断される。

 キャンドゥ炉の使用済燃料は、燃焼度及び核分裂性物質の濃度が低いので、その再処理は技術的には容易であり、軽水炉用の施設を利用して再処理することができる。

 キャンドゥ炉の使用済燃料の発生量は、天然ウラン燃料の場合には軽水炉の約4倍であるが、微濃縮ウラン燃料の場合には1.1~1.5倍と大幅に減少し、再処理費は著しく低減する。回収ウラン燃料の場合には、使用済燃料発生量は軽水炉の約2倍となる。
(5)経済性
 「600MW級キャンドゥ炉発電設備」及び「1,100MW級キャンドゥ炉発電設備」の経済性について、電源開発(株)の試算結果は以下のとおりである。
① 天然ウランを燃料とする場合には、
(i)600MW級炉の発電原価(定着段階の1・2号機平均初年度発電原価13.3円/kWh)は軽水炉よりわずかに高いが、技術改良による設備出力10%程度の増加、設備利用率向上等の可能性があり、これによって経済性を改善できる(定着段階の1・2号機平均初年度発電原価は、10%の出力増加及び設備利用率75%を仮定すると11.9円/kWh)。

(ii)1,100MW級炉の場合には、スケール・メリットと燃焼度及び熱効率の向上により経済性の改善が図られる(定着段階の1・2号機平均初年度発電原価は、1,100MW級炉で11.7円/kWh)。
② 微濃縮ウランを燃料とする場合には、燃料費が格段に安くなるので、著しい経済性の改善が図られる(定着段階の1・2号機平均初年度発電原価は、600MW級炉で12.3円/kWh、1,100MW級炉で10.9円/kWh)。

 したがって、キャンドゥ炉は、我が国において、軽水炉における今後の経済性改善を考慮しても、これと同等の経済性が得られると判断される。
(6)製造技術
 キャンドゥ炉の設備機器の国産化に当たっては、新たな製造設備は必要なく、軽水炉、新型転換炉(ATR)等の国内技術で十分対応可能であると判断される。

 また、燃料についても、単純な構造の短尺燃料であり、我が国の軽水炉燃料加工技術からみて、国産化は可能と判断される。

(7)重水の確保
 キャンドゥ炉の初装荷用重水は約480トンであり、運転開始後の補給量は年間4トン程度である。

 カナダの重水生産能力は3,200トン/年で、世界最大の供給能力を保有しているが、近年、カナダの重水は供給過剰の状態にあり、また、この傾向は当分続くと予想される。

 このようなカナダの状況及びカナダ以外の国からも重水は入手可能であることを勘案すれば、供給上の問題はないと判断される。

(8)人材の確保
 軽水炉の定着、今後の我が国の原子力発電開発規模等からみて、キャンドゥ炉に係る人材の確保については、問題はないと判断される。

 特に、設計及び製造技術において、ATRと相互補完できる分野が多く、重水炉技術者の有効利用を図り得ると考えられる。

(9)日加原子力協定及び保障措置
 日加原子力協定に基づく規制の対象指定に際しては、両国政府が協議することとなっており、我が国が一方的に不合理な規制を受けることのないよう、制度的担保が確保されている。

 なお、同協定第7条(みなし規定)によるATRへの不必要な規制が及ぶおそれについては、昭和55年5月9日の衆議院外務委員会決議もあり、これを回避することを両国政府間で確認する必要があるが、電源開発(株)では、カナダ政府関係者から、本件について問題なく解決可能との感触を得ている。

 キャンドゥ炉に対する再処理やプルトニウム利用への規制は、カナダ産のウランを使用する原子炉に共通のものであり、これについては、日加原子力協定に基づく交換公文で包括同意が得られているので問題はないと判断される。

 キャンドゥ炉は、運転中燃料取替えを行うが、保障措置はカナダがIAEAと共同でキャンドゥ炉用の保障措置技術及び機器を開発し、実用に供しているので、我が国においてもこれを適用することで問題はないと判断される。

2.総合的評価

(1)我が国への適合性について
① キャンドゥ炉は、軽微な設計変更により我が国の指針・基準等の基本的考え方に適合するとともに、信頼性が高く、運転・保守性の面でも優れている。

② 経済性については、設計変更による影響は軽微で、軽水炉と同等の経済性を確保しており、更にこれを向上させる余地がある。

③ したがって、キャンドゥ炉は、我が国に適合しうる信頼性、経済性のある商業用発電炉であると判断される。
(2)我が国における核燃料サイクル上の意義について
① キャンドゥ炉は、原子炉設備を変更することなく各種の核燃料を効率的に利用でき、核燃料サイクル上柔軟性の高い原子炉である。

② キャンドゥ炉は、いずれの燃料を利用する場合でも資源利用効率が高く、特に微濃縮ウランを利用する場合には、ウラン資源の節減効果が極めて大きい。

③ したがって、ウラン資源に乏しく、その全量を海外に依存している我が国にとって、核燃料利用面における柔軟性及び省資源性を有するキャンドゥ炉は、我が国核燃料サイクルへの適合性を有するとともに、今後のエネルギー・セキュリティの確保に寄与しうると判断される。
(3)我が国におけるキャンドゥ炉の活用方策について
① キャンドゥ炉は、我が国において、軽水炉と同等の信頼性及び経済性を有する商業用発電炉として活用しうると判断される。

② 我が国におけるキャンドゥ炉の活用方策としては、軽水炉と並ぶ商業用発電炉として経済性を重視し、かつ、その資源利用特性を十分生かすことが適当であるので、天然ウラン燃料使用による運転実績を踏まえて、微濃縮ウラン燃料へ移行することが望ましい。

 なお、将来の課題として、回収ウラン及びMOX燃料利用についても更に検討を進めることが望ましい。


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